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SOCIETY

グレート・リセットとは?注目理由やSDGsとの関係性、日本の動きと誤解されやすい点まで

グレート・リセットとは?注目理由やSDGsとの関係性まで紹介

グレート・リセットとは、2020年6月に世界経済フォーラム(WEF)が打ち出した、コロナ後の経済と社会をより公平で持続可能な形に「つくり直そう」という呼びかけです。「すべてを白紙に戻す計画」と受け取られることもありますが、原典を読むと、市場のルール、投資の向け先、技術の使い方という3つの方向性を示した提案だと分かります。発表から6年がたち、この言葉自体は以前ほど聞かれなくなりました。ただ、提案が投げかけた問いは、日本の制度や企業の開示ルールの中に形を変えて残っています。

この記事では、グレート・リセットが注目された理由とSDGsとの関係を整理します。そのうえで、発表後に何が起きたのか、日本ではどんな動きがあるのか、誤解されやすいのはどこかを順に見ていきます。

この記事で学べること

  • グレート・リセットが提案した3つの柱と、その位置づけ
  • コロナ禍・雇用・気候変動という3つの注目理由
  • SDGsと重なる点、重ならない点、そして目標の進み具合
  • 日本の官民で進む「新しい資本主義」「GX」「サステナビリティ開示」の動き
  • 陰謀論と政策提案を分けて読むための視点
目次

グレート・リセットとは|2020年に発表された「つくり直し」の提案

グレート・リセットは、2020年6月3日にWEFが発表した取り組みです。創設者のクラウス・シュワブ氏が同日に寄稿した論考で、コロナ禍を「資本主義のあり方を見直す機会」と位置づけました。WEFの発表では、2021年1月の会合のテーマとして掲げられ、当時の英国のチャールズ皇太子(ウェールズ公)とシュワブ氏が共同で打ち出したと説明されています。

誤解されやすいのは「リセット」という語感です。WEFが示したのは、金融や社会のしくみを一夜で消して作り直す計画ではありません。コロナ後の復興にあたって、元の姿に戻すのではなく、より公平で持続可能な方向へ舵を切ろうという提案です。

土台にあるステークホルダー資本主義

提案の土台には、ステークホルダー資本主義という考え方があります。企業は株主のためだけでなく、従業員、顧客、取引先、地域社会といった関係者全体に責任を負う、という立場です。2019年8月には米国の大手企業が集まるビジネス・ラウンドテーブルが同趣旨の声明を出したとされ、2020年1月のダボス会議でも主要テーマになりました。グレート・リセットは、その流れをコロナ禍で加速させる形で登場しました。

提案された3つの柱

シュワブ氏の論考は、大きく3つの柱で構成されています。

1つ目は、市場をより公平にすることです。各国政府が税制、規制、財政政策、貿易のルールを調整し、ステークホルダー経済に合った条件を整えるべきだとしています。例として、富裕税の見直しや化石燃料への補助金の廃止などが挙げられています。

2つ目は、投資の向け先を変えることです。コロナ対策で各国が出す大規模な景気刺激策の資金を、元の仕組みの穴埋めに使うのではなく、平等や持続可能性といった共通の目標につながる分野に回すよう促しています。具体例は、環境負荷の小さい都市インフラの整備や、ESG(環境・社会・ガバナンス)の実績向上に報いる仕組みです。

3つ目は、第4次産業革命の技術を公共の利益に生かすことです。論考では、感染症対策で企業、大学、研究機関が連携して診断法やワクチン、遠隔医療を作った経験が例として示されています。分野をまたぐ協力を、健康や社会課題の解決にも広げようという趣旨です。

「何をいつまでに」までは決めていない

もう一つ押さえておきたいのは、この提案が具体的な実施計画ではなかったという点です。英国のシンクタンクISDの解説は、グレート・リセットには世界規模で実施する特定のプログラムや行動が含まれていなかったと指摘しています。方向性を示す呼びかけだったため、読み手によって解釈が大きく分かれました。この余白が、後で触れる誤解や批判の入り口にもなっています。

なぜ注目されたのか|コロナ禍・雇用・気候変動という3つの背景

グレート・リセットが一気に広まった背景には、2020年に同時に表面化した3つの問題があります。どれか1つだけなら「制度の手直し」で済んだかもしれませんが、重なったことで、仕組みそのものを見直そうという声が強まりました。

コロナ禍が見せた既存の仕組みの弱さ

感染拡大によって、医療体制、サプライチェーン、雇用保障、教育の機会といった、平時には見えにくかった弱点が一斉に表に出ました。人の移動が止まり、国同士の協力も難しくなる中で、「元の状態に戻すだけでは次の危機に耐えられない」という認識が広がりました。WEFは、この危機を仕組みを見直す機会として捉え直そうと呼びかけたのです。

雇用の変化と格差への不安

自動化やデジタル化は、効率を高める一方で、仕事の中身を大きく変えます。コロナ禍では、対面を前提にした仕事が真っ先に打撃を受け、収入の不安定さが家計に直結する人が増えました。働き方の変化に社会保障や学び直しの機会が追いつかなければ、格差は広がります。グレート・リセットが「公平な市場」を第1の柱に置いたのは、この不安が背景にあります。

気候変動と自然の損失

3つ目は環境です。気候変動による異常気象や生態系の損失は、経済活動の外側にある問題ではなく、経済そのものの土台を揺るがす問題として認識されるようになりました。経済対策の資金をどこに向けるかが、そのまま将来の排出量を左右します。そのためWEFは、復興のための投資を環境や公平性の目標に結びつけるよう求めました。

発表から6年|グレート・リセットの現在地

2026年10月の時点で振り返ると、グレート・リセットという言葉は、提唱直後ほど表に出なくなりました。それでも、議論の中身が消えたわけではありません。どう変化したのかを、会議のテーマ、運営側の変化、論点の行き先の3点で見てみましょう。

会議のテーマは「再構築」から「対話」へ

2021年1月、WEFは新型コロナの影響で、通常のダボス会議をオンライン中心の会合として開きました。翌2022年1月にも、各国首脳の演説を中心とする「ダボス・アジェンダ」がオンラインで開かれ、当時の岸田総理大臣が日本の「新しい資本主義」について語っています。外務省の発表によると、シュワブ会長は、企業の利益だけでなく人々や自然環境にも配慮するステークホルダー資本主義が重要になっていると述べたとされています。

その後、2026年1月の第56回年次総会のテーマは「A Spirit of Dialogue(対話の精神)」でした。WEFは、国際協力が重要な局面で、信頼の再構築と対話の強化を戦略的な課題としたと説明しています。かつての「リセット」から、分断を前提にした「対話」へと、キーワードが移ったことが分かります。

運営側にも変化があった

WEFを率いてきたシュワブ氏は、2024年に執行会長の職を退き、2025年4月には理事会の議長などから退いたと報じられています。日々の運営は、すでにボルゲ・ブレンデ総裁が担っていました。提唱者の退任と時期を同じくして、「グレート・リセット」を旗印にした発信は少なくなっています。

言葉は下火でも、論点は制度に入り込んだ

「公平な市場」「ESGを軸にした投資」「分野を超えた協力」という3つの論点は、名前を変えて各国の政策や企業の開示ルールに入り込みました。次の節で見る日本の動きも、グレート・リセットの名では語られませんが、同じ問いに向き合っています。

グレート・リセットとSDGsの関係|重なる点とずれる点

SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年の国連総会で採択された国際目標です。2030年までに達成を目指す17の目標と169のターゲットで構成されています。グレート・リセットとの関係は「同じ方向を向いているが、同じものではない」と整理するのが近いでしょう。

重なる点

WEF自身も、グレート・リセットをSDGsの達成と結びつけて発信しました。2020年9月には、各国の指導者が「グレート・リセット」を通じて国際目標を達成するよう呼びかける発表をしています。

内容面でも重なりは明確です。公平な市場づくりは目標10(人や国の不平等をなくそう)、投資の向け先を変える提案は目標13(気候変動に具体的な対策を)や目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、分野を超えた協力は目標17(パートナーシップで目標を達成しよう)につながります。

ずれる点

大きく違うのは、成り立ちと拘束力です。SDGsは国連加盟国が採択した合意で、各国が自国の計画に落とし込む枠組みです。一方、グレート・リセットはWEFという民間の会議体が出した提案で、政府間の合意を経たものではありません。そのため、WEFに対しては、参加者が政財界の大物に偏る、意思決定の過程が見えにくい、といった批判も向けられています。

また、グレート・リセットは主に資本主義の運営ルールに焦点を当てています。SDGsが扱う教育、保健、ジェンダー、平和といった幅広い分野を、同じ重みでカバーしているわけではありません。

目標の進み具合から見える現実

肝心のSDGsは、残り4年余りという段階で、思うように進んでいません。2025年7月に公表された国連の報告書によると、傾向を評価できるターゲットのうち、順調または一定の進展があるのは35%にとどまります。1割台後半にあたる18%は、2015年の水準より後退したとされています。紛争、気候変動、不平等、資金不足が進展を妨げている、というのが国連の見立てです。

日本の位置も見ておきましょう。国連の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が2025年6月に公表した報告書では、日本は167か国中19位と報じられています。上位とはいえ、国内の課題は残っており、順位だけで安心できる状況ではありません。

この数字から読み取れるのは、「新しい仕組みを考える」ことだけでなく、「すでにある目標に資金と制度を回す」ことが課題だという点です。グレート・リセットが投資の向け先を問題にしたのは、この点と重なります。

日本ではどう動いているか|「新しい資本主義」・GX・サステナビリティ開示

日本では、グレート・リセットという名前で政策が進んでいるわけではありません。ただ、官民の動きを並べると、3つの柱に対応する取り組みが見つかります。ここでは、公的資料で確認できるものを3つ取り上げます。

官の動き|新しい資本主義とGX経済移行債

「新しい資本主義」は、2021年に発足した岸田政権が掲げた看板政策です。市場や競争に任せきりにせず、官と民が協力して成長と分配の好循環をつくる、という考え方で、ステークホルダー資本主義と重ねて語られることがよくあります。

投資の向け先を変えるという点で具体性が高いのが、GX(グリーントランスフォーメーション)の枠組みです。政府は2024年2月、世界初とされる政府発行のトランジション・ボンド(クライメート・トランジション・ボンド、通称GX経済移行債)の初回分として、5年債と10年債を各8,000億円、合計1兆6,000億円発行しました。10年間で20兆円規模の発行が見込まれ、調達した資金は官民で150兆円超とされるGX投資の先行支援に充てられます。償還財源はカーボンプライシングで、排出量取引制度は2026年度に本格稼働する計画です。

開示のルール|SSBJ基準の義務化

「ESGの実績に応じて資金が流れる」仕組みを支えるのは、企業の情報開示です。金融庁は2026年2月20日に開示府令の改正を公布し、東証プライム市場の大企業に対して、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準にもとづく開示を有価証券報告書で求める枠組みを整えました。

適用は時価総額の大きい企業から段階的に進みます。時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆円以上は2028年3月期からが基本です。5,000億円以上の企業は2029年3月期とする方向で議論されています。開示の義務化は、企業の気候リスクや人的資本への向き合い方を、投資家や一般の読者が比べられるようにする仕組みです。

経済界の動き|サステイナブルな資本主義

経済界でも、同じ方向の言葉が使われています。経団連は2020年11月の「新成長戦略」でサステイナブルな資本主義を基本理念に据え、2022年12月に改訂した「企業行動憲章 実行の手引き」では、序文の副題を「サステイナブルな資本主義の確立を目指して」としました。株主だけでなく、顧客や従業員、地域社会など多様な関係者との対話を重視する姿勢を明確にしたものです。

3つの動きを柱に当てはめると、公平な市場には「新しい資本主義」、投資の向け先にはGX経済移行債、そして企業の姿勢を見える化する開示ルールという分担になります。ただし、いずれも道半ばです。開示が整っても、それが実際の事業の変化につながるかは、これから問われます。

誤解されやすい点|陰謀論と政策提案を分けて読む

グレート・リセットは、インターネット上でさまざまな形で語られてきました。誤解を避けるには、事実として確認できる部分と、立場によって評価が分かれる部分を分けて読むことが大切です。

「秘密のエリートによる支配計画」という主張

WEFや各国の「エリート」がコロナ禍を利用して世界を支配しようとしている、という主張が広まりました。EUの偽情報対策機関EUvsDisinfoは、この主張を繰り返し流布される陰謀論として分類しています。PolitiFactなどのファクトチェックも、広く否定されている説だと伝えています。

根拠が乏しいとされる理由の一つは、グレート・リセットがWEF自身の公式サイトで公開されていた提案だという点です。秘密の計画ではなく、公開された論考と書籍があり、批判も賛同も自由にできる状態にありました。

「リセット」は白紙化ではなく、見直しの呼びかけ

先に述べたとおり、提案は具体的な実施計画を伴うものではありません。富裕税や化石燃料補助金の廃止といった政策は例として挙がっていますが、それを実行するかどうかは各国の政治が決めることです。ISDの解説が指摘するように、具体性が乏しかったことが、さまざまな読み込みを許す結果になりました。

批判にも根拠はある

一方で、すべての批判が「陰謀論」というわけではありません。WEFの会議は参加者が限られ、民主的な決定の場ではない、という指摘があります。民間の会議体が経済政策の方向性を示すことに慎重な目を向ける意見や、提案が曖昧で何を変えるのか分かりにくいという批判もあります。

事実として確認できる範囲では、「提案は実在し、内容は公開され、評価が分かれる政策論である」といえます。賛成か反対かは別として、陰謀論と政策論を混ぜないことが、冷静な議論の出発点になります。

読者が今日からできること|情報を読み解く3つの視点

「社会の仕組みが変わる」という話は、規模が大きく、自分の暮らしとのつながりが見えにくいものです。ここでは、日常で使える視点を3つ紹介します。

原典に当たってから判断する

グレート・リセットのように感情を揺さぶられやすい話題ほど、SNSの要約ではなく、元の文書を見る習慣が役立ちます。WEFの論考は公開されていますし、日本の政策なら金融庁や経産省のページで確認できます。誰が、いつ、何を言ったのかを確かめるだけで、情報の確かさはかなり判断できます。

自分に近い場所で「どこに投資が向かっているか」を見る

投資の向け先を変えるという柱は、企業や自治体の発表を読むことで身近に確かめられます。勤め先や、よく買い物をする企業の統合報告書やサステナビリティの報告に目を通すと、気候変動対策や人材への投資がどう説明されているかが見えてきます。SSBJ基準の義務化が進めば、こうした情報は今後さらに比べやすくなります。

「誰が取り残されるか」を問い続ける

大きな制度の見直しでは、変化の恩恵を受ける人と、負担を負う人が分かれます。雇用が変わる仕事、エネルギー価格の影響を受けやすい世帯、情報にアクセスしにくい人など、見落とされやすい立場を想像することが、SDGsの「誰一人取り残さない」の考え方に近づく第一歩です。

まとめ

グレート・リセットは、2020年にWEFが提案した「コロナ後の経済と社会をつくり直す」ための呼びかけで、公平な市場、投資の向け先、技術の公共的な活用という3つの柱から成り立っています。SDGsとは方向が重なりますが、国際合意ではなく民間会議体の提案である点で性格が異なります。

発表から6年がたち、この言葉は以前ほど聞かれなくなりました。それでも、ステークホルダー資本主義やESG投資、サステナビリティ開示といった論点は、日本のGX経済移行債や開示義務化、経済界の理念の中に形を変えて残っています。一方で、SDGsの進み具合は道半ばであり、仕組みを整えるだけでなく、実際に資金と行動が目標に向かうかが問われています。

「リセット」という強い言葉に引きずられず、公開された原典と公的資料で確かめながら、自分に近いところから動きを追っていく。それが、情報があふれる時代の現実的な向き合い方です。まず1つだけ、気になる企業の開示資料を開いてみてください。

  • グレート・リセットは、2020年6月にWEFが発表した、公平で持続可能な方向への「つくり直し」の提案である
  • 3つの柱は、公平な市場、投資の向け先の転換、技術の公共的な活用である
  • SDGsと方向は重なるが、国際合意ではなく民間会議体の提案という違いがある
  • 日本では、新しい資本主義、GX経済移行債、SSBJ基準の開示義務化などに同じ論点が表れている
  • 陰謀論と政策論を分け、公開された原典と公的資料で確かめる姿勢が大切である

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事

鹿児島県在住のフリーライター。コーヒーをきっかけにSDGsを知り、興味をもつように。普段は、ライフスタイルやSDGsに関する記事を執筆しています。

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