地域循環共生圏とは、地域の自然や資源を生かして環境・社会・経済の課題を同時に解決し、地域どうしが得意分野で支え合う「自立・分散型社会」を目指す、日本の環境政策の考え方です。2018年に国の計画に登場してから8年ほどが経ち、位置づけも支援の仕組みも変わってきました。この記事では、定義の説明は最小限にとどめ、国の計画での扱いの変化、よくある誤解、真庭市・鹿島市・鳴門市・北九州市の事例、そして自分の地域で確かめる方法までを順に整理します。
国の計画で地域循環共生圏はどう位置づけられてきたか
地域循環共生圏は、思いつきの流行語ではなく、環境基本計画という国の最上位の環境計画に書き込まれてきた考え方です。環境省の地域循環共生圏ポータルは、2018年に閣議決定された第五次環境基本計画で掲げられたものと説明しています。各地域が主体的に課題を解決し、得意分野で支え合うことで、地域と国全体の持続可能性を高める姿とされています。
環境・社会・経済の課題を同時に解決する事業は、環境省の用語で「ローカルSDGs」とも呼ばれます。地域循環共生圏という言葉は大きな構想を指し、ローカルSDGsはその中で動く個々の事業を指す、と捉えると混乱しにくくなります。
2018年の第五次環境基本計画で提唱された
第五次計画では、SDGsの考え方を活用し、地域ごとの資源を生かして自立した地域をつくることが打ち出されました。背景には、人や経済が都市部に集まり、地方が人口減少や産業の縮小といった課題を抱えてきた現状があります。
地域の自然や資源を地域の中で活用し、足りない部分は他の地域と補い合う。この「自立」と「分散」と「補い合い」の組み合わせが、この考え方の骨格です。
2024年の第六次環境基本計画で「新たな成長」の実践の場に
第六次環境基本計画は、2024年5月21日に閣議決定されました。環境白書(令和7年版)によると、環境保全を通じた「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現が最上位の目的に掲げられ、経済・国土・地域・暮らし・科学技術イノベーション・国際の6分野が重点戦略とされています。
この計画で、第五次計画で打ち出した地域循環共生圏は、「新たな成長」の実践・実装の場として改めて位置づけられました。つまり当初の「地域づくりの構想」から、国全体の成長のあり方を現場で試す舞台へと、期待される役割が広がったことになります。
地域循環共生圏でよくある3つの誤解
言葉の響きから、実際とは違う意味で受け取られやすい考え方でもあります。ここでは、よく見られる3つの誤解を取り上げます。
誤解1 地域が閉じて自給自足する話ではない
「循環」「自立」という言葉から、地域が外と切り離されて自給自足を目指す構想だと受け取る人がいます。環境省のポータルは、地域が自ら課題を解決し続けるとともに、互いに支え合うネットワークをつくることを基本の考え方としています。
自立とは孤立ではありません。地域が得意なことを生かし、不得意なことは他の地域と補い合う関係を指します。都市は農山漁村の食や水や木材、エネルギーに支えられ、農山漁村は都市の人や資金、技術と結びつくという相互依存を、対等な関係に組み直す発想です。
誤解2 環境だけの話ではない
名称に「環境」の文字がないため気づきにくいのですが、この考え方は環境省が主導しながら、環境・社会・経済の統合的な向上を目的としています。ごみを減らしたり再生可能エネルギーを増やしたりすること自体がゴールではなく、それが地域の仕事や収入、暮らしやすさにつながって初めて「循環」と呼べます。
そのため、環境面で立派な設備を導入しても、地域の雇用や資金が地域の外に流れ出すだけなら、この考え方の狙いとは異なります。事例を読むときは、環境の効果とお金や人の巡り方の両方を見る必要があります。
誤解3 農山漁村だけの話ではない
地域資源というと、里山や漁村の風景を思い浮かべがちです。しかし都市にも、公園や河川、街路の緑、空き店舗、人材、技術といった地域資源があります。都市が持つ資金や知識が、農山漁村の取り組みを支えるという関係も、この構想の一部です。
「自分は都市部に住んでいるから関係ない」とは言い切れません。食べ物、電気、木材のどこかで、あなたの暮らしはすでに他の地域とつながっています。
支援の仕組みと脱炭素先行地域の動き
構想が実際の事業になるには、担い手と資金、そして伴走する仕組みが必要です。国がどのような後押しをしているかを、環境省の公開情報から確認します。
地域プラットフォームと支援体制構築事業
環境省のポータルによると、地域内外の人々が協働して事業を生み出す「地域プラットフォーム」が、地域づくりを加速させる役割を担います。立ち上げと運営のノウハウは「地域循環共生圏創造の手引き」にまとめられており、誰でも参照できます。
支援事業としては「地域循環共生圏づくり支援体制構築事業」や「環境で地域を元気にする地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」が挙げられています。2026年6月29日には、令和8年度の支援体制構築事業の採択団体の実施計画書が公開されました。単年度の施策として終わらず、毎年度、団体を採択して続いている制度であることが分かります。
取り組む仲間とつながる場として「プラットフォームクローバー」も用意されています。セミナーやスタディツアーも開かれており、2026年8月には食や暮らしをテーマにしたセミナーが、9月にはスタディツアーが案内されていました。
脱炭素先行地域という近い制度
地域循環共生圏と並んで目にする制度に、「脱炭素先行地域」があります。2030年度までに民生部門(家庭・業務)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現する地域を、国が選定して支援する仕組みです。位置づけを整理すると、地域循環共生圏が地域の自立と支え合いの理念で、脱炭素先行地域は脱炭素という切り口で、具体的な計画を求める制度と言えます。
環境省は、2025年度までに少なくとも100か所の選定を目指す方針を示してきました。2025年5月9日に発表された第6回では、35の地方公共団体から15件の計画提案があり、7件が選定されました。第1回からの累計は88件(辞退した自治体を除く)で、選定された市町村を有する都道府県は38道府県から40道府県に広がっています。
自分の住む都道府県に先行地域があるかどうかは、環境省の選定結果ページで確認できます。
事例で見る地域資源の生かし方
ここからは、環境省・内閣府・自治体の公開資料で確認できた4地域の取り組みを紹介します。いずれも特定の企業の宣伝ではなく、自治体や地域の連携による取り組みです。事例ごとに資料の掲載時期が異なるため、数値や状況は発表時点のものです。
岡山県真庭市|森と海の資源をつなぐ
環境省の広報誌によると、真庭市は東京23区の1.3倍の市域があり、約8割が森林です。2015年から真庭バイオマス発電所が稼働し、「SDGs未来都市」にも選定されました。「再生可能エネルギー自給率100%」のまちを目指しています。
農業分野の取り組みとして紹介されているのが「真庭里海米」です。瀬戸内海の漁業者と連携し、カキ殻を土壌改良剤として水田に利用しています。山あいの農地の肥料を、海の副産物でまかなうという循環です。災害時にも地域の電力を自給できる地域マイクログリッドの導入を、森林組合や電力会社と検討している点も報じられています。
佐賀県鹿島市|干潟を軸に事業者が提案する
内閣府の資料によると、鹿島市では2015年に肥前鹿島干潟がラムサール条約に登録されたことを受け、環境と産業を両立させる仕組みづくりが進みました。特徴は役割分担です。「肥前鹿島干潟SDGs推進パートナー」と呼ばれる事業者や団体が、環境課題を解決する事業を提案し、市が事業化の支援と環境評価を担います。
具体例が、高齢化で維持が難しくなった棚田を守るための、酒蔵と連携した日本酒の商品化です。棚田が持つ防災・減災の機能を未来に残しながら、地域の付加価値と雇用につなげる取り組みとして報告されています。2021年4月には金融機関5行との連携協定も結ばれ、資金面からの支援体制も整えられました。
徳島県鳴門市|コウノトリが農産物のブランドに
環境省の事例集によると、吉野川流域の鳴門市はレンコンを中心とした農地が広がる地域です。2015年に2羽のコウノトリが飛来して電柱に巣を作ったことをきっかけに、コウノトリを象徴とした農業振興が始まりました。地元のレンコン農家、大学、行政機関などによる協議会が設立され、休耕田を使ったビオトープの整備なども進められています。
市は2017年に「鳴門市コウノトリブランド」の認証制度を始め、まずレンコンから取り組みました。生きものが暮らせる農地を、農産物の付加価値に変える仕組みです。認証件数は2020年に23件とされており、現在の状況は鳴門市の公式発表で確認が必要です。
福岡県北九州市|産業の廃棄物を別の産業の原料に
北九州市のエコタウン事業は、地域循環共生圏が提唱される2018年よりずっと前、1997年7月に国から承認を受けて始まりました。市の説明では、ある産業から出る廃棄物を別の産業の原料として活用し、廃棄物をゼロにすることを目指す仕組みで、環境保全と産業振興を組み合わせた市独自の地域政策です。2001年6月には、環境学習と情報発信の窓口となる北九州エコタウンセンターが開設されました。
公害を克服した経験と製造業の集積という地域の強みを、そのまま新しい産業に転換した例といえます。
4つの事例から見えてくる共通点
ここでは4地域の資料を並べ、何を循環させているのか、誰が主役なのかを整理しました。これは公開資料を比較して読み取れる特徴の整理であり、各自治体が公式に示した分類ではありません。
- 真庭市は森林の木材、カキ殻、生ごみ由来の液肥などを循環させ、市と森林組合・漁業者・電力会社などが連携している
- 鹿島市は干潟や棚田といった自然環境を軸に、事業者が提案し市が支援するパートナー制度を築いている
- 鳴門市はコウノトリの生息環境を農産物のブランド価値に変え、農家・大学・行政の協議会が進めている
- 北九州市は産業の廃棄物を別産業の原料にする仕組みを、国の承認を受けて市が進めている
並べて見ると、共通点は少なくとも3つあります。第一に、出発点が「新しく導入するもの」ではなく「すでに地域にあるもの」であることです。森林、干潟、コウノトリ、工場群といった、見慣れた存在が起点になっています。第二に、環境の取り組みが農産物のブランド、棚田の日本酒、エネルギーの地産地消といった「売れるもの」「回るお金」に結びついています。
第三に、担い手が行政だけでなく、農家、漁業者、酒蔵、金融機関、大学など複数にわたることです。冒頭で紹介した地域プラットフォームの考え方が、現場ではこうした形をとっています。
一方で、比較には注意も必要です。各事例で使われている成果の指標が、認証件数、参加団体数、投資額と自治体ごとに異なり、単純には比べられません。「どの地域が一番成功しているか」より、「自分の地域に近い型はどれか」という見方のほうが役に立ちます。
自分の地域で確かめて関わる3つのステップ
事例を知ったあとに残る疑問は、「自分の地域ではどうなのか」「自分に何ができるのか」ではないでしょうか。個人の立場でも踏み出せる、手順を3つに分けて示します。
ステップ1 自分の自治体の計画と取り組みを調べる
まず、自分の自治体名と「地域循環共生圏」「ローカルSDGs」「脱炭素先行地域」「SDGs未来都市」などを組み合わせて検索します。自治体の環境基本計画や総合計画に、地域資源を生かす取り組みが書かれていることが少なくありません。環境省の選定結果ページやポータルの事例ページから探す方法もあります。
見つからなくても落胆する必要はありません。名前を掲げていなくても、似た取り組みが進んでいる地域は多いからです。
ステップ2 事例を読むときの3つの視点を持つ
取り組みを知ったら、次の3点を確かめると、見せかけの「環境配慮」を見分けやすくなります。
- 地域にもともとある資源を使っているか
- お金や雇用が地域の中で回る仕組みになっているか
- 行政以外の担い手が複数参加しているか
根拠の示されていない「環境に優しい」という表現だけで、この3点が確認できない場合は、グリーンウォッシュ(実態以上に環境に配慮しているように見せること)の可能性を念頭に置いておくと安心です。
ステップ3 消費と参加という小さな関わり方から始める
新米や地場産品が店頭に並ぶこの時期は、産地や生産者の取り組みを、ラベルや公式サイトで確かめてみる良い機会です。認証制度やブランドの背景に環境保全の取り組みがあれば、購入そのものが地域の循環への参加になります。
もう一歩進めるなら、環境省のポータルで案内されているセミナーやスタディツアーの情報を見て、関心のあるテーマのものに目を通してみてください。地域のイベントや清掃活動、マルシェに顔を出すことも、地域プラットフォームの入口になりえます。
まとめ
地域循環共生圏は、2018年の第五次環境基本計画で提唱され、2024年5月の第六次環境基本計画で「新たな成長」の実践・実装の場として改めて位置づけられた考え方です。自給自足ではなく、地域が得意分野で支え合う自立・分散型の社会を目指すもので、環境だけでなく社会と経済を同時に良くすることを狙いにしています。
真庭市、鹿島市、鳴門市、北九州市の事例に共通するのは、すでに地域にある資源を起点にしていること、環境の取り組みが地域のお金や仕事の流れと結びついていること、そして複数の担い手が関わっていることでした。事例の数字は資料ごとに時期や指標が異なるため、比較するときは出典と時点を確かめるのが安全です。
自分の地域で何が進んでいるかは、検索と自治体の計画を読むことから分かります。大きな行動を起こす必要はなく、まずは自分の自治体の取り組みを1つ調べてみてください。
- 地域循環共生圏は、地域資源を生かして環境・社会・経済の課題を同時に解決する自立・分散型社会の考え方
- 2024年5月の第六次環境基本計画で「新たな成長」の実践・実装の場に位置づけられた
- 自給自足ではなく、地域どうしが得意分野で支え合う関係を指す
- 事例の共通点は、地域にあるものを起点にし、お金が地域で回り、複数の担い手が関わっていること
- まず自分の自治体の取り組みを調べ、地場産品の背景を確かめるところから始められる
参考文献
- 環境省「地域循環共生圏ポータル」(2026年)
- 環境省「令和7年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第6章第1節 政府の総合的な取組」(2025年)
- 環境省「脱炭素先行地域(第6回)の選定について」(2025年)
- 環境省「大臣会見録」(2023年)
- 環境省「ecojin 特集 岡山県真庭市」(2020年)
- 内閣府地方創生推進事務局「佐賀県鹿島市 SDGs未来都市提案」(2023年)
- 環境省「地域循環共生圏 事例集(徳島県鳴門市)」(2021年)
- 北九州市「北九州エコタウン事業」(2026年)

