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ENVIRONMENT

気候リスクは「過小評価」されている|経済モデルの盲点と、年金・金融が直面する見えない損失

気候リスクは「過小評価」されている|経済モデルの盲点と、年金・金融が直面する見えない損失

気候変動のリスクは、いま世界の金融・経済モデルが想定するよりもはるかに深刻かもしれない――そう警告する報告書が、2026年に相次いで発表されています。損害額の見積もりが低すぎるために、年金基金や金融機関が知らぬ間に「気候リスク」にさらされているという指摘です。数字の裏側にある構造的な問題と、私たちの暮らしへの影響を読み解きます。

経済モデルが「気候の現実」を捉えきれていない

エクセター大学(Green Futures Solutions)が主導し、Carbon Tracker Initiativeとの連携でまとめた報告書「Recalibrating Climate Risk」は、各国政府・中央銀行・投資家が使う経済モデルが気候変動の被害を体系的に過小評価しており、特に気温上昇が2℃を超えた場合の極端な損害やカスケード効果(連鎖的な衝撃)をほとんど捉えられていないと指摘しています。
同報告書は、エクセター大学とCarbon Trackerの連携のもと、12カ国の68名の気候科学者による専門家判断を集約し、現行の「ダメージモデル」がどこで破綻しているかを分析したものです。

問題の核心は、現在広く使われている損害推計モデルが「平均気温」に焦点を当てすぎており、地域・局所での極端現象を十分に反映していない点にあります。
熱波・洪水・干ばつといった地域的・局所的な極端現象が引き起こす現実の損失は、世界平均気温に基づくモデルでは十分に捉えられないとされています。
気候リスクは時間をかけて蓄積・相互作用し、繰り返すショックが標準モデルでは捕捉しきれない「システミック(システム全体に波及する)危機」へと転化するとも指摘されており、2℃を超える温暖化シナリオでは不確実性とテールリスク(極端な損害が起きる確率)が急激に高まり、損失が膨らむほど正確な推計が難しくなるという構造があります。

「過小評価」が招く3つの危険

この問題が深刻なのは、モデルの誤りが現実の意思決定に直結するからです。

Carbon Trackerの創設者兼CEOは「欠陥ある経済的助言の結末は、投資家や政策立案者の間での広範な現状認識の甘さだ」と指摘し、科学者と経済学者の間の期待値のギャップが埋まらない限り、金融機関は気候リスクを慢性的に低く評価し続け、年金基金や納税者が危険にさらされ続けると警告しています。

具体的には、次の3つの領域でリスクが顕在化しつつあります。

①年金基金・長期投資家
長期投資家や年金基金は、気候変動リスクを分散投資によって回避することができないため、グリーン転換を加速することがポートフォリオのリスク低減と排出削減の両面で重要だという見方があります。

②金融システム全体
金融規制当局や中央銀行は、気候変動を「ニッチな環境問題」ではなく金融システムの安定を脅かす中心的な脅威として扱うべきだという認識が広まっています。

③政策・規制の立案
政策立案者・規制当局・投資家は、狭いGDPベースのシナリオへの依存から脱し、より予防的で堅牢かつ透明性の高いアプローチを採用する必要があるという提言も示されています。

損害の実績データが示す深刻な現実

気候リスクの過小評価は抽象的な話ではありません。ドイツの環境NGO・Germanwatchが2026年に発表した「気候リスク指数(Climate Risk Index)2026」は、極端気象が人命と経済に与えてきた実績値を示しています。

同報告書によれば、1995年から2024年の30年間で、9,700件を超える極端気象現象により83万2,000人以上の命が失われ、直接経済損失は約4兆5,000億ドルに上るとされており、気候関連災害の頻度と深刻度は上昇を続けています。
2024年だけを見ると、人為的な気候変動が世界中で数十億人に対して危険な暑さをもたらす日数を41日間増加させたとされており、2024年夏は記録上最も暑い夏となって20億人が30日以上の危険な暑さにさらされたといいます。

こうした実績値が、現行の経済モデルが想定してきた「損害推計」をすでに上回りつつあるとも指摘されています。

世界経済フォーラムも「環境リスク」を最大懸念に

世界経済フォーラム(WEF)が毎年発行するグローバルリスクレポートの2026年版は、10年間にわたる動乱の「後半戦」を迎える今、世界が直面するリスクを短期・中期・長期の3つの時間軸で分析しているとされています。
同レポートの調査では、今後10年の見通しについて、すべてのリスクカテゴリーの中で「環境リスク」が最も悲観的に捉えられており、多くの回答者が「混乱」または「嵐」のような状況を見込んでいるという見方があります。
同レポートはさらに、気候変動のショックが格差や社会的ストレスを深め、それが対応に必要な政治的・制度的能力をさらに弱めるというフィードバックループが働いていると分析しているとされています。

日本の金融機関にも問われる「シナリオ分析」の深度

金融庁は「気候関連リスクモニタリング室」を設置し、金融機関における気候変動対応の実態把握を進めているとされています。
金融庁が公表した「気候関連リスクに関する金融機関の取組の動向や課題」によれば、気候変動への対応を重要課題と位置づける金融機関が増えている一方、気候関連リスクは中長期にわたって顕在化するため従来のリスク管理の枠組みでは捉えにくく、また脱炭素移行を支援する資金供給によって排出量が一時的に増加するといった課題も浮かび上がっているとされています。

Carbon Trackerらが指摘する「モデルの限界」は、こうした日本の金融機関が直面するシナリオ分析の深化とも無縁ではありません。
環境省がかつて策定した銀行セクター向けの気候変動シナリオ分析実践ガイドも、移行リスクと物理的リスクの定量評価を通じて気候変動リスクを経営戦略に組み込むことを求めており、1.5℃シナリオを含む複数のシナリオで経営戦略の持続可能性を評価することの重要性を示しているとされています。

私たちにできること|「数字の外側」を問う視点を持つ

気候リスクの過小評価という問題は、政府や金融機関だけが対処すべき課題ではありません。年金や投資信託を通じて、私たちは知らず知らずのうちに気候リスクにさらされた資産に関与しています。

自分の年金や貯蓄がどんな資産に投資されているかを確認し、金融機関に対して気候リスク管理の方針を問うことは、個人にできる具体的なアクションのひとつです。企業や金融機関に対して「開示を求める」消費者・市民の声が、より堅牢なリスク評価を促す力になると考えられています。

「数字が示す安心」を鵜呑みにせず、モデルの限界や不確実性を意識しながら気候問題を考える姿勢が、これからの時代にはますます求められていきます。

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