売れ残った新品の服を焼却・廃棄することは、ファッション業界で長く「慣行」とされてきました。2026年2月9日、欧州委員会はその慣行を止める新規則を採択し、大企業への適用は7月19日にすでに始まっています。「売れ残った服を燃やす」時代を終わらせるこのEU新規則は、ファッションの廃棄問題を、作り方と売り方から問い直すものです。日本のブランドや、日本で服を買う私たちにも無関係ではありません。
この記事では、規則の中身と例外、日本の衣類廃棄の最新データ、国内企業の動きを整理します。秋の衣替えのいま、クローゼットの前でできる行動も紹介します。
EUが決めた「売れ残り廃棄禁止」の中身
欧州委員会は2026年2月9日、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」に基づく新しい措置を採択しました。未販売の衣類、衣料品アクセサリー、履物の廃棄を防ぐことが目的です。ニュースでは「廃棄禁止」と一言で語られますが、対象や例外、開示のルールまで読むと、実務に近い制度であることがわかります。
適用の日程と対象
欧州委員会の発表によると、廃棄の禁止と例外規定は、2026年7月19日から大企業に適用されました。中規模企業は2030年からです。この記事の公開時点(2026年10月)では、大企業向けの禁止はすでに有効になっています。
背景にあるのは、欧州委員会が示す推定値です。欧州では毎年、売れ残った繊維製品のうち4〜9%が、一度も着用されないまま廃棄されています。これに伴うCO2排出は約560万トンで、2021年のスウェーデンの総排出量(純排出)とほぼ同じ規模とされています。
禁止されないこと
注意したいのは、「売れ残りをすべて売り切らなければならない」という規則ではないことです。廃棄が認められるのは、安全上の理由や製品の損傷など、特定の正当な状況に限られます。国内の当局が遵守状況を監督します。例外を使う企業は、判断の根拠を示す書類を整えておく必要があるとされています。
一方で、再販売、寄付、再利用、リサイクルは、廃棄の代わりとして使えます。つまりこの規則が求めているのは「ゼロ在庫」ではなく、「廃棄を最後の手段にする」という順序の入れ替えです。
開示義務と標準フォーマット
もう一つの柱が情報開示です。企業は、廃棄した未販売の消費財について情報を公表する義務を負います。欧州委員会の発表では、開示の義務はすでに大企業に適用されており、中規模企業には2030年から適用されます。さらに、廃棄量を報告する標準フォーマットが、2027年2月から適用されます。
これまで外からは見えにくかった「どれだけ捨てたか」が、企業ごとの数字として並べて比べられるようになります。禁止そのものと同じくらい、この透明性が企業の在庫管理に影響すると考えられます。
なぜ売れ残った服は燃やされてきたのか
廃棄の背景には、衣類の売り方に組み込まれた構造があります。ファッションは流行の移り変わりが速く、シーズンが終われば商品の価値が急に下がります。ここでは、その構造と、EUより先に動いたフランスの例を見ます。
作りすぎと値引きの連鎖
FashionSnapの2024年の記事では、定価で売れる比率(消化率)が、1980年代には約7割だったのに対し、現在は約5割まで下がっていると紹介されています。残りはセールやアウトレットに回り、それでも売れなければ在庫として持ち越されるか、処分されます。
定価で売り切れない前提で多めに作り、値引きで調整する。この循環が続く限り、「余った分をどうするか」は避けられない問いになります。
寄付やリサイクルにも費用がかかる
「捨てるくらいなら寄付すればいい」という声は自然ですが、実務では壁があります。同じ記事では、海外への寄付には送料、税関手続き、繊維の組成ごとの仕分けといった負担があり、コンテナ輸送で500〜1000箱規模にならないとコストを吸収しにくいとの試算が紹介されています。
焼却して熱を回収する処理も、リサイクルとはみなされません。CO2は排出されます。廃棄を減らすには、禁止するだけでなく、受け皿となる流通・再販・再資源化の仕組みも整える必要があります。
フランスは2022年から先行している
EUに先んじて、フランスは2020年の循環経済法(AGEC法)で、売れ残った非食品の廃棄を禁じました。法律事務所Osborne Clarkeの解説によると、衣類などすでに拡大生産者責任の対象だった品目には2022年1月1日から、それ以外の品目には2023年12月31日から適用されています。
処理の優先順位は、まず困窮者を支援する団体などへの寄付、次に修理・清掃などを経た再利用、それが難しければリサイクルです。違反した企業には最大1万5000ユーロの行政罰金が科されるとされています。EUの規則は、このフランス型の考え方を域内全体に広げる動きと位置づけられます。
日本の衣類廃棄はいまどうなっているのか
EUの話は遠く感じられるかもしれません。ただ、日本の衣類の廃棄も大きな規模です。ここでは環境省の最新の調査をもとに、数字を確認します。
新規供給82万トンのうち、約56万トンが手放される
環境省の令和6年度調査(2025年3月公表のマテリアルフロー調査結果)では、国内の衣類の新規供給量は82.2万トンと推計されています。そのうち約7割にあたる55.8万トンが、事業所や家庭から手放されたと示されています。環境省の別資料では、約56万トンのうち家庭から出たものは約51万トンで、焼却などで処理されているとされています。
以前は「年間約48万トン」という数字がよく引用されていました。これは2022年を基準にした令和4年度の調査に基づく数字です。令和6年度の推計では、供給量も手放される量もそれより増えています。古い数字のまま語られていないか、確認が必要です。
なお、環境省はこの推計について、2024年時点で把握できる最新データから作ったもので、必ずしも2024年の実情そのものを表すわけではないと注記しています。
1年間に一度も着ていない服が、一人あたり約24枚
環境省のサステナブルファッションのページでは、1年間に一度も着ていない服が一人あたり約24枚あるとされています。2024年の衣類の供給量は約35億着で、1990年の約20億着の約1.8倍に増えました。服が家庭から出る量も、ごみとして焼却・埋め立てされる量も、毎日の暮らしの延長線上にあります。同ページでは、大型トラック約130台分の服が1日あたり焼却・埋め立て処分されているという換算も示されています。
EUが問題にした「売れ残りの新品」と、日本で多く出る「手放された服」は、出どころが違います。ただ、どちらも「作られた服が使い切られていない」という点でつながっています。
国の目標は2030年度までに廃棄を25%減
国の第五次循環型社会形成推進基本計画では、2030年度までに、家庭から手放される衣料品のうち廃棄されるものを、2020年度比で25%削減する方向が示されています。経済産業省と環境省は、2024年6月に「繊維製品における資源循環ロードマップ」を策定し、回収や技術基盤の整備を段階的に進めています。ただし、EUのように「新品の廃棄そのものを法で禁じる」制度は、日本ではまだ導入されていません。
日本の企業はどう動いているのか
日本の企業は、規制を待たずに在庫や回収の仕組みを変え始めています。ここでは、売れ残りを生まない作り方、手放された服を受け止める仕組み、業界横断の連携の3つに分けて見ます。
受注生産で作りすぎを避ける
ZOZOの「Made by ZOZO」は、注文を受けてから作る受注生産の基盤です。環境省の資料では、需要に応じた適正量を作れるため、過剰生産や売れ残りによる廃棄が出にくいと紹介されています。2022年には、ユナイテッドアローズのオンライン限定レーベルが第1弾として採用されました。
在庫を持たない作り方は、廃棄の「出口」を整えるより上流の対策です。ただし、すべての商品を受注生産に切り替えられるわけではなく、納期や価格とのバランスが課題になります。
店頭回収とリユース・リサイクル
オンワード、アダストリア、三陽商会などは、自社店舗での衣料品の回収を続けていると、業界資料で紹介されています。回収した服は、状態のよいものをリユース販売し、それ以外は固形燃料や毛布などに再資源化する、といった流れが取られています。
こうした回収は、消費者が手放した服を受け止める仕組みで、EUが問う「新品の売れ残り」への直接の対策ではありません。それでも、焼却や埋め立ての手前に出口を作るという点で、循環の入口にあたります。
業界横断のジャパンサステナブルファッションアライアンス
ジャパンサステナブルファッションアライアンス(JSFA)は、2021年に発足した企業連携の場です。2050年のカーボンニュートラルと、適量生産・適量購入・循環利用による「ファッションロスゼロ」を掲げており、2030年の目標も設定しています。2025年8月に一般社団法人になりました。
JSFAは政策面でも、セールが常態化した商習慣の見直しを国に求めるなど、1社では解決できない課題に取り組んでいます。古繊維が転売や古繊維業者に渡った後の追跡(トレーサビリティ)が弱い点も、論点として挙げられています。
よくある誤解と次の疑問に答える
ニュースを読んだ人が抱きやすい疑問を、順に整理します。
売れ残った服は、日本でもすべて燃やされているのか
そうとは限りません。売れ残り品の多くが廃棄されているという認識は実は誤りだ、という指摘もあります。多くは翌シーズンへの持ち越しやセール、転売に回るとされているためです。EUが4〜9%と推定するのも、「売れ残ったもの全体」ではなく、そのうち一度も着用されずに廃棄される分です。
問題の中心は「全部が捨てられている」ことではありません。「捨てるかどうかを、企業が見えない場所で決めていた」ことです。
EUの規則は日本のブランドに関係があるのか
EU域内で事業を行う大企業は対象になります。日本のブランドでも、EU市場で販売している場合は影響を受ける可能性があります。ただし、規則の対象は事業規模などの条件によって決まります。個々の企業にどう適用されるかは、各社の発表や専門家の解説を確認する必要があります。
直接の対象でなくても、世界で服を売るブランドが在庫の持ち方を変えれば、その影響は調達や生産の計画を通じて広がります。
規則で服の値段は上がるのか
現時点で、規則が価格にどう影響するかを示す公的な試算は見つかりませんでした。一般論としては、受注生産や在庫管理の高度化には費用がかかります。同時に、廃棄にかかっていた処理費用や、値引きによる利益の目減りを減らせる面もあります。値上がりすると断定はできません。
日本でも同じ規則ができるのか
環境省と経済産業省は、繊維製品の資源循環に関する検討を続けています。回収に向けた制度整備も議論されています。ただし、新品の売れ残りを法で禁じる制度が決まったという情報は、現時点では確認できませんでした。最新の状況は、環境省の審議会・検討会のページで確認できます。
秋の衣替えにできる、買い方と手放し方の見直し
規則は企業に向けたものですが、服が売れ残る一因は、買う側の選び方にもあります。いまは衣替えの時期です。クローゼットを開けるこの機会に、確認したいことを3つ挙げます。
買う前に着る場面を3つ思い浮かべる
新しい服を選ぶとき、「すでに持っている服と何通りの組み合わせで着られるか」「いつ着るか」を3つ思い浮かべてみてください。思い浮かばない服は、今回は見送る選択もあります。冬物のセールが始まる前のいまは、特に衝動買いが起きやすい時期です。
手放す前に、着られる服かどうかを見る
手放す服は、まず着られる状態かどうかで分けます。状態のよいものは、フリマアプリや古着店への売却、友人への譲渡といった「次の持ち主」に渡す方法があります。傷みの大きいものは、店頭回収や自治体の古着回収に出す方法があります。可燃ごみに混ぜるのは、いちばん最後の選択肢にします。
作る側の情報を見て選ぶ
ブランドの公式サイトで、在庫の扱いや回収の仕組みについて説明しているかを見るのも、選ぶ手がかりになります。EUで廃棄量の開示が標準化されれば、こうした情報はこれから増えていくと考えられます。「環境に優しい」といった言葉だけでなく、具体的な数字や仕組みが書かれているかに注目してください。
まとめ
EUの新規則は、売れ残った服の廃棄を「最後の手段」に位置づけ直しました。2026年7月19日から大企業に適用され、中規模企業は2030年からです。安全上の理由など例外はあり、寄付・再販・リサイクルは認められます。2027年2月からは廃棄量の標準的な開示も始まります。
日本では、環境省の最新調査で、新規供給82.2万トンのうち約7割の55.8万トンが手放されています。1年間に一度も着ていない服は、一人あたり約24枚とされています。日本の企業は、受注生産、店頭回収、業界連合による目標づくりなどで動き始めています。ただ、新品の廃棄を法で禁じる制度は、日本ではまだありません。
規則のニュースは、買う側の行動と切り離せません。まず1つだけ、衣替えで出てきた服の中から、一着を「次の持ち主」か回収に出してみてください。
- EUの廃棄禁止は2026年7月19日から大企業に適用され、中規模企業は2030年から。例外はあるが、寄付・再販・リサイクルは認められる
- 日本の衣類は新規供給82.2万トンのうち約55.8万トンが手放され、1年間一度も着ていない服は一人あたり約24枚
- フランスは2022年から先行し、日本企業も受注生産、店頭回収、JSFAなどで動き始めている
- 「売れ残りは全部燃やされる」は誤解。問題は、廃棄の判断と量が外から見えなかったこと
- 買う前に着る場面を想像し、手放す前に次の持ち主を探すことが、廃棄を減らす最初の一歩
参考文献
- 欧州委員会 環境総局「New EU rules to stop the destruction of unsold clothes and shoes」(2026年)
- 環境省「令和6年度 循環型ファッションの推進方策に関する調査業務 マテリアルフロー調査結果」(2025年)
- 環境省「サステナブルファッション」(2025年)
- Osborne Clarke「Prohibition on the destruction of unsold non-food products」(2021年)
- FashionSnap「ファッションのリサイクルをめぐる動き」(2024年)

