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SOCIETY

食料安全保障の世界の現状|飢餓6億4,500万人の数字と日本の備え

Photo by MChe Lee on Unsplash

「世界の飢餓人口は減っているらしい。それなのに、なぜ食料危機のニュースはなくならないのか」。そんな引っかかりを覚えている方は多いのではないでしょうか。

結論から言うと、どちらも事実です。国連の最新報告では、飢餓に直面する人は3年連続で減りました。一方で、紛争地域では急性の飢えが深刻なままで、アフリカでは飢餓人口が最多になっています。さらに、栄養のある食事そのものが高くなり、手が届かない人も多く残っています。

この記事では、2026年7月に公表された国連報告書と、2026年8月に農林水産省が公表した最新の食料自給率を軸に、食料安全保障の世界の現状を整理します。あわせて、「数字が減ったから安心なのか」「自給率37%の日本は大丈夫なのか」といった疑問にも順に答えます。

この記事で学べること

  • 食料安全保障の国際的な定義と、日本の法律での定義の違い
  • 2026年版の国連報告書が示す、世界の飢餓・食料不安の最新数字
  • 飢餓人口、食料不安、急性の食料危機という3つの指標の読み分け方
  • 令和7年度の食料自給率37%の意味と、よくある誤解
  • 今日から家庭で試せる、食料を守るための具体的な1アクション

食料安全保障とは何か|「食べ物がある」だけでは足りない理由

「食料安全保障」と聞くと、戦争や災害のときに食べ物が尽きない状態を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際には、もう少し広い意味で使われています。ここでは入口として、国際的な定義と日本の法律上の定義を確認します。

国際的な定義と4つの側面

国連食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障を「すべての人が、いかなる時にも、活動的で健康的な生活を送るために必要な、十分で安全かつ栄養のある食料を、物理的・社会的・経済的に入手できる状況」と説明しています。

ポイントは、食料の量だけを見ていないことです。FAOはこの状態を、食料が物理的に存在するかという「可用性」、経済的・物理的に手が届くかという「アクセス」、食べたものを体が活かせているかという「利用」、そしてそれらが途切れないかという「安定性」の4つの側面で捉えます。

倉庫に穀物が山積みでも、価格が高すぎて買えない人がいれば、その人にとっては食料安全保障が成り立っていません。冒頭の疑問に出てきた「減っているのに危機が続く」という状況は、この4つの側面がそれぞれ別の動きをしていると考えると整理しやすくなります。

日本の法律ではどう書かれているか

日本では、2024年に改正された食料・農業・農村基本法で、食料安全保障が「良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され、かつ、国民一人一人がこれを入手できる状態」と位置づけられました。

国際的な定義と比べると、「合理的な価格」と「国民一人一人」という言葉が明示されている点が目を引きます。国内の生産量や備蓄だけでなく、価格と、一人ひとりが実際に買えるかどうかまでが目標に含まれたということです。

この「手に入るか」という視点は、後で見る世界の数字にもそのままつながります。

世界の現状|飢餓は3年連続で減ったが「良くなった」と言い切れない

では、世界の数字はどうなっているのでしょうか。2026年7月21日に公表された「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2026」の内容を見ていきます。この報告書はFAO、IFAD、UNICEF、WFP、WHOの5つの国連機関が共同で出しています。

飢餓人口は6億4,500万人、3年連続で減少

報告書によると、2025年に飢餓に直面した人は約6億4,500万人で、世界人口の7.8%と推計されています。2024年の8.1%、2022年の8.6%から下がり、FAOの発表では2024年より約1,400万人、2022年より約4,300万人少ない水準です。

また、中程度または深刻な食料不安を経験した人は約21億人(世界人口の25.8%)で、2024年の27.1%、2020年の28.7%から低下しました。ここでいう食料不安とは、食べ物を十分に確保できるか分からず、量や質を減らさざるを得ない状況を指します。

数字は確かに改善しています。ただし、同じ報告書は、現在の流れのままでは2030年にも約5億2,000万人が飢餓に直面すると見込まれ、持続可能な開発目標(SDGs)のゴール2「飢餓をゼロに」の達成軌道から外れていると指摘しています。

アフリカが最多の地域に、地域差は大きい

地域別に見ると、2025年の飢餓人口はアフリカが約3億900万人、アジアが約2億9,200万人、ラテンアメリカ・カリブ海地域が約3,200万人でした。報告では、アフリカが飢餓人口の最も多い地域になったとされています。

中程度または深刻な食料不安の割合でも差は歴然としています。アフリカは56.6%、ラテンアメリカ・カリブ海地域は22.9%、アジアは20.3%で、北米・欧州は8.7%でした。

一方で、改善が大きかったのは南米とアジア、とくに南アジアだとFAOは述べています。「世界全体では良くなっている」という平均値の裏側で、地域ごとに全く違う景色が広がっているわけです。

栄養のある食事に手が届かない人は26億9,000万人

もう一つ見落とせないのが、食事の中身の問題です。報告書は、健康的な食事を購入できない人が2025年に約26億9,000万人(世界人口の32.7%)いると推計しています。2021年の約29億7,000万人(37.4%)からは減りましたが、世界の約3人に1人という規模です。

健康的な食事の費用は、購買力平価で1人1日あたり2017年に2.94ドル、2021年に3.44ドル、2025年に4.28ドルと上がり続けています。アフリカでは人口の66.6%が健康的な食事に手が届かないとされています。

FAOは、費用が高止まりする背景として、インフラの不足、低温物流(コールドチェーン)の弱さ、不安定なエネルギー供給などを挙げています。「食料が足りない」だけでなく「栄養のある食料を安く届ける仕組みが弱い」ことが、飢餓とは別の形の食料不安を生んでいるということです。5歳未満で発育阻害の状態にある子どもは、約1億5,000万人にのぼります。

急性の食料危機|紛争地域で続く深刻な状況

ここまでの数字は、年単位で見た「慢性的な」飢餓や食料不安でした。これとは別に、紛争や災害によって短期間で命にかかわる水準まで悪化する「急性の食料不安」を追う報告書があります。「世界食料危機報告書(GRFC)2026」です。

2億6,600万人が急性の食料不安に

GRFC 2026によると、2025年に急性の食料不安に直面した人は47の国と地域で約2億6,600万人(分析対象人口の22.9%)でした。2020年には55の国と地域で約1億3,500万人だったので、5年間で大きく増えています。報告は、急性の飢えがこの10年で倍増したことも伝えています。

栄養面では、23の「栄養危機国」で約3,550万人の子どもが急性栄養不良の状態にあると推計されています。また、2025年には飢饉(ききん)の宣言が複数あったと報告されています。

「減った」とは言い切れない注意書き

2023年のピークは約2億8,200万人でした。2025年の約2億6,600万人はそれより少ないものの、報告書自身が、この減少の一部は分析対象の国が減ったことによるもので、実際の改善とは言い切れないと注意を促しています。

報道では主な要因として紛争が挙げられています。SOFIが示す「世界全体では改善している」という流れと、GRFCが示す「危機が特定の国に集中し、深刻さが続いている」という流れは、矛盾ではなく、同じ世界の別の断面です。

数字の読み方|3つの指標を混ぜないための整理

ここで、私がESG開示の取材で数字を扱うときに気をつけていることを、食料の話に置き換えて共有します。環境や社会の統計は、似た名前の指標が多く、混ぜて読むと結論を誤りやすいのです。ここまでに出てきた数字を、公開されている資料の範囲で3つに整理します。

飢餓人口は「慢性的にカロリーが足りない人」

SOFIの飢餓人口(約6億4,500万人)は、長期間にわたり、活動的な生活に必要なエネルギーを食事から得られていない人の推計です。国ごとの食料供給や所得分布などから統計的に推計する値なので、毎年の増減は幅を持って読む必要があります。

食料不安は「確保できるか分からない人」

中程度または深刻な食料不安(約21億人)は、調査で「お金や資源が足りず、食べ物を減らした経験があるか」などを尋ねて測る指標です。飢餓人口よりも対象が広く、先進国の一部の層も含まれます。数字が大きいのは、対象の定義が広いからです。

急性の食料不安は「いま緊急支援が要る人」

GRFCの約2億6,600万人は、緊急の食料支援が必要な水準まで悪化した人の数です。分析した国の数が毎年変わるため、年ごとの単純比較には限界があります。

この3つは、物差しも対象も違います。「飢餓人口が6億人台」と「食料不安が21億人」と「急性が2億人台」を並べて足したり、どれかを「世界の本当の数字」と決めたりしないことが、誤読を防ぐ最初の一歩です。記事や資料で数字を見かけたら、どの指標かを確かめてみてください。

日本の私たちに関係あるのか|食料自給率37%をどう読むか

「飢餓は遠い国の話で、日本は豊かだから関係ない」と感じる方もいるでしょう。ただ、日本の食卓は、世界の食料市場と切り離せません。

令和7年度の食料自給率は37%

農林水産省が2026年8月7日に公表した令和7年度の食料自給率は、カロリーベースで37%で、前年度から1ポイント下がりました。国産の供給熱量が減ったことが理由で、とくに米の消費量の減少と、民間在庫量の増加が影響したと説明されています。

生産額ベースでは66%で、前年度から2ポイント上がりました。米や畜産物の国内価格が上がり、国内の生産額が増えたためです。同じ年度の数字でも、見る指標によって方向が逆になる点には注意が必要です。

昨年度から併せて公表されている「摂取熱量ベース」の食料自給率は45%で、こちらは前年度から1ポイントの低下でした。平時に国民が実際に摂取する熱量のうち、国内で賄えている割合を示す指標です。

「自給率が低い=すぐ食べられなくなる」は誤解?

自給率が低いと聞くと、「輸入が止まったら明日から食べ物がなくなる」と不安になるかもしれません。ここは少し冷静に見たいところです。

自給率は、あくまで平時に国内の供給のうち国産がどれだけを占めるかという割合を示す指標です。輸入先が分散していれば、特定の国の不作や輸出規制の影響を和らげられます。一方で、国産の農産物であっても、肥料の原料や家畜の飼料の多くを輸入に頼っているため、国際価格や為替の変動が国内の食料価格に響きます。数字の低さだけでなく、輸入先の分散、備蓄、国内の生産基盤を合わせて見るのが現実的です。

先ほどの法律の定義にあった「合理的な価格」「一人一人が入手できる」という視点で見れば、日本にとっての課題は、量よりも価格と調達の安定にあると言えます。

企業の開示にも出てくる食料のリスク

食品メーカーや小売業の統合報告書やサステナビリティ報告書を読むと、原料調達の安定性を気候変動や人権、水資源と並ぶ重要課題として挙げる企業が増えているように見えます。不作や価格高騰、調達先の労働環境といった論点が、非財務情報として語られるようになっているのです。

食料安全保障は、国や国際機関だけの話ではなく、企業の原料調達と、私たちが日々選ぶ商品のなかにも入り込んでいます。

今日からできる1アクション|冷蔵庫と棚の「回す備蓄」を点検する

世界の数字を前に、個人にできることは小さく感じられます。それでも、食料を守るために家庭で今日から試せることが一つあります。

主食と常温で置ける食品を1つ決めて、食べながら補充する

おすすめするのは、ローリングストック(普段食べる食品を少し多めに買い置きし、古いものから食べて、食べた分を買い足す方法)の点検です。農林水産省が家庭備蓄の方法として紹介している考え方で、特別な非常食を買う必要はありません。

まず、パスタ、レトルト食品、缶詰、乾麺など、ふだん食べている常温保存の食品を1つ選びます。次に、賞味期限が近い順に前へ並べ直してください。最後に、食べた分を次の買い物で1つ補充します。ここまでが一連の流れです。

買い足すときに産地ラベルを1回だけ見る

あわせて、買い足すときに産地表示を1回だけ見てみてください。新米が店頭に並ぶこの時期なら、米の産地や価格を見比べるだけでも十分です。「何がどこから来ているか」を知ることが、食料の安定供給を自分の生活の問題として捉える最初の入口になります。

大きなことを始める必要はありません。まずは棚を開けて、期限の近いものを前に出す。それだけを今日試してみてください。

まとめ

世界の飢餓は、2026年報告で3年連続の減少となりました。約6億4,500万人という規模は依然として大きく、アフリカでは飢餓人口が最多になっています。栄養のある食事に手が届かない人も、世界で約26億9,000万人と推計されています。

急性の食料危機は紛争地域に集中しており、報告書が示すとおり、改善の一部は見かけ上のものである可能性があります。飢餓人口、食料不安、急性の食料不安は別の物差しなので、混ぜずに読み分けることが大切です。

日本では、令和7年度のカロリーベースの食料自給率が37%でした。ただ、数字の低さだけに注目せず、価格、調達の分散、国内の生産基盤という視点で見る必要があります。まずは家庭の備蓄を1つ点検することから、食料との距離を縮めてみてください。

  • 2025年の世界の飢餓人口は約6億4,500万人(7.8%)で、3年連続で減少したが、2030年には約5億2,000万人が見込まれ目標達成は遠い
  • アフリカは飢餓人口が最多の地域となり、健康的な食事に手が届かない人は世界で約26億9,000万人にのぼる
  • 飢餓人口・食料不安・急性の食料不安は別の指標なので、混ぜずに読み分ける
  • 令和7年度の食料自給率はカロリーベースで37%、生産額ベースで66%、指標で方向が違う
  • 今日は常温保存の食品を1つ選び、古いものを前に出して、食べた分を補充する

参考文献

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