SDGsの話題は都市部の大企業の取り組みが中心になりがちです。一方で、人口減少や担い手不足が重くのしかかる地方こそ、SDGsを実務の道具として使う場面が多い地域でもあります。私は大学で環境政策を学び、国連や省庁の公開資料を読む仕事をしてきました。最初のころは、地方のSDGsを「都市の取り組みの縮小版」として読み、自治体の計画書の数字を見誤りかけたことがあります。地方では、17の目標を並べることよりも、お金と資源と人が地域の中でどう回るかのほうが本質に近いと考えるようになりました。
この記事では、内閣府の制度の現在地と北海道下川町の公開データをもとに、地方のSDGsを読み解くコツを整理します。最後に、住んでいる地域や関わりのある地域で、今日から1つだけ試せる行動も紹介します。
地方でSDGsが重視される背景|人口減少と地域の持続可能性
地方のSDGsは、環境保護の活動だけを指す言葉ではありません。人口が減っても医療、教育、交通、仕事をどう維持するかという、暮らしの土台そのものを扱う考え方です。SDGsは経済、社会、環境の三側面を同時に見る枠組みなので、地域課題と相性がよいとされています。ここでは、なぜ地方でSDGsが重視されるのかを、公開されている数字から確認します。
人口戦略会議の分析が示したこと
民間有識者でつくる人口戦略会議は、2024年4月24日に「令和6年・地方自治体『持続可能性』分析レポート」を公表しました。全国1,729の自治体のうち、744自治体で20〜39歳の女性人口が2020年から2050年の30年間で50%以上減るという推計です。これらは「消滅可能性自治体」と呼ばれ、全国の約4割にあたります。
この数字は特定の自治体の運命を決めるものではなく、現時点の人口動態から導いた分析です。ただし、計画書を読むと、担い手不足や税収の減少を前提にした施策が増えていることに気づきます。
SDGsが地域づくりの共通言語になった経緯
内閣府は、SDGsを原動力にした地方創生を「地方創生SDGs」と位置づけ、取り組む自治体を増やしてきました。内閣府の全国アンケートでは、2018年度に4.9%だったSDGsに取り組む自治体の割合が、2021年度には52.1%まで増えたと報告されています。内閣府の整理によると、異なる立場の関係者が地域の課題解決に向けて共通の言葉を持てることが、制度の狙いの1つです。
自治体と企業、住民、学校が同じ17の目標を物差しにできるので、話し合いの入口をそろえやすくなります。その反面、ロゴを掲げることが目的になりやすい点には注意が必要です。この点は後半で触れます。
国の制度で見る地方のSDGs|未来都市と宣言・登録・認証制度
地方のSDGsを制度面から支えているのが、内閣府の「SDGs未来都市」と、地域の事業者向けの仕組みです。最新の動きをここで押さえておくと、自分の地域が今どこにいるのかを判断しやすくなります。
SDGs未来都市の現在地
SDGs未来都市は、SDGsの達成に向けて優れた取り組みを提案した自治体を、内閣府が2018年度から選定する制度です。2025年度は岩手県遠野市、新潟県小千谷市、長野県箕輪町、静岡県三島市、静岡県小山町、大分県日出町、宮崎県高鍋町、鹿児島県志布志市、東京都西東京市の9都市が選ばれました。2026年度は、2026年7月7日の選定公表を経て、千葉県佐倉市、神奈川県座間市、京都府京丹波町、鹿児島県喜界町の4都市が選ばれています。
2018年度からの累計では、200を超える自治体が選定されています。内閣府の公開情報によると、2025年度からは自治体SDGsモデル事業の選定は行わず、SDGs未来都市のみを選定する運びとなりました。また、未来都市計画に基づく取り組みは、地方創生推進交付金の弾力措置の対象になると示されています。
民間事業者向けの宣言・登録・認証制度
もう1つの柱が、地域の事業者を後押しする制度です。内閣府は2020年10月に「地方創生SDGs登録・認証等制度ガイドライン」を公表し、2024年11月に「地方創生SDGs宣言・登録・認証制度ガイドライン」として改訂しました。制度は3つのモデルに整理されています。
事業者が取り組む意思を示す「宣言」、取り組みを自己評価して表明する「登録」、第三者が評価する「認証」です。自治体ごとに名称や基準が異なるため、自分の地域に制度があるかどうかは、自治体の公式サイトで確認する必要があります。
制度は事業者だけのものと思われがちですが、住民にとっても使い道があります。地元の店や事業者が制度に参加していれば、買い物や就職先を選ぶときの手がかりになります。
事例|北海道下川町の森林バイオマスが示すお金と資源の循環
地方のSDGsを具体的に見るために、北海道下川町を取り上げます。下川町は2018年にSDGs未来都市に選定され、2017年度の第1回ジャパンSDGsアワードで内閣総理大臣賞を受けた町です。町の面積の約9割を森林が占め、現在は2024年から2026年を期間とする第3期のSDGs未来都市計画を進めています。ここでは町の公式ページに載っている数字を使います。
熱自給と燃料費の数字
下川町は木質ボイラを10施設に導入し、公共施設の暖房などの熱需要の約6割を木質バイオマスでまかなっています。町の公式ページに掲載されている2013年度の実績では、CO2削減量は約1,220トン、燃料費の削減額は約1,774万円でした。重油を外から買う代わりに地元の木を燃料にしたことで、エネルギー代金の流出が減ったことになります。
地方のSDGsを考えるとき、私はこのお金の流れの変化に最も注目します。CO2削減は環境面の成果ですが、燃料費の削減は経済面の成果です。1つの取り組みが複数の側面に効いているので、SDGsの枠組みにそのまま当てはまります。
浮いた費用の使い道
さらに重要なのは、削減した費用の使い道です。町の公式ページによると、削減額は基金に積み立てられ、半分がボイラ設備の更新費用に、残りの半分が子育て支援の財源に使われています。具体的には、中学生までの医療費無料、保育料の1割軽減、学校給食の2割軽減などです。
環境の取り組みが、設備の更新と子育て支援の両方を支える仕組みになっています。単発のイベントではなく、お金が地域の中で循環する構造をつくっている点が、他の地域が参考にできる部分です。ただし、数字は2013年度の実績なので、現在の状況は町の最新の公表資料で確認してください。また、森林資源の量や町の規模が違う地域で同じ結果になるとは限りません。
地方のSDGsでつまずきやすい3つのパターンと読み解き方
自治体の計画や報告書を読み比べていると、うまく進まない取り組みには共通した傾向が見えてきます。これは統計ではなく、公開資料を読んできた私の見方です。他の地域を批判するためではなく、自分の地域の計画を読むときの目印として使ってください。
17の目標を並べるだけの看板型
1つ目は、17の目標すべてにマークを付けたものの、各施策との結びつきが薄いパターンです。計画書の一覧表がきれいに埋まっていても、各施策の担当課や予算が書かれていなければ、実行の裏づけが見えません。読むときは、目標の番号より、予算と担当が書かれているかを確認すると判断しやすくなります。
担い手が一部の人に集中する
2つ目は、担い手が役場の担当者や一部の事業者に集中するパターンです。人口が少ない地域では、1人が複数の役割を兼ねるため、その人が異動や引退をすると取り組みが止まりやすくなります。住民、学校、地元企業が関わる仕組みが書かれているかどうかが、続けられるかの目安になります。
成果の指標が活動量にとどまる
3つ目は、「イベント開催3回」「参加者200人」のように、活動の量だけが成果の指標になっているパターンです。下川町の例でいえば、「ボイラを何台入れたか」よりも「燃料費がいくら減り、その分が何に使われたか」のほうが、地域への効果を示しています。計画書の指標が、地域の状態の変化を測っているかを確認してみてください。
今日から試せる1つのこと|自分の地域の計画を30分だけ開く
ここまで読んで、制度や事例は分かったものの、自分に何ができるのか見えにくいと感じるかもしれません。地方のSDGsは、役場や大企業だけのものではありません。住民として関われる入口は、まず自分の地域の計画を知ることから始まります。
ここでは負担の小さい1つの行動を提案します。住んでいる市町村、あるいは実家や応援したい地域の名前に「SDGs」を加えて検索し、総合計画かSDGs関連の計画の目次を開いてください。目次を眺めて、自分の暮らしに近い施策を1つだけ選びます。たとえば、公共交通、子育て、森林や農地の管理、空き家の活用などです。
選んだ施策について、担当課と予算の欄を確認します。そこまで見られれば、先ほどの3つのパターンのどれに近いかも判断できます。内閣府の「SDGs未来都市等選定都市一覧」で、自分の地域が選ばれているかを確かめるのも1つの方法です。未選定でも、独自に取り組んでいる自治体は多くあります。
まず1つだけ、自分の地域の計画の目次を開いてみてください。
まとめ
地方のSDGsは、人口減少のなかで暮らしの土台を保つための実務的な考え方です。2024年の人口戦略会議の分析では、全国の約4割にあたる744自治体で若年女性人口が大きく減ると推計されています。国は2018年度からSDGs未来都市の選定を続け、2024年11月には事業者向けの宣言・登録・認証制度のガイドラインも改訂しました。
下川町の公開データは、環境の取り組みが燃料費の削減と子育て支援の財源につながる、お金の循環の例を示しています。同時に、地域によって資源も規模も違うため、成功例をそのまま写すのではなく、自分の地域の計画を読み、予算、担い手、成果指標の3点を確かめる姿勢が役に立ちます。
- 地方のSDGsは、人口減少のなかで医療、教育、仕事を維持するための実務の枠組みです
- SDGs未来都市は2018年度から選定され、累計で200を超える自治体が対象になっています
- 下川町は、木質バイオマスで削減した燃料費を設備更新と子育て支援に回しています
- 計画書を読むときは、予算、担い手、成果指標の3点を確認すると判断しやすくなります
- 最初の一歩は、自分の地域の計画の目次を開くことです
参考文献
- 内閣府地方創生推進事務局「2026年度 SDGs未来都市の選定について」(2026年)
- 内閣府地方創生推進事務局「2025年度 SDGs未来都市の選定について」(2025年)
- 内閣府地方創生推進事務局「地方創生SDGs・SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業」(2024年)
- 自治体SDGs推進評価・調査検討会「令和3年度SDGsに関する全国アンケート調査結果」(2021年)
- 下川町「森林バイオマスエネルギーについて」(2020年)
- 日本経済新聞「自治体4割『消滅可能性』、30年で若年女性半減 人口戦略会議」(2024年)

