EUが導入した「CBAM」(カーボンボーダー調整措置)は、気候変動対策のルールが異なる国との間で生じる不公正な競争を防ぐため、輸入品に対して炭素排出量に応じた費用の支払いを義務付ける制度です。2023年10月から段階的に始まり、2026年1月から本格運用されている今、日本企業にも大きな影響を与えています。この記事では、CBAMの仕組みから日本への影響まで、わかりやすく解説します。
CBAM(カーボンボーダー調整措置)とは
CBAMとは、EU域外から域内への国境をまたぐ特定の輸入品に対して、EU域内と域外の炭素価格の差額を支払うことを義務付けた制度です。英語で「Carbon Border Adjustment Mechanism」と表記され、「炭素国境調整措置」と訳されています。
簡単に言えば、EUへ製品を輸入する際に、その製品が生産される過程で排出された二酸化炭素(CO2)の量に応じて、追加的な費用を支払う必要があるということです。
このメカニズムにより、EU内の企業と海外からの輸入業者が同様の炭素コストを負担することで、公平な競争環境を確保します。
なぜCBAMが必要なのか
カーボンリーケージとは、高い環境基準を持つ国で規制が厳しくなることで、企業が生産拠点を規制の緩い国へ移し、結果的にグローバルな温室効果ガスの排出削減が進まなくなる現象を指します。CBAMは、こうした現象を防ぐために設計されました。
EUは2005年からEU排出量取引制度(EU-ETS)を導入していますが、カーボンリーケージの対策として一部産業に対して排出枠の無償配分や電力価格上昇に対する補償などで対応してきました。しかし、2030年までにGHGを55%削減する「Fit for 55 Package」の目標を達成できない懸念があり、そこで排出枠の無償配分に代わるカーボンリーケージの対策としてCBAMが導入されることとなりました。
CBAMの対象製品
EUは、域外諸国からのセメント、アルミ、肥料、電力、水素、鉄鋼の輸入について、製品当たり炭素排出量に基づく証書の購入を求めるCBAMの導入を決定しました。これらは全て、生産過程で多くのCO2を排出する「高炭素集約型」の製品です。将来的には対象製品が拡大される可能性も想定されています。
CBAMのスケジュール|どのように進むのか
EU規則は2023年5月に施行され、10月から暫定適用が開始されました。制度は段階的に進められています。
2023年10月から2025年末までは移行期間が設けられています。この期間、輸入業者には対象製品の炭素排出量やその原産国で支払われた炭素価格などの情報を報告する義務が課されます。一方、実際の金銭的な支払いはまだ発生しません。
本格的な運用は、2026年1月1日からとなります。本格実施後、輸入者は製品の炭素排出量に応じて「CBAM証明書」を購入し、EUに提出する義務が生じます。証明書の価格は、EU排出量取引制度(EU ETS)の排出枠の平均価格に連動します。その後、2026年から2033年にかけて排出枠の無償配分が削減され、CBAMの割合が上がり、2034年には排出枠の無償配分は廃止され、完全にCBAMへ移行する予定です。
日本企業への影響
EU側からは「日本でのCBAM対象はほぼ鉄鋼分野に限られ、それは日本の対EU輸出の3%にすぎず、日本の鉄鋼生産のうち対EU輸出は1.5%にすぎない」と説明されています。直接的な経済的負担は限定的と言えます。
しかし、課題がないわけではありません。
経済産業省は「報告義務は、報告頻度や製品べースでの細かい報告などEU域内企業にない大きな負担」との見解を述べており、各企業の事務的な負担への懸念を表明しています。
CBAMに対応するため、日本の経済産業省は業界をサポートしています。
日本国内のねじ・ボルト等におけるEU-CBAM対応による炭素排出量の報告が求められることが想定されるとして、経済産業省委託事業において「ねじ・ボルト等におけるEU-CBAM用算定ガイドライン」をとりまとめています。
私たちにできること
個人消費者として直接CBAMに対応する義務はありませんが、この制度が示唆することは重要です。それは、世界的な脱炭素化の動きが加速しており、企業のカーボン排出量の可視化と削減がビジネス上の必須要件になってきたということです。
私たちは、購入する製品がどのような環境負荷で生産されたのかを理解し、「環境配慮型製品」や「脱炭素対応企業」を応援することで、この流れを後押しできます。また、職場の環境でも、自社製品の炭素排出量を把握し、削減へ向けた改善提案を行うことも一つの貢献になります。
CBAMのような国際的な規制は、当初は企業に負担を強いるように見えるかもしれません。しかし、長期的には気候変動対策と経済活動の両立を実現するための重要な施策であり、全ての国と企業が責任を果たすきっかけになり得るのです。

