毎年、着られることなく廃棄される大量の衣服。ファッション業界が長年抱えてきたこの「大量廃棄」問題に、欧州連合(EU)がついに法的な歯止めをかけます。欧州委員会は2026年2月9日、売れ残り衣服・衣料品・履物の廃棄を禁止する新たな措置を採択しました。2026年7月19日からは大企業に対して適用が始まり、世界のファッション業界に大きな変革を迫っています。
なぜ今、「廃棄禁止」なのか|ファッション業界の大量廃棄問題
ファッション業界は「環境負荷の高い産業」として長らく指摘されてきました。
国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、アパレル業界は石油に次いで世界で第二位の汚染産業といわれています。
問題の核心にあるのが、需要を超えた大量生産と、その結果として生まれる売れ残り商品の廃棄です。
ヨーロッパでは毎年、売れ残ったテキスタイルの推定4〜9%が一度も着られることなく廃棄されており、その廃棄によって生じるCO₂排出量は約560万トンにのぼります。これは2021年のスウェーデン全体の正味排出量とほぼ同等の規模です。
ファッション産業は、大量生産・大量消費・大量廃棄により、製造にかかる資源やエネルギー使用の増加、ライフサイクルの短命化などから環境負荷が非常に大きい産業と指摘されるようになり、国際的な課題となっています。
日本国内に目を向けると、日本国内だけでも年間の端材排出量は約45,000トンで約1.8億着分に相当し、1年間に1回も着ない服が1人当たり35着あり、手放す際に約68%の衣類が可燃ごみや不燃ごみとして処分されているとされています。その量は1日あたりトラック120台分にのぼるといわれています。
EUが採択したESPR新措置の中身
2026年2月9日、欧州委員会は「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」に基づく新措置を採択し、売れ残り衣服・衣料品アクセサリー・履物の廃棄を防ぐための詳細なルールを定めました。
廃棄禁止の適用スケジュール
売れ残り消費財の廃棄禁止は、大企業には2026年7月19日から適用され、中規模企業には2030年7月19日から適用される予定です。
なお、中小・零細企業はこの廃棄禁止義務および情報開示義務の両方から免除されます。
「廃棄」の定義も明確に定められており、ESPRは「廃棄」を「製品を意図的に損傷させるか、再使用・修繕・再製造を目的とする場合を除き廃棄物として処分すること」と定義しており、埋め立てと焼却の両方が含まれます。
情報開示の義務化
廃棄禁止と並んで重要なのが情報開示の義務化です。
企業は廃棄した未販売在庫の量を公開開示することが求められ、ESGレポーティングが実際の業務領域に踏み込んでいきます。
2027年からは、企業はEU全域で統一されたテンプレートを使って、廃棄物として処分した未販売品の量を報告しなければなりません。
例外規定も設けられている
廃棄禁止には一定の例外も設けられています。
製品の取り扱い中に生じた損傷や返品後に発見された欠陥で費用対効果の高い修理ができない場合などは、例外的に廃棄が認められます。
また、少なくとも3つのEU域内の社会的経済団体、またはウェブサイトの容易にアクセスできるページで8週間以上寄付の申し出をしても受け入れられなかった場合
も例外として認められています。
サプライチェーン全体に波及する「デジタル製品パスポート」
今回の廃棄禁止措置と並行して、ファッション業界にさらなる変革をもたらすとされているのが「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入です。
ESPRはデジタル製品パスポート(DPP)の導入枠組みを含んでいますが、テキスタイル製品向けの具体的な要件は今後の委任法令によって定められる予定であり、義務化の時期や対象範囲については今後の動向を注視する必要があります。
DPPが導入されれば、ファッションブランドはすべての製品についてECサイト上またはラベルのQRコードでDPPを表示する必要が生じます。
これにより消費者は商品を購入する前に、その衣服がどこで・どのように作られ、環境にどのような影響を与えているのかを確認できるようになります。
世界のファッション企業に求められる対応
企業が2026年の適用開始に向けた準備を進める中、この変化はEU市場に商品を販売するブランドを中心に、グローバルなサプライチェーン全体に波及していく見込みです。
では具体的に、企業はどのような対応を迫られるのでしょうか。
企業が取り得る対応策としては、需要予測に人工知能を活用して過剰生産を最小化すること、売れ残り品を新デザインや限定コレクションに転換するアップサイクル、招待制セールによる在庫の静かな処分、新たな生産サイクルへのリサイクル、キュレーションされたアーカイブコレクションとしての再投入、またはパーソナライズ・変更サービスを通じた再販などが挙げられます。
グローバルなファッション企業へのメッセージは明確です。廃棄物管理はもはや任意のサステナビリティ施策ではなく、今後10年にわたって競争力を左右するコアなコンプライアンス要件になったのです。
日本の動きと私たちにできること
日本では、消費者庁・経済産業省・環境省の連携のもとサステナブルファッションを推進することを目的とした「サステナブルファッションの推進に向けた関係省庁連携会議」が2021年8月に発足し、
取り組みが進んでいます。ただし、EUのような強制力を持つ廃棄禁止規制はまだ存在していません。
私たち消費者にも大切な役割があります。
環境省によれば、現在よりも1年長く着ることで、日本全体として約3万トンの廃棄量の削減につながるとされています。
また、企業のサステナブルファッションへの取り組みを第三者機関によって証明する効果的な手段として国際認証があります。GRS(Global Recycle Standard)やGOTS(Global Organic Textile Standard)、Bluesignなど主要な認証は、素材・製品、環境保全、トレーサビリティ、労働・人権など多様な視点から審査されています。
購入する際にこうした認証マークを参考にすることも、サステナブルファッションを後押しする一歩です。
まとめ|規制が変える、服との向き合い方
EUが採択した今回の廃棄禁止措置は、ファッション業界の「大量廃棄」という構造的な問題に対する、史上最も強力な規制的対応のひとつです。
2026年から2030年にかけてEUはファッション製品の設計・生産・販売・廃棄の方法を根本から変える一連の規制を導入していきます。
日本を含む世界中のブランドがEU市場に商品を供給している以上、この規制の影響は国境を越えて広がります。「服をどう作り、どう売り、どう手放すか」という問いは、企業だけでなく私たち一人ひとりにも突きつけられています。まずは手持ちの1着を大切に長く着ること。そして買い物の際に素材や認証を確認すること。小さな行動の積み重ねが、ファッション産業の変革を後押しします。

