公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
ENVIRONMENT

「流域」で水を守る時代へ|老朽化する水インフラと、日本が描く水循環の未来

「流域」で水を守る時代へ|老朽化する水インフラと、日本が描く水循環の未来

蛇口をひねれば水が出る日常は、「流域」という単位で水を守る仕組みと、老朽化した水インフラの更新の上に成り立っています。日本は雨の多い国ですが、人口一人あたりで見た水資源は豊富とはいえません。そこへ水道管や下水道管の老朽化、毎年のような渇水、地震による断水が重なり、国は水循環基本計画で「流域総合水管理」という考え方を前面に出しました。12月にはアブダビで国連水会議も開かれます。この記事では、日本の水の実像と、上流と下流がつながって水を守る各地の実践、そして生活者が次にとれる行動を整理します。

この記事で学べること

  • 日本が「水の豊富な国」といえない理由と、2025年夏の渇水で起きたこと
  • 八潮市の道路陥没や能登半島地震が、水インフラの何を問い直したのか
  • 「流域総合水管理」とは何かと、国の新しい水循環基本計画の中身
  • 東京都・横浜市・宮城県など、上流と下流や官民がつながる実践例
  • 12月の国連水会議の位置づけと、自分の暮らしから始められる行動

「水が豊富な国」という思い込みと、日本の水の実像

日本では降水量そのものは世界の平均を上回ります。それでも「水に困らない国」と言い切れないのは、雨の降り方と人口の多さが重なっているからです。

降水量は多いのに、一人あたりの水は少ない

国土交通省の資料によると、日本の一人あたり年降水総量は約5,000立方メートルで、世界の約4分の1程度にとどまるとされています(令和3年版の「日本の水資源の現況」を引用した同省関東地方整備局の説明)。国土が狭く人口が多いため、降った雨を人数で割ると、思ったほど手元に残らないのです。

さらに日本は川が短く急流で、梅雨や台風の時期に雨が集中します。降った雨の多くは洪水となって一気に海へ流れ出し、ためて使える量は限られます。同じ資料では、関東臨海や近畿臨海、北九州、沖縄などの地域で、一人あたりの水資源量が全国値より小さいことも示されています。

渇水は毎年どこかで起きている

渇水は過去の話ではありません。2025年の夏は高温少雨が続き、7月末の時点で国土交通省や水資源機構が管理するダムのうち33か所で、貯水率が平年を下回りました。国土交通省のまとめでは、15水系19河川で取水制限など渇水への特別な態勢がとられ、同省は2017年以来8年ぶりに渇水対策本部を設置しています。

東北では岩手県の御所ダムと宮城県の鳴子ダムの貯水率が0%になり、時間を区切って農地に水を引く「番水」が行われたと報じられました。四国の吉野川水系では早明浦ダムの貯水率が下がり、農業用水・工業用水・上水のすべてで取水制限が示されています。

農業用水から先に影響が出るという点は、見落とされがちです。蛇口の水が止まる前に、田畑や工場で水のやりくりが始まっています。「家の水道は大丈夫」という感覚の裏側で、水をめぐる調整はすでに進んでいるのです。

老朽化する水インフラという静かな危機

水を届け、使い終えた水を戻すインフラそのものにも、課題が積み重なっています。高度経済成長期に集中的に整備された水道管や下水道管が、一斉に更新の時期を迎えているためです。

更新が追いつかない水道管

水道管の法定耐用年数は40年です。これを超えた管路は全国で増え続けており、更新のペースが追いついていないことが、国の研究機関などから繰り返し指摘されています。人口が減れば水道料金の収入も細り、とくに小規模な自治体では、更新費用をどう工面するかが切実な問題になっています。

制度面では、2024年4月に水道整備・管理の行政が厚生労働省から国土交通省と環境省へ移りました。水質に関わる業務は環境省、水道事業の整備や管理は国土交通省が担います。下水道を所管していた国土交通省に水道も加わり、上下水道を一体で考える体制が整いました。

八潮市の道路陥没が突きつけたもの

2025年1月28日、埼玉県八潮市で、流域下水道管の破損に起因すると考えられる道路陥没が起き、トラックが巻き込まれました。一時は約120万人に、洗濯や入浴といった下水道の使用を控えるよう求める事態となりました。

この事故を受けて国土交通省は、全国の下水道管理者に特別な重点調査を要請しました。同省の白書によると、下水道に起因する道路陥没は2022年度に全国で約2,600件起きています。「見えない場所の管」が壊れると、水の問題が交通や暮らし全体の問題に広がることを示した出来事でした。

能登半島地震が示した耐震化の差

2024年1月1日の能登半島地震では、約13.6万戸が断水し、建物倒壊地域などを除いても最大で約5か月にわたって断水が続いた地域がありました。国の資料では、耐震化されていた施設では概ね機能が保たれた一方、耐震化が進んでいなかった基幹施設で被害が出て、広範囲の断水と復旧の長期化につながったと整理されています。

水インフラの老朽化は、単に「古いから壊れる」という話にとどまりません。災害のときにどこまで水を届け続けられるかという、地域の強さに直結します。

「流域」で水を管理するという発想|新しい水循環基本計画

こうした課題に対し、政府は2024年8月30日に、新しい水循環基本計画を閣議決定しました。水循環基本計画は水循環基本法に基づく計画で、おおむね5年ごとに見直されます。今回は、気候変動の影響や能登半島地震の教訓を踏まえた改定です。

重点的に進める事項は4つあります。流域総合水管理の展開、上下水道の再構築、2050年カーボンニュートラルなど地球温暖化対策、そして水供給の代替性・多重性の確保です。中でも名前に「流域」が入った流域総合水管理は、これまでの水行政の見方を変える考え方です。

流域とは何か、流域総合水管理とは何か

流域とは、ある川に雨水が集まる範囲のことです。山に降った雨が森にしみこみ、川を下り、農地や街を潤して海へ向かいます。この流れは、市町村や都道府県の境界とは一致しません。上流の山村と下流の都市が、同じ流域に属しながら別々の行政区に分かれているのが普通です。

国土交通白書では、流域総合水管理を「流域の関係者が協働し、水災害による被害の最小化、水の恵みの最大化、水でつながる豊かな環境の最大化を目指す取組」と説明しています。洪水対策、水の利用、生態系の保全をばらばらに進めるのではなく、流域全体で一つの目標として扱おうという発想です。

「流域水循環計画」はすでに各地で動いている

流域単位の取り組みは、計画段階にとどまっていません。国土交通白書によると、地域が策定して国が公表する「流域水循環計画」は、2024年度に10計画が加わり、2025年3月時点で合計84計画になりました。

読者にとって大切なのは、自分の住む地域もどこかの流域に属していて、その水を守る計画がすでにあるかもしれないという点です。内閣官房の水循環政策本部事務局や自治体のサイトで、居住地の流域の計画を探すことができます。

上流と下流をつなぐ実践|日本各地の取り組み

流域で水を守るとは、具体的にはどういうことなのでしょうか。国内には、上流と下流、行政と民間が結びついた実践がすでにあります。ここでは、立場の異なる3つの事例を紹介します。

東京都|山梨県にまたがる水道水源林の管理

東京都水道局は、多摩川の上流にあたる東京都と山梨県にまたがる2万ヘクタールを超える森林を、水道水源林として管理しています。森の土が雨をゆっくりと地中にしみこませ、川の流量を安定させる働きを守るためです。企業が協定を結んで保全作業に参加する制度や、協賛金を募る仕組みもあります。

横浜市|山梨県道志村の水源林と企業の寄附

横浜市水道局は、山梨県道志村にある市有の道志水源林について、企業や団体の寄附を使った整備の仕組みを設けています。同局の資料では、2009年度から2022年度までに約8,000万円の寄附が寄せられ、約270ヘクタールの水源林が整備されました。自治体の境界を越えて、水源を守る費用と担い手を分かち合う例です。

宮城県|上下水道を民間とともに運営する

宮城県企業局は、水道用水供給、工業用水道、流域下水道の3つの事業で、施設の所有権を県に残したまま、運営権を民間事業者に設定する方式を導入しました。2022年4月に始まり、事業期間は20年です。人口減少のもとで事業の経営基盤を守る方法として、全国から注目されています。

3つの事例に共通するのは、水を守る費用と役割を、上流・下流、行政・民間のあいだで組み替えている点です。一方で、民間の関与については、料金や情報公開、災害時の責任分担を住民が確かめられることが前提になります。官民連携が正解だと決めつけず、仕組みを確認しながら見ていく姿勢が欠かせません。

世界の動き|12月にアブダビで開かれる国連水会議

国際社会でも、水への関心が高まっています。国連の公式ページによると、2026年国連水会議は、アラブ首長国連邦とセネガルの共催で、2026年12月8日から10日にアブダビで開かれます。この記事を公開した時点で、開幕まで約6週間です。目的は、持続可能な開発目標(SDGs)の6番「安全な水とトイレをみんなに」の進捗を加速することです。

国連水会議が開かれるのは、1977年のマルデルプラタ会議、2023年のニューヨークでの会議に続くものとされています。2023年の会議では「水行動アジェンダ」に多くの自主的な約束が集まりました。2026年の会議は、約束が実行に移されたのかを点検し、さらなる行動を促す場として位置づけられています。

日本にとっても無関係ではありません。上下水道の老朽化と人口減少のもとでの維持管理、気候変動による豪雨と渇水の両極端への備えは、多くの国と共通する課題です。日本の経験は、議論の材料として国際社会に共有されていくことになります。

私たちにできること|流域の一員として選ぶ行動

政策や国際会議は遠く感じられても、生活者が関われる入口はあります。いきなり大きなことを始める必要はありません。次の3つの順で、できそうなところから考えてみてください。

自分の水の来た道を知る

まず、自宅の水道水がどこの川やダムから来ているかを調べます。多くの水道事業者は、ウェブサイトで水源を公表しています。同じ流域の上流に森や農地があることを知るだけで、渇水のニュースや水源林の取り組みが、自分ごとに近づきます。

水道事業の経営と災害対策を確かめる

お住まいの水道事業者や下水道事業者が、管路の更新や耐震化の計画をどう公表しているかを見てみましょう。広報誌やウェブサイトの経営情報、料金改定の説明会は、判断材料になります。料金の見直しが話題になったときに、中身を読んだうえで意見を持てるようになります。

備えと参加を、無理のない形で

断水への備えとして、自治体が示す目安に沿って飲料水を備蓄しておくことは、すぐに始められます。もう少し踏み込むなら、水源林の保全活動やボランティア、企業の協賛といった参加の形もあります。所属する会社の取り組みとして関われるかどうかを、一度調べてみるのも一案です。

まとめ

日本は雨の多い国ですが、一人あたりの水資源は多くなく、渇水は毎年どこかで起きています。そのうえ、高度経済成長期に整えた水道管や下水道管が更新の時期を迎え、八潮市の道路陥没や能登半島地震の断水が、水インフラの弱さと災害時の影響の大きさを示しました。

国が2024年に改定した水循環基本計画は、この状況に対して「流域」を単位に水を考える流域総合水管理を打ち出しました。東京都や横浜市の水源林、宮城県の官民連携のように、上流と下流、行政と民間が役割を組み替える実践もすでに動いています。12月の国連水会議は、こうした課題を世界で共有し直す機会になります。

水を守ることは、特別な誰かの仕事ではなく、同じ流域に暮らす一人ひとりが関われるテーマです。まず、自分の家の水がどこから来ているかを調べることから試してみてください。

  • 日本の一人あたり降水総量は世界の約4分の1程度で、2025年夏には8年ぶりに渇水対策本部が設置された
  • 水道管や下水道管の老朽化と耐震化の遅れは、道路陥没や長期断水という形で暮らしに及ぶ
  • 2024年8月の水循環基本計画は、流域の関係者が協働する流域総合水管理を重点事項に据えた
  • 東京都・横浜市・宮城県の例は、上流と下流、行政と民間が費用と役割を分かち合う形を示している
  • まずは自宅の水源を調べ、水道事業の情報を確かめることが、流域の一員としての最初の一歩になる

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
MIRASUS

MIRASUS編集部。地球と人に優しい未来をつくるサステナビリティな事例をご紹介。誰にでもわかりやすくSDGsに関する情報は発信していきます。

  1. 廃棄予定の複合機を再び使う|TMTユニバーサル「コピーキ革命」のレンタルを紹介

  2. 創業120周年を迎えたあらしおの歴史|駿河の塩づくりから平釜塩の復活まで

  3. 使い終わったノートの約4割が燃やすごみに。コクヨが小学校とオフィスで回す資源循環の輪

RELATED

PAGE TOP