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ENVIRONMENT

レインガーデンとは?仕組み・作り方・効果を日本の事例とともに解説

レインガーデンとは?実践利用による環境保全と地域コミュニティへの貢献

都市部の集中豪雨による浸水被害が増えるなか、「雨水を地面に戻す」という発想が改めて注目を集めています。レインガーデンは、専用の植栽スペースと土壌構造で雨水を一時的に受け止め、ゆっくりと地下へ浸透させる仕組みです。大規模なインフラ工事を必要とせず、庭や公園の一角から始められる点が特徴で、国土交通省が推進するグリーンインフラ政策の重要な手法のひとつとして位置づけられています。この記事では、レインガーデンの基本的な仕組みから設置ステップ、植物の選び方、国内外の事例、そして導入時の注意点まで、実際に役立つ情報をまとめました。

レインガーデンとは何か

レインガーデン(Rain Garden)は、屋根・駐車場・道路などの不透水面から流れ出る雨水を一時的に集め、植物と土壌の力で浄化しながら地下に浸透させる、くぼみ型の植栽スペースです。英語圏では「bioretention cell(バイオリテンションセル)」とも呼ばれ、1990年代にアメリカのメリーランド州で住宅地の雨水対策として広まりました。

通常の庭とは異なり、周囲の地盤より5〜15cm程度低く掘り下げた構造になっています。底部には透水性の高い改良土(砂・堆肥・現地土の混合)が充填され、その上に耐水性の植物が植えられます。降雨時は一時的に水が溜まりますが、多くの場合24〜48時間以内に浸透・消失するため、蚊の発生源にはなりにくい設計です。

国土交通省は2019年に「グリーンインフラ推進戦略」を策定し、自然の仕組みを活かしたインフラとして雨水浸透施設や緑地帯の整備を推奨しています。レインガーデンはその代表的な手法として、自治体や住宅地・学校・公園での導入事例が増えています。

なぜ今、都市にレインガーデンが必要なのか

日本では1時間雨量50mm以上の「激しい雨」の年間発生回数が、1970年代と比べて2020年代には約1.4倍に増加したと気象庁が報告しています。一方、都市化の進展によってアスファルトやコンクリートで覆われた不透水面の割合は拡大し続けており、降った雨が短時間に河川・下水道へ集中しやすい状況が生まれています。

こうした背景のもと、グリーンインフラとして注目されているのが「源流での雨水コントロール」という考え方です。大規模な地下貯留槽や護岸整備だけに頼るのではなく、雨が降った場所のできるだけ近くで水を地面に戻す。レインガーデンはその思想を、住宅の庭や学校の校庭・街路樹帯のレベルで実践できるツールです。

さらに、都市部のヒートアイランド現象への対処という観点からも効果が期待されています。植物の蒸散作用と土壌の蒸発によって周辺気温を下げる「クールスポット」を生み出せるため、環境省が進めるヒートアイランド対策ロードマップにもグリーンインフラの活用が明記されています。

レインガーデンの仕組み|水はこうして地面に戻る

レインガーデンが機能するプロセスは、大きく4つの段階に分かれます。

①集水・導水

雨樋の排水口や駐車場の縁石に切り欠きを設けるなど、周辺の不透水面から雨水がレインガーデンへ自然に流れ込むよう地形を整えます。流入口には砕石や乱石を敷いて流速を落とし、土壌の侵食を防ぎます。

②一時貯留・浄化

くぼみに溜まった水は、植物の根と土壌中の微生物によって浄化されます。リン・窒素・重金属・石油系物質などの汚染物質が除去・吸着されるため、地下水や河川への流出量と汚染負荷を同時に減らせます。

③浸透

底部の透水性改良土を通じて、浄化された水が徐々に地盤へ浸透します。浸透速度は地盤条件に左右されますが、適切な土壌改良によって通常の庭地よりも3〜5倍速い浸透速度を確保できるとされています。

④オーバーフロー処理

設計容量を超えた大雨では、溢れた水を安全に排水できるオーバーフロー管(または低い縁の切り欠き)を設けます。この「安全弁」の存在が、周辺への浸水リスクをコントロールする重要な設計要素です。

レインガーデンの主な効果|環境・まち・人への影響

レインガーデンがもたらす効果は、雨水管理にとどまりません。研究・実証事業で確認されている主な効果を整理します。

雨水流出量の削減

アメリカのEPA(環境保護庁)の試算では、適切に設計されたレインガーデンは同面積の芝生と比べて約30〜40%多くの雨水を浸透させるとされています。住宅密集地で複数のレインガーデンを面的に展開すると、ピーク流量を大幅に低減でき、下水道の負荷軽減につながります。

水質の改善

植物・微生物・土壌のフィルタリング効果により、道路面を流れる初期降雨(ファーストフラッシュ)に含まれる懸濁物質・栄養塩・重金属の除去効果が報告されています。都市型面源汚染の低減に有効な手段として、水環境政策の文脈でも評価されています。

ヒートアイランドの緩和

植物の蒸散と土壌水分の蒸発によって潜熱冷却が促進されます。舗装面に比べて地表温度を数℃下げる効果が確認されており、街区スケールでの温熱環境改善が期待されています。

生物多様性の向上

在来植物を植えることで、チョウ・ハナバチ・小鳥などの生物に採食・繁殖の場を提供できます。都市部に点在するレインガーデンが「グリーンコリドー(緑の回廊)」として機能すれば、生態系ネットワークの維持にも貢献します。

地域コミュニティの形成

設置・維持管理に住民が関わることで、自然や水環境についての環境学習の場となります。公園や歩道沿いのレインガーデンは景観を向上させ、住民の愛着と地域コミュニティの結束を育む効果も実証例から報告されています。

国内外の事例|レインガーデンはどこで機能しているか

レインガーデンの導入は世界的に広がっており、日本国内でも自治体・企業・学校などが実証実験や本格整備を進めています。

ポートランド(アメリカ)|街路レインガーデンの先進都市

アメリカ・オレゴン州ポートランド市は、2000年代から「グリーンストリート」プログラムとして街路沿いに1,000か所以上のレインガーデン(バイオスウェール)を整備しました。市の報告によると、このプログラムによって年間数億ガロン規模の雨水が下水道に流入せずに地下へ浸透しており、合流式下水道からの越流(CSO)削減にも貢献しています。景観の向上と歩行者環境の改善という副次効果も高く評価され、他都市のモデルケースとなっています。

シンガポール|ABC Waters Programme

シンガポール政府の「Active, Beautiful, Clean Waters Programme(ABCウォーターズプログラム)」は、国内の水路・貯水池の整備にレインガーデンや湿地型緑地を組み合わせた取り組みです。2006年の開始以降、100か所以上のプロジェクトが完了しており、洪水リスクの低減と都市の生態系再生を同時に実現しているとされています。高温多湿の気候条件や高密度の都市構造を持つ点で日本との共通点が多く、参考事例として国内研究者にも取り上げられています。

東京都・川崎市などの取り組み

国内では東京都が「東京都グリーンインフラ推進方針(2021年策定)」のなかで、公共施設や民間開発への浸透施設・緑地整備を促す方針を示しています。川崎市では市街地の浸水対策として透水性舗装と組み合わせた雨水浸透マスの設置が進んでいるほか、学校の校庭を活用したレインガーデン的な雨水浸透ゾーンの実証も報告されています。また、北海道大学のキャンパス内に研究目的で設置されたレインガーデンは、寒冷地における凍結・融雪期の挙動を含む長期データを提供しており、北日本への適用可能性を示す先進事例として研究者から高く評価されています。

設置の基本ステップ|自宅・学校・地域で始めるには

レインガーデンの設置規模は、数平方メートルの家庭菜園サイズから公共緑地まで幅広く対応できます。ここでは、住宅敷地や小規模緑地を想定した基本的なステップを紹介します。

ステップ1|集水面積と浸透能力の確認

まず、レインガーデンに水を導く集水面(屋根・舗装面など)の面積を測ります。一般的な目安として、集水面積の2〜4%程度の面積をレインガーデンに割り当てると、10年確率程度の降雨に対応できるとされています。また、設置予定箇所の土壌浸透性を確認するために「浸透テスト(ペルクテスト)」を行い、1時間あたりの浸透速度を把握しておくと、底部の土壌改良量を適切に設計できます。

ステップ2|掘り下げと土壌改良

設置場所を5〜15cmほど掘り下げ、砂(50〜60%)・堆肥(20〜30%)・現地土(20〜30%)を混合した改良土を充填します。粘土質の強い地盤では、底部に砕石層を設けたり排水管を埋設したりすることで浸透効率を補完できます。建物の基礎から最低でも60cm以上離すことを推奨します。

ステップ3|植物の選定と植え付け

レインガーデンの植物には「過湿にも乾燥にも耐えられる」種が求められます。日本在来種のなかでは、ノハナショウブ・ミソハギ・フキ・サワギキョウ・ヤナギ類などが湿潤環境に適しています。一方、縁部や乾燥しやすいゾーンにはスゲ類・ハナビシソウ・ススキなど乾燥耐性のある植物を配置すると、雨の有無にかかわらず年間を通じて健全な景観を保てます。外来種による生態系への悪影響を避けるため、可能な限り在来植物を優先することが推奨されています。

ステップ4|マルチング・仕上げ

植え付け後、木材チップや小石などのマルチング材を5cm程度敷きます。雑草の抑制・土壌水分の保持・土壌侵食の防止という3つの効果があります。流入口付近は乱石や礫を敷いて流速を落とし、土壌の流出を防ぎます。

ステップ5|定期的なメンテナンス

設置後1〜2年は植物が根付くまで適度に補水が必要です。枯死した株の補植・マルチングの補充・流入口の詰まり除去を年1〜2回行えば、おおむね長期的に機能を維持できます。落ち葉が大量に堆積すると浸透機能が低下するため、秋冬の清掃も重要です。

レインガーデン導入時の注意点と現実的な課題

レインガーデンには多くのメリットがある一方、導入を成功させるには事前に把握しておくべき制約もあります。

地盤・地下水位の確認が必須

地下水位が高い場所や粘土質で浸透速度が極端に遅い地盤では、水が長時間停滞して根腐れや悪臭の原因になります。浸透テストで1時間あたりの浸透量が13mm以下の場合、底部排水管の設置や設計の見直しが必要です。また、浄化槽・地下埋設物から適切な距離を確保することも安全上欠かせません。

初期コストと維持管理コスト

住宅レベルの小規模なものであれば材料費・施工費で数万円から始められますが、公共施設や大規模開発での整備では設計・施工費が100万円以上になることもあります。ただし、既存の雨水貯留タンクや透水性舗装と比較したライフサイクルコストでは競争力がある場合も多く、自治体によっては雨水浸透施設への助成金制度(東京都の「雨水浸透・貯留施設設置助成」など)が利用できます。

植物管理の継続性

設置後の管理が途絶えると、雑草に侵食されて在来植物が失われ、浸透機能も低下します。学校や地域で設置する場合は、管理体制と担当者を事前に決めておくことが長期的な成功のカギです。コミュニティで管理することで、環境学習や住民の自然との接点を生み出す機会にもなります。

効果の過大評価を避ける

レインガーデンは万能ではありません。時間50mmを超えるような短時間の集中豪雨では、単独のレインガーデンが対応できる雨水量に限界があります。グリーンインフラとして機能させるには、街区・地域スケールで複数の施設を組み合わせる面的な展開が重要です。

まとめ|身近なところから雨水の流れを変える

レインガーデンは、雨水を地面に戻すという本来の自然の循環を都市のなかで取り戻す仕組みです。洪水リスクの低減・水質の改善・ヒートアイランドの緩和・生物多様性の向上・コミュニティの結束という多重の効果を、一つの植栽スペースが担えます。大規模なインフラ整備を待たなくても、自宅の庭や学校の一角から実践を始められるスケールの柔軟性も大きな特徴です。

国土交通省や東京都をはじめとする行政機関がグリーンインフラ政策を本格化させているいま、個人・地域・自治体が協力してレインガーデンを面的に展開することが、気候変動時代の都市の強靭化につながります。

この記事で取り上げたポイントを振り返ります。

  • レインガーデンは雨水を集め・浄化し・地下へ浸透させる植栽スペースで、グリーンインフラの代表的手法
  • 気象庁データが示す集中豪雨の増加と都市不透水面の拡大が、導入を急ぐ社会的背景
  • 水質改善・ヒートアイランド緩和・生物多様性向上など、雨水管理を超えた多重効果がある
  • ポートランドやシンガポールの先進事例、日本国内でも自治体・大学の実証が進む
  • 設置は集水面積の計算・土壌改良・在来植物の選定・定期メンテナンスの4ステップで進められる
  • 地盤条件の確認・初期コスト・管理体制の確保が導入成功のカギ

まず、自宅の雨樋の排水先を眺めてみてください。そこに50cm四方のくぼみを掘り、在来種を一株植えるだけでも、雨水の流れは少しずつ変わり始めます。

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