近年の気候変動などにより、SDGsに対しての認識が私たち個人個人の間でも年々増してきているように感じます。
気候変動で大きな被害を被っている農家もたくさんあります。
そんな中で、今注目が集まっている「アグロフォレストリー」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
今回は、アグロフォレストリーの概要と取り組むメリットや課題点などを詳しく解説していきます。
アグロフォレストリーとは
アグロフォレストリーとは、アグリカルチャー(農業)とフォレストリー(林業)を掛け合わせた造語。
「森をつくる農業」とも言われ、その地域の特性に沿った多種多様な農林産物を森林や樹木と共生させながら栽培する農法です。
環境的・経済的・社会的利益が期待され、これまで東南アジア諸国などを中心に世界中で長年にわたり実践されてきました。
アグロフォレストリーでは森の生態系が守られるとともに、農作物はその生態系の中で自然の力を利用して育ちます。
この森との共生関係が、サステナブルな農林業を可能とするのです。
林間放牧もアグロフォレストリーの一部
国の経済やコミュニティの強化および環境保護を保護する方法としてアグロフォレストリーを推進しているアメリカでは、家畜や飼料も含めた「林間放牧」もその一部としています。
この林間放牧は「シルヴォパスチャー(silvopasture)」と呼ばれ、樹木を放牧地で栽培することによって、家畜に日陰や避難場所を提供するなど、悪天候や自然災害などから家畜を守る役割を期待しています。
先進国はインド
2014年にインド・デリーで初めてアグロフォレストリーに関する世界会議が開かれました。
この日に、インドは「アグロフォレストリー政策」を発表。
国を挙げて森林農業に取り組むことを表明した第一番目の国となりました。
それ以来、政府の重要課題として取組みを続けており、2050年までにアグロフォレストリー実施面積を8700ヘクタールにまで増やす目標を掲げています。
参照元:
・CIFOR-ICRAF ホームページ
・「アグロフォレストリーとは」|新エネルギー財団
アグロフォレストリーのメリットは?
アグロフォレストリーの実践には、以下のようなメリットがあると考えられています。
森林の生態系を守ることができる
広い農作地を確保するための大規模な伐採や煙害をおよぼす焼畑農業など、従来型の農業では森林への負荷が懸念されていました。
一方アグロフォレストリーは、その土地の樹木を保全・増やしていくことを前提としており、森林の生態系を維持しながらの農業を可能にします。
レジリエントな農業・林業を実現
その土地の特性を活かして高木や低木、果実など多種多様な樹木や農産物を育てることによって、そこには生態系の健全なエコシステムが生まれます。
この自然の良循環が土壌を豊かにし、生物どうしが助け合いながら成長する環境を育むのです。
そしてそれが、結果としてレジリエントな農業・林業を実現することにつながると考えられています。
住民の生活安定にも役立つ
たとえば、すぐに収穫できる作物と1年後に収穫できる作物、成長して商材となるまで何年もかかる樹木を組み合わせて育てれば、同じ土地でいつも何らかの収入を得ることができます。
このように生産物や収穫物が多様化することによって、長期的に安定した収益が得られるようになるのです。
また、価格や収穫高の流動性にも対応できるといった効果も期待されます。
参照元:「インドのアグロフォレストリーにおける土地利用の実態:ケーララ州イドゥキ県の事例」筑波大演報代25号、43-60,2009
アグロフォレストリーの課題は?
アグロフォレストリーの普及には、以下のようなことが課題として挙げられます。
長期的な計画と展望が必要
アグロフォレストリーを成功させるには、その土地の特性や生態系に精通した専門家によるプランニングが不可欠です。
生育の早さの異なる多様な樹林や作物を植えていくため、長期的な視点で見通しを立てることも必要となります。
「今だけ」を考えるのではなく、「将来の持続可能性」を優先させる価値観の転換が普及のカギとなるのです。
生産者の理解を得ること
森の生態系を守り、長期的に継続できる農業・林業を目指すアグロフォレストリーは、現場の生産者にとってみれば、その良さがすぐに理解できるものではありません。
多くの生産者はやはり、すぐに高収入に結びつくような市場志向の作物を扱いたいと思うでしょう。
アグロフォレストリーが普及するためには、現地の住民に対して積極的に説明をし、その意義について理解を得る努力が必要不可欠です。
アグロフォレストリーの具体例は?
ブラジル・トメアス
トメアスは、アマゾンで最初の日本人入植地です。
カカオ栽培の失敗、コショウ景気とその後の疫病による壊滅的な被害などを経て、熱帯林の多様性にならって複数の作物を混植するアグロフォレストリーが実践されるようになりました。
荒廃地に主な収入源となるコショウを栽培することから始め、コショウが10年以内に枯れることを見越して間に果樹や樹木の苗を植えました。
さらに並木の間には、野菜や米を作付けしていきました。
こうすることで、コショウの後には様々な果樹が実を付け、長い時間を経て木々が育てば材木として生活を支えるという好循環が生まれました。
荒れ果てたアマゾンの森も、様々な木が共存する自然の姿を取り戻しました。
参照元:「トメアス式アグロフォレストリー」について|フルッタフルッタ
インドネシア・Klasik beans
2004年の大雨による地滑りの被害をきっかけにアグロフォレストリーに着手したのは、インドネシア・西ジャワ州のコーヒー農家です。
この地滑りの原因が森林伐採であることに気づいた住民は、2009年にKlasik Beans coffee協同組合を設立。
「森の一部となるコーヒー農園」をコンセプトに16種類の森林を植栽し、森を再生しながら共生する農業を行っています。
参照元:Deadly Landslide Inspires Indonesian Coffee Farmers to Reforest | rainforest alliance
まとめ
アグロフォレストリーとは「森と共生する農林業」と言えます。
かつて日本の里山で、人々は山の生態系を大切にし、山からの恩恵を受けながら生活してきました。
落ち葉を堆肥に田畑を耕し、キノコや果実など山の恵みをいただき、炭を焼いて燃料とする…。
そのような里山の営みは、アグロフォレストリーのひとつの形とも捉えられます。
自然の森は、いわば「生態系の完成形」です。
森林は土壌を豊かにし、水をきれいに浄化してくれます。
大雨のときには根を張って地滑りを防ぎ、暑い日には日陰を作る、というように、気候変化の緩衝材ともなってくれます。
森林を守っていくことが、ひいては私たちの生活を守ることになっているのです。
今の地球は残念ながら、森林を伐採し無理やり農地を切り開いた結果、もとの豊かさを失った場所が多く存在します。
アグロフォレストリーが普及することで森林が再生され、人と自然が共生できる場所が少しでも多く取り戻されることが期待されています。