地球の気候問題というと、多くの人は「地球温暖化」を思い浮かべます。しかし、人間が出す二酸化炭素がもたらす影響は、大気だけに留まりません。
海洋酸性化とは、主に大気中において以前よりも濃度が上昇した二酸化炭素が、より多く海洋へと溶け込んだことによって引き起こされる、海水のpH低下のことです。この現象は「もうひとつの二酸化炭素問題」とも呼ばれており、私たちの生活に大きな影響を及ぼす危機的な環境問題として注目を集めています。
海洋酸性化のメカニズム|なぜ海は酸性になるのか
そもそも海はどのような性質を持つのでしょうか。
海水中のpHは一般的に弱アルカリ性を示し、表面海水中での約8.1です。pH(水素イオン指数)という指標でいえば、7以下が酸性、7が中性、7以上がアルカリ性ですから、海は本来かなりアルカリ性寄りなのです。
ところが、大気中の二酸化炭素が増え、それが海に溶け込むと何が起こるのでしょう。
二酸化炭素が水に溶けると炭酸になります。そのため、弱アルカリ性の海水を少しずつ中和し、海水をpHが相対的に低い中性方向に「酸性化」させているのです。つまり、海は「酸っぱくなっている」わけではなく、「アルカリ性が弱まっている」という表現が正確です。
産業革命以降200年以上にわたって、化石燃料の燃焼により大気中の二酸化炭素濃度は増加し続けています。その結果、海も着実に酸性化が進んでいます。
黒潮の南の亜熱帯域では、表面海水のpHが10年間におよそ0.018のペースで下がっています。小さな数字に見えるかもしれませんが、産業革命前の海と比べると、表面海水のpHは、すでにおよそ0.1下がったと考えられ、これは、水素イオン濃度がおよそ25%増えたことを意味します。
海洋酸性化が生き物に与える影響
海洋酸性化は海の生態系に深刻な影響をもたらします。もっとも大きな被害を受けるのは、殻や骨格を持つ生き物たちです。
サンゴや貝などの石灰化生物においては、炭酸カルシウムが作りにくくなり成長が阻害されます。
実際に酸性に近い水槽の中でサンゴの石灰化の速度を4年間観察した実験によると、正常な弱アルカリ性の海洋環境にある場合と比較すると約40%も石灰化の速度が遅くなるという結果が出ました。
サンゴだけではありません。
ウニ、エビやカニなどの甲殻類、ホタテ・牡蠣などの貝類、植物性プランクトン、動物性プランクトンなどが海洋酸性化によって大きな影響を受けます。さらに、クジラなどの多くの海洋生物の餌であり、生物ポンプに関わる生物であるナンキョクオキアミは、pH7.7より酸性化すると卵の孵化率が激減します。
これらの影響は食物連鎖全体に波及します。
海の食物連鎖の土台とも言われるプランクトン種が絶滅したときに影響を受けるのは、海洋生物種だけに留まりません。この食物連鎖の乱れにより私たちの食料源の1つが深刻な影響を受け、人々は収入と生計手段を失うとともに食料不安を経験する可能性があります。
今後の予測|このままではどうなるのか
もし現在のペースで二酸化炭素排出が続くと、どのような未来が待っているのでしょう。
IPCC第6次評価報告書によると、人間活動で排出された大気中の二酸化炭素を海洋が吸収することにより、全球平均の海洋表面pHは、今世紀末には19世紀終盤に比べ0.16~0.44低下すると予測されています。これは、進行速度がさらに加速する可能性を示唆しています。
対策|私たちにできることは
海洋酸性化を防ぐには、結局のところ大気中の二酸化炭素排出を減らすしかありません。そのため、国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)では、目標14「海の豊かさを守ろう」の中で、海洋酸性化の抑止を重要な目標の一つに挙げています。
私たちが取れるアクションは多くあります。再生可能エネルギーの利用、省エネ行動、持続可能な食材の選択など、日常の小さな工夫が二酸化炭素削減に繋がります。また、海の生態系を守る活動(沿岸部の清掃、サンゴ礁保全プロジェクトへの支援など)も重要です。一人ひとりの行動が、地球の海を守る力になるのです。

