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CSR

エシカル調達とは|2026年に日本企業が問われる理由と実践の3ステップ

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「うちのサプライヤーは大丈夫なはず」。そう思っていた大手アパレル企業が、自社の2〜3次サプライヤーをたどった先に問題のある原材料が使われていたことで不買運動に発展し、株価と企業価値に深刻なダメージを受けた事例が、国内外で相次いでいます。エシカル調達は、もはやブランディングの加点項目ではなく、企業経営の存続に直結するリスク管理のテーマになっています。この記事では、エシカル調達の基本的な考え方を短く整理したうえで、日本企業が直面している規制動向と実務での取り組み方まで踏み込んで解説します。

エシカル調達とは|QCDに人権・環境・腐敗防止を加える調達の考え方

エシカル(ethical)とは倫理的なという意味の英語です。エシカル調達とは、製品・サービスの原材料や部品を調達する際に、経済的なコストや品質、納期だけでなく、人権や労働、環境、腐敗防止といった倫理的な基準も評価軸に加える調達方針を指します。従来のサプライチェーン管理はQCD(品質・コスト・納期)の3軸が中心でしたが、国連が策定した「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」や国際労働機関(ILO)の基準、各国規制の強化を受けて、倫理的・社会的・環境的な観点を加えた多軸評価が国際的な標準になりつつあります。

「責任ある調達(Responsible Procurement)」「持続可能な調達(Sustainable Procurement)」と呼ばれることもありますが、指している方向はほぼ同じです。自社の直接の取引先だけでなく、2次・3次以降のサプライヤーまで含めたサプライチェーン全体を対象とする点が、従来の購買管理との最大の違いです。この定義を押さえたうえで、なぜ2026年の今、これが経営課題として無視できなくなっているのかを見ていきます。

なぜ「待ったなし」なのか|規制・投資家・消費者の三方向からの圧力

エシカル調達への対応が急がれる背景には、規制、投資家、消費者という三つの方向からのプレッシャーが同時に強まっているという構造があります。ひとつずつ整理します。

日本|人権デューデリジェンス・ガイドラインと運用の広がり

日本では経済産業省と外務省が2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しています。このガイドラインはUNGPsの人権デューデリジェンス(人権DD)の枠組みを踏まえ、企業規模を問わずサプライチェーン全体の人権リスクを特定・評価・是正することを求める内容です。現時点で法的な義務ではありませんが、政府はガイドラインの実効性を段階的に高める方針を示しているとされ、将来的な法制化を見据えた動きとして受け止められています。大企業の調達部門がサプライヤーに対してガイドラインへの対応を確認する動きも広がりつつあり、事実上の業界標準になりつつある段階といえます。

欧州|CSDDDの成立とその後の見直し議論

欧州ではすでに規制が法律として動いています。2024年にEU理事会が正式採択した「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」は、一定規模以上の企業に対して自社だけでなくサプライチェーン上の人権・環境リスクへの対応を義務づけるものです。一方でEUでは2025年以降、企業の事務負担を軽減する目的で対象範囲や適用時期を見直す議論(いわゆる簡素化パッケージ)が進んでいるとされており、規制の細部は流動的な状況が続いています。ただし、方向性そのものが撤回されたわけではなく、日本企業であってもEUに子会社や取引先を持つ場合は対応が避けられない点は変わりません。

米国|ウイグル強制労働防止法の執行

米国では2022年に施行された「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」が、新疆ウイグル自治区産の物品について輸入禁止の推定を設けています。この推定を覆すには輸入者側が強制労働の関与がないことを立証する必要があり、電子機器や繊維、太陽光パネル関連の部材を扱う日本企業の輸出入にも実務上の影響が出ているとされています。

消費者や投資家の目線も変わってきました。サプライチェーン専門家を対象とした業界団体の調査では、製品が倫理的・環境配慮的な方法で製造されることの重要性に同意する回答者が多数を占めたと報告されており、消費者意識の変化は企業のブランドリスクに直結します。機関投資家の側でもESG投資の拡大により、サプライチェーン上の人権・環境リスクが財務リスクとして評価対象になりつつあり、実際に人権問題をきっかけにした不買運動で株価や企業評価への影響が数値として可視化された例も出ています。

「大企業の話では」と感じる方もいるかもしれませんが、現実はそうではありません。大企業がサプライヤーに対してコード・オブ・コンダクト(行動規範)への署名や監査への協力を求めるケースが増えており、対応できない中小・中堅企業は取引機会を失うリスクを抱えます。経済産業省のガイドラインも中小企業を対象外とはしていません。

中小企業がどのように取引先からの要請に向き合っているかは、以下の企業事例も参考になります。

日本企業の取り組みの現在地|大手と中小で開くギャップ

経済産業省が公表している調査では、サプライチェーン上の人権課題に関するリスク評価を実施している企業の割合は、大企業でも一部にとどまるとされ、欧州企業と比較すると取り組みの制度化・定量化には一定の差があるとみられています。数値は調査対象や設問設計によって変動するため一概には言えませんが、「まだ発展途上」という認識が実態に近いといえるでしょう。

一方で、グローバルに事業を展開する製造業や商社、アパレル企業などでは、独自の「サプライヤー行動規範(Supplier Code of Conduct)」を策定し、サプライヤーへの配布や署名取得、自己評価アンケートの実施まで進める企業が増えています。トヨタ自動車はサプライヤーに対するCSR調達方針を公表しており、ソニーグループもサプライヤー向けのコード・オブ・コンダクトをグローバルに運用しています。こうした大手企業発の要件は、取引先である中堅・中小企業にも波及する形で広がりつつあります。

ここで見えてくるのは、日本と欧州の間にある「制度の作り方」の違いです。日本はガイドラインという緩やかな枠組みで企業の自律的な取り組みを促す方式、欧州は法律による義務づけという方式を取っています。どちらが優れているという話ではありませんが、日本企業が欧州市場や欧州企業との取引に関わる場合、日本国内の基準だけを満たしていても不十分になる可能性がある、という点は実務上のポイントです。自社が「どの市場のどの規制の射程に入るか」を一度整理しておくことが、規制対応の出発点になります。

エシカル調達が扱う4つの領域

エシカル調達が実務で扱う範囲は広いですが、UNGPsやILO、OECD多国籍企業行動指針といった国際的なガイドラインで共通して挙げられる領域は主に次の4つです。

人権・労働

強制労働、児童労働、差別、不当な長時間労働、結社の自由の侵害などが対象です。農業や縫製、電子機器製造など労働集約型の産業では、サプライチェーンの深層部で労働搾取が起きやすい構造的な問題があります。ILOは世界で約2800万人が強制労働の被害を受けていると報告しており、このうち約2400万人が民間経済部門における強制労働の被害者とされています。

環境

温室効果ガス排出(スコープ3を含む)、森林破壊、水資源の過剰消費、有害物質の使用や排出などが評価対象です。企業のGHG排出量のうちスコープ3、つまりサプライチェーン全体からの排出は、製造業の大企業では排出全体の大半を占める場合があるとされ、サプライヤーを巻き込まなければ脱炭素目標を達成できないという構造的な課題があります。

腐敗・贈収賄防止

サプライヤーが不正な手段で受注を獲得していないか、代金の支払いプロセスに不正がないかを確認します。OECD外国公務員贈賄防止条約や各国の腐敗防止法が適用対象となる場面もあります。

紛争鉱物

金、タンタル、スズ、タングステンといったいわゆる紛争鉱物は、武装勢力の資金源となっているケースが指摘されています。電子機器や自動車部品メーカーを中心に、OECDガイダンスや米国ドッド・フランク法第1502条に基づく調達先確認が求められています。

実践の3ステップ|マッピングから開示まで

「どこから着手すればいいかわからない」という声をよく聞きます。実務の現場では、次の3段階を踏むことが多いです。規模の大きい企業も小さい企業も、基本の順番は変わりません。

ステップ1 サプライヤーをマッピングしリスクを優先順位づけする

まず取引先を一覧化し、国、産業、調達品目ごとに人権・環境リスクの高低を評価します。全サプライヤーを均等に調べることは現実的ではないため、リスクの高い地域(新興国、紛争影響地域等)や労働集約度の高い産業(縫製、農業、採掘等)を優先するのが実践的です。OECDや国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は産業別のリスクマップを公開しており、調達品目のリスク特性を確認する際に参照できます。

ステップ2 サプライヤー行動規範を策定し共有する

次に、自社として何を求めるかを文書化します。ILOの中核的労働基準(強制労働禁止、結社の自由、差別撤廃、児童労働禁止)を最低ラインとして盛り込み、環境や腐敗防止、安全衛生に関する要件を加えます。文書化した規範をサプライヤーと共有し、署名または確認を取得します。この段階で重要なのは、一方的なチェックリストの押しつけにならないよう、サプライヤーとの対話を設計することです。特にコストや能力に制約のある中小サプライヤーに対しては、改善のための支援(キャパシティビルディング)がセットで機能します。

ステップ3 モニタリングと情報開示を継続する

策定した規範が実際に機能しているかを定期的に確認します。自己評価アンケート、書類審査、第三者監査(SA8000やSedexといった認証・プラットフォームの活用)、現地訪問など、リスクの程度に応じた手段を選びます。そして取り組みの状況と結果をサステナビリティレポートや統合報告書等で開示します。「やっている」と「開示している」は異なります。開示なき取り組みは外部からはゼロと同じ、という視点を持つことが重要です。

実際にどのような企業がこの3ステップをどう進めているかは、次の事例まとめも参考になります。

「コストが上がる」という誤解を解く

エシカル調達を推進するうえで最もよく耳にする懸念は、コストが上がるという点です。しかし中長期で見ると、リスク管理の効果によるコスト削減効果も確認されています。

持続可能な調達は、特定の産地やサプライヤーへの依存度を下げ、価格変動や供給停止のリスクを分散します。また公正な労働基準を実践するサプライヤーでは従業員の定着率と生産性が高い傾向があるとされ、採用や教育のコスト削減につながります。さらに不買運動、報道リスク、訴訟リスクを未然に防ぐことの価値は、一度問題が表面化した際の損失規模を考えれば、調達コストの増加を上回ることがほとんどです。コストの問題は「払うか払わないか」ではなく、「今払うか、のちに大きく払うか」の問題として捉え直す必要があります。

中小企業にとってのエシカル調達|取引継続の条件からブランドの武器へ

スタートアップや中小規模の企業が、エシカルな調達をブランドの核に据え、大手競合に対する明確な差別化ポイントとして打ち出す動きも出てきています。取引先の大企業から行動規範への署名を求められる立場から一歩進んで、自社の調達方針そのものを取引先や消費者に説明できる企業は、価格以外の選ばれる理由を持てるようになります。

すべての項目を一度に完璧にする必要はありません。まずは自社が扱う調達品目のうち、リスクが相対的に高いと考えられるものから着手し、できたところから開示していく姿勢のほうが、結果的に継続しやすい取り組みになります。

読者が今日から試せる1アクション

まず1つだけ試してみてほしいのは、自社の主要な調達品目を3つ選び、その生産国、産業、原材料を書き出してみることです。たとえば「アジア産の縫製品」「アフリカ産の農産物」「電子機器部品」といった品目が出てきたとき、それぞれにどのようなリスクが潜んでいるかを調べるスタート地点に立てます。書き出した3品目それぞれについて、人権リスク、環境リスク、腐敗・紛争鉱物リスクの3つの観点で「高・中・低」を仮でつけてみるだけでも、自社が抱えるリスクの輪郭が見えてきます。経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」はウェブで公開されており、チェックリスト形式で自社の現状を確認できます。まずこの1ページを開くことが、最初の具体的な一歩です。

企業の具体的なサステナビリティへの取り組みをより幅広く知りたい方は、以下のカテゴリーもあわせてご覧ください。

まとめ|エシカル調達を自社ごととして考えるために

エシカル調達は「やる気のある大企業が自主的に進めるもの」から、「規制・投資家・取引先からの要請に応える対応」へとその位置づけが変わりつつあります。

  • エシカル調達とは、コスト・品質・納期に加えて人権・労働・環境・腐敗防止を調達基準に組み込む方針
  • 日本は経産省の人権DDガイドライン、欧州はCSDDDが軸となり、規制の細部は今も見直しが続いている
  • 取り組みは「マッピング→行動規範の策定・共有→モニタリングと開示」の3段階で進める
  • コストを理由に後回しにすることは、長期的にはより大きなリスクコストを招く
  • まず主要調達品目3つを書き出し、経産省ガイドラインのチェックリストと照合することが最初の一歩

参考文献

  • 経済産業省・外務省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(2022年・https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913001/20220913001.html)
  • 国際労働機関(ILO)「Global Estimates of Modern Slavery」(2022年・https://www.ilo.org/resources/publications/global-estimates-modern-slavery-forced-labour-and-forced-marriage)
  • 欧州委員会「Corporate Sustainability Due Diligence」(2024年・https://commission.europa.eu/business-economy-euro/doing-business-eu/corporate-sustainability-due-diligence_en)

本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。

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