スプロール現象とは、都市の郊外で道路や上下水道などの基盤整備が追いつかないまま、計画性なく市街地が虫食い状に広がっていく現象です。名前は、無秩序に広がることを意味する英語の「sprawl」に由来するとされています。
かつては人口が増える時代の問題でしたが、人口が減り始めた今の日本では、広がりすぎた市街地をどう支えるかという別の問いに変わっています。この記事では、スプロール現象の原因と対策、SDGsとの関係を、国の制度と自治体の実践例とあわせて見ていきます。
スプロール現象の原因|人口・地価・自動車、そして制度の差
スプロール現象は、ひとつの原因で起きたわけではありません。人口の動き、地価、移動手段の変化、土地利用を決める制度の差が重なって、郊外に市街地が広がっていきました。
都市への人口集中と地価の高騰
高度経済成長期の日本では、仕事を求める人が大都市に集中しました。都心部の地価が上がると、手の届く価格の土地を求めて、人々は都市の外側へ住まいを移していきます。住宅は必要とされる一方で、道路や上下水道の整備は、宅地が増えるスピードに追いつきにくいものでした。
自動車の普及と郊外型商業施設の増加
自動車が家庭に広まると、駅から遠い場所でも暮らせるようになりました。行動範囲が広がり、郊外に大型商業施設が増えたことで、買い物のために都心へ出る必要も薄れます。都市部で暮らす利点が見えにくくなり、人と店が郊外へ流れる動きが強まりました。
規制の強さに地域差があった
日本の都市計画法は、無秩序な市街化を防ぐために、都市計画区域を「市街化区域」と「市街化調整区域」に分ける区域区分(線引き)という仕組みを設けています。市街化区域は、すでに市街地になっている区域と、おおむね10年以内に優先して市街化を進める区域です。市街化調整区域は、市街化を抑える区域とされています。
ただし、線引きをしていない都市計画区域(非線引き区域)もあり、規制の強さは地域によって異なります。同じ郊外でも、開発しやすい場所と抑えられた場所が隣り合うと、市街地は虫食い状に広がります。
スプロール現象と似た言葉の違い|ドーナツ化現象・スポンジ化
スプロール現象は、ほかの言葉と混同されやすい用語です。何に注目している言葉なのかで区別すると整理できます。
ドーナツ化現象は人口の動きを指す
ドーナツ化現象は、都心部の人口が減り、郊外の人口が増えていく現象です。人口分布の形がドーナツのように見えることから、こう呼ばれます。注目しているのは「人がどこへ動いたか」です。
スプロール現象は開発の進み方を指す
スプロール現象が指すのは、郊外で基盤整備が不十分なまま、計画性なく宅地化や都市化が進むという開発の中身です。ドーナツ化現象が人の流れを見ているのに対し、スプロール現象は、その流れの受け皿となった市街地の質を問題にしています。
スポンジ化は市街地の内側で起きる
もうひとつ、近年の都市計画で使われる言葉に「都市のスポンジ化」があります。国土交通省の資料では、都市の内部で空き地や空き家などの低未利用の空間が、小さな敷地単位でランダムに、相当程度の分量で発生する現象とされています。外へ広がるスプロールと、中に穴があくスポンジ化は、ひと続きの現象として起こります。郊外に広がった市街地が、人口減少で内側から空いていく姿が、スポンジ化です。
無秩序な開発が生む問題|財政・移動・災害・人口減少
計画性のない広がりは、暮らしや自治体の運営にさまざまな影響を与えます。ここでは4つに分けて見ていきます。
インフラ維持にかかる自治体の負担
道路や上下水道は、市街地が広く薄く広がるほど、延ばす距離が長くなり、維持費もかさみます。国土交通白書2024は、2018年に国土交通省が行った推計に触れ、インフラの維持管理・更新費が今後増えていくこと、傷んでから直す「事後保全」から、傷む前に手を入れる「予防保全」へ切り替えれば、今後30年間の累計費用を約30%減らせることを紹介しています。さらに、建設から50年以上たつ施設の割合は加速度的に増えると述べています。
人が少ない地域まで同じ水準のインフラを保つほど、住民ひとり当たりの負担は重くなりやすいと考えられます。
自動車に頼る暮らしと環境負荷
郊外に店や病院が点在すると、移動の中心は自動車になります。渋滞や交通事故、騒音、排気ガスによる環境への影響が心配されるほか、運転をやめた高齢者が買い物や通院に困る場面も出てきます。
災害リスクの高い場所への市街地の広がり
市街地が山すそや川沿いに広がると、土砂災害や浸水の危険がある場所に人が住むことになります。国はこの点に対応し、2022年4月に都市計画法の開発許可制度を改正しました。仙台市の案内によると、土砂災害特別警戒区域などの災害レッドゾーンでは、店舗やホテル、工場といった業務用施設の開発も規制の対象になりました。市街化調整区域では、レッドゾーンに加えて、土砂災害警戒区域や、浸水した場合の想定水深が3.0m以上の区域での開発・建築が原則禁止されています。
人口減少の時代に問われる「広がりすぎた市街地」
人口が増えていた時代のスプロールは、基盤整備が追いつかない問題でした。人口が減る現在は、広がった市街地の一部が空き地や空き家になり、そこにあった店や診療所が撤退して、さらに住みにくくなるという悪循環が指摘されています。国土交通省の資料はこれを、スポンジ化がもたらす負の連鎖としています。
ここで誤解してはいけないのは、郊外に住むこと自体が悪いわけではない、という点です。問われているのは個々の住まいの選択ではなく、まち全体として、暮らしを支える仕組みを将来も維持できるかどうかです。
国の対策|立地適正化計画とコンパクト・プラス・ネットワーク
国が進めている中心的な対策が、「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考え方です。人口減少と高齢化が進むなかでも、まちを持続させるための方向性として位置づけられています。
立地適正化計画の仕組み
国土交通省は、医療・福祉・商業などの施設と住まいをまとまった場所に集め、そこへ公共交通で行けるようにする、という考え方で、福祉や交通も含めた都市全体の再構築を進めるとしています。この考え方を、市町村が具体的な計画に落とし込むのが立地適正化計画です。居住を誘導する区域や、生活に必要な施設を誘導する区域を定めます。
国土交通省によると、2026年7月31日時点で、この計画を作成した市町村と、具体的な取り組みを行っている市町村は972にのぼります。居住を「誘導」する仕組みであり、住んでいる人に移住を強制するものではありません。
2024年に示された「立適+(プラス)」
制度が広がる一方で、課題も見えてきました。国土交通省が2024年12月6日に公表した検討会のとりまとめによると、居住や施設を誘導区域内へ誘導する動きは、概ね3分の2の市町村で進んでいます。その反面、取り組みの必要性が高い市町村でも計画づくりが進んでいない場合があること、計画の見直しをしていない市町村があること、評価の方法が市町村ごとに異なることが課題とされました。
これを受け、まちづくりの「健康診断」と呼ぶ評価の体系を整える方向性が示されています。計画を作ることが目的ではなく、作った後に効果を確かめて見直すことが重視されている、ということです。
災害リスクを踏まえた土地利用の規制
先ほど触れた2022年の開発許可制度の改正も、スプロール対策の一部と見ることができます。災害の危険性が高い場所に市街地を広げない、という方向を、開発の入り口で制度として固めたものだからです。
自治体の実践例|富山市と見附市
制度は、各地でどう使われているのでしょうか。ここでは、よく知られた2つの自治体を取り上げます。いずれも「住む場所」と「移動手段」を一緒に考えている点が特徴です。
富山市は公共交通を軸に拠点を作り直した
富山市は、JR富山港線を路面電車(LRT)に転換し、2006年4月に開業しました。施設を市が持ち、運行を民間が担う仕組みです。2013年ごろの資料では、県庁所在都市のなかで人口密度が全国で最も低い市とされ、広がった市街地からの転換が課題でした。
市の取り組みは、公共交通の活性化、公共交通沿線への居住の推進、拠点の活性化を三本柱とするものと紹介されています。
見附市は健康づくりとまちづくりを結びつけた
新潟県見附市は、筑波大学と連携した健康運動教室から始め、「健幸なまちづくり」を掲げてコンパクトなまちを形づくった事例として、国土交通省の資料に国土交通大臣賞の事例として紹介されています。都市部と農村部の両方が持続するまちを目指している点が特徴です。コミュニティバスのルート見直しなども、あわせて行われています。
2つの例に共通すること
共通するのは、郊外の開発を止めるだけでなく、「中心部や拠点に住み、通う理由」を同時に作っていることです。人は規制だけでは動きません。移動手段、日常の買い物、健康づくりといった暮らしの便利さがあってはじめて、拠点が選ばれます。
また、成果が出るまでには時間がかかり、評価の方法も自治体によって異なります。自分のまちの計画が実際にどう進んでいるかは、一律には語れず、市町村ごとに確かめる必要があります。
SDGsとの関係|目標11と指標11.3.1
スプロール現象は、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」と深く関わります。外務省のJAPAN SDGs Action Platformによると、目標11は、包摂的で安全かつ強靱で持続可能な都市と人間居住を実現することを掲げています。
ターゲット11.3は都市化の質を問う
目標11のなかで、スプロールと特に関係が深いのが、ターゲット11.3です。2030年までに、包摂的で持続可能な都市化を促し、参加型で持続可能な人間居住の計画・管理の能力を強めることを求めています。ポイントは、都市が大きくなることそのものではなく、広がり方の質を問うていることです。
ターゲット11.aは都市と周辺のつながりを指す
ターゲット11.aは、都市部、都市周辺部、農村部の良好なつながりを支援することを掲げています。元の記事が触れていたとおり、都市と周辺地域のつながりを考えずに市街地を広げることは、この考え方と相反します。
広がり方を数字で測る指標
11.3については、「土地消費率と人口増加率の比」という指標(11.3.1)が使われます。国連環境計画(UNEP)の整理でも、この指標は、市街地として使われる土地の増え方と人口の増え方を比べるものとされています。比率が1を超えると、人口の伸びより市街地の面積の伸びのほうが大きい、つまり人口が増えた以上に市街地が広がったことを意味すると、各国の統計機関は説明しています。
人口が減る日本では、人口が増えていなくても市街地だけが広がるケースがあり得ます。この指標は、スプロールを「感覚」ではなく数字で見直すための物差しになります。
私たちにできること|住まい選びと地域との関わり
スプロール現象は、行政だけの課題ではありません。住む場所を選ぶ私たち一人ひとりの判断が、まちの形を少しずつ決めていきます。
住まいを選ぶときに区域とハザードマップを確認する
引っ越しや住宅購入を春に考えている人は、今のうちに、候補の土地が市街化区域か市街化調整区域か、災害の危険性が高い区域に入っていないかを調べておくと安心です。仙台市のように、多くの自治体が都市計画情報のインターネット提供サービスや、洪水ハザードマップを公開しています。調べるのに必要なのは、住所だけです。
まちの施設や公共交通を使う
計画に基づいてできた図書館や子育て支援施設、バスやLRTのような公共交通は、使われてはじめて維持されます。日常の用事の一部を、徒歩圏や公共交通で行ける場所に振り向けることは、拠点に人が集まる流れを支えます。
計画づくりに関心を持つ
立地適正化計画や都市計画のマスタープランは、多くの場合、意見募集(パブリックコメント)が行われます。自分のまちがどこに住まいや施設を集めようとしているのか、その理由は何かを、一度読んでみることから始められます。
まとめ
スプロール現象は、人口の集中、地価の高騰、自動車の普及、そして地域ごとの規制の差が重なって起きた、計画性のない市街地の広がりです。人口が増えていた時代には基盤整備の遅れが問題でしたが、人口が減る今の日本では、広がった市街地を財政の面でも、移動の面でも、災害対策の面でも、どう持続させるかが問われています。
国は立地適正化計画とコンパクト・プラス・ネットワークの考え方を軸に、972の市町村で取り組みが進んでいます。一方で、見直しや評価に課題があることも2024年に示されました。富山市や見附市のように、暮らしの便利さとセットで拠点を作る工夫が、計画を実際に動かす鍵になっています。
私たちにできるのは、住む場所を選ぶときの確認、公共交通や地域の施設を使うこと、計画に関心を持つことです。まず1つだけ、お住まいの市町村の名前と「立地適正化計画」で検索し、自分の家が誘導区域のどちらに位置するかを調べてみてください。
- スプロール現象は、人口・地価・自動車・規制の地域差が重なって起きた、計画性のない市街地の広がり
- 人口減少下では、広がった市街地の維持と、空き地・空き家が増えるスポンジ化が課題になっている
- 国は立地適正化計画を軸に対策を進め、2024年には見直しと評価を重視する「立適+」を示した
- SDGs目標11のターゲット11.3は、都市化の広がり方の質を問い、指標11.3.1で数字として測られる
- 住まいの区域確認、公共交通の利用、計画への関心が、個人にできる関わり方になる
参考文献
- 国土交通省「立地適正化計画とコンパクト・プラス・ネットワーク」(2026年)
- 国土交通省 報道発表「立地適正化計画の実効性の向上に向けたあり方検討会 とりまとめ」(2024年)
- 仙台市「災害の危険性が高い区域における規制強化(令和4年4月1日施行)」(2022年)
- 国土交通省「国土交通白書2024」(2024年)
- 国土交通省 国土交通政策研究所「都市のスポンジ化に関する調査研究」(2021年)
- 京都府「都市計画(区域区分)」
- エコ・コミュニティ事例集「富山市のコンパクトなまちづくり」(2013年)
- 国土交通省「健幸なまちづくりを実現するコンパクトシティの形成(見附市)」
- UNEP「SDG Indicator 11.3.1 Ratio of land consumption rate to population growth rate」
- 外務省 JAPAN SDGs Action Platform「目標11」

