高校でのSDGsの取り組み事例は、全国で増えています。SDGsは、2030年までに世界が達成をめざす17の目標です。高校では、教室で目標を暗記するよりも、回収活動や企業との協働、地域の商品づくりといった体験学習を通じて学ぶ形が広がっています。この記事では、公開情報で確認できた高校の事例をもとに、体験学習を通じてSDGsの達成をめざす実践のパターンと、自分の学校や身近な高校生が最初の一歩を選ぶ判断の軸を紹介します。
高校のSDGsが体験学習として広がる背景
高校の取り組みを見る前に、なぜ今の高校では実践型の学びが選ばれやすいのかを押さえておきます。理由は、学校教育の制度とネットワークの両方にあります。ここを知っておくと、後で紹介する事例が単発の工夫ではなく、制度に支えられた動きだと分かります。
総合的な探究の時間が実践の土台になっている
高等学校では2018年に学習指導要領が告示され、「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に改められました。令和4年度の入学生から年次進行で実施されています。文部科学省の解説では、探究の見方・考え方を働かせながら、横断的・総合的な学習を行い、課題を自分で見つけて解決していく資質・能力の育成をめざす時間とされています。
SDGsは、環境、貧困、ジェンダーなど複数の分野にまたがる課題の集まりです。そのため、教科の枠を越えて課題を探す探究の時間と相性がよく、多くの高校がSDGsを探究のテーマや切り口に使っています。
ユネスコスクールがESDの拠点になっている
もうひとつの土台が、ユネスコスクールです。文部科学省と日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコスクールを、持続可能な開発のための教育(ESD)の推進拠点と位置づけています。国内の加盟校は2005年に16校でしたが、令和8年3月31日時点で1,065校になりました。1か国あたりの加盟校数としては世界最大とされています。
この数字は小学校から高校までを合わせたもので、高校だけの内訳は文部科学省のページでは確認できませんでした。それでも、SDGsを授業や学校運営に組み込む学校が、国内に1,000校規模で存在することは分かります。
「体験」が学びの中心になる理由
SDGsの17の目標は言葉だけで読むと抽象的です。そのため、手を動かして社会とつながる体験学習が相性のよい方法として選ばれています。次の章で紹介する事例は、集める、企業と話す、地域の人と商品をつくるなど、いずれも学校の外とつながる行動が入口になっています。
高校でのSDGsの取り組み事例5校
ここからは、学校の公式発表、企業の発表、報道で確認できた事例を5つ紹介します。取り組みの型が違うものを選んだので、気になる型から読んでも構いません。いずれも各校の取り組みの一部で、最新の実施状況は学校の公式サイトで確認してください。
光ヶ丘女子高等学校(愛知県)|ハブラシの回収と循環の体験
愛知県岡崎市の光ヶ丘女子高等学校は、「SDGsを学ぶ・SDGsで学ぶ・SDGsに学ぶ」という考え方を掲げています。2018年度から生徒会が中心となって、使用済みハブラシの回収に参加してきました。現在は有志のプロジェクトチームが、廃棄物や資源の問題を学びながら回収を続けているとされています。
全校で集めたハブラシは、再生プラスチックの植木鉢と交換されます。その植木鉢で育てたミモザの苗木は校内に地植えされ、「光ヶ丘×SDGs」のシンボルツリーになっています。ミモザは国際女性デーの花として知られ、環境の学びとジェンダー平等の学びが、1本の木でつながる形です。2019年度からは、国際支援団体や環境団体への寄付活動も行っています。
この回収の仕組みは、ライオンがテラサイクルジャパンと2015年6月から続けている「ハブラシ・リサイクルプログラム」です。個人や団体が無料で参加でき、ライオンの発表では、開始から10年間の累計回収量は27.0トン(約216.8万本)に上ります。学校が自前で仕組みをつくらなくても、既存の枠組みに乗れる点が、続けやすさにつながっています。
岩倉高等学校(東京都)|企業を招く探究のSDGsプログラム
東京都台東区の岩倉高等学校は、2020年から1・2年生を対象に、総合的な探究の時間の中で「SDGsプログラム」を設けています。企業を招いた授業が中心です。
2023年10月24日には、1年生2クラス約75名を対象に、ライオンがSDGsの取り組みについて授業を行いました。ライオンの発表では、再生素材でつくった定規を生徒が手に取って観察する場面が紹介されています。生徒は説明を聞くだけでなく、現物を見て、企業が課題をどう事業に落とし込んでいるかを確かめます。企業の側から見ても、学校は取り組みを若い世代に伝える場になります。
関西大学高等部(大阪府)|企業・団体と共創アイデアを出す
関西大学高等部では、1年生を対象にした「SDGsフォーラム」を2017年から続けています。2025年は6月26日に開かれ、1年生160人が、グローバルに活動する18の企業・団体と交流しました。生徒は関心のある活動を事前に選び、2回のセッションで情報収集と質疑応答を行います。2025年度は、SDGs達成に向けた共創アイデアを生徒が発表し、企業・団体と今後できることを一緒に考える形でした。
同じ大学の発表では、2024年度は23団体・159人、2026年度は20団体・145人の1年生が参加する予定とされています。企業の数は年によって変わっても、「聞く」から「提案する」へと活動の軸が移ってきた点が特徴です。
武田高等学校(広島県)|スポーツチームに平和の企画を提案
広島県の武田高等学校は、第1回全国高校生SDGs選手権で優勝したと、2021年のテレビ東京の番組紹介で伝えられました。テーマは「平和を身近に」です。生徒は広島のプロバスケットボールチーム「広島ドラゴンフライズ」に、「あなたのピースで 世界がピースに」という企画を提案しました。
内容は、各自の平和の定義をパズルのピースに見立てて重ねるものです。試合会場で折り鶴を折ってもらうブースの設置や、折り鶴に思いを書いてSNSに投稿する「#おりづるリレー」も含まれ、提案が採用されて実施されることになりました。校内で完結せず、地域の組織に提案して実際に動かした点が、ほかの事例との違いです。
明星高等学校(東京都)|地域資源を使った商品開発と販売
明星高等学校は2021年に、高校2年生約300人が参加する「SDGsマーケット」を開きました。生徒は2021年4月から週2時間と夏休みを使って、半年以上かけて商品を開発しました。連携先は、沖縄県の読谷村とうるま市、兵庫県の淡路島、鳥取県の大山町など、SDGsに取り組む20の事業団体で、Zoomで連携しながら開発を進めました。
販売会では約40種類の商品が予定され、高校生向けのスイーツや、ジビエ、お香、オーガニック素材の雑貨などが並びました。生徒が特にこだわったのは顧客像の具体化で、ペルソナ分析を使って地域の魅力と課題を重ねています。これは2021年の実施例なので、現在の形は学校に確認してください。
校内の暮らしから始める取り組みの形
企業との連携や商品開発は、学校に時間や調整役が必要です。もっと身近な場所から始めている高校もあります。ここでは、元の記事で紹介されていた2校の取り組みを、校内の暮らしを変えるという切り口で紹介します。学校公式サイトの紹介内容をもとにしているため、現在の実施状況は各校のサイトで確認してください。
委員会をつくり、クラスごとに行動目標を決める(御殿場西高等学校)
静岡県の御殿場西高等学校には、各クラスから選ばれた生徒でつくる「SDGs委員会」があると紹介されています。委員会の生徒が、クラスごとの月の行動目標を決め、新聞や動画で全校に発信します。教室の黒板にSDGsの17目標のステッカーを用意し、どの教科でも目標との関連を意識する工夫もあります。
この形のよさは、一部の有志に任せず、クラスという単位で全員が関われる点にあります。学校の課題を生徒の目線で考え、提案を学校運営に反映できれば、生徒は「自分の提案が通る」という手応えを得られます。
落ち葉を腐葉土にして花壇に戻す(岡山工業高等学校)
岡山県立岡山工業高等学校は、校内の桜の落ち葉を集めて腐葉土にし、花壇の肥料として再利用していると紹介されています。以前は落ち葉の処分に困っていたそうです。
10月の今は、落葉の季節に入る時期です。どの学校の校庭や通学路にも落ち葉があり、同じ視点で身近な資源を見直せます。捨てていたものを循環させる体験は、「陸の豊かさを守る」という目標を、自分の手の動きとして理解する入口になります。
専門科の技術を生かす発想
同じ岡山工業高校は、情報技術科の生徒が、手をかざすと自動で出る手指消毒機を、ミニソーラーパネルの電力で動かす形でつくったとも紹介されています。工業高校や農業高校、商業高校のように専門科がある学校では、学んでいる技術がそのままSDGsの実践になります。普通科でも、家庭科や情報、理科など得意な教科から入口を探せます。
事例から見える取り組みの選び方
事例を並べると、「何を集めたか」よりも「誰と、どこまでつなげたか」に違いが出ます。ここでは、高校生や先生、保護者が最初の一歩を選ぶときの判断軸を3つにまとめます。これは公開されている事例を比較した整理で、効果を保証する基準ではありません。
誰が動くのか(有志か、クラス単位か)
光ヶ丘女子のように生徒会から有志チームへ受け継ぐ形もあれば、御殿場西のようにクラスの代表で委員会をつくる形もあります。有志型は熱量が高く続けやすい反面、担い手が卒業すると途切れやすくなります。クラス単位型は参加者が広く、運営の調整が必要です。自校の人数や部活の忙しさに合わせて選ぶのが現実的です。
どこまでつなげるのか(校内、企業、地域)
校内で完結する取り組みは始めやすく、企業や地域とつなぐ取り組みは学びが深くなりやすい傾向があります。たとえばハブラシ回収はライオン、衣料の回収はユニクロ・ジーユーのプロジェクトのように、既存の仕組みに乗る方法もあります。
ユニクロ・ジーユーの「届けよう、服のチカラ」プロジェクトは、ファーストリテイリングが2013年に始めました。社員による出張授業を受けたあと、生徒が回収の方法を考えて子ども服を集め、難民の子どもたちに届けます。2019年度には約4万人の児童・生徒が参加したと発表されています。参加条件や期間は変わることがあるため、公式ページで最新の案内を確認してください。
何を変えるのか(行動、仕組み、考え方)
回収は行動の入口にすぎません。回収したものがどうなるのか、なぜ捨てずに集める必要があるのかまで掘り下げると、行動が考え方の変化につながります。武田高校の提案のように、「自分たちの企画で外の組織を動かす」経験は、仕組みを変える体験になります。
「集めて終わり」にしないために知っておきたい視点
体験学習は、やり方によっては活動そのものが目的になってしまいます。SDGsを掲げた活動を批判するためではなく、続けるうえで起きやすいつまずきを事前に知っておくための整理です。
回収はリサイクルの一歩であり、減らす視点とセットにする
ハブラシやキャップ、衣料の回収は、資源を循環させる体験として有効です。ただし、リサイクルは使い終えたあとの話です。そもそも使い捨てを減らす、長く使うという視点も一緒に考えると、学びが深まります。光ヶ丘女子が環境の学びとジェンダー平等の学びをつなげたように、回収を入り口に別の目標へ視野を広げる設計が役立ちます。
標語やポスターで止めず、小さくても行動を残す
SDGsの標語を掲げたポスターや、ステッカーを貼る取り組みは、意識づけとして意味があります。ただ、それだけだと「やった感」で終わる可能性があります。御殿場西の月ごとの行動目標のように、確認できる行動を決め、結果を振り返る仕組みをセットにすると、取り組みが続きます。
生徒の負担と、学校の外の人の事情を考える
活動が増えるほど、一部の生徒や先生に負担が偏ります。企業や地域の団体と協働するときは、相手にも事情があります。学校側の都合だけで進めず、相手の目的も聞いたうえで役割を分けることが、長く続く関係につながります。
まとめ
高校でのSDGsの取り組みは、総合的な探究の時間やユネスコスクールといった制度に支えられ、体験学習として広がっています。この記事で見た5校は、ハブラシ回収、企業を招く授業、企業・団体との共創、スポーツチームへの提案、地域資源の商品開発と、型がそれぞれ違いました。共通していたのは、校内にとどまらず、外の人や仕組みとつながる行動が入口になっている点です。
校内の暮らしから始める事例も、同じくらい大切です。委員会でクラスの行動目標を決める、落ち葉を腐葉土にするといった取り組みは、予算や調整役が少なくても始められます。選ぶときは、誰が動くのか、どこまでつなげるのか、何を変えるのかを考えてみてください。
迷ったときは、まず身近なものをひとつ、集めてみるところから試してみてください。そのうえで、集めたあとどうなるのかを調べてみると、次の一歩が見えてきます。
- 高校のSDGs体験学習は、総合的な探究の時間(令和4年度から年次進行)とユネスコスクール(1,065校)が土台になっている
- ハブラシ回収、企業との授業、共創アイデアの発表、地域の商品開発など、取り組みの型は複数ある
- 委員会や落ち葉の堆肥化など、校内の暮らしから始める方法もある
- 選ぶ軸は「誰が動くか」「どこまでつなげるか」「何を変えるか」の3つ
- 回収は入口と考え、減らす視点や行動の振り返りまでセットにすると続けやすい
参考文献
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間編」(2018年)
- 文部科学省「ユネスコスクール」(2026年)
- ライオン「ハブラシ・リサイクルプログラム」ニュースリリース(2025年)
- ライオン「岩倉高等学校でのSDGs授業」(2023年)
- 現代ビジネス「光ヶ丘女子高等学校のSDGsの取り組み」
- 関西大学「関西大学高等部SDGsフォーラム2025」プレスリリース(2025年)
- テレビ東京「SDGs選手権優勝校の武田高校」(2021年)
- 明星高等学校「SDGsマーケットを都内で開催します」(2021年)
- ファーストリテイリング「届けよう、服のチカラ」プロジェクト紹介

