家電が故障したとき、修理店やメーカーの窓口で「修理費用が新品購入とほとんど変わりません」と案内された経験がある方は少なくないと思います。海外では、こうした状況を変えるために「修理の権利(Right to Repair)」という考え方が法制度として整備され始めています。一方で日本の状況は、海外の動きとは異なる段階にあります。企業の非財務開示やESG投資の取材を続けてきた立場から見ても、この分野は各国の制度差がはっきり出ているテーマです。海外の制度と日本の現状を並べて確認しながら、消費者として今日から実践できる選び方を整理します。
世界で進む「修理の権利」の制度化
EUでは2024年に、製品の修理を促進するための指令(Directive (EU) 2024/1799、いわゆる「修理の権利指令」)が採択されました。保証期間が過ぎた製品についてもメーカーに修理対応や部品供給を求める内容を含むとされ、加盟各国は数年かけて国内法に落とし込む段階に入っているとされています。
フランスはさらに先行しており、スマートフォンやパソコン、テレビ、洗濯機などを対象に、修理のしやすさを10点満点で表示する「修理可能性指数(indice de réparabilité)」を2021年1月から義務化したとされています。点数の算出には、分解のしやすさや交換部品の入手性、修理情報の公開度などが含まれるとされ、購入時に製品同士を比較できる仕組みになっています。
アメリカでは州単位での法制化が進み、ニューヨーク州が2022年末にデジタル機器を対象とした修理の権利法に署名したとされるほか、コロラド州が電動車いす(2022年)や農業機械(2023年)を対象とした修理の権利法を成立させたほか、ミネソタ州も2023年にデジタル機器を対象とした修理の権利法を成立させるなど、複数の州で法制化が進んでいます。企業側の対応としては、Appleが自己修理プログラムを一部地域で展開しているほか、オランダのFairphoneのように分解・部品交換のしやすさを製品設計の柱に据えるメーカーも登場しており、修理のしやすさが製品選びの新しい判断軸になりつつあります。
ESG開示の現場を取材していると、こうした修理関連の規制は単なる消費者保護にとどまらず、循環経済(サーキュラーエコノミー)に関する企業の非財務情報開示とも接続し始めている点が印象的です。製品の耐久性や修理対応年数を開示指標に含める企業が海外では増えてきています。
日本にはまだ「修理の権利」を定めた法律がない
一方、日本には「修理の権利」を正面から定めた法律は現時点で存在しません。日本の消費者を支えているのは、主に企業の自主的な取り組みです。代表的なものが、家電メーカー各社が公表している「補修用性能部品の保有期間」です。冷蔵庫やエアコンでおおむね9年、洗濯機で6年前後、テレビで8年程度が目安として示されることが多いとされていますが、この年数は法律で義務づけられたものではなく、業界団体の考え方をもとにメーカーが自主的に設定しているものです。
保証期間についても、家電製品は通常1年保証が一般的で、それを過ぎると修理費用は消費者の全額負担になります。フランスのように点数化された修理可能性の情報を購入前に確認できる仕組みは、日本にはまだありません。経済産業省は2020年に「循環経済ビジョン2020」を公表し、資源循環の重要性を打ち出していますが、その柱は主にリサイクルや資源の有効利用であり、EUのように「修理」そのものを独立した政策テーマとして法制化する動きは、現時点では本格化していません。日本は2001年施行の家電リサイクル法に代表されるように、早くから「壊れたら適切に処分する」仕組みを整えてきた一方、「壊れる前に、あるいは壊れても直して使い続ける」仕組みづくりでは海外に後れを取っている構図が見えてきます。
自動車と家電で対照的な日本の修理環境
興味深いのは、同じ日本国内でも製品カテゴリーによって「修理のしやすさ」に大きな差があることです。自動車は車検制度によって定期的な点検・整備が義務づけられており、純正部品以外の社外品(アフターマーケットパーツ)を扱う独立系整備工場も広く根づいています。この点で日本の自動車修理市場は、海外の修理の権利運動が問題視してきた「メーカー系列以外では直せない」状況とは異なり、比較的開かれた環境にあると言えます。
これに対してスマートフォンや家電は、純正部品しか使えない、非純正部品を使うと保証が失効する、ソフトウェア側の制御によって部品交換後に一部機能が制限される、といった課題が海外で指摘されてきた論点と共通する部分があります。日本でも同様の構造がある製品は存在しますが、これを規制する法律がないため、対応はメーカーの企業姿勢に委ねられているのが実情です。同じ国内でも業界によってこれだけ差があるという事実は、消費者が製品ジャンルごとに「直せるかどうか」を自分で見極める必要性を示しています。
修理できない負担が特定の消費者層に偏って重くのしかかる構造は、社会の中の格差の問題ともつながっています。
消費者が今日からできる3つの確認ポイント
法律による後押しがまだない日本でも、消費者側でできる工夫はあります。購入前・購入後にチェックできる具体的なポイントを3つ整理しました。
購入前に「補修用性能部品の保有期間」を確認する
家電を選ぶ際は、価格やスペックだけでなく、メーカー公式サイトに掲載されている補修用性能部品の保有期間を確認することをおすすめします。同じ価格帯の製品でも、保有期間が長いメーカーのほうが、故障時に修理という選択肢を持てる可能性が高くなります。この情報は各社の「お客様サポート」ページや製品Q&Aに掲載されていることが多く、検索窓に「メーカー名 保有期間」と入力すれば見つけられます。
自分で直せる範囲とメーカー保証の関係を整理する
海外では自己修理プログラムのように、消費者自身が部品を購入して修理する選択肢が広がりつつあります。日本国内でも一部メーカーが同様のサービスを提供し始めていますが、自己修理を行うと残りの保証期間が無効になるケースもあるため、保証書の記載を確認したうえで判断することが大切です。「保証が切れてから自分で直す」「保証期間中はメーカー修理に任せる」といった線引きをあらかじめ決めておくと、判断に迷いにくくなります。
認定修理店や自己修理プログラムの有無を調べる
非純正の安価な修理を選ぶ前に、まずはメーカー認定の修理事業者や、メーカーが提供する自己修理プログラムの有無を調べる習慣をつけると、修理の質と保証のバランスを取りやすくなります。認定店の情報はメーカー公式サイトの「修理のご案内」ページにまとまっていることが一般的です。
修理して長く使うという選択は、エシカル消費の考え方とも重なる部分が大きいテーマです。
まずは今日、自宅にある家電の型番を1つ選び、「メーカー名 型番 補修用性能部品 保有期間」で検索してみることから始めてみてください。数年後に故障したとき、修理という選択肢が残っているかどうかを、購入時点で知っておくだけでも判断材料は大きく変わります。
まとめ
- EUの修理の権利指令、フランスの修理可能性指数、米国の州法など、海外では「修理の権利」の法制化が進んでいるとされています
- 日本には修理の権利を定めた法律はなく、補修用性能部品の保有期間などメーカーの自主的な取り組みが中心になっています
- 自動車と家電では日本国内でも修理環境に差があり、購入前に保有期間や認定修理店の有無を確認する習慣が消費者にできる対策になります
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。
参考文献
- 経済産業省「循環経済ビジョン2020」(2020年・https://www.meti.go.jp/)
- 欧州委員会 修理の権利に関する政策ページ(https://commission.europa.eu/)
- Apple「自己修理プログラム」案内ページ(https://support.apple.com/self-service-repair)

