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TNFD 日本企業の開示はどこまで進んだか|世界最多の背景とISSB移行後の備え方

Photo by Alessio Soggetti on Unsplash

「TNFDって、結局うちの会社や投資先に関係あるの?」「日本企業が世界一多いと聞くけれど、本当に開示は進んでいるの?」と感じている方は多いのではないでしょうか。結論から言うと、日本は自然関連の情報開示に名乗りを上げた企業の数で世界最多です。ただし、登録したことと、中身のある開示ができていることは別の話です。

この記事では、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の枠組みと、日本企業の現在地、そして国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が自然関連の開示ルールづくりを進めるなかで、2026年10月の今、企業や読者にできる準備を整理します。

この記事で学べること

  • TNFDが何を求める枠組みで、TCFDとどう違うのか
  • 日本企業の登録数が世界最多とされる背景と、数字の読み方
  • ISSBの動きでTNFDの位置づけがどう変わるのか
  • 就職活動中の方・投資を考える方・企業担当者が今日から確かめられること

TNFDとは何か|気候のTCFDと何が違うのか

最初に前提をそろえます。TNFDは、企業が自然(水、森林、土壌、生物など)との関わりから生じるリスクと機会を把握し、財務情報として開示するための国際的な枠組みです。2023年9月に最終提言が公表されました。

ここで「気候変動のTCFDと同じでしょう?」という疑問が浮かぶかもしれません。基本の骨格は似ています。ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、指標と目標という4つの柱で構成され、TCFDの11項目をベースに合計14の推奨項目が置かれています。違いは、自然には「地域性」があることです。

気候とは違い「どこで」が問われる

二酸化炭素は地球のどこで排出しても大気中で混ざりますが、水不足や森林の減少、生態系の劣化は場所ごとに状況が異なります。そのためTNFDでは、事業や調達先が自然のどの場所に接しているかを確かめる作業が重視されます。

開示の準備に使う「LEAPアプローチ」

TNFDは、開示に向けた手順としてLEAPアプローチを示しています。Locate(自社事業と自然の接点を発見する)、Evaluate(依存と影響を診断する)、Assess(リスクと機会を評価する)、Prepare(開示に向けて準備する)の4段階です。最初の「Locate」で、どの拠点・どの原材料が自然に関わっているのかを洗い出すことが出発点になります。

「環境にいいことをしている」と示す制度ではない

もう1つよくある誤解があります。TNFDは「環境に優しい企業」を認定する制度ではありません。自然が損なわれたときに事業がどれだけ影響を受けるか、また事業が自然にどんな影響を与えているかを、投資家などが判断できる形で説明するための枠組みです。立派な取り組みを並べるだけでは、TNFDの趣旨に沿った開示にはなりません。

日本企業は世界最多|その数字をどう読むか

「日本は世界最多」と聞いても、具体的な数字はあまり知られていません。環境省の資料では、TNFD提言に沿った統合開示を公表予定として登録した企業(TNFDアダプター)は、日本が169社で世界最多と整理されています。また、環境省の別資料では、2025年5月時点で日本企業は160社以上とされています。時点によって数字が動くのは、登録が今も増え続けているためです。

2026年に入ってからの数字も出ています。第三者による分析では、2026年8月29日時点でTNFDのアダプター一覧に載る日本の組織は239で、世界の804組織の約29.7%にあたると報告されています。この数字は公式の集計ではなく個人の分析によるため、目安として受け止めてください。

なぜ日本で広がったのか

TNFDの議長は2025年11月の取材で、日本で広がった理由の1つとして「自然との調和」を事業の考え方としてきたことを挙げています。この見方は議長個人の分析であり、すべてを説明するものではありません。ただ、TCFDに早くから対応してきた企業が多いこと、国が「ネイチャーポジティブ」を成長戦略に位置づけていることも、背景として語られています。

登録は「約束」であって「完成」ではない

ここで冷静に見ておきたいのは、アダプターへの登録は「提言に沿って開示する意思の表明」だという点です。先ほどの分析でも、時価総額上位40社のうち約半数が登録している一方で、定量的な目標や第三者保証まで整っている企業は限られると指摘されています。登録数が多いことと、読者が安心できる開示の質は、分けて考える必要があります。

ISSBの動きでTNFDはどう変わるのか

「TNFDに取り組み始めたのに、ルールが変わってしまうのでは」と不安に思う方もいるでしょう。ここは2026年の最も大きな動きなので、順を追って確認します。

2025年11月|TNFDが技術作業を区切る方針を発表

2025年11月7日、TNFDは進行中の技術作業を2026年第3四半期までに完了させ、新たな技術ガイダンスの作成は一時停止すると発表しました。同時にISSBが、TNFDの提言、指標、ガイダンス(LEAPアプローチを含む)を適宜活用しながら、自然関連の開示要求の策定に進む方針が示されました。

2026年4月|ISSBは「基準」ではなく「実務声明」を提案

2026年4月22日のISSB会合で、自然関連の開示要求は新たな基準ではなく、IFRS実務声明(Practice Statement)の形で提案することが合意されました。この実務声明は、気候関連のIFRS S2や全般要求事項のIFRS S1を変更せず、それを補完する位置づけです。ISSBのファベール議長は「重要性のある自然関連の開示は任意ではなく、IFRS S1がすでに求めている」と述べ、実務声明はその方法を示すものだとしています。公開草案は、生物多様性条約COP17が開かれる2026年10月を目標に公表される予定です。

「今までの取り組みは無駄になる」わけではない

よくある誤解は、「TNFDが一区切りついたのなら、準備した作業は意味がなくなる」という見方です。ISSBはTNFDの枠組みを土台に使う方針を示しているため、LEAPアプローチで自社と自然の接点を洗い出す作業は、そのまま次の開示の下地になると考えられます。ただし、最終的な要求事項は公開草案への意見を経て決まるため、現時点で細部を断定することはできません。

日本の読者は何を確かめればよいのか

制度の話が続いたので、ここからは身近な視点に置き換えます。環境政策の資料を読む機会が多い立場から言うと、TNFDの開示は「読み方を知っているかどうか」で得られる情報量が大きく変わります。

企業の開示を読むときの3つの目印

自然関連の開示を見るとき、次の3点を確認すると、登録の有無より中身が見えやすくなります。

1つ目は、自社の拠点や調達先のうち、どの地域・どの原材料を優先して分析したのかが書かれているかどうかです。2つ目は、自然への依存や影響が、売上やコストにどう結びつくのかが説明されているかどうかです。3つ目は、目標や指標が数字で示されているかどうかです。3点すべてがそろっていなくても、どこまで書けていて何が未整備なのかを正直に書いている開示は、読者にとって信頼しやすいはずです。

国の施策と中小企業にとっての意味

環境省は2024年3月に「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」をまとめ、2025年7月31日には2030年までの道筋を示すロードマップを策定しました。このロードマップは、情報開示の促進とネイチャーファイナンスの拡大を柱の1つに据えています。また、環境省は中堅・中小企業やスタートアップを対象にLEAPアプローチのワークショップを開催し、2024年12月の基礎編には300社を超える参加があったと公表しています。大手企業だけの話ではなく、取引先として情報提供を求められる中小企業にも関わるテーマです。

当メディアならではの整理|立場別の「最初の一歩」

TNFDの話は、読む人の立場で必要な行動が変わります。公開されている解説や企業の開示のあり方から、立場ごとに次のように整理できます。

就職活動中の学生や転職を考えている方は、志望企業のサステナビリティ報告を開き、「自然」「生物多様性」「TNFD」の言葉で検索してみてください。載っているかどうかだけでも、その企業が自然をどの程度経営課題として扱っているかを知る手がかりになります。

投資信託や株式で資産形成をしている方は、保有商品の運用レポートで、自然関連の情報を投資判断にどう使っているかの記載があるかを確認できます。企業の担当者であれば、LEAPアプローチの最初の「Locate」にあたる、拠点と主要原材料の一覧づくりから始めるのが現実的です。

まとめ

TNFDは、企業が自然との関わりから生じるリスクと機会を、財務情報として開示するための枠組みです。日本は登録企業の数で世界最多とされ、環境省の資料では169社、第三者の2026年8月末時点の分析では239組織という数字が示されています。一方で、登録は開示の意思表明であり、中身の充実度とは別に確かめる必要があります。

2026年は、ISSBが自然関連の開示要求をIFRS実務声明の形で整える動きが進み、公開草案はCOP17が開かれる10月に公表される見込みです。TNFDの枠組みは土台として生かされる方針なので、LEAPアプローチで自社の自然との接点を洗い出す作業は、今後の開示にも役立つと考えられます。

今日からできる具体的な1アクションとして、関心のある企業を1社選び、その企業のサステナビリティ報告に「TNFD」「自然」の記載があるかを検索して確かめてみてください。載っていた場合は、先ほどの3つの目印のうち、どれが書かれているかに印をつけるだけで十分です。まず1社だけ試してみてください。

  • TNFDはTCFDと同じ4つの柱を持ち、自然の「地域性」を踏まえて拠点ごとの把握を求める
  • 日本は登録企業数が世界最多だが、登録は意思表明であり開示の質とは分けて読む
  • 2025年11月にTNFDが新たな技術作業を一時停止し、ISSBが枠組みを土台に開示要求を整備する流れが進んでいる
  • ISSBの公開草案は2026年10月のCOP17にあわせて公表される見込みで、最終内容は今後決まる
  • 開示は「対象範囲」「財務との結びつき」「数値目標」の3点で読むと中身が見えやすい

参考文献

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