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SOCIETY

日本の「ケアラー問題」を数字で読み解く|ヤングケアラーとダブルケア、支援の探し方

Photo by Akin Cakiner on Unsplash

「ケアラー」という言葉を、ニュースやSNSで見かける機会が増えてきました。家族の介護や看護、療育、日常的な世話を無償で担う人を指す言葉で、対象は高齢の親を介護する現役世代だけでなく、幼いきょうだいの世話をする子どもにも広がります。筆者は大学で環境政策を研究し、国や自治体が公表する統計・報告書を読み解く作業を日常的に行っていますが、ケアラーをめぐる公的データも同じように「誰が」「どれくらいの規模で」担っているのかを丁寧に追うと、輪郭がかなりはっきり見えてきます。この記事では、日本国内で報告されている調査データを軸に、世代ごとに異なるケアラーの実態と、使える支援制度の探し方を整理します。

ケアラーとは何を指す言葉か

ケアラーとは、病気や障害、高齢などにより支援が必要な家族・近親者を、無償で介護・看護・世話する人を指す言葉として使われています。10代で家族の世話を担う子どもは「ヤングケアラー」、子育てと親の介護が同時期に重なる人は「ダブルケア」、仕事をしながら家族を介護する人は「ビジネスケアラー」と呼び分けられることもあります。まずはこの言葉の広がりを押さえたうえで、日本でどのような規模・特徴で問題化しているのかをデータで見ていきます。

日本におけるケアラーの実態、世代別に見えてくる違い

ケアラーが直面する負荷は、年代によって性質がかなり異なります。ここでは公的な調査で報告されている数値を手がかりに、世代別の実態を整理します。

ヤングケアラー、学業と家庭の両立という負荷

厚生労働省と文部科学省が実施した実態調査では、中学2年生のおよそ5.7%、全日制高校2年生のおよそ4.1%が「世話をしている家族がいる」と回答したと報告されています。学年が上がるにつれて世話の内容も、幼いきょうだいの送迎から、家事全般、親の情緒面の支えまで多岐にわたる傾向が指摘されています。子ども自身が「自分がケアラーだ」と自覚していないケースも多く、統計に表れる数字はあくまで氷山の一角と捉えたほうが実態に近いと考えられます。

ダブルケア、子育てと親の介護が重なる40代

内閣府が実施した調査では、育児と介護を同時に担う「ダブルケア」状態にある人が全国で20万人台半ばにのぼると推計されたと報告されています。晩婚化・晩産化により出産年齢が上がったことで、子どもがまだ小さいうちに親の介護が始まるケースが増えており、対象年代は30代後半から40代に集中する傾向が見られます。

ビジネスケアラー、働きながら介護をする現役世代

総務省統計局の就業構造基本調査では、家族の介護や看護を理由に離職する人が全国で年間およそ10万人規模にのぼると報告されてきました。介護離職は本人のキャリアやその後の生活設計に直接影響するだけでなく、企業側にとっても経験を積んだ人材の流出という形で表れます。厚生労働省が介護休業制度の周知や両立支援に力を入れているのも、この規模の離職が長年続いてきた背景があるためです。

なぜ「問題」として顕在化したのか

ケアラーの存在自体は以前から社会に存在していましたが、近年になって政策課題として明確に扱われるようになった背景には、いくつかの構造的な変化があります。少子高齢化により支援を必要とする高齢者の数が増える一方で、核家族化や共働き世帯の増加により、家庭内で介護を分担できる大人の人数は減っています。結果として、一人当たりのケア負担が重くなりやすい構造ができています。

この流れを受けて、こども家庭庁が2023年4月に発足し、ヤングケアラー支援を子ども政策の重要テーマの一つに位置づけました。子ども・若者育成支援推進法などの関連法の改正により、ヤングケアラーという言葉が法律上初めて明記されたとも報告されています。定義が明文化されることで、学校や自治体がヤングケアラーを早期に把握し、福祉サービスにつなげやすくなる効果が期待されています。

ケアの負担が女性に偏りやすいという指摘も見逃せません。育児・介護のいずれにおいても、主たる担い手を女性が務める家庭が多いことは複数の統計で繰り返し示されており、ケアラー問題はジェンダーの課題とも密接に結びついています。

支援制度を使いこなす、ケアラーの種類別に相談先を選ぶ

ケアラー支援は縦割りで整備されてきた経緯があり、「誰が」「どこに」相談すればよいかが分かりにくいという声も少なくありません。筆者自身、行政資料を横断的に読むと、相談窓口が対象年齢や状況ごとに細分化されていることに気づかされます。ここでは、実際に使える相談先の入口を種類別に整理します。

  • ヤングケアラー(子ども・若者本人):学校のスクールソーシャルワーカー、市区町村の子ども家庭相談窓口、児童相談所
  • ダブルケア(育児と介護が重なる世帯):市区町村の地域包括支援センターと子育て支援窓口の両方に相談し、ケアマネジャーと保育・子育て支援の担当者を同時に把握する
  • ビジネスケアラー(働きながら介護する現役世代):勤務先の人事・両立支援担当窓口、介護休業・介護休暇制度の利用相談、地域包括支援センター

ポイントは、一つの窓口だけで完結させようとしないことです。ヤングケアラーであれば学校と福祉部局、ダブルケアであれば高齢者福祉と子育て支援の両部署というように、複数の窓口をまたいで情報を共有してもらうことで、支援の抜け漏れを減らせます。

自治体条例の広がりが示すもの

埼玉県は2020年3月、全国で初めてケアラー支援を明文化した条例を制定したと報告されています。この条例はヤングケアラーを含むケアラー全般を対象とし、行政・事業者・県民それぞれの役割を定めた点が特徴です。その後、北海道や三重県、栃木県など複数の自治体で同様の条例制定が続いていると報告されており、国の法整備を待たずに地域レベルで先行して支援の枠組みを整える動きが広がっています。

こうした自治体間の差は、裏を返せば「住んでいる場所によって使える支援の手厚さが異なる」ことも意味します。転居や進学のタイミングで支援が途切れないよう、自分の住む自治体にケアラー支援条例や関連施策があるかどうかを一度確認しておく価値があります。

今日からできる小さな一歩

制度や統計を知るだけでは、目の前の負担は軽くなりません。もし今、自分自身や身近な人がケアラーとして家族の世話を担っていると感じたら、まずは地域包括支援センター(高齢者の介護が関わる場合)か、学校・市区町村の子ども家庭相談窓口(子どもが世話をしている場合)のどちらか一つに、状況を話してみることから始めてみてください。窓口を一つ選んで連絡するだけでも、そこから必要な制度や他の窓口につながる入口になります。

まとめ

ケアラー問題は、子どもから現役世代まで幅広い年代にまたがる課題であり、負担の性質も世代によって異なります。公的な調査データを手がかりに実態を把握し、自分の状況に合った相談窓口を選ぶことが、支援につながる第一歩になります。

  • ケアラーには子どものヤングケアラー、育児と介護が重なるダブルケア、働きながら介護するビジネスケアラーなど複数のタイプがある
  • こども家庭庁や自治体条例など、支援の枠組みが近年整備されつつある
  • 相談窓口は一つに絞らず、状況に応じて複数の部署に情報共有してもらうことが支援の抜け漏れを防ぐ

本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・自治体公式情報をもとに作成しています。

参考文献

  • こども家庭庁「ヤングケアラーについて」(cfa.go.jp)
  • 厚生労働省「ヤングケアラーの支援について」(mhlw.go.jp)
  • 総務省統計局「就業構造基本調査」(stat.go.jp)

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