私たちが暮らす地域には、太陽光や風、森林、農産物など、さまざまな資源があります。しかし、これらの資源を十分に活用できず、エネルギーや食料を地域外から購入することで、お金が地域の外に流れ出ている現状があります。地域資源循環モデルは、地域にある資源を有効活用し、地域内で循環させることで、経済を活性化させながら環境問題の解決にも貢献する新しい地域づくりの考え方です。環境省が推進する「地域循環共生圏」の中核をなす概念として、全国各地で実践が広がっています。
地域資源循環モデルとは何か

地域資源循環モデルとは、それぞれの地域が持つ自然資源や人的資源、文化などを最大限に活用しながら、資源を地域内で循環させる仕組みのことです。具体的には、地域で生産された再生可能エネルギーを地域で消費したり、農林水産業から出る廃棄物を肥料やエネルギーとして再利用したりすることで、資源の循環を実現します。
この考え方は、環境省が2018年に発表した第五次環境基本計画において「地域循環共生圏」として提唱されました。地域循環共生圏は、各地域が固有の資源を活かしながら自立し、それぞれの地域特性に応じた異なる資源を持続的に循環させる自立・分散型の社会を目指すものです。
従来の経済モデルでは、資源を一方通行で消費する「大量生産・大量消費・大量廃棄」の仕組みが中心でした。しかし地域資源循環モデルでは、使い終わった資源を廃棄せず、再び資源として活用することで、環境への負荷を減らしながら地域経済を豊かにします。また、一つの地域だけで完結するのではなく、異なる特性を持つ地域同士が連携し、互いに支え合う関係も重要な要素となっています。
地域資源循環モデルが注目される背景

地域資源循環モデルが全国で注目を集めている背景には、地域が抱える深刻な経済課題と、地球規模での環境問題があります。これらの課題を同時に解決する手段として、地域の資源を循環させる取り組みが期待されているのです。
エネルギー代金の域外流出問題
日本の多くの地域では、石油や天然ガスなどの化石燃料を地域外から購入しており、膨大なエネルギー代金が地域の外に流出しています。環境省の調査によると、2015年度時点で全国の約9割の市町村がエネルギー収支で赤字を記録しており、地域経済を圧迫する大きな要因となっています。
たとえば、ある地域の住民や企業が年間100億円分の電気やガソリンを購入している場合、そのお金は地域外のエネルギー会社に支払われ、地域内には還元されません。このお金が地域内で循環していれば、地域の商店や企業に使われ、雇用を生み出すことができます。
一方で、日本には太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、豊富な再生可能エネルギーの資源が存在します。環境省の試算では、日本全体の再生可能エネルギー供給力は、現在のエネルギー需要の約1.8倍から2.2倍に相当するとされています。特に都市部よりも地方のほうが、広大な土地や自然環境を活かした再生可能エネルギーの導入余地が大きいという特徴があります。地域で再生可能エネルギーを生産し、地域内で消費することで、エネルギー代金の流出を防ぎ、地域経済を強化できるのです。
地球環境問題への対応
地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の損失など、地球規模での環境問題が深刻化しています。これらの問題は、大量生産・大量消費・大量廃棄という一方通行型の経済活動が原因の一つとされています。
日本は化石燃料の多くを海外からの輸入に依存しており、2020年時点で鉱物性燃料の輸入額は約10.5兆円にのぼります。化石燃料の使用は二酸化炭素を排出し、地球温暖化を加速させる要因となります。また、資源の採掘は森林破壊や生態系への悪影響をもたらすこともあります。
こうした環境問題に対応するため、世界では「サーキュラーエコノミー(循環経済)」への移行が進められています。これは、資源を使い捨てにせず、できる限り長く使い続け、最終的には再び資源として循環させる経済の仕組みです。地域資源循環モデルは、この世界的な流れに沿った取り組みであり、地域レベルで環境問題の解決に貢献できる実践的な手法として位置づけられています。
さらに、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けても、地域資源循環モデルは有効な手段です。環境保全だけでなく、経済成長や社会の公正性など、複数の目標を同時に達成できる可能性を持っているからです。
地域資源循環モデルの基本的な仕組み

地域資源循環モデルを実現するためには、地域にある資源を見つけ出し、それを効果的に循環させる仕組みを構築する必要があります。ここでは、この仕組みを支える3つの重要な要素について解説します。
地域にある資源を活かす
地域資源循環モデルの第一歩は、自分たちの地域にどのような資源があるのかを把握することです。資源というと石油や鉱物をイメージしがちですが、地域資源はもっと身近なところに存在しています。
たとえば、太陽光や風、川の流れ、森林、温泉などの自然資源があります。これらは再生可能エネルギーの源となり、地域で電気や熱を生み出すことができます。また、農業や林業、水産業から生まれる農作物、木材、水産物も重要な地域資源です。さらに、廃棄物として扱われてきた生ゴミや家畜の糞尿、間伐材なども、適切に処理すればバイオマス燃料や肥料として活用できる貴重な資源に変わります。
人材や技術、伝統文化も地域資源の一つです。地域で培われてきた農業技術や伝統工芸の技術、地域の歴史や文化は、観光資源としても活用でき、地域の魅力を高める要素となります。
地域内での資源の循環
地域資源を見つけたら、次はそれを地域内で循環させる仕組みを作ります。資源の循環とは、資源を採取・生産し、使用した後に廃棄するのではなく、再び資源として活用するサイクルを作ることです。
具体的な循環の例として、食品廃棄物の循環があります。家庭や飲食店から出る生ゴミを回収し、堆肥化施設で発酵させて有機肥料を作ります。この肥料を使って地域の農家が野菜を育て、収穫された野菜が再び地域の家庭や飲食店で消費されるという循環が生まれます。このサイクルでは、廃棄物が減り、化学肥料の購入費も削減でき、さらに地域内でお金が回ることで経済的な効果も生まれます。
エネルギーの循環も重要です。地域で太陽光発電や小水力発電などで作った電気を、地域の住民や企業が使うことで、エネルギー代金が地域内に留まります。最近では、地域の再生可能エネルギーで作った電気を販売する「地域新電力」という取り組みも各地で広がっています。
地域間での連携と支援
地域資源循環モデルは、一つの地域だけで完結するものではありません。すべての資源を一つの地域で賄うことは現実的ではないため、異なる特性を持つ地域同士が連携し、互いに支え合う関係を築くことが重要です。
たとえば、森林が豊富な山間部の地域は木材やバイオマス資源を提供し、都市部はその資源を活用して製品やエネルギーを生み出します。一方、都市部で発生する食品廃棄物を農村部に運び、肥料として活用するといった相互補完の関係も考えられます。
また、先進的な取り組みを行っている地域が、これから取り組みを始める地域にノウハウを提供したり、共同で事業を展開したりすることも、地域間連携の一つです。環境省は「地域循環共生圏づくりプラットフォーム」を運営し、地域同士が情報交換や連携を行える場を提供しています。
金融機関との連携も欠かせません。地域の銀行や信用金庫が地域資源循環の取り組みに融資や支援を行うことで、持続可能な事業として成長させることができます。実際に、九州では複数の地方銀行と環境省が連携協定を結び、地域循環共生圏の構築を支援する動きも始まっています。
地域資源循環モデルの具体的な取り組み例

全国各地で地域資源循環モデルに基づいた様々な取り組みが実践されています。ここでは、代表的な3つの取り組み分野について、具体例を交えて紹介します。
再生可能エネルギーの地産地消
再生可能エネルギーの地産地消は、地域資源循環モデルの中でも特に広がりを見せている取り組みです。地域で作ったエネルギーを地域で使うことで、エネルギー代金の域外流出を防ぎ、地域経済を強化します。
熊本市では、市内にある2つの清掃工場で発電した電力を、市の公共施設に供給する取り組みを行っています。2008年に設立された地域エネルギー会社「スマートエナジー熊本」が中心となり、廃棄物処理の際に発生するエネルギーを有効活用しています。さらに、2016年の熊本地震の経験を活かし、避難所には停電時でも2日間運転可能な大型蓄電池を設置するなど、防災機能も強化しています。
鳥取県では、年間約1,000億円のエネルギー代金が県外に流出していることを問題視し、県内での再生可能エネルギー導入を積極的に推進しています。太陽光発電だけでなく、風力発電や小水力発電など、地域の特性に合わせた多様なエネルギー源の開発を進めることで、エネルギーの自給率向上を目指しています。
廃棄物の資源化とリサイクル
廃棄物を単なるゴミとして処分するのではなく、貴重な資源として活用する取り組みも各地で進んでいます。
鹿児島県大崎町は、一般ゴミの焼却施設を持たず、埋立て処分場も限界に近づいていたため、1990年代からゴミの徹底的な分別回収と再資源化に取り組んできました。27品目に細かく分別することで、リサイクル率は80%以上を達成し、全国トップクラスの実績を誇っています。この取り組みにより、埋立て処分場の延命化に成功しただけでなく、資源を売却することで収入も得られるようになりました。
埼玉県小川町では、1970年代から有機農業に取り組んでいます。里山の落ち葉、麦わら、稲わら、雑草などを有機肥料として活用し、化学肥料に頼らない農業を実践しています。2017年時点で、有機栽培に取り組む農家の割合は全国トップレベルの11%に達しており、地域住民や民間企業からの支援も広がっています。この取り組みは、廃棄物の削減だけでなく、安全な食の提供や地域ブランドの確立にもつながっています。
地域の農林水産資源の活用
地域の農林水産資源を活かした循環の仕組みも、各地で工夫されています。
滋賀県では、琵琶湖の生態系を守るため、外来魚を駆除して堆肥化し、その堆肥を使って環境に配慮した農業を行う取り組みが進められています。NPO法人が中心となり、障がいのある人たちの就労支援も兼ねた事業として展開されており、環境保全と社会福祉、農業振興を同時に実現する好例となっています。
和歌山県のみなべ・田辺地域では、梅の生産が盛んですが、梅加工の際に発生する調味残液などの未利用資源を循環利用する検討が進められています。地域の農業システムを持続的に発展させるため、大学や行政、地域住民が連携して新しい資源循環の仕組みづくりに取り組んでいます。
地域資源循環モデルがもたらす効果

地域資源循環モデルを実践することで、地域にはさまざまなプラスの効果がもたらされます。環境面だけでなく、経済や社会にも好影響を与える点が、この取り組みの大きな魅力です。
地域経済の活性化
地域資源循環モデルの最も分かりやすい効果は、地域経済の活性化です。これまで地域外に流出していたお金を地域内で循環させることで、経済的な利益が地域に残るようになります。
たとえば、エネルギー代金として年間100億円が地域外に支払われていた場合、地域で再生可能エネルギーを生産して使えば、その100億円の一部を地域内に留めることができます。このお金は地域の発電事業者やメンテナンス業者の収入となり、そこで働く人々の給与として支払われ、地域の商店で使われるという形で循環します。
東近江市では、2013年時点で年間約294億円のエネルギー代金が市外に流出していました。この状況を改善するため、太陽光発電や小水力発電などの再生可能エネルギー導入を進めた結果、エネルギー収支の改善とともに、地域内での資金循環が強化されています。
また、地域資源を活用した新しいビジネスが生まれることも、経済活性化につながります。廃棄物のリサイクル事業、地域新電力会社、有機農産物のブランド化など、地域ならではの特色を活かした事業が各地で展開されています。
雇用創出と地域の強靱化
地域資源循環の取り組みは、新しい雇用を生み出す効果もあります。再生可能エネルギー施設の建設や運営、廃棄物のリサイクル施設の管理、有機農業の推進など、さまざまな分野で働く場が生まれます。特に、地方では人口減少や高齢化が進む中、地域に根ざした雇用の創出は重要な課題です。
さらに、地域資源循環モデルは災害時の強靱性を高める効果もあります。大規模な災害が発生すると、電力供給が途絶えたり、物資の輸送が困難になったりします。しかし、地域で自立したエネルギーシステムや食料生産の仕組みがあれば、外部に依存せずに対応できる力が高まります。
熊本市の事例でも、地震の経験を活かして避難所に大型蓄電池を設置するなど、エネルギーの地産地消と防災機能を組み合わせた取り組みが進められています。こうした備えは、地域住民の安心感を高め、地域への愛着を深めることにもつながります。
富山市では、コンパクトシティ政策と連携して、公共交通を中心としたまちづくりを進めています。これにより、エネルギー消費を抑えながら、高齢者でも暮らしやすい持続可能な都市構造を実現しようとしています。
環境負荷の軽減
地域資源循環モデルは、環境問題の解決にも大きく貢献します。再生可能エネルギーの利用により、化石燃料の使用量が減り、二酸化炭素の排出量を削減できます。これは地球温暖化対策として非常に重要です。
また、廃棄物の削減と再資源化により、ゴミの埋立て量が減り、焼却による環境負荷も軽減されます。大崎町の事例では、27品目に分別することで80%以上のリサイクル率を達成し、埋立て処分場の延命化に成功しています。
有機農業の推進は、化学肥料や農薬の使用を減らし、土壌や水質の保全につながります。小川町では、里山の資源を活用した有機農業により、環境に優しい農業システムが構築されています。生物多様性の保全にも寄与し、持続可能な食料生産の基盤を作っています。
さらに、地域で資源を循環させることで、長距離輸送に伴うエネルギー消費や二酸化炭素排出も削減できます。地産地消の考え方は、環境負荷を減らすだけでなく、新鮮で安全な食材を地域住民に提供することにもつながります。
地域資源循環モデルの課題と今後の展望

地域資源循環モデルには多くの利点がある一方で、実現に向けてはいくつかの課題も存在します。
最も大きな課題の一つが、初期投資の確保です。再生可能エネルギー施設やリサイクル設備の建設には多額の資金が必要であり、小規模な自治体や事業者だけでは負担が困難な場合があります。この課題に対しては、国や自治体による補助金制度の活用や、地域金融機関からのESG融資など、資金調達の仕組みづくりが進められています。
また、地域内での合意形成や人材育成も重要な課題です。地域資源循環モデルを成功させるためには、住民、企業、行政、金融機関など、多様なステークホルダーが協力し、長期的な視点で取り組む必要があります。環境省は「地域循環共生圏づくりプラットフォーム」を通じて、地域の組織化支援や事業化支援を行っており、各地域での取り組みを後押ししています。
技術面では、より効率的なエネルギー貯蔵技術や、廃棄物の高度なリサイクル技術の開発も求められています。最新のIoTやAI技術を活用することで、資源の流れをより効率的に管理し、最適化することも可能になってきています。
今後、地域資源循環モデルは日本だけでなく、世界的にも重要性が増していくと考えられます。気候変動対策や持続可能な開発目標の達成に向けて、地域レベルでの実践的な取り組みが求められているからです。各地域が自らの特性を活かしながら、互いに学び合い、連携することで、より強靱で持続可能な社会の実現が期待されています。
地域資源循環モデルは、単なる環境対策ではなく、地域を元気にし、住民の暮らしを豊かにする総合的な地域づくりの手法です。一人ひとりができることから始め、地域全体で取り組むことで、未来につながる持続可能な社会を築いていくことができるでしょう。
参照元
・環境省ローカルSDGs -地域循環共生圏- https://chiikijunkan.env.go.jp/
・環境省_令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第3章第1節 地域循環共生圏の更なる発展 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r04/html/hj22010301.html
・環境省_令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第2節 脱炭素型の持続可能な地域づくり~地域循環共生圏の創造~ https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/html/hj20010202.html
・環境省_令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 状況第1部第2章第2節 循環経済への移行 https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r03/html/hj21010202.html
・地域経済循環分析|環境省ローカルSDGs -地域循環共生圏- https://chiikijunkan.env.go.jp/manabu/bunseki/
・環境省_令和7年度環境省重点施策集(令和6年8月) https://www.env.go.jp/guide/budget/r06/page_00002.html
・環境省 循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行を促進することを目的とした、令和7年度地域の資源循環促進支援事業の公募について https://www.env.go.jp/press/press_04738.html

