環境に配慮したサステナブルな紙素材とは、古紙や未利用の資源を使う、認証を受けた森林の木材を使う、製造時のCO2排出を減らすといった工夫で、紙が環境に与える負荷を下げた素材のことです。再生紙や混抄紙はその代表ですが、いまはお米や植物の機能を生かした紙、排出分を相殺する紙など、選択肢が広がっています。この記事では、日本で手に入る具体的な素材を複数社の事例で紹介し、名刺やパンフレットを発注するときの選び方まで整理します。
サステナブルな紙素材を5タイプで見分ける
紙のサステナビリティは、ひとつの物差しでは測れません。「どの資源を使うか」「森をどう守るか」「製造時のCO2をどう減らすか」で、素材ごとに強みが違います。まずは何を減らすための紙なのかという視点で、5つのタイプを押さえておくと、後の選び方が楽になります。
再生紙|古紙を原料に資源を循環させる
再生紙は、新聞紙や段ボール、牛乳パックなどの古紙を再び紙の原料にした紙です。古紙パルプの配合率は製品によって異なり、「R100」「R70」のように「再生紙使用(R)マーク」の数字で示されます。R100は古紙パルプ100%という意味です。以前は官公庁での利用が中心でしたが、いまは企業の調達でも広く使われています。
混抄紙|未利用の資源を木材パルプに混ぜる
混抄紙(こんしょうし)は、木材パルプに別の素材を混ぜて作る紙です。ジーンズの裁断くずやバナナの茎、卵の殻など、製造の過程で出る不要な部分が使われます。もともと廃棄されていたものを紙に変えられるうえ、素材ごとの風合いがデザインの個性にもなります。
FSC認証紙|森林の管理に着目する
FSC認証紙は、国際的な認証制度の基準に沿って管理された森林の木材を使った紙です。古紙を使うかどうかではなく、原料となる森がどう管理されているかを問う点が再生紙との違いです。後の節で、ラベルの種類と誤解されやすい点を詳しく見ます。
植物由来の機能紙|ボタニカルペーパー
ボタニカルペーパーは、植物をただ混ぜるのではなく、その特性を紙の機能として生かす考え方の紙です。お米のでんぷんを接着や表面処理に使い、化学薬品の代わりにする事例があります。素材の置き換えによって製造時の環境負荷を下げようとする点が、混抄紙との違いです。
脱炭素系の紙|製造時のCO2排出に向き合う
脱炭素系は、紙づくりで出るCO2の削減や相殺に力点を置いた紙です。製造工程の燃料転換や省エネで排出そのものを減らす方法と、森林保全などのカーボンクレジットで排出分を相殺する方法があります。どちらの方法なのかで中身が大きく変わるため、選ぶときの注意点は後半で扱います。
古紙回収率81.3%の日本で、再生紙は万能なのか
「再生紙を選べば環境にいい」という理解は半分正しく、半分は注意が必要です。日本の古紙のリサイクルは世界的に見ても進んでいる一方、紙の種類によっては古紙をこれ以上増やしにくい事情があります。その現状を数字で確認しておきます。
回収率は8割超、利用率は66%台で横ばい
日本製紙連合会の公表によると、2025年の古紙回収率は81.3%、古紙利用率は66.7%でした。古紙回収率は、古紙の国内回収量を紙・板紙の国内消費量で割った値です。一方、古紙利用率は、紙・板紙の原料に占める古紙の割合を指します。同連合会は、ここ数年の古紙利用率が66%台で推移していると説明しており、2030年度までに67%を達成するという目標を掲げています。
板紙はほぼ限界、紙は質のよい古紙が足りない
古紙の利用が頭打ちになっている背景を、日本製紙連合会は「板紙の利用率が93%を上回りほぼ限界に達しており、紙分野では品質的に使用可能な古紙が量的に限られている」と説明しています。段ボールなどの板紙はすでに古紙でほぼまかなわれており、名刺やパンフレットに使われる印刷・情報用の紙には、白さや品質を保てる古紙が足りないということです。この点は、「再生紙の比率をもっと上げればいい」と単純に言えない理由のひとつです。
古紙を紙に戻すときにもエネルギーがかかる
古紙を再生する工程でも、エネルギーを使ってCO2が出ます。日本製紙連合会も、古紙利用の課題として、印刷・情報用紙での利用拡大やオフィス古紙の原料確保と並べて、古紙再生で出るCO2を減らす省エネと燃料転換を挙げています。再生紙は資源循環の面で意味がある一方、CO2の削減は別の取り組みで進める必要があります。再生紙だけでなく、ほかのタイプの紙素材が育っている理由がここにあります。
FSC認証紙でよくある誤解と、ラベルの読み方
FSC認証紙は、再生紙とよく比べられます。「古紙ではないから環境によくない」と受け取られがちですが、これは認証の仕組みを知ると解けます。
「新しく伐採した木だけ」という誤解
FSC認証は、森林そのものの管理を審査する「FM認証」と、加工・流通の全工程で認証林産物やリサイクル資源が正しく扱われているかを確認する「COC認証」の二層構造です。環境省の環境ラベル情報によれば、審査は環境面だけでなく、先住民族や地域住民、労働者の人権といった社会面・経済面にも及びます。つまりFSC認証紙は、森を守ることと、森で働く人や暮らす人を守ることの両方を見る制度です。
3種類のラベルで原料が違う
FSCのラベルには「FSC 100%」「FSC MIX」「FSC RECYCLED」の3種類があります。FSC 100%は原料がすべてFSC認証林から調達された製品、FSC MIXは認証林の原料にリサイクル素材や管理された木材が混ざった製品、FSC RECYCLEDは消費前または消費後に回収された再利用素材を100%使った製品です。FSC RECYCLEDの紙は古紙由来なので、「再生紙かFSC認証紙か」という二択ではなく、両方を満たす紙も存在します。
日本での認証の広がり
環境省の情報では、2026年2月時点で日本のFM認証は34件(429,450ヘクタール)、COC認証は2,249件です。COC認証を取った印刷会社や紙の販売会社が多いほど、認証紙を使った印刷物を発注しやすくなります。発注先にCOC認証があるかどうかは、FSCマーク付きの印刷物を作れるかどうかに関わるため、確認しておきたい点です。
再生紙や混抄紙を超える、国内の紙素材の事例
ここからは、日本の企業が作っている具体的な紙素材を見ます。複数社の製品を並べると、「何を資源として生かすか」という発想の違いが見えてきます。
kome-kami(ペーパル)|食べられないお米を紙の機能に
kome-kamiは、明治23年創業の紙の専門商社、株式会社ペーパルが2021年に開発したお米の紙です。使われるのは、賞味期限切れの備蓄米、破砕米、くず米、酒造りで出る米の削りかすなど、食用に向かないお米です。これを粉末にして、FSC認証を受けたパルプに混ぜて作ります。
米の粉を混ぜるだけでなく、化学薬品の代わりに米由来の接着剤「コメバインド」を使うよう改良した点が特徴です。ペーパルの説明では、この改良で紙1ロット(5トン)あたり60キログラム台のCO2を削減でき、スギ約7本分の年間吸収量に相当するとされています。食品ロスの削減と製造時のCO2削減を、ひとつの紙で同時に狙った例です。
ZERO CO2 PAPER(ペーパル)|排出分を森林保全で相殺する
同じペーパルが手がける脱炭素系の紙が、ZERO CO2 PAPERです。紙の製造で出るCO2を、森林保全によるカーボンクレジットで相殺する仕組みで、紙の価格にクレジットの費用が含まれています。2024年9月には、累計のCO2オフセット量が20トンを超えたと発表されました。奈良県天川村の森林管理による50トン分のクレジットを確保しており、購入した人が間接的に林業を支える形になります。
デニムペーパーや小豆殻CoC|端材と残りものを風合いに変える
混抄紙には、ジーンズの端材を木材パルプに混ぜるデニムペーパーがあります。複数の企業が製造しており、混ぜるデニムの量は各社で異なります。カジュアルな風合いから名刺で選ばれることが多い紙です。リンテック株式会社の「小豆殻CoC」は、廃棄されていた小豆の殻を活用した紙で、細かく砕いた殻が模様になり、和の落ち着いた雰囲気を出せます。どちらも、環境配慮がそのままデザインの魅力になる例です。
グラフィーCoC(平和紙業)|脱炭素系を印刷用途に広げる
平和紙業株式会社のグラフィーCoCは、脱炭素系の紙素材として紹介されています。製品の色柄によっては、グリーン購入法の基準に適合するものがあるとされ、官公庁や企業の調達でも検討しやすい紙です。最新の適合状況は変わることがあるため、発注時にはメーカーや販売会社に最新の情報を確認してください。
脱炭素系の紙は「何がゼロなのか」を確かめて選ぶ
脱炭素系の紙は、名前に「ゼロ」や「カーボンニュートラル」が入ることが多く、中身を確かめずに選ぶと、環境配慮の中身を取り違えるおそれがあります。ここでは、読み取り方の基本を整理します。
排出を減らす取り組みと、相殺する取り組みは別のもの
ひとつ目は、製造工程の燃料転換や省エネで排出そのものを減らす取り組みです。製紙業界は2021年1月に、2050年のカーボンニュートラルを目指す長期ビジョンを策定しています。もうひとつが、排出された分をクレジットで埋め合わせる「オフセット」です。ZERO CO2 PAPERはこちらに当たります。どちらも意味がありますが、「製造時の排出がゼロ」と「排出を相殺している」は別の状態なので、区別して読む必要があります。
規模と使途を知っておく
ZERO CO2 PAPERの累計オフセットは20トンで、紙の購入を通じた林業支援としては、まだ小さな規模から広がっている段階です。それでも、印刷物を通して森林保全の取り組みを知らせるという役割があり、数字の大きさだけで価値が決まるわけではありません。選ぶ側としては、クレジットの出どころ(どの地域のどんな森林管理か)が開示されているかを見ると、納得して選べます。
根拠のない「環境に優しい」には慎重に
環境配慮をうたう紙でも、何をどれだけ減らしたのかが示されていなければ、判断のしようがありません。数値や認証、クレジットの出どころなど、説明に根拠があるかどうかを見分けの基準にしてください。根拠のない「環境に優しい」という表現だけが目立つ場合は、いったん立ち止まって確認するのが安全です。
用途別に選ぶ|名刺・パンフレット・ノベルティ
素材のタイプがわかっても、実際の発注では「うちの用途にはどれが合うのか」で迷います。10月は、年末のカレンダーや来年度の会社案内、新年度の名刺を考え始める時期です。発注前に、次の流れで整理しておくと選びやすくなります。
先に決めたいのは「何を優先するか」
目的ごとに、向いている素材は変わります。
- 廃棄物を減らしたい場合は、再生紙や混抄紙が向く
- 森林保全を重視したい場合は、FSC認証紙(MIXやRECYCLED)が向く
- 食品ロスなど社会課題のストーリーを伝えたい場合は、kome-kamiのような機能紙が向く
- CO2への取り組みを示したい場合は、脱炭素系の紙が向く
ひとつに絞らなくても構いません。たとえば、FSC認証を受けたパルプを使ったkome-kamiのように、複数の観点を重ねた紙もあります。
発注前に確かめたい3つの質問
発注先の印刷会社や紙の販売会社には、次の3点を聞いておくと安心です。
- 古紙パルプの配合率やFSCのラベルの種類は何か(R100なのか、FSC MIXなのか)
- 印刷会社自身がCOC認証を持っていて、認証マーク付きの印刷物を作れるか
- CO2削減をうたう紙の場合、削減なのか相殺なのか。相殺ならクレジットの出どころは開示されているか
この3つの回答があいまいな場合は、別の紙も見積もりに入れて比較してみる価値があります。
風合いと用途の相性も忘れずに
サステナブルな紙は、普通の上質紙と比べて色味や手触りが違います。混抄紙は繊維や殻が表面に出るため、細かい文字や写真の再現には向かないことがあります。名刺なら、デニムペーパーのように素材感を生かせる紙が合いますし、写真の多いパンフレットなら、白色度や表面の仕上げを実物の見本で確かめてから決めると失敗が減ります。
まとめ
サステナブルな紙素材は、再生紙、混抄紙、FSC認証紙、ボタニカルペーパー、脱炭素系の5タイプに整理でき、それぞれが減らそうとしているもの(廃棄物、未利用資源、森林破壊のリスク、製造時のCO2)が違います。日本の古紙回収率は2025年に81.3%と高い水準にあります。ただし、印刷用の紙ではこれ以上古紙を増やしにくい事情もあり、再生紙だけで課題が解決するわけではありません。そのため、kome-kamiのように米を生かす紙や、ZERO CO2 PAPERのように森林保全とつなげる紙といった、別の角度からの素材づくりが育っています。
選ぶ側にできるのは、名前の印象ではなく、「何をどれだけ減らす紙なのか」を確かめて選ぶことです。FSCのラベルの種類、古紙パルプの配合率、CO2削減と相殺の違いは、見積もりの段階で聞けば答えが返ってくる内容です。次に名刺や会社案内、年末の印刷物を発注するときは、まず1つだけ、紙の種類を印刷会社に尋ねてみてください。
- サステナブルな紙は「再生紙・混抄紙・FSC認証紙・ボタニカルペーパー・脱炭素系」の5タイプに分けて、減らしたいものから選ぶ
- 日本の古紙回収率は81.3%(2025年)でも、印刷用の紙では質のよい古紙が限られ、再生紙だけでは課題が解決しない
- FSCには「100%」「MIX」「RECYCLED」の3種類があり、認証紙は古紙を使わないとは限らない
- 脱炭素系の紙は、排出削減なのか相殺なのか、クレジットの出どころは開示されているかを確かめる
- 発注前に配合率・COC認証・CO2の扱いの3点を印刷会社に質問すると、納得して選べる
参考文献
- 日本製紙連合会「古紙」(2026年閲覧)
- 日本製紙連合会「古紙利用率目標」(2026年閲覧)
- 環境省 環境ラベル等データベース「FSC認証」(2026年閲覧)
- Forbes JAPAN「食べられないお米を紙にアップサイクル フードロス対策と米需要の増大を目指す」
- マイナビ農業(PR TIMES配信)株式会社ペーパル「ZERO CO2 PAPER 累計CO2オフセット量20トン」(2024年)

