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ENVIRONMENT

自然資本(ナチュラルキャピタル)とは?企業経営に与える影響をわかりやすく解説

自然資本(ナチュラルキャピタル)とは?企業経営に与える影響をわかりやすく解説

私たちの生活や企業活動は、森林、水、土壌、大気など自然の恵みに支えられています。近年、これらの自然を経済活動の基盤となる「資本」として捉える「自然資本」という考え方が注目を集めています。企業にとって自然資本の理解と適切な管理は、持続可能な経営を実現するために欠かせない要素となっています。

この記事で学べるポイント

  • 自然資本の基本概念と生態系サービスとの関係
  • 企業活動が自然資本に依存し影響を与える仕組み
  • 自然資本を企業経営に活かすための具体的な取り組み方法

自然資本(ナチュラルキャピタル)とは何か

自然資本(ナチュラルキャピタル)とは何か

自然資本とは、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本のことです。これらは人間の生活や企業の経済活動を支える重要な基盤として機能しています。

従来、自然環境は「無料で使える資源」として扱われてきました。しかし、地球温暖化や生物多様性の損失が深刻化する中で、自然を経済学における「資本」として位置づけ、その価値を適切に評価する必要性が高まっています。

自然資本の基本的な定義

自然資本は、経済学の資本概念を自然に拡張したものです。具体的には「未来にわたって価値のある商品やサービスを生み出すストック」として定義されます。

山、森林、海、川、大気、土壌といった自然要素に加え、動植物などの生物も含まれます。これらの自然資本から生み出される経済的価値は、年間約33兆ドルと推計されており、人間が作り出す経済活動の総額を大きく上回っています。

生態系サービスとの違い

自然資本と混同されやすい概念に「生態系サービス」があります。両者の違いを理解することが重要です。

自然資本は「ストック」であり、森林や魚群そのものを指します。一方、生態系サービスは「フロー」であり、森林から得られる木材や魚群から得られる食料など、自然資本から継続的に生み出される便益を意味します。

例えば、森林という自然資本からは、木材供給、二酸化炭素吸収、水質浄化、レクリエーション機能などの生態系サービスが提供されます。

自然資本が企業活動に与える影響

自然資本が企業活動に与える影響

企業活動は例外なく自然資本に依存し、同時に自然資本に影響を与えています。この相互関係を理解することは、企業の持続可能な成長にとって不可欠です。

自然資本の劣化は企業にとって重大なリスクとなる一方で、適切な保全・活用は新たなビジネス機会を創出する可能性も秘めています。

企業が自然資本に依存する仕組み

あらゆる業種の企業が、何らかの形で自然資本に依存しています。製造業では原材料として鉱物や植物資源を使用し、サービス業でも清潔な水や安定した気候条件が事業継続に必要です。

食品製造業を例に取ると、農作物の栽培には肥沃な土壌、清浄な水、適切な気候が不可欠です。観光業では美しい自然景観が集客の核となり、建設業では木材や石材などの天然資源が建材として活用されています。

このように、企業は直接的・間接的に自然資本の恩恵を受けながら事業を営んでいるのです。

自然資本の劣化が引き起こすリスク

自然資本の劣化は、企業に深刻な経営リスクをもたらします。気候変動による異常気象は農作物の収穫量を減少させ、原材料価格の高騰や供給不安定を引き起こします。

水資源の枯渇は製造業の生産活動を停止させる可能性があり、生物多様性の損失は医薬品開発における新たな有効成分の発見を困難にします。

実際に、キリンホールディングスは主力商品「午後の紅茶」について、スリランカ産茶葉が持続可能に使用できなくなった場合の商品コンセプト成立困難をリスクとして認識し、持続可能な農園認証取得支援を対応戦略として実施しています。

自然資本を評価・管理するための取り組み

自然資本を評価・管理するための取り組み

自然資本の重要性が認識される中で、企業が自然資本を適切に評価・管理するための国際的な枠組みが整備されています。これらの取り組みは、企業の経営判断に自然資本の観点を組み込むことを目的としています。

自然資本プロトコルとは

自然資本プロトコルは、2016年7月に自然資本コアリション(本部:イギリス)によって発表された、企業が自然資本への影響と依存度を評価し経営判断に活かすための標準化された枠組みです。

このプロトコルは「フレーム」「スコープ」「計測と価値評価」「適用」という4つのステージと9つのステップから構成されています。企業は自社の事業活動が自然資本にどのような影響を与え、どの程度依存しているかを体系的に分析できます。

具体的には、企業の事業内容と自然資本との関連性を明確にし、影響や依存度を定量化します。その結果を基に、自然資本に関するリスクと機会を特定し、経営戦略に反映させることが可能になります。

あらゆる業種やサイズの企業で活用できる汎用性の高いフレームワークとなっており、世界中の企業で導入が進んでいます。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の役割

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)は、2021年6月に国連環境計画などが中心となって発足した国際的な組織です。企業の自然関連の依存・影響とそこから生じるリスク・機会について、統一された枠組みでの情報開示を推進しています。

2023年9月に公表されたTNFD提言では、企業に対して自然資本に関する「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の開示を求めています。これは気候変動分野のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と同様の4本柱の構造を採用しています。

TNFDでは、企業が自社事業と自然の依存・影響関係を明らかにするための「LEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare)」アプローチが示されており、体系的な分析が可能です。

現在は法的拘束力はありませんが、今後TCFDと同様に各国政府や金融市場での義務化が進む可能性が高く、多くの企業が対応準備を進めています。

日本企業の自然資本への取り組み事例

日本企業の自然資本への取り組み事例

日本でも多くの企業が自然資本の重要性を認識し、具体的な取り組みを開始しています。先進的な企業の事例は、他社にとっても参考となる貴重な知見を提供しています。

製造業・金融業の先進事例

三井物産は2025年3月にTNFD開示提言への賛同を表明し、「TNFD Adopter」に登録しました。同社では事業活動による自然関連の依存とインパクトについて、ヒートマップ形式で網羅的に評価・整理を実施しています。

また、新規投融資案件の環境・社会リスク審査プロセスに自然資本観点での基準を追加し、水リスクや生物多様性の観点から重要度の高い地域をデータベース化したリスクマップを社内公開しています。

キリンホールディングスは世界に先駆けてTNFD開示を実施し、主力商品「午後の紅茶」を事例として自然資本への依存・影響分析を行いました。スリランカ産茶葉への依存度の高さを特定し、持続可能な農園認証取得支援を対応戦略として展開しています。

積水ハウスの「5本の樹」計画では、地域の在来樹種を活用した庭づくり・まちづくりを通じて、顧客に「住まいの中の小さな自然」という付加価値を提供し、地域の生物多様性保全にも貢献しています。

投資・融資における自然資本の考慮

金融機関では、投資・融資判断に自然資本の観点を組み込む動きが活発化しています。三井住友信託銀行は2013年に「自然資本評価型環境格付融資」を開始し、企業の自然資本への影響や取り組みを評価して融資条件に反映させています。

みずほフィナンシャルグループは、自然資本・生物多様性の保全を重要な経営課題として位置づけ、ネイチャーポジティブな経済への資金流れの転換を目指しています。投融資先企業の自然資本への影響評価を実施し、持続可能なビジネスモデルへの移行を支援しています。

MS&ADホールディングスは、TNFD発足当初からタスクフォースメンバーとして参画し、グローバルな開示枠組みの開発・普及に貢献しています。また、「TNFD日本協議会」の招集者として、国内企業のTNFD理解促進に取り組んでいます。

これらの取り組みにより、日本企業の自然資本に対する意識向上と具体的なアクションが促進されています。

自然資本の課題と今後の展望

自然資本の課題と今後の展望

自然資本の概念が広まる一方で、企業が実際に取り組みを進める上ではさまざまな課題が存在します。これらの課題を克服し、ネイチャーポジティブな社会を実現するための道筋を理解することが重要です。

企業が直面する課題

自然資本の評価・管理において、企業が直面する最大の課題は「定量化の困難さ」です。気候変動対策では二酸化炭素排出量という明確な指標がありますが、自然資本では水使用量、土地利用面積、生物多様性への影響など多様な要素を総合的に評価する必要があります。

また、自然資本への影響は地域性が強く、同じ事業活動でも実施される場所によって環境への影響度が大きく異なります。企業はグローバルに展開する事業について、地域ごとの自然環境の特性を把握し、それぞれに適した対策を講じる必要があります。

さらに、自然資本の取り組みは短期的な経済効果が見えにくく、株主や投資家への説明が困難な場合があります。しかし、中長期的には事業継続に不可欠な要素であることから、ステークホルダーの理解促進が重要な課題となっています。

データの収集・分析体制の整備も大きな課題です。サプライチェーン全体の自然資本への影響を把握するには、取引先企業との連携が不可欠ですが、中小企業を含む幅広いサプライヤーからのデータ収集は容易ではありません。

ネイチャーポジティブ実現への道筋

2022年12月のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2030年までに「ネイチャーポジティブ」を実現することが目標として掲げられました。ネイチャーポジティブとは、自然の損失を止めて回復軌道に乗せることを意味します。

この目標達成には、企業の積極的な参画が不可欠です。企業は自然資本への依存度とインパクトを正確に把握し、負の影響を最小化しながら正の影響を最大化する戦略を策定する必要があります。

技術革新も重要な要素です。人工知能やリモートセンシング技術を活用した生態系モニタリング、バイオテクノロジーを用いた持続可能な代替材料の開発など、イノベーションによって自然資本の保全と経済活動の両立が可能になります。

金融市場の役割も拡大しています。ESG投資の観点から自然資本を重視する投資家が増加しており、企業の自然資本への取り組みが資金調達コストや企業価値に直接影響するようになっています。

国際協力の推進も欠かせません。自然資本は国境を越えて存在するため、各国政府、国際機関、企業、NGOが連携して取り組みを進めることが求められています。

まとめ

まとめ

自然資本は、企業の持続可能な成長を支える重要な基盤として認識が高まっています。森林、水、土壌、大気などの自然環境を「資本」として適切に評価・管理することで、企業はリスクの軽減と新たなビジネス機会の創出を同時に実現できます。

自然資本プロトコルやTNFDといった国際的な枠組みの整備により、企業が体系的に自然資本に取り組むための道筋が明確になりました。日本企業でも先進的な取り組みが始まっており、今後さらなる拡大が期待されます。

2030年のネイチャーポジティブ実現に向けて、企業には自然資本への依存と影響を正確に把握し、持続可能なビジネスモデルへの転換を図ることが求められています。この取り組みは環境保全にとどまらず、企業価値の向上と競争優位性の確保にもつながる重要な経営戦略といえるでしょう。

参照元
・コンサベーション・インターナショナル・ジャパン https://www.conservation.org/japan/initiatives/natural-capital

・環境省 平成26年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/zu/h26/html/hj14010304.html

・三井物産株式会社 https://www.mitsui.com/jp/ja/sustainability/environment/natural_capital/index.html

・三菱総合研究所 https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20231124.html

・みずほフィナンシャルグループ https://www.mizuho-fg.co.jp/sustainability/environment/biodiversity/index.html

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