児童労働問題とサプライチェーンの関係は、チョコレート、スマートフォン、Tシャツといった身近な製品の原材料をたどると見えてきます。国際労働機関(ILO)は、就業の最低年齢に満たない子どもの労働や、18歳未満の危険で有害な労働などを児童労働と位置づけています。ILOとユニセフの最新推計では、2024年に約1億3800万人の子どもがこの状態にありました。この記事では、最新の数字、リスクが集まりやすい品目、日本の制度と企業の動き、よくある誤解、私たちが買い物の場面でできる確認までを順に整理します。
世界の児童労働は2024年に約1億3800万人|増加から減少に転じた最新推計
最初に、最新の数字を確認します。以前は「2020年に約1億6000万人、2016年から増加」という推計が広く紹介されていました。2025年6月に公表された新しい推計では状況が更新されています。
2020年から2024年で2200万人以上減少
ILOとユニセフが2025年6月に公表した推計では、2024年に児童労働の状態にある子どもは約1億3800万人でした。世界の子ども全体の約8%にあたります。このうち約5400万人は、健康や安全、発達を損なうおそれのある危険有害労働に就いています。
2020年から2024年にかけて、児童労働の子どもは2200万人以上、危険有害労働の子どもは2500万人減りました。2000年の約2億4600万人と比べると、ほぼ半分です。2016年から2020年にかけての増加は、ひとまず反転したことになります。
ただし、国際社会が掲げた「2025年までの児童労働の撤廃」という目標は達成できませんでした。減ってはいても、1億人を超える子どもが今も働かされているのが現状です。
農業が6割、地域ではサブサハラ・アフリカに集中
産業別では、農業が約61%、サービスが約27%、工業が約13%です。カカオやコーヒー、綿花のような一次産品の生産現場が、依然として大きな割合を占めています。家族単位の小規模な農業が中心で、労働基準の監督が届きにくいことが背景にあります。
地域別では、サブサハラ・アフリカに全体の3分の2近く(約8700万人)が集中しています。この地域では割合こそ24%から22%に下がりましたが、人数はほぼ横ばいです。人口の増加が、割合の低下を打ち消している形です。
数字から読み取れる3つのこと
数字の読み方には注意が必要です。まず、減少傾向になったとはいえ、改善は一様ではありません。地域や産業によって差が大きく、現場の実態は平均値からは見えにくくなります。
次に、ILOとユニセフは、社会保障や教育、生計支援の予算が削られれば、家計が苦しくなった家庭が子どもを働かせる方向に戻りかねないと警告しています。児童労働は、一度減れば自動的に減り続ける問題ではありません。
最後に、両機関は各国政府に対し、法律の執行と、サプライチェーン全体での企業の責任を求めています。児童労働は単なる貧困問題にとどまらず、企業の調達の問題として扱う流れが強まっています。
サプライチェーンのどこでリスクが高まるのか|カカオ・綿花・鉱物
児童労働はあらゆる国・業種で起こり得ますが、原材料の調達段階にリスクが集まりやすい品目があります。
カカオ|西アフリカの調査が示した現実
米国労働省の委託で行われた調査(2018〜2019年の農家調査、2020年公表)によると、世界最大のカカオ産地であるコートジボワールとガーナで、推計約156万人の子どもがカカオ生産に関わる児童労働に従事していました。そのうち約95%が、危険有害労働の要素に1つ以上さらされていたと報告されています。
注目すべきは、児童労働の割合が10年前より上がっていたことです。2008〜09年の調査で31%だった割合は、2018〜19年に45%となりました。同じ期間にカカオの生産量は62%増えています。生産が拡大しても、農家の収入や学校へのアクセスが追いつかなければ、子どもの労働は減らないことをこの数字は示しています。
米国労働省のリストに載る品目
米国労働省国際労働局(ILAB)は、児童労働または強制労働によって生産されたとされる物品のリストを公表しています。2024年9月時点の版には、82の国・地域の204品目が掲載されています。
綿花は、農産物のなかでも特に掲載の多い品目の一つで、縫製品も載っています。カカオやチョコレートも掲載品目です。さらに、バッテリーに使われるコバルト鉱石や、金のような鉱物も含まれます。
このリストは「その国の製品が危険」と断定するものではなく、リスクを点検する出発点として使うものです。ただ、私たちが毎日使う製品の原料が、これだけ幅広く対象になっている点は知っておく価値があります。
「見えない」ことが最大のリスク
こうした品目に共通するのは、原料の産地と最終製品の距離が遠いことです。小規模農家や手掘りの鉱山から、仲買人、加工業者、メーカー、小売店へと何段階も経由すると、最終製品を作る企業でさえ原料の出どころを正確に把握できない場合があります。
そのため、児童労働のリスクを減らす取り組みは、「自社の工場」ではなく「何次も先の取引先」まで目を向ける必要があります。ここから先は、日本の制度と企業の動きを見ていきます。
日本の制度は今どうなっているのか|指針・行動計画・海外の規制
日本では、児童労働を含む人権への配慮について、法律による罰則つきの義務ではなく、政府の指針と行動計画を軸に企業へ働きかけてきました。
2022年の指針と2023年の実務参照資料
経済産業省を含む関係府省庁は、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しました。日本で事業を行うすべての企業が対象で、規模や業種で区別されていません。自社だけでなく、取引先も含めて人権への負の影響を特定し、防止し、是正する「人権デュー・ディリジェンス」の進め方が示されています。
2023年4月には「実務参照資料」も公表されました。人権方針の記載例や、リスクを洗い出すための考え方が盛り込まれ、中小企業の担当者が実務で使いやすい形になっています。ガイドラインも実務参照資料も、法的な拘束力はありません。
2025年12月の行動計画改定
外務省は2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」を策定していました。この計画は2025年12月24日、関係府省庁連絡会議で改定が決まりました。改定版でも、人権デュー・ディリジェンスとサプライチェーンが優先分野の一つに位置づけられています。
一方で、労働団体などからは、人権デュー・ディリジェンスの法制化について具体的な記載がないと指摘する声も出ています。日本は現時点では、法的義務を課すのではなく、企業の自主的な取り組みを促す段階にあるといえます。
海外の規制は見直しの局面に
ヨーロッパでは、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)が採択されていますが、2025年に対象範囲を絞る見直し(オムニバス)が議論されました。報道や法律事務所の解説によれば、2025年12月に欧州議会と理事会が合意し、対象は従業員5000人超かつ売上高15億ユーロ超の企業に絞られる方向とされています〔最終的な施行時期や詳細は要確認〕。
対象が絞られても、日本企業が無関係になるとは限りません。EU域内で大きく事業をする企業の取引先として、人権への対応を求められる場面は残るからです。また、ガイドラインに法的拘束力がなくても、取引先や投資家からの要請という形で、実質的な水準が決まっていく面もあります。
日本企業の取り組みを比べる|カカオ分野の例
制度が努力義務の段階にあるなかで、企業はどう動いているのでしょうか。ここでは、児童労働の指摘が多いカカオ分野に絞って、複数の動きを見ます。
業界横断のプラットフォーム
国際協力機構(JICA)は2020年1月に、「開発途上国におけるサステイナブル・カカオ・プラットフォーム」を立ち上げました。2022年9月には、児童労働の撤廃に向けた「セクター別アクション」が策定され、賛同する企業・団体は17にのぼります。2024年2月には、その取り組み状況をまとめたレポートも公表されました。
取り組みの例として、児童労働の撤廃に取り組む地域の原料や認証原料の優先的な調達、サプライチェーン上のリスクへの対応、生産国での教育支援や学校環境の改善などが挙げられています。森永製菓は2022年9月に、このアクションへの賛同を表明しています。ロッテなど他の菓子メーカーも、共同コミットメントに参画したと報じられています。
明治のサステナブルカカオ豆
明治は、農家支援を実施した地域で生産されたカカオ豆を「明治サステナブルカカオ豆」と呼び、調達比率を2020年度の40%から引き上げてきました。2024年7月の発表では、2024年度に100%となる見通しで、当初の2026年度目標を2年前倒しするとしています。
ここで読み取るべきは、この指標の意味です。これは「農家支援を実施した地域の豆の比率」であり、「児童労働が起きていない豆の比率」ではありません。明治自身も、児童労働や森林減少は一企業では解決しにくい課題だとしています。数字の定義を確かめながら読む姿勢が、グリーンウォッシングを避けるうえでも大切です。
企業の発表を読むときの3つの視点
複数社の発表を比べるとき、次の3点を見ると違いが分かりやすくなります。
- 調達の対象は何か(カカオ豆だけか、チョコレートの全原料か)- 数値の定義は何か(支援地域の比率か、児童労働の発生状況を確認した比率か)
- 第三者が確認しているか(認証や外部監査があるか)
どの企業も同じ段階にいるわけではなく、同じ「100%」でも意味が違うことがあります。
児童労働をめぐる誤解を整理する
児童労働を調べるときや発信するときに、よく見られる誤解があります。
「その国の商品を買わなければ解決する」
特定の国や品目をやめれば解決する、という考え方は、現場に別のリスクをもたらします。児童労働の背景には、農家の貧困や学校の不足といった構造的な要因があります。単純な不買は、農家の収入を減らして家計を苦しくし、かえって子どもが働く圧力を強める可能性があります。
企業の側から見ても、問題のある地域から調達をやめる「撤退」は、リスクを自社の外に追い出すだけで、現地の状況を改善しません。国際的な指針は、取引を続けながら改善に関与することを基本としています。
「認証マークが付いていれば安心」
フェアトレードやレインフォレスト・アライアンスなどの認証は、児童労働のリスクを下げる仕組みとして役立ちます。ただし、認証は、決められた基準と監査の仕組みを満たしていることを示すものです。リスクがゼロであることの保証ではありません。
認証の有無を「答え」として受け取るのではなく、どんな基準で、誰がどう確認しているのかまで見ておくと、判断がぶれにくくなります。
「企業が取り組んでいるから、もう解決している」
企業の取り組みが進んでいるのは事実ですが、前述のとおり、世界ではなお約1億3800万人が児童労働の状態にあります。企業の発表は「取り組んでいる」ことの証拠であって、「解決した」ことの証拠ではありません。進捗の数字を見ながら、課題が残る部分を理解しておくことが現実的です。
私たちにできること|買う前・買った後・情報を見る
個人の買い物だけで児童労働をなくすことはできません。それでも、需要側の関心は、企業が調達を点検する動機の一つになります。これからチョコレートやココアの需要が高まる時期でもあるので、身近な例で考えます。
買う前に確認する
最初の一歩は、商品のパッケージを見ることです。フェアトレード、レインフォレスト・アライアンスなどの第三者認証のマークがあるか、企業独自のカカオ調達プログラムが書かれているかを確認します。マークがなくても、公式サイトで調達方針が説明されている場合があります。
見つからないときは、「情報が出ていない」ことが分かるだけでも収穫です。すべてを認証品に切り替える必要はありません。いつも買う商品のなかから1つだけ、確認する習慣をつけるところから始められます。
企業の情報を見る・問い合わせる
企業の公式サイトでは、サステナビリティ報告書や人権方針が公開されていることがあります。児童労働や調達に関する記述を探し、どの範囲まで書かれているかを見てみてください。
気になる点があれば、問い合わせ窓口に原材料の調達について質問することもできます。回答の内容や、返答の誠実さも、企業を知る手がかりになります。
課題に取り組む団体の情報を追う
児童労働の是正に取り組むNGOや国際機関は、現場の状況や最新の推計を公開しています。ニュースで数字が出たときに、前提や出典を確かめる習慣があると、極端な見出しに流されにくくなります。
まとめ
児童労働は、遠い国の問題というより、私たちが手にする製品のサプライチェーンの先にある課題です。2024年の推計では約1億3800万人と、2020年より2200万人以上減りましたが、2025年の撤廃目標には届いていません。農業が約6割を占め、サブサハラ・アフリカに3分の2近くが集中しているため、原材料の調達段階が焦点になります。
日本では、2022年の指針と2025年12月の行動計画の改定を通じて、企業にサプライチェーンの人権への配慮を促す段階にあります。法的な義務ではないため、企業ごとの取り組みには差があります。企業の発表は、数値の定義と第三者の確認の有無まで読むと、実態に近づけます。
不買運動も認証マークも、それだけで問題を解決するものではありません。次にチョコレートやコーヒーを買うとき、パッケージの認証マークか調達方針を1つだけ確かめてみてください。その確認が、サプライチェーンへの関心を続ける最初の一歩になります。
- 世界の児童労働は2024年に約1億3800万人で、2020年から2200万人以上減ったが、2025年の撤廃目標は未達
- 約6割が農業分野で、カカオ・綿花・鉱物など原材料の調達段階にリスクが集まりやすい
- 日本は2022年の指針と2025年12月の行動計画改定で企業に人権デュー・ディリジェンスを促す段階にあり、法的義務ではない
- 企業の「100%」などの数値は、定義と第三者確認の有無まで読んで判断する
- 買う前に認証マークや調達方針を1つ確認することが、消費者の最初の一歩になる
参考文献
- ユニセフ「Despite progress, child labour still affects 138 million children globally – ILO, UNICEF」(2025年)
- 国際労働機関(ILO)「Child Labour」(2025年)
- 米国労働省国際労働局(ILAB)「Assessing Progress in Reducing Child Labor in Cocoa-Growing Areas of Côte d’Ivoire and Ghana」(2020年)
- 米国労働省国際労働局(ILAB)「List of Goods Produced by Child Labor or Forced Labor」(2024年)
- 経済産業省「日本政府は『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』を策定しました」(2022年)
- 外務省「『ビジネスと人権』に関する行動計画」(2025年)
- JICA「サステイナブル・カカオ・プラットフォーム」(2024年)
- 明治「明治サステナブルカカオ豆の調達比率100%を達成へ」(2024年)
- A&O Shearman「Agreement on the CSRD/CS3D Omnibus package」(2025年)

