SDGsの理念でもある「誰一人取り残さない」は、2015年9月に国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が掲げた約束です。英語では「no one will be left behind」と表され、17の目標と169のターゲットを貫く考え方になっています。ただ、言葉が広く知られるようになった一方で、「具体的に誰が、どこで取り残されているのか」までは見えにくいままです。この記事では、定義を1段落で押さえたうえで、2026年の世界の現状、日本で取り残されやすい人の実情、2024年以降に動いた日本の制度、そして読者が次にとれる行動までを順にたどります。
「誰一人取り残さない」は、SDGs全体を貫く約束
まず定義を確認します。SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連総会で採択された2030アジェンダの中核で、17の目標と169のターゲットで構成されています。2030年までに「環境」「社会」「経済」の課題を解決することを目指しています。
その2030アジェンダの序文には、すべての国と人々、社会のあらゆる層で目標を達成するために、誰一人取り残さないと誓う趣旨が書かれています。外務省も、SDGsの説明の中で「誰一人取り残さない(no one will be left behind)」ことを誓っていると紹介しています。
理念は2つ、原則は「5つのP」
SDGsの考え方は、大きくは「変革すること」と「誰一人取り残さない」の2つで説明されます。目標が達成された世界は今の世界と大きく変わるはずなので、社会の仕組みそのものを変える必要がある、というのが前者です。後者は、その変革の途中で置き去りになる人をつくらない、という約束にあたります。
この理念を目標に結びつけているのが、人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、パートナーシップ(Partnership)の「5つのP」です。貧困や教育の問題だけでなく、環境や平和も「誰が取り残されるか」に直結します。たとえば気候変動の被害は、備えにくい立場の人ほど重くなりやすいからです。
「最も遅れている人々から」という一文
もう一つ見落とされやすいのが、アジェンダの中にある「最も遅れているところにいる人々に第一に手を差し伸べる(reach the furthest behind first)」という趣旨の記述です。全体の平均を上げれば達成とみなす、という考え方ではありません。平均値の陰に隠れた人たちを先に見つけることが、この約束の中心にあります。
SDGsは、目標とターゲットを示す一方で、達成の具体的な方法は各国が自国の事情に合わせて選ぶ設計になっています。つまり、日本で「誰が取り残されているのか」を考えるのは、日本に暮らす私たちの役目でもあります。
2026年の世界の現在地|進んだ部分と、取り残されている部分
2030年まで残り4年あまりとなった2026年7月7日、国連はSDGs報告書2026を公表しました。国連統計部のページによると、この10年でSDGsは大きな規模で成果を出し、清潔な水、電気、医療、デジタル接続を使える人が数十億人規模で増えたと評価されています。
その一方で、報告書は進展が「不均一で、不十分」であるとも述べています。逆風として挙げられているのは、紛争の激化、世界経済の減速、気候変動、債務の増加、政府開発援助(ODA)の減少です。
数字の「平均」だけで安心できない理由
報告書の公表値では、安全に管理された飲料水を新たに使えるようになった人は約10億人にのぼるとされています。大きな前進ですが、これは「全体として何人増えたか」を示す数字です。「誰一人取り残さない」の観点では、残りの人がどこにいて、なぜ届かないのかが問われます。
届きにくい理由は、地理的に遠い、紛争地域にある、障害や性別、年齢、収入といった条件によって制度から漏れやすい、などさまざまです。報告書が政策の優先領域として、投資の拡大や国際協力、技術とデータへのアクセス、ジェンダー平等、平和をあげているのも、この「届きにくさ」に向き合うためだと読めます。
遠い話ではなく、日本とつながる話として
世界の数字は、ともすると「どこか遠い国の話」に見えます。ですが日本は、ODAや企業活動、食料・資源の輸入を通じて、世界の課題と深く結びついています。
同時に、国内にも取り残されやすい人たちがいます。次の章では、日本の公的な統計と制度から、その輪郭を見ていきます。
日本の中で「取り残されやすい」人はどこにいるのか
「誰一人取り残さない」を日本の話として考えるとき、手がかりになるのは公的な統計です。ここでは3つの角度から見ます。
経済的な困りごとが重なりやすい、ひとり親世帯
厚生労働省は2026年7月、2025年国民生活基礎調査の結果を公表しました。報告されている内容では、相対的貧困率(等価可処分所得の中央値の半分に満たない人の割合)は15.0%、子どもの貧困率は11.0%で、前回調査の11.5%から小幅な改善にとどまったとされています。一方、ひとり親世帯の貧困率は44.7%と、前回の44.5%からほぼ変わっていないと報告されています。
子どもの貧困率が下がったことは前向きな動きです。ただ、世帯のかたちによって数値が大きく違う状況は続いており、「平均が改善したから大丈夫」とは言えない例になっています。
家族のケアを担う子ども・若者、いわゆるヤングケアラー
統計に表れにくいのが、家族の介護や世話を過度に担っている子どもや若者です。2024年6月に子ども・若者育成支援推進法が改正され、ヤングケアラーが「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として法律に明記されました。国や地方公共団体などが支援に努める対象になったことが、広島市の啓発ページなどで紹介されています。
本人が「これが普通」と思っていることも多く、周りが気づくこと自体が支援の入口になります。
災害のとき、自力で動けない人
もう一つは、災害時に自力で避難することが難しい人たちです。災害対策基本法では、市町村に避難行動要支援者の名簿をつくる義務があり、一人ひとりの避難計画(個別避難計画)をつくることは努力義務とされています。総務省消防庁の令和7年版消防白書によると、令和7年4月1日時点で、1,741市町村のうち1,691市町村(97.1%)が個別避難計画を1件以上つくっています。
ここで注意したいのは、この数字が「対象者全員の計画ができている」ことを意味しない点です。「1件以上」つくっている市町村の割合なので、進み具合を知るには、自分の暮らす市町村の状況まで確認する必要があります。
2024年以降に動いた日本の制度と地域の実践
取り残されやすい人を支える仕組みは、ここ数年で動いています。複数の例を並べると、共通点が見えてきます。
事業者に義務となった「合理的配慮」
2024年4月1日から、改正障害者差別解消法により、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務になりました。対象は会社や店舗、民間団体、個人事業主、NPO法人などで、自治体の説明では、車いすの人が使いやすいようにテーブルや椅子の配置を変える、視覚障害のある人に書類の内容を読み上げて説明する、電話予約に加えてファクスでも受け付ける、といった例があげられています。
共通するのは、特別な設備投資ではなく、窓口や店内でのひと工夫から始められる点です。
地域に根ざす、災害時の見守りと計画づくり
個別避難計画づくりでは、福祉の専門職、自治会、民生委員、本人や家族が一緒に計画を考える取り組みが各地で進んでいます。計画をつくる過程で、本人が何に困るのか、誰が声をかけられるのかが初めて共有される、という効果があります。
制度が示す共通点
合理的配慮、ヤングケアラー支援、個別避難計画のどれにも共通するのは、「困っている人が自分から声をあげる」前提にしていないことです。周囲や事業者、自治体の側が先に気づき、準備しておく方向へ制度が動いています。これは「誰一人取り残さない」を、個人の努力の話から社会の設計の話へ移す動きといえます。
よくある3つの誤解|「弱い人を助ける話」ではない
「誰一人取り残さない」は、理解されやすい反面、誤解もされやすい言葉です。ここでは3つの誤解を整理します。
誤解1「支援される側と、する側は別の人」
2030アジェンダが掲げる約束は、特定の誰かを救う話ではなく、社会全体が責任をもつという約束です。病気、失業、介護、災害、加齢のように、誰もが取り残される側になる可能性があります。「いつか自分や家族が当事者になるかもしれない」と考えると、制度や配慮を「自分の備え」として見られるようになります。
誤解2「全員に同じ支援をすること」
「誰一人」と聞くと、全員に同じものを配る平等をイメージしがちです。ですが前述のとおり、アジェンダは最も遅れているところにいる人々に第一に手を差し伸べる趣旨を示しています。必要な支援は人によって違うので、違いを前提に設計することが大切です。合理的配慮が、一律のルールではなく「その人の状況に応じた調整」とされているのもこのためです。
誤解3「国や企業の仕事で、個人は関係ない」
制度は大切ですが、制度だけでは届かないところがあります。ヤングケアラーのように、気づきが支援の入口になるケースは特にそうです。個人にできるのは、大きな行動よりも、身の回りで気づき、つなぐことです。
今日からできる行動と、選ぶときの3つの問い
では、読者が実際にとれる行動は何でしょうか。ここでは、大きな決意を求めず、暮らしの中で試せるものを取り上げます。
まず「3つの問い」で自分の関わり方を決める
行動を選ぶときの目安として、次の3つの問いが役に立ちます。
- この問題で、いま誰が取り残されやすいか(数字や制度で確認できるか)
- 自分は、どの場面でその人と接点をもてるか(職場、地域、学校、買い物など)
- その行動は、続けられる負担の大きさか
3つとも答えられる行動なら、無理なく続く可能性が高いといえます。
身近な場面での具体例
- 職場や店舗で、合理的配慮の例を1つ共有し、自分の窓口で試せることを考える
- 自分の市町村の個別避難計画や、地域の防災訓練の案内を確認する。秋は訓練や学校行事が重なる時期なので、参加の機会を探しやすい
- 子どもの様子に気づいたとき、学校や自治体の相談窓口につなぐ方法を調べておく
- 寄付や買い物を選ぶとき、支援先が「誰を」「どう支えるか」を公式サイトで確認する
声を聞くことが、最初の一歩になる
10月17日は国連が定めた国際貧困撲滅デーでした。節目を過ぎた今は、ニュースを読むだけで終わらせず、当事者や支援団体が自分で発信している情報に目を通すのにちょうどよい時期です。制度の説明より、実際に困っている人の言葉のほうが、取り残される理由を具体的に教えてくれます。
まとめ
「誰一人取り残さない」は、SDGsの17の目標とすべてのターゲットを貫く約束です。2026年の国連報告書は、進展が不均一で不十分だと伝えています。平均値が上がっても、置き去りにされている人は残ります。
日本でも、ひとり親世帯、ヤングケアラー、災害時に自力で動けない人など、取り残されやすい立場の人がいます。一方で、2024年4月の合理的配慮の義務化や、同年6月のヤングケアラーの法的位置づけなど、制度は「気づく側」「備える側」に責任を寄せる方向へ動いています。
この理念は、遠い国の話でも、誰かを助ける話でもありません。自分や家族もいつか当事者になりうる前提で、身近な場面でできることを選んでいく姿勢が問われています。まず1つだけ、今週の暮らしの中で試してみてください。
- 「誰一人取り残さない」は、平均ではなく最も遅れている人から手を差し伸べる約束
- 2026年の国連報告書は、世界の進展を「不均一で不十分」と評価している
- 日本でも、ひとり親世帯やヤングケアラーなど、統計に表れにくい人が取り残されやすい
- 合理的配慮の義務化など、2024年以降の制度は「周囲が先に気づく」方向に動いている
- 行動は「誰が・どこで・続けられるか」の3つの問いで選ぶと無理がない
参考文献
- 国連統計部「The Sustainable Development Goals Report 2026」(2026年)
- 外務省「JAPAN SDGs Action Platform」(外務省)
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」(2026年)
- 中央区「令和6年4月1日から事業者にも合理的配慮の提供が義務化されました」(2024年)
- 広島市「ヤングケアラーを知っていますか」(2024年)
- 総務省消防庁「令和7年版 消防白書 避難行動要支援者に係る避難の実効性の確保」(2025年)

