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SOCIETY

社会的処方に取り組む自治体の実例|養父市・新潟県・高知県から読む始め方

Photo by 2H Media on Unsplash

内閣府が2024年12月の状況を尋ねた全国調査では、孤独感が「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」のいずれかに当てはまる人が、合計で39.3%でした。この数字は前年と同水準で、孤独は一部の人の問題ではなく、自治体が日常の行政課題として向き合うテーマになっています。その一つの方法として政府の重点計画に載っているのが「社会的処方」です。この記事では、養父市(兵庫県)、新潟県、高知県の公開資料をもとに、自治体がどう動いているのか、何が分かれ道になるのかを整理します。

この記事で学べること

  • 国の調査と法律から見た、自治体が社会的処方に向かう背景
  • 養父市・新潟県・高知県など、自治体ごとの進め方の違い
  • 担当課・つなぎ先・評価という、自治体が最初に決める3つの分岐
  • 住民として自分の自治体の取り組みを確かめる具体的な方法

数字と制度で見る、自治体が社会的処方に向かう背景

最初に、国の調査と法律から、自治体が置かれている状況を確認します。ここを押さえると、自治体ごとの取り組みの違いも読み取りやすくなります。

全国調査が示す孤独感の広がり

内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」(令和6年)は、全国の16歳以上2万人を対象に2024年12月の状況を尋ね、1万876人から有効回答を得ています。孤独感が「しばしばある・常にある」は4.3%、「時々ある」は15.4%、「たまにある」は19.6%で、合わせて39.3%です。「しばしばある・常にある」は20歳代と30歳代で高く、高齢者に限った問題ではないことが読み取れます。

この結果は、高齢者向けの見守り事業だけでは届かない層が、地域に一定数いる可能性を示しています。若い世代や現役世代にも届く入口をどう作るかが、自治体にとっての論点になります。

法律が自治体に求めていること

孤独・孤立対策推進法は2023年5月31日に成立し、同年6月7日に公布、2024年4月1日に施行されました。地方公共団体は、支援に関わる機関や団体で構成する「孤独・孤立対策地域協議会」を置くよう努めるものとされています。置くことは努力義務ですが、自治体が民間団体や医療・福祉の関係者と連携する枠組みが、法律に位置づけられたことになります。

重点計画に書かれた社会的処方

政府の孤独・孤立対策重点計画は2024年6月11日に策定され、2025年5月27日に一部改定されました。計画には社会的処方の活用の推進が盛り込まれ、改定では医療・教育・福祉などの分野を横断した居場所づくりや、自治体と孤独・孤立に取り組む団体をつなぐ仕組みを全都道府県に設ける方針が示されたと報じられています。社会的処方は、医療の枠を超えた地域づくりの手法として政策に組み込まれつつあります。

自治体にとっての社会的処方とは何か

社会的処方は、かかりつけ医などが患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域の資源につなぐ取り組みと整理されています。薬を出す代わりに、人や活動、場所とのつながりを紹介するイメージです。英国で広がった考え方ですが、日本では医療機関だけでなく、行政や社会福祉協議会、地域団体が担い手になる形が広がっています。

つなぐ人としてのリンクワーカー

仕組みの中心にいるのが「リンクワーカー」です。養父市は、リンクワーカーを「人の幸せのために、人や地域・社会資源、多様な住民主体の活動やコミュニティへのつながりをつくる人」と定義しています。専門職に限らず、市民がこの役割を担える状態を目指している点が特徴です。

自治体が担う部分

自治体の役割は、リンクワーカーが動きやすい土台を整えることにあります。具体的には、つなぎ先となる地域活動を把握して見える化すること、リンクワーカーを育てること、医療・介護・福祉の窓口を結ぶことです。つなぎ先がなければ、紹介しても行き場がありません。社会的処方は、窓口の整備と地域づくりの両方が揃って機能する取り組みだと言えます。

自治体の実例を読む

公開されている資料から、取り組みの形が異なる3つの自治体を取り上げます。ここで挙げる内容は、各自治体や研究事業の公開情報に基づきます。

兵庫県養父市|専管課とリンクワーカー研修

養父市は健康福祉部に「社会的処方推進課」を置いています。担当事務には、総合相談、伴走型支援、参加支援、地域づくり、介護予防、認知症対策、権利擁護、医療介護連携などと並んで、社会的処方の推進が挙げられています。相談支援と地域づくりを同じ課が持っている点が、この形の特徴です。

市のリンクワーカー養成の資料では、連携役を2層に分け、第1層を「ヘルスコネクター」、第2層を「コミュニティコネクター」と呼んでいます。市は住民向けにガイドブックと「10要素カード」も提供しています。社会的処方のポータルサイト「つながるDAY YABU」では、市内の地域活動やつどいの情報を集め、つなぎ先を地図のように見えるようにしています。

新潟県|大学・企業と進める実証

新潟県は、新潟大学と日立製作所とともに、科学技術振興機構(JST)の「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(ソリューション創出フェーズ)」に採択されています。実施期間は2024年10月から2028年3月までの予定です。柱は、客観的なデータに基づく地域課題の可視化、リンクワーカーを誰もが担える仕組みづくり、AIによるリンクワーカーの業務支援の3つです。

京都大学、東京藝術大学、長岡造形大学が共創パートナーとして参加し、養父市や宇都宮市医師会が連携先として名を連ねています。県が研究成果の実証を県内の市町村で支援する構図で、県が広域の調整役を担う形です。

高知県|あったかふれあいセンターと大学

高知県は「高知型地域共生社会」の枠組みで、「あったかふれあいセンター」を地域の拠点にしてきました。高知県立大学が実践と研究の拠点となり、社会的処方の研究会も開いています。津野町とは連携協定を結び、住民のウェルビーイング向上の施策を進めていると紹介されています。既存の拠点に社会的処方の考え方を重ねる形です。

幸手市・名張市|「保健室」型の拠点

内閣官房の資料では、埼玉県幸手市の「暮らしの保健室」が37か所設けられている例が紹介されています。三重県名張市の「まちの保健室」では、医療機関に属するリンクワーカーと地域で活動するリンクワーカーが協働していると報告されています。新しい施設を建てるのではなく、身近な場所を相談の入口にする手法です。

公開資料を並べて見えた、自治体が最初に決める3つの分岐

ここまでの事例を並べると、取り組みの優劣ではなく、設計上の分かれ道がいくつか見えてきます。事業開示や評価指標の資料を読み慣れた立場から見ると、成果の測り方まで含めて設計できているかどうかが、継続性を分ける点だと感じます。以下は公開資料を読み比べたうえでの整理で、全国の自治体を網羅した調査ではありません。

窓口を誰が持つか

養父市は専管課を置き、新潟県は大学・企業との共同事業として進め、幸手市や名張市は地域の拠点に相談機能を載せています。専管課があれば責任の所在は明確になりますが、人員と予算の確保が必要です。既存の拠点に載せる形は始めやすい一方で、役割が曖昧になりやすい面があります。EYの解説も、実装段階の課題として、関係者が多く、役割と導線が曖昧になり、運用や評価が属人化しやすい点を挙げています。

つなぎ先をどう見える化するか

リンクワーカーが優秀でも、つなぎ先の情報が散らばっていれば紹介は属人的になります。養父市のポータルサイトのように、地域活動を一覧にして更新し続ける仕組みは、担当者が替わっても引き継げる点で意味があります。見える化は地味な作業ですが、社会的処方の土台にあたる部分です。

効果をどう測るか

社会的処方の効果は、医療費の変化のように分かりやすい指標だけでは測りきれません。養父市の事業については、京都大学の研究者が健康影響予測評価(HIA)を使った評価の事例を、内閣府の有識者会議に提出しています。新潟県の事業も、データに基づく地域課題の可視化を柱の一つにしています。効果の測り方は、各地で模索が続いている段階です。

今日から試せる1アクション

自治体の取り組みは、住民からは見えにくいものです。まずは、自分の住む自治体が何をしているかを確かめることから始められます。

具体的には、自治体名に「孤独・孤立対策」「地域協議会」「社会的処方」を組み合わせて検索し、公式サイトに担当課や地域協議会の記載があるかを確認してみてください。記載があれば、窓口の課名と連絡先を控えておきます。記載が見つからない場合は、福祉や健康づくりの担当課に「孤独・孤立対策の窓口はどこですか」と尋ねるだけで十分です。

この確認は、自分や身近な人が困ったときの相談先を知ることにもつながります。自治体職員の方なら、同じ検索で近隣自治体の取り組みを比べると、自分の自治体の設計を考える材料になります。

まとめ

内閣府の調査では、孤独感がある人は合計で39.3%にのぼり、国は孤独・孤立対策推進法と重点計画を通じて、自治体に連携の枠組みづくりを求めています。社会的処方は、その中で医療の枠を超えて人と地域資源をつなぐ手法として位置づけられています。

養父市は専管課とリンクワーカー研修、新潟県は大学・企業との共同実証、高知県は既存の拠点と大学の連携、幸手市や名張市は「保健室」型の拠点と、形はさまざまです。共通して問われるのは、窓口を誰が持つか、つなぎ先をどう見える化するか、効果をどう測るかの3点でした。効果の測り方は模索の途上にあるため、成果を断定せず、公開情報を確かめながら見ていくことが大切です。まず1つだけ、自分の自治体の相談窓口を調べてみてください。

  • 孤独感がある人は全国調査で合計39.3%で、20〜30歳代にも広がっている
  • 孤独・孤立対策推進法により、自治体は地域協議会を置くよう努めることになった
  • 養父市・新潟県・高知県では、窓口の持ち方や連携先が異なる
  • 担当課・つなぎ先の見える化・効果の測り方が、自治体の設計上の分岐になる
  • まずは自分の自治体の相談窓口を調べることが最初の一歩になる

参考文献

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