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「流域」で水を守る時代へ|老朽化する水インフラと、日本が描く水循環の未来

「流域」で水を守る時代へ|老朽化する水インフラと、日本が描く水循環の未来

「水は豊富な国」と思われがちな日本ですが、その実態は思いのほか脆弱です。上下水道のパイプは各地で老朽化が進み、渇水は毎年のように各地を直撃しています。一方、国際社会では2026年12月に国連水会議が控え、水をめぐる議論はかつてない高まりを見せています。今、「水をどう守るか」は地域づくりそのものを問い直す課題になっています。

日本は「水が豊富な国」ではない

日本の年間平均降水量は世界平均を大きく上回ります。しかし視点を変えると、景色は一変します。

国土交通省が公表した令和7年版「日本の水資源の現況」によると、日本の年間平均降水量は世界平均を上回る一方、人口一人当たりでみると水資源量は世界平均を下回っています。

その背景には地形的な制約があります。
日本の地形は急な場所が多くて河川が短く、梅雨期や台風期に雨が集中して降るため、降水量の多くが洪水として一気に流れ出してしまいます。そのため、少雨の年には使うことができる水の量がさらに少なくなり、全国各地でしばしば渇水が起きています。

こうした渇水リスクは遠い話ではなく、日本の「今」の問題です。国土交通省は渇水の状況に応じて渇水情報連絡室や渇水対策本部を設置し、各地方整備局と連携した対応にあたっています。

さらに、日本の首都圏だけを見ると、一人当たりの水資源賦存量は北アフリカや中東諸国と同程度の値となっており、限られた水資源を有効に利用する取り組みが必要です。
「蛇口をひねれば水が出る」という日常の感覚が、実は紙一重のバランスの上に成り立っているのです。

上下水道インフラの老朽化という「静かな危機」

水を届けるインフラ自体も、深刻な課題を抱えています。
世界的に見ると、水道システムへの慢性的な投資不足により、都市部では処理済みの水の相当量が漏水によって失われているとされています。

日本も例外ではありません。高度経済成長期に整備された水道管の多くが更新時期を迎えており、老朽化した管路の更新が全国的な課題となっています。人口減少による料金収入の減少も重なり、中小の自治体ほど財政的に厳しい状況に置かれています。

こうした状況に対応するため、令和6年8月30日、政府は新たな「水循環基本計画」を閣議決定しました。この計画では、「施設等再編や官民連携による上下水道一体での最適で持続可能な上下水道への再構築」を重点事項の一つに掲げています。

上下水道の一体的な管理は、縦割り行政の壁を超えて水インフラを効率化しようとする試みです。人口減少が続く地域では、複数の自治体が広域で連携しながらインフラを維持していく方向性も模索されています。

「流域」という視点が変えること

新たな水循環基本計画で特に注目されるのが、「流域総合水管理」という考え方です。
計画では「健全な水循環に向けた流域総合水管理の展開」が重点項目として位置づけられており、流域連携の推進など、流域を総合的かつ一体的に管理する枠組みが目指されています。

「流域」とは、ひとつの河川に雨水が流れ込む地理的なまとまりです。上流の森林が水を蓄え、その水が川を下り、農地を潤し、都市の水道に届き、海へ返る——この一連の流れを分断せず、流域全体でつながったものとして管理していこうという発想です。

水源林の土は落ち葉や枯れ枝が積もってスポンジのような状態になっており、降った雨が地中にゆっくりと浸み込む間に浄化されて地下水となり、少しずつ川に湧き出します。
森林の保全が、都市部の水質と水量を左右するということでもあります。流域管理は、上流の山村と下流の都市がひとつの「水のチーム」として連携することを促しています。

また、計画では「2050年カーボンニュートラル等に向けた地球温暖化対策の推進」も重点内容として盛り込まれており、水循環の健全化と気候変動対策を一体的に進める姿勢が示されています。
気候変動は豪雨・渇水の両極端を引き起こすため、水インフラと気候政策は切っても切れない関係にあります。

世界の水をめぐる動き|2026年国連水会議に向けて

国際社会でも、水問題への関心が高まっています。
国連の報告等では、世界で多くの人々が安全な飲料水へのアクセスを欠いており、水不足の影響が広がっているとされています。また、気候変動の影響により、淡水への負荷は今後さらに高まると予測されています。

こうした状況を受け、2026年12月には国連水会議が開催される予定とされており、SDGsの達成期限である2030年まで残り5年を切った時点での重要な国際的節目と位置づけられています。
2023年の国連水会議では「水行動アジェンダ」に多数のコミットメントが盛り込まれましたが、2026年の会議ではその実行状況を検証しつつ、さらなる行動を呼びかけることが期待されています。

一方、資金面での課題も浮き彫りになっています。
給水と衛生分野に向けられた公式開発援助(ODA)の水準は、ODA全体の中で依然低いとされており、水は人権でありながら、投資の優先度はまだ十分とはいえない状況という見方があります。

私たちにできること

水問題は、政策や国際会議だけで解決するものではありません。私たちの日常の使い方も、水循環の一部を担っています。節水やグリーンインフラへの関心、地域の水源を守る森林保全活動への参加——身近なところから「流域の一員」として水を考える視点が、これからの時代に求められています。

「流域で水を守る」という考え方は、山村と都市、農業と工業、今の世代と次の世代をつなぎ直す視点でもあります。新たな水循環基本計画が動き出し、2026年の国連水会議に向けた機運が高まる今、水の問題を「誰かに任せる話」から「自分たちの話」として受け取り直すことが、持続可能な社会への第一歩になるはずです。

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