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SDGs

私たちの食卓が地球を変える|サステナブルな食料システムとは何か、何が問題なのか

Photo by 2H Media on Unsplash

「食」は毎日の行為でありながら、地球規模の問題とつながっています。国連食糧農業機関(FAO)は、現行の食料システムが温室効果ガス排出量の約3分の1に関与していると報告しています。農地の拡大による森林破壊、化学肥料・農薬の過剰投入による土壌劣化、大量の食品ロス——これらはすべて「食料システム」という一つの連鎖の中で起きています。

サステナビリティ報道を続ける中で、取材先の農家や食品メーカー担当者から繰り返し聞いてきたのは、「何が問題なのかわかっていても、どこから変えればいいかわからない」という言葉でした。この記事では、サステナブルな食料システムの全体像を整理し、今の仕組みが抱える課題と、個人・企業・社会それぞれのレベルでできることを具体的に考えていきます。

「食料システム」という言葉が指すもの

「食料システム」とは、食べ物が生産されてから消費されるまでの一連のプロセス全体を指します。農地での栽培・畜産から始まり、加工・流通・小売・調理・消費、そして廃棄までが含まれます。FAOはこれを「フードシステム」と呼び、単に食物の移動経路だけでなく、それに関わる人々の生計、環境への負荷、文化的な意味合いまでを含む複合的な概念として定義しています。

私がこの概念に初めて正面から向き合ったのは、ある食品メーカーのサステナビリティ報告書を読んでいたときでした。原材料調達から物流・廃棄まで、「スコープ3」の排出量を開示しようとすると、自社のサプライチェーン全体を可視化しなければならない。担当者は「川上から川下まで把握しようとすると、初めて食料システムの複雑さに気づく」と話してくれました。

「生産」だけが問題ではない

食料問題というと農業技術や収量の話になりがちですが、実際には「作った後」にも大きな課題があります。日本では農林水産省が毎年「食品ロス量」を公表しており、2022年度の推計では約472万トンの食品ロスが発生したとされています(農林水産省・環境省発表)。これは国民一人あたり毎日おにぎり約1個分を捨てているに等しい量です。

生産現場だけでなく、流通の過程での廃棄、家庭での食べ残しという「見えにくいロス」にも目を向けなければ、システム全体の非効率は解消されません。

現行の食料システムが抱える3つの構造問題

取材を重ねる中で感じてきたのは、食料システムの課題が単独で存在しているのではなく、互いに絡み合っているということです。ここでは整理のために3つの軸に分けて説明しますが、実際には一つの問題が他の問題を悪化させるという連鎖が生じています。

環境への負荷

農業と食品産業は、温室効果ガス排出・土地利用・水消費の主要な要因です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によれば、食料・農業・土地利用に関連する温室効果ガス排出量は人為的な総排出量の21〜37%に達するとされています。特に畜産業はメタンや亜酸化窒素の排出が多く、飼料用作物の生産も含めると環境負荷は農業セクターの中でも際立っています。

加えて、農業用水が世界の淡水使用量の約70%を占めるともいわれ(FAO統計)、地下水の過剰汲み上げによる水資源の枯渇も深刻な問題として報告されています。農地への化学肥料の過剰投入は、水域への窒素・リンの流出(富栄養化)を引き起こし、生態系にも影響を与えます。

食の不平等と栄養格差

世界では約7億3000万人が飢餓状態にあるとFAOは2024年版の報告書で示している一方、世界人口の3分の1以上が過体重または肥満であるとも報告されています。「食料が足りない」問題と「食料が偏って届いている」問題が同時に存在している——これが現代の食料システムの矛盾です。

日本国内でも、子どもの貧困と栄養格差の問題は無視できません。栄養バランスの良い食事を毎日摂ることが経済的な制約によって難しい家庭が存在し、フードバンクや子ども食堂の活動が社会インフラとして機能しつつあります。食料の「量」だけでなく「質」と「アクセス可能性」を問うことが、サステナブルな食料システムを考えるうえで欠かせません。

農業の担い手不足と技術継承の危機

日本の農業従事者の平均年齢は68歳を超えているとされ(農林水産省「農業構造動態調査」)、担い手の高齢化と後継者不足は地域の食料生産基盤そのものを揺るがしています。これは日本に限らず、多くの国で農業離れが進んでいる問題です。持続可能な食料システムを設計しようとしても、農地を維持し知識を継承する人がいなければ実現できません。

スマート農業(IoTセンサーや自動化機械の導入)やアグリテックへの期待は高まっていますが、取材の経験上、技術導入コストが高く、規模が小さい農家ほど恩恵を受けにくいという構造的な課題があります。「デジタル化が進むほど、小規模農家が取り残される」という指摘は、現場で繰り返し聞いてきた言葉です。

サステナブルな食料システムへの転換|世界と日本の動き

課題が複雑なだけに、解決策もシステム全体を動かすアプローチが求められています。国際的には、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴール2(飢餓をゼロに)・ゴール12(つくる責任、つかう責任)・ゴール13(気候変動への対策)が食料システムと深く連動しています。

EUのファーム・トゥ・フォーク戦略

欧州連合(EU)は2020年に「ファーム・トゥ・フォーク(Farm to Fork)戦略」を発表しました。2030年までに化学農薬の使用を50%削減、化学肥料の使用を20%以上削減、有機農業を農地の25%以上に拡大することを目標として掲げています。「生産から食卓まで」のサプライチェーン全体をサステナブルに転換する取り組みとして、国際社会から注目されています。

ただし、この戦略に対しては農家側から「収量が減り、農家の収入が脅かされる」という反発も根強くあります。環境目標の達成と農家の生計保護をどう両立するか——この緊張は日本でも無縁ではありません。

日本の「みどりの食料システム戦略」

日本では農林水産省が2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定しました。2050年までに農林水産業のCO2排出ゼロ、化学農薬の使用量を50%低減(リスク換算)、化学肥料の30%低減、有機農業の面積を農地の25%(約100万ha)に拡大することを目標としています。

この戦略についてサステナビリティ担当の省庁関係者に話を聞いた際、「目標は野心的だが、実現のための中間ステップと財政支援の設計が課題だ」という声がありました。目標の設定と現場への落とし込みには、往々にして大きな距離がある——これは食料システムに限らず、SDGs推進全般に共通する課題です。

代替タンパクと食の選択肢の変化

食料システムを変える技術的アプローチとして、植物性代替肉・昆虫食・培養肉などの「代替タンパク」が注目されています。特に大豆や豆類を原料とした植物性タンパクは、従来の畜産に比べて土地・水・温室効果ガスの点で環境負荷が低いとされる研究が複数出ています。

一方で、代替肉製品の中には加工度が高く、塩分や添加物が多いものも存在します。「環境にいいから健康にもいい」と短絡的につなげるのは避けるべきで、この点は取材でも繰り返し確認してきました。食の多様化は進めつつも、栄養バランスの視点を手放さないことが大切です。

個人・企業・社会が動かすシステム変革

「システム」という言葉は大きく聞こえますが、それを構成しているのは一つひとつの選択と行動です。消費者・企業・行政のそれぞれのレベルで何ができるかを考えてみます。

消費者として食を選ぶ視点

食料システムを変える消費者行動として、よく挙げられるのが「地産地消」「旬の食材を選ぶ」「食品ロスを減らす」などです。ただ、これらを義務感で実行しようとすると長続きしません。私自身も「サステナブルな食事」を試みた際、最初の1か月で挫折した経験があります。毎食に価値観を込めるのは疲弊するからです。

継続できたのは、「週に1〜2食、旬の野菜を使った料理をつくる」という小さな習慣でした。完璧にやろうとするのではなく、食の選択肢に少し幅を持たせる感覚で続けることが、結果的にシステムへの働きかけになります。

企業のサプライチェーン開示と責任

食品メーカーや流通企業には、サプライチェーン全体の環境・社会影響を開示する動きが強まっています。ESG投資の観点から、機関投資家が企業に対して農業調達方針・フードロス削減目標・水リスク管理の情報開示を求めるケースが増えています。

実際に食品企業のサステナビリティ報告書を読み続けてきて気づくのは、「目標を掲げる企業」と「その目標の達成プロセスを定量的に追跡できる企業」の間には大きな差があるということです。数値目標の設定だけでなく、中間指標(KPI)と実績の透明な開示こそが、グリーンウォッシングとの境界線になります。

行政・政策が整える土台

有機農業の普及や食品ロス削減は、個人や企業の努力だけでは限界があります。日本では2019年に「食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)」が施行され、国・自治体・事業者・消費者それぞれの役割が明文化されました。フードバンクへの食品提供促進や、学校給食での地域食材活用など、政策と現場をつなぐ取り組みが各地で広がっています。

「変化はどこから起きるか」という視点

食料システムの転換は、政府が大きな目標を掲げることで起きるのか、企業が技術投資を増やすことで起きるのか、それとも消費者の選択が積み重なることで起きるのか。取材を続けてきて思うのは、「どこか一箇所から始まる」という発想自体がミスリードかもしれないということです。

EUのファーム・トゥ・フォーク戦略のように政策が先行したケース、植物性代替肉のように市場が先に動いたケース、フードバンクのように市民活動が制度を変えたケース——実際にはこれらが並行して動いています。「自分一人が何かをしても変わらない」という無力感は理解できますが、複数のレベルで同時に変化が起きているとき、個人の選択はその流れに合流することに意味を持ちます。

公開情報として整理できる傾向として、食料システム転換に取り組む組織・団体の多くが「消費者との接点」を最も重要な変革のドライバーの一つと位置づけているという点があります。食の選択は、政治的な意思決定と同じように、集合したときに市場と生産のあり方を変える力を持っています。

今日から試せる1アクション

まず今週、冷蔵庫の中にある食材だけで1食分の料理をつくってみてください。「あるもの調理」は食品ロス削減の最も直接的な行動であると同時に、自分の消費パターンを可視化する機会にもなります。特別な道具も追加購入も必要ありません。冷蔵庫の中を見渡す習慣が、食料システムを考える入口になります。

まとめ|食のシステムを変えるのは誰か

サステナブルな食料システムへの転換は、農業技術の話でも環境政策の話でもあり、同時に毎日の食卓の話でもあります。要点を整理します。

  • 現行の食料システムは温室効果ガス排出・食の不平等・担い手不足という3つの構造問題を抱えている
  • EUのファーム・トゥ・フォーク戦略や日本の「みどりの食料システム戦略」など、政策レベルでの転換が進んでいる
  • 企業には目標設定だけでなく、サプライチェーン全体の定量的な開示が求められている
  • 消費者の行動(食品ロス削減・旬の食材選択・地産地消)は、複数のレベルの変化と合流することで力を持つ
  • まず「冷蔵庫の中だけで1食」という小さな行動が、食料システムを自分ごとにする最初のステップになる

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