ファッション業界は、世界で排出される廃棄物のなかでも指折りの”多産多死”産業とされている。毎年膨大な量の衣料品が製造され、その多くが数シーズンで廃棄される——そんな構造を根本から見直そうとする考え方が、「サーキュラーファッション(Circular Fashion)」だ。
ESGと非財務情報の取材をしているなかで、「サーキュラーエコノミー」という言葉はビジネスの文脈でも頻繁に出てくるようになった。しかしファッションの分野では、概念の説明で終わる記事が多く、「で、実際に何をすればいいの?」という問いに答えるものが少ないと感じてきた。この記事では、定義から国内外の具体的な取り組み、そして読者が今日から試せる行動まで整理していく。
サーキュラーファッションとは何か
サーキュラーファッション(Circular Fashion)とは、衣料品の設計・製造・流通・消費・廃棄という一連のプロセスを「直線(リニア)」ではなく「循環(サーキュラー)」に変えようとするアプローチだ。
従来のファッションモデルは「原材料を採取→製品をつくる→使い捨てる」という一方向の流れだった。サーキュラーファッションはこれを見直し、製品が廃棄されるのではなく、修理・再利用・リサイクル・アップサイクルを通じて次の素材や製品に生まれ変わる仕組みを目指す。概念の土台にあるのはエレン・マッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミー(循環経済)の考え方だ〔要確認〕。
「エシカルファッション」や「サステナブルファッション」と混同されやすいが、それらが「環境・社会への配慮」という広義の概念であるのに対し、サーキュラーファッションは「物質が循環し続ける仕組みをつくる」という設計思想に重心がある。消費者の意識改革だけでは完結しない、構造的な変革を問う概念といえる。
なぜ今ファッション業界で「循環」が問われるのか
問題の規模を整理しておきたい。国連環境計画(UNEP)の報告〔要確認〕によると、ファッション産業は世界の廃水の約20%を占め、CO2排出量でも世界全体の約8〜10%を担うとされる。日本でも年間約50万トンの衣料が廃棄されているという推計がある〔要確認〕。
問題をさらに複雑にしているのが、「ファストファッション」の普及だ。低価格・短サイクルでのトレンド入れ替えが定着した結果、購入から廃棄までの期間が著しく短縮した。取材のなかで企業の担当者から聞いた言葉で印象に残っているのが、「年に52シーズン分の服をつくっているようなものだ」という表現だった。これは誇張ではなく、一部ブランドが週単位で新作を投入している現実を示している。
こうした課題を受け、EUでは「エコデザイン規則(ESPR)」〔要確認〕を通じ、修理可能性や再生素材の使用率など、製品の循環性を義務付ける方向で制度化が進んでいる。日本でも経済産業省が「サーキュラーエコノミー推進の方向性」を示した資料を公表しており〔要確認〕、企業への対応圧力は確実に高まっている。
サーキュラーファッションの4つのアプローチ
「サーキュラーファッションを実践する」とひとことで言っても、その手法は多岐にわたる。整理すると、大きく4つのアプローチに分けることができる。
1|設計段階からの循環設計(デザイン・フォー・サーキュラリティ)
「捨てやすくつくる」のではなく、「分解・リサイクルしやすいように設計する」という考え方だ。例えば、複合素材(化繊混紡など)はリサイクルが難しいため、できるだけ単一素材で製品をつくる。ボタンや金属パーツを取り外しやすい構造にする——こうした工夫が、回収後の再資源化を格段に容易にする。
パタゴニア(Patagonia)は古くからリペア文化を推進し、ウール素材や自社製品のリサイクル受付を継続している〔要確認〕。国内ではワークマン〔要確認〕などが素材の単一化・機能性との両立に取り組んでいると報じられている。設計の工夫は、消費者の目には見えにくいが、循環の起点として最も重要な部分だ。
2|リユース・シェアリングによる使用期間の延長
衣料品の環境負荷を下げるうえで、最も即効性があると言われているのが「使用期間の延長」だ。服を長く使えば、それだけ製造に伴う環境コストが薄まる。
古着・中古衣料の市場規模は国内外で成長が続いており、メルカリなどのC2Cプラットフォームがその受け皿になっている。また、レンタル・サブスクリプション型ファッションサービス(エアークローゼットなど〔要確認〕)は、所有せずに多様な服を楽しむ手段として広がっている。「洋服を持つ」から「洋服を使う」へのシフトは、個人の節約にもつながるという点で共感を得やすい。
3|回収・リサイクルの仕組みづくり
使用後の衣料をどう回収し、素材に戻すかは、循環の最後の砦だ。企業が店頭回収ボックスを設ける取り組みは国内でも広がっており、ユニクロ(ファーストリテイリング)は全国の店舗で不要になった同社製品の回収を行い、一部を難民支援や発展途上国への寄付に活用している〔要確認〕。
素材レベルのリサイクルについては、化学的リサイクル(ケミカルリサイクル)の技術開発が進んでいる。ポリエステル製品を化学的に分解して再びポリエステル原料に戻す技術は、一部企業で実用化段階に入っており〔要確認〕、綿やウールへの応用も研究が進む。ただし現状ではコストが高く、大規模展開にはまだ時間がかかると見られている。
4|アップサイクルによる価値の転換
廃棄予定の生地や衣服を、単なる「再利用」ではなく、より付加価値の高い製品に転換するのがアップサイクルだ。デニムの端切れからバッグをつくる、廃棄された旗や幟から衣料品を仕立てるといった取り組みが、国内の中小ブランドやクリエイターの間で広がっている。
アップサイクルの面白さは、素材の「物語」が製品に残ることだ。企業のサステナビリティ報告書を取材していると、アップサイクル品は消費者の購買意欲を高める「ストーリーテリング」として機能しているケースが多い。ただし量産には向かず、スケール化が課題でもある。
国内外の注目事例
国内外の動きを具体的に見ていこう。
EUのファッション戦略と「デジタル製品パスポート」
EUは2022年に「EUテキスタイル戦略」を公表〔要確認〕し、2030年までに市場に出回るテキスタイル製品の長持ち性・修理可能性・リサイクル可能性を大幅に向上させる目標を掲げた。なかでも注目されるのが「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入だ。これは製品にQRコードなどを付与し、素材の産地・製造工程・ケア方法・リサイクル先などを消費者がたどれる仕組みだ〔要確認〕。
日本のアパレルブランドも輸出対応の観点から、この規制への準備を求められることになる。ESGの文脈で企業取材をしていると、「欧州規制への対応」を起点にサーキュラーに舵を切るケースが増えていると感じる。
日本国内のブランド・小売の動向
国内では複数の小売・ブランドが、回収・リユースの仕組みを拡充している。ユニクロの「RE.UNIQLO」プログラム〔要確認〕やアダストリアの古着回収・リユース事業〔要確認〕など、大手が取り組みの裾野を広げている。一方で、独立系の小ブランドや職人系のリペアショップが「修理文化」の担い手として再評価されている動きもある。
また、繊維商社や素材メーカーが再生素材の開発・供給に注力するケースも増えている。廃棄ペットボトルをリサイクルしたポリエステル繊維や、農業廃棄物由来の天然素材など、素材の源流からサーキュラーを設計しようとする動きが産業全体に広がりつつある。
「消費者として見落としがちな落とし穴」|体験的に気づいたこと
企業のサステナビリティ報告書を読んできた経験から、消費者として関心を持ち始めたとき、自分自身が見落としていた点がある。
まず「リサイクル素材使用」の表記に安心しすぎることだ。再生ペットボトル由来のポリエステルを使っていても、製品そのものが混紡素材でリサイクル不能な構造になっていれば、循環の輪は閉じない。素材の「入口」だけでなく、製品の「出口」つまり廃棄・再資源化の経路が設計されているかも確認すべきだった。
次に「古着を買えばサーキュラー」と単純に等式を結んでしまう点だ。古着購入は確かに有力な選択肢だが、大量購入・大量廃棄のパターンを中古市場で繰り返しているなら、問題の先送りに近い。「何着持つか」「どう使い続けるか」という問いに向き合うことがより本質的だと気づいた。
こうした視点は、企業を取材する前は持ちにくかった。消費者向けの情報発信では「○○を買うだけでエコ」という語り口が多く、循環の構造全体を俯瞰する視点が伝わりにくいという課題が、情報の受け手としても実感としてある。
今日から始めるサーキュラーファッションの1アクション
まとめの前に、読者に試してほしいことを1つだけ提案したい。
「次に服を手放すとき、捨てる前に”この服はどこに行けるか”を5秒だけ考えてみる」——ブランドの回収ボックスに持ち込める服か、フリマアプリに出せる状態か、近所のリサイクルショップが受け取る素材か。この問いを1回でも持つことが、サーキュラーを「概念」から「習慣」へ変える起点になる。
完璧な循環を個人が実現することは難しい。ただ、回収経路を調べる行動は5分もかからない。スマートフォンでブランド名+「回収」で検索するだけで、予想以上に選択肢があることに気づく人は多い。
まとめ|サーキュラーファッションが変えようとしていること
サーキュラーファッションは、服の「買い方・着方・手放し方」全体を問い直す概念だ。企業側の設計責任と、消費者の選択が組み合わさって初めて循環の輪が閉じる。
- サーキュラーファッションとは、衣料品を廃棄せずに循環させる設計思想であり、エシカル・サステナブルファッションとは重心が異なる
- 設計・リユース・回収リサイクル・アップサイクルの4つのアプローチが循環の柱になる
- EUの規制対応を機に日本企業も動きが加速しており、「デジタル製品パスポート」は今後の消費者行動にも影響を与える
- 「リサイクル素材=サーキュラー」という単純な等式には落とし穴がある。製品の出口設計まで確認することが重要
- まず「服を手放す前に行き先を考える」という小さな問いを習慣にすることが、循環への入口になる
エシカル消費の意味や具体例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。



