家電が壊れたとき、修理の見積もりが新品の購入価格に近く、買い替えを選んだ経験がある方は多いのではないでしょうか。この場面を変えようと、製品を修理して長く使えるようにする「修理の権利(Right to Repair)」を法律で支える動きが、海外で広がっています。日本には、この名前を冠した法律はまだありません。2026年4月に施行された改正資源有効利用促進法も、メーカーに修理対応を義務づける内容ではないとされています。この記事では、海外の法制化の現在地と日本の立ち位置を並べたうえで、法律の後押しがない今、購入前に何を確認すればよいかをお伝えします。
海外で「修理の権利」はどこまで法制化されたのか
法制化の進み方は国や地域によって違います。EUは域内共通のルールを作り、フランスは購入時に比べられる表示を義務づけ、米国は州ごとに法律を積み上げています。
EUは「修理の権利指令」の国内法化が期限を迎えた
EUでは2024年6月に、修理を促す共通ルールを定めた指令(Directive (EU) 2024/1799)が採択され、同年7月30日に発効しました。洗濯機、冷蔵庫、食器洗い機、ディスプレイ、スマートフォン、タブレットなど、EUに修理のしやすさの要件がある製品群について、メーカーに適時かつ費用面でも現実的な修理を求めます。あわせて、修理に必要な部品や工具を妥当な価格で提供することも求めています。
消費者が交換ではなく修理を選んだ場合、法定保証が少なくとも12か月延長される点も特徴です。ハードウェアやソフトウェアの制約、非純正部品の使用制限によって修理を妨げる行為も禁じる内容です。修理業者を探せる欧州共通のオンラインプラットフォームは、2028年1月1日までに本格稼働する計画とされています。
加盟国が国内法に落とし込む期限は2026年7月31日でした。市民団体のRight to Repair Europeによると、期限時点で完了を正式に通知した加盟国はごく一部で、9月には欧州委員会が18か国に対して侵害手続きを開始したと伝えられています。制度は決まったものの、各国の運用はこれから本格化する段階です。
フランスは「修理しやすさ」を点数で見せる
フランスは、スマートフォンや洗濯機などの修理のしやすさを10点満点で示す「修理可能性指数」を、2021年から店頭やネット販売で表示させてきました。点数は、技術文書の公開、分解のしやすさ、交換部品の入手性や価格などを基に決まります。
さらに2025年1月7日からテレビ、同年4月7日から洗濯機では、修理可能性に信頼性や堅牢性を加えた「耐久性指数」が修理可能性指数に置き換わりました。購入前に製品どうしを同じ物差しで比べられる点が、フランスの仕組みの強みです。
米国は州ごとに電子機器の法律が広がる
米国では連邦法ではなく州法が先行しています。消費者団体PIRGによると、2025年末時点で電子機器向けの修理の権利法を持つのは、ニューヨーク、ミネソタ、カリフォルニア、オレゴン、コロラドの5州で、法律は計6本にのぼります。コネチカット州とテキサス州の法律も2026年中に施行される予定とされています。
いずれも、メーカーが独立系の修理業者や消費者に対して、修理に必要な部品、工具、情報を提供することを求める方向の制度です。州ごとに対象製品や条件が異なるため、全米で一律のルールがあるわけではありません。
日本に「修理の権利」を定めた法律はあるのか
結論から言うと、2026年10月時点でも、日本に「修理の権利」を正面から定めた法律は確認できません。ただし、何も動いていないわけでもありません。
改正資源有効利用促進法は修理の義務づけではない
2026年4月1日に施行された改正資源有効利用促進法は、再生材の利用に関する計画の提出や定期報告を求める枠組みを設けました。もう一つの柱が、環境配慮設計の認定制度です。解体や分別がしやすい設計に加え、長寿命化につながる設計が「特に優れた環境配慮設計」として認定の対象になります。
認定を受けた事業者は、リサイクル設備投資への債務保証や助成といった金融支援を受けられる仕組みです。対象は自動車や小型家電・家電を中心とする約50品目とされ、製品ごとの認定基準は、業界団体の提案を踏まえて順次策定される予定と説明されています。
長寿命化は後押しされるが、修理対応は義務ではない
解説記事を確認した限り、改正法の条文にメーカーへ修理対応や部品供給を義務づける規定は見当たりません。EUの指令のように「直すこと」を消費者の請求権として位置づける制度とは、設計思想が異なります。
一方で、長寿命化につながる設計が認定されて表示できるようになれば、将来は購入時の判断材料が増える可能性があります。フランスの指数のように比較できる表示になるかどうかは、今後決まる認定基準しだいです。
今の日本を支えているのは企業の自主的な取り組み
法律に代わって消費者を支えているのが、メーカー各社が公表している補修用性能部品の保有期間です。次の章で見るように、この数字は便利ですが、読み方に注意が必要です。
補修用性能部品の保有期間の数字と、読み違えやすいポイント
保有期間は、日本で「直せるかどうか」を事前に知れる数少ない手がかりです。ただし、数字だけを見ると誤解しやすい点がいくつかあります。
家電の保有期間の目安
パナソニックが公表している保有期間では、エアコンが10年、冷蔵庫が9年、テレビが8年、洗濯機が6〜7年(機種による)です。炊飯器は6年、掃除機は6年、ドライヤーは5年と、小物家電は短めに設定されています。
元記事などで「エアコンはおおむね9年」と紹介される例もありますが、メーカーによって数字は異なります。購入を検討している製品の公式ページで、実際の年数を確認することが大切です。
数え始めるのは「購入日」ではなく「製造打ち切り日」
最も誤解されやすいのが起算点です。パナソニックの説明では、保有期間の始まりは製品の製造を打ち切ったときです。購入した日から数えるわけではありません。
たとえば発売から数年たった型落ちモデルを買った場合、製造打ち切りまでの年数が差し引かれるため、手元で修理を頼める期間は、見かけの保有期間より短くなる可能性があります。長く使うつもりなら、発売時期が新しいモデルを選ぶほうが、修理の選択肢を残しやすくなります。
部品があっても直せるとは限らない
保有期間は「部品を持っておく目安」であり、修理を受け付ける約束ではありません。部品が在庫にあっても、修理にかかる費用が高くなれば、買い替えを選ばざるを得ない場面は出てきます。保有期間と合わせて、修理窓口の案内や費用の目安を公式サイトで確認しておくと安心です。
製品ごとに違う日本の修理環境
「日本は修理しにくい国」と一括りにはできません。スマートフォン、家電、自動車では、状況が大きく異なります。
スマートフォンは電波法という日本固有の壁がある
日本でスマートフォンを自分で分解して修理しにくい理由の一つに、技適(技術基準適合証明)の制度があります。権限のない人が分解や改造をした後に電波を発する機能を使うと、電波法上の問題が生じる可能性があると指摘されてきました。
総務省には登録修理業者の制度があり、登録業者が基準に沿って修理した場合は技適が有効なまま使えます。つまり日本では「自分で直す権利」よりも、「登録された事業者に直してもらう仕組み」が先に整っている分野です。
Appleのセルフサービス修理プログラムについては、米国や欧州、カナダなどで展開が報じられる一方、日本は対象外と伝えられてきました。利用できるかどうかは時期によって変わるため、使いたい方は公式ページで最新の提供地域を確認してください。
自動車は独立系の整備工場が広く根づいている
自動車は、車検制度によって定期的な点検・整備が前提となっており、独立系の整備工場や社外品の部品も広く流通しています。メーカー系列でなければ直せないという状況が問題視されてきた海外と比べると、比較的開かれた環境と言えます。
家電は選択肢がメーカーの方針に左右される
家電は、純正部品が中心で、修理先の選択肢はメーカーや販売店の方針によるところが大きい分野です。法律の裏づけがないため、メーカーによって修理の受け付けやすさに差が出やすくなります。同じ国内でも製品ジャンルごとに事情が違うため、「この製品は直せるか」を購入前に自分で確かめる姿勢が役に立ちます。
「修理の権利」でよくある3つの誤解
海外の制度を紹介する記事で、読み違えられやすい点を整理します。
誤解1 修理の権利は「自分で直す権利」だけではない
修理の権利と聞くと、自分で分解して直す自由を想像しがちです。しかしEUの指令の中心は、メーカーに修理対応や部品・工具の提供を求め、独立した修理業者も含めて、修理という選択肢を現実的な価格で使えるようにする点にあります。自分で直せる人だけの話ではなく、修理を頼む側にとっても意味のある制度です。
誤解2 保有期間があれば、その年数は必ず直せる
前章で触れたとおり、保有期間は製造打ち切りから数えます。また、部品があることと、手頃な費用で修理できることは別の話です。保有期間は「最低限の目安」として受け止め、費用や受付体制とセットで確かめるのが現実的です。
誤解3 日本は何もしていない、海外はすべて進んでいる
日本にも、メーカーが定めてきた保有期間、環境配慮設計の認定制度、自動車の独立系整備網といった積み重ねがあります。一方、海外もEUの国内法化は遅れが指摘されており、米国は州ごとに差があります。「日本が遅れている、海外が進んでいる」と単純化せず、制度の中身を見て比べることが大切です。
購入前に確認したい家電選びの5つのチェック
法律の後押しがまだない日本では、購入前に確認する習慣が、修理という選択肢を残す手段になります。
保有期間と発売時期をセットで見る
メーカー公式サイトで補修用性能部品の保有期間を確認し、そのモデルがいつ発売されたかも調べます。発売から時間がたっていないモデルのほうが、保有期間の残りを多く見込めます。
修理窓口と費用の目安を調べる
「メーカー名 修理料金」で検索すると、料金の目安や受付方法を公開しているメーカーがあります。購入前に調べておくと、故障したときにどこへ連絡するか迷いません。
交換できる消耗部品を確認する
バッテリー、フィルター、パッキンなど、使ううちに劣化する部品が、自分で交換できるか、別売りされているかを確認します。消耗部品が交換できる製品は、本体全体を買い替える頻度を減らしやすくなります。
保証の範囲と延長保証の条件を読む
標準の保証期間が過ぎると、修理費用は自己負担になるのが一般的です。販売店の長期保証やメーカーの延長保証がある場合は、対象となる故障の範囲と、自己負担の上限を購入時に読んでおきます。自分で部品を交換すると保証の対象外になる場合もあるため、保証書の記載には目を通してください。
認定制度の表示が出てきたら注目する
2026年4月に始まった環境配慮設計の認定制度は、製品別の基準づくりがこれから進みます。長寿命化につながる設計として認定された製品が店頭で見られるようになったら、選ぶ際の参考になります。
秋の今、手元の家電でできる最初の一歩
10月は、暖房機器やエアコンを使い始める前に、家電の状態を見直すのに向いた時期です。11月以降は、買い替えを後押しするセールも増えてきます。買い替えを決める前に、今ある家電の情報をそろえておくと、修理か買い替えかを落ち着いて選べます。
具体的には、型番と製造年が書かれたラベルの位置を確かめ、スマートフォンで撮影しておきます。次に「メーカー名 型番 保有期間」で検索し、公式ページの年数を控えます。同じタイミングで、取扱説明書にある保証書の保管場所もそろえておくと、故障したときに慌てずに済みます。
古い家電が見つかったら、動いているうちに、フィルター掃除やパッキンの点検といった取扱説明書に載っている手入れを済ませておくのも一つの方法です。もし修理に出すことになったときも、型番、購入時期、症状をメモしておけば、受付がスムーズに進みます。
まとめ
海外では、EUが2024年に修理の権利指令を採択して2026年7月末を国内法化の期限とし、フランスは修理しやすさを点数で示す指数を、米国は州ごとの法律を整えています。ただしEUの国内法化は遅れが報じられており、制度はまだ運用の途上です。
日本には「修理の権利」を定めた法律はなく、2026年4月施行の改正資源有効利用促進法も、修理対応の義務づけではなく、再生材の利用と環境配慮設計の認定を中心とした内容とされています。現在の日本の消費者を支えているのは、メーカーが定めた補修用性能部品の保有期間などの自主的な取り組みです。その保有期間は製造打ち切りから数える点を知っておくと、数字の読み違いを防げます。
法律の後押しを待たずにできることもあります。購入前に保有期間、発売時期、修理窓口、消耗部品の交換可否を確かめておけば、修理という選択肢を残しやすくなります。まず、手元の家電から型番を1つ選び、公式サイトで保有期間を調べてみてください。
- EUの修理の権利指令は国内法化の期限を迎えたが、各国の対応にはばらつきがある
- フランスは修理可能性指数と耐久性指数、米国は州法で、修理しやすさを制度に組み込んでいる
- 日本に修理の権利を定めた法律はなく、改正資源法も修理の義務づけではない
- 保有期間は製造打ち切りから数えるため、購入時期と発売時期の確認が欠かせない
- 手元の家電の型番を調べ、保有期間と修理窓口を控えるところから始められる
参考文献
- EUR-Lex「Directive (EU) 2024/1799 on common rules promoting the repair of goods」(2024年)
- Right to Repair Europe「The Right to Repair Directive」(2026年)
- フランス政府 Service-Public「Indices of durability and repairability」(2025年)
- PIRG「More than one-quarter of Americans covered by Right to Repair come Jan. 1」(2025年)
- パナソニック「補修用性能部品の保有期間」(2026年)
- BUSINESS LAWYERS「2026年4月施行 GX推進法・資源有効利用促進法改正の概要と実務対応」

