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SOCIETY

森林との共生をめざす農業「アグロフォレストリー」とは? 定義やメリット、日本と世界の具体例

森林との共生をめざす農業「アグロフォレストリー」とは? その定義やメリット、具体例をご紹介

アグロフォレストリーとは、農業(アグリカルチャー)と林業(フォレストリー)を組み合わせた言葉です。木を残したり植えたりしながら、同じ土地で作物や家畜を育てる土地利用を指します。「森をつくる農業」と呼ばれることもあります。この記事では定義の確認は最小限にとどめ、世界での広がり、日系移民が育てたトメアス式の歩み、日本での近い実践、よくある誤解、そして商品を選ぶときの見方を整理します。

この記事で学べること

  • アグロフォレストリーが世界の農地でどれだけ実践されているか
  • 日本人移民がブラジル・アマゾンで育てた「トメアス式」の歩み
  • 日本の里山や放牧に見られる、アグロフォレストリーに近い実践
  • メリットと課題、そして誤解されやすい3つのポイント
  • コーヒーやカカオなどを選ぶときに確かめたい4つの視点

世界の農地の4割以上で、すでに樹木と農業が重なっている

アグロフォレストリーは、一部の理想的な農法ではありません。実は世界の農地の多くで、すでに木と作物が同じ土地に共存しています。ここでは規模の数字と、国が政策として取り上げた例を見ます。

農地の43%に、一定以上の樹木がある

国際アグロフォレストリー研究機関(ICRAF)のZomerらによる2016年の研究(科学誌『Scientific Reports』)は、衛星データを使って世界の農地を調べました。2010年時点で、世界の農地の43%が10%以上の樹木被覆を持っていたと報告しています。研究を紹介した記事によると、農地の樹木は年間で約7.5億トン(0.75ギガトン)のCO2を固定してきたとされています。

同じ記事は、世界銀行の推計として、約12億人がアグロフォレストリー的な農業システムに依存していることも紹介しています。この研究が示すのは、樹木の混じる農地が、特殊な例ではなく世界の農業の標準的な一部だということです。

インドは国としての政策を最初にまとめた

2014年2月、インドのデリーで世界アグロフォレストリー会議が開かれました。インドは同じ時期に「国家アグロフォレストリー政策」を発表し、国として同様の政策を打ち出した最初の国と報じられました。政策は、小規模農家の収入向上、木材需要への対応、国内の森林・樹木被覆の拡大などを目的に掲げています。

なお、元の記事などで見かける「2050年までに特定の面積まで広げる」といった具体的な面積目標について、確認できた公開資料には記載がありませんでした。数値を引用するときは、一次資料で確かめるのが安全です。

「森と農業は両立しない」という前提が揺らいでいる

従来は、農地を広げるには森を切り開くしかないと考えられてきました。アグロフォレストリーはその前提を変え、森の機能を農業の側に取り込みます。木陰は作物や家畜を暑さから守り、落ち葉は土を肥やし、根は土砂の流出を抑えます。

ただし、木があれば何でもよいわけではありません。どんな木を、どの作物と、どの配置で組み合わせるかが成果を分けます。それを実際に積み上げてきたのが、次に紹介するトメアスです。

日系移民が育てた「トメアス式」は何が特別なのか

ブラジル北部パラ州のトメアスは、アマゾンの日系移住地として知られています。日本語圏でアグロフォレストリーが語られるとき、最もよく引かれる実例です。

失敗の連続から、森に学ぶ農業へ

JICAの資料や関連機関の紹介によると、トメアスへの入植は1929年に始まりました。当初はカカオの栽培を目指しましたが、栽培技術の知識が足りず、最初の試みは失敗しました。

第二次世界大戦後、東南アジアからのコショウの供給が途絶えたことを受け、トメアスはコショウの一大産地になります。1950〜60年代の話です。ところが単一作物の栽培と化学資材への依存が重なり、コショウは病気で打撃を受けて生産が落ち込みました。

そこで1970年代から、複数の作物を混ぜて植える方法が模索されます。ブラジルの財団(Fundo Vale)の紹介記事によれば、200を超える作物の組み合わせが試されたといいます。

短期の収入と、長期の資産を同じ土地に重ねる

トメアス式の設計の考え方は、収穫までの時間が違う作物を重ねることです。まず荒れた土地にコショウなど早く収入になる作物を植えます。コショウは10年ほどで枯れることを見越し、その間に果樹や木材になる樹木の苗を植えます。並木の間には野菜や米も作付けします。

こうしておくと、コショウの後は果樹が実り、さらに時間がたてば樹木が木材として家計を支えます。収入が途切れにくく、価格や収穫量の変動にも対応しやすくなります。「トメアス式アグロフォレストリーシステム(SAFTA)」は、持続的な農業の先駆的な実践として国際的にも評価されています。協同組合の会員は170人を超えるとされます。

2025年のCOP30で、あらためて世界に紹介された

2025年11月にブラジル・ベレンで開かれたCOP30の期間中、JICAブラジル事務所は現地の農業協同組合などの協力を得て、SAFTAを紹介するセミナーを11月15日に、現地ツアーを翌16日に開きました。セミナーでは、気候変動対策、生物多様性の保全、地域経済の強化にどう役立つかが議論され、ツアーには約70人が参加したと報告されています。

日本企業のフルッタフルッタも登壇しました。同社はトメアス産のアマゾンフルーツを扱い、同じ時期に環境省主催のジャパン・パビリオンのセミナーにも出ています。1980年代に日本人が築いた農法が、2025年の国際会議で、日本の民間の取り組みとして再び紹介されたことになります。

日本にもある、アグロフォレストリーに近い実践

日本では、「アグロフォレストリー」という名前で大規模に取り組まれている例は多くありません。一方で、森と農業を組み合わせてきた営みは各地に残っています。

里山の暮らしそのもの

落ち葉を堆肥にして田畑を耕し、キノコや山菜、木の実を採り、薪や炭を燃料にする。里山の営みは、森を使いながら森を維持する循環でした。厳密な定義ではアグロフォレストリーと区別される場合もありますが、考え方としては共通しています。森の資源を単発で収奪せず、農と林を一体で管理する発想です。

静岡のわさび栽培も、世界農業遺産(GIAHS)として国連食糧農業機関(FAO)に紹介されている例です。FAOの紹介ページでは、森の日陰ではシイタケ、日当たりのよい場所では茶や水田というように、土地の条件に合わせた使い分けが説明されています。

放牧は、コストと景観の両面で注目されている

家畜を林や山で放牧する「林間放牧」は、海外ではシルボパスチャー(silvopasture)と呼ばれ、アグロフォレストリーの一形態です。樹木が家畜に日陰と避難場所を提供し、悪天候から守る役割が期待されます。

日本の農林水産省は、放牧全般の推進を掲げています。同省の資料では、舎飼いと比べて、肉用牛の繁殖経営で約28%、酪農経営で約19%のコスト低減が見込まれるとされています。耕作放棄地の活用や景観保全にもつながると説明されています。

ただし、同省のこのページが主に扱うのは草地や水田、耕作放棄地での放牧で、林の中での放牧を直接扱ってはいません。林間放牧そのものの国内の普及状況は、別の資料で確かめる必要があります。

国内で実践するうえでの壁

日本では農地と林地が制度上も管理面でも別々に扱われがちです。農業をする人と林業をする人が分かれていることも多く、両方を見渡して設計できる人が少ないのが実情です。獣害対策や、木が育つまでの収入の確保といった課題も重なります。

この壁があるからこそ、地域の産業や担い手の仕組みと組み合わせた実践に意味があります。各地の取り組みを調べる際は、「アグロフォレストリー」と名乗っているかどうかだけでなく、森と農が実際に結びついているかを見てください。

メリットと課題を、数字に頼りすぎずに整理する

アグロフォレストリーの利点は多くの研究で語られていますが、万能ではありません。ここでは、長所と短所を並べて確認します。

環境面と暮らしの面のメリット

環境面では、森林の生態系を維持しながら農業ができます。大規模な伐採や焼畑に頼らず、土地の樹木を保全し増やすことが前提だからです。樹木と多様な作物が組み合わさることで、土壌が豊かになり、生き物が助け合う環境が生まれます。

研究の総説では、農地を農林複合に変えた場合に、土壌の有機炭素が平均で34%増えたという報告もあります。年間の炭素固定量は、土地や樹種によって大きく幅があります。

暮らしの面では、収穫の時期が違う作物を組み合わせることで、同じ土地から年間を通じた収入を得やすくなります。価格が下がったときのリスクも分散できます。

普及を阻む2つの課題

第1に、長期の計画が欠かせません。土地の特性や生態系に詳しい専門家による設計が必要で、生育の速さが違う木や作物を、何年も先を見て組み合わせなければなりません。

第2に、生産者の理解と収入の問題です。すぐに現金になる単一作物を選びたいと考える生産者は多く、アグロフォレストリーの良さは短期では見えにくいものです。そのため、収入が安定するまでの期間を支える仕組みが普及のカギになります。

「植えれば解決」ではない

どの国でも共通して言えるのは、木を植えること自体がゴールではないという点です。誰が土地を持ち、誰が長期の管理を担い、収穫物を誰が買うのか。その経済の仕組みまで設計して、はじめて続く取り組みになります。

誤解されやすい3つのポイント

名前が知られるようになると、意味が単純化されて伝わりがちです。ここでは、読者が混同しやすい3つの点を取り上げます。

「木が生えていれば、アグロフォレストリー」ではない

単一の樹木を畑のまわりに並べただけでは、多様な生態系にはなりません。種類の異なる木、低木、作物、時には家畜を組み合わせ、時間差で収穫できる構成になっているかが見るべき点です。

「環境にいい」と書いてあれば、全部同じではない

「アグロフォレストリー」という表記は法的に定義された認証ではありません。同じ言葉でも、実際の中身は、森のように多様な畑から、木陰の下で単一作物を育てるだけの農園まで幅があります。表記だけで判断せず、中身を確かめることが大切です。

「当事者の努力で解決」という話でもない

森の再生は、現地の農家の努力だけで成り立つものではありません。たとえば西アフリカのコートジボワールでは、カカオ栽培に伴う森林減少が問題になってきました。同国の森林は過去20年で200万ヘクタール以上が失われたと報じられています。

EU(欧州連合)は森林破壊に関わる産品を扱わせない規則(EUDR)をつくり、生産地への追跡を求めています。一方で、追跡できるのは、2024年の同国のカカオ輸出の約半分にとどまるという報道もあります。木陰でカカオを育てる農法は有効な手段のひとつですが、小規模農家が移行できるように、買う側の企業や消費国が費用と責任を分け合う仕組みが必要です。

カカオやコーヒーを選ぶ前に、確かめたい4つの視点

「アグロフォレストリー産」と書かれた商品は、日本でもコーヒー、カカオ、アマゾンフルーツなどで見かけるようになりました。ここでは、買う側が確かめられる視点をまとめます。

産地と栽培方法が具体的に書かれているか

国名だけでなく、地域名や協同組合名、どんな作物をどう混ぜて育てているかが書かれているかを見ます。説明が具体的な商品ほど、確認の手がかりがあります。

第三者の認証や監査があるか

認証には、レインフォレスト・アライアンスなど、森林や農家の暮らしの基準を持つものがあります。認証の有無だけで完全に判断はできませんが、自社の主張だけに頼らない根拠の一つになります。

農家に利益が届く仕組みが示されているか

買い取り価格や長期契約の考え方が開示されているかを確認します。収入が安定しなければ、農家は木を切って単一作物に戻らざるをえません。

長期の取り組みとして続いているか

単発のキャンペーンではなく、何年も続く関係かを見ます。トメアスのように数十年かけて育った取り組みは、時間がたっても説明できる実績があります。

まとめ

アグロフォレストリーは、森と農業を二者択一にしない土地利用です。世界の農地の4割以上で樹木と農業がすでに重なっており、トメアスでは日本人移民が失敗を重ねながら、収穫時期の異なる作物を組み合わせる農法を築きました。日本でも、里山の暮らしや放牧、静岡のわさび栽培などに、近い考え方を見つけられます。

一方で、成果が出るまでに時間がかかり、設計も担い手も必要です。「アグロフォレストリー」という表記だけでは中身が分からないため、買う側は産地、認証、農家への還元、取り組みの継続性を確かめる視点が役立ちます。

まず1つだけ、次にコーヒーやチョコレートを手に取るとき、パッケージの産地や栽培方法の説明を読んでみてください。

  • 世界の農地の43%で10%以上の樹木被覆があり、樹木と農業の共存は広く見られる
  • トメアス式は、収穫時期の異なる作物を重ねることで収入と森を両立してきた
  • 日本では里山や放牧、わさび栽培などに近い実践があるが、林間放牧の普及は別途確認が必要
  • 課題は長期の設計、担い手、収入の安定で、木を植えるだけでは解決しない
  • 商品を選ぶときは、産地、認証、農家への還元、継続性の4点を確かめる

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
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