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SOCIETY

日本の「ケアラー問題」を数字で読み解く|ヤングケアラーとダブルケア、支援の探し方

Photo by Akin Cakiner on Unsplash

日本の「ケアラー問題」とは、病気や障害、高齢などで支援が必要な家族を、無償で介護・看護・世話している人が抱える負担の問題です。担い手は、親を介護する現役世代だけではありません。きょうだいや親の世話をする子ども(ヤングケアラー)、育児と介護が重なる人(ダブルケア)、仕事を続けながら介護する人(ビジネスケアラー)まで、年代ごとに形が違います。この記事では、公的な統計で規模を確かめたうえで、自分や身近な人がどこに相談すればよいかを整理します。

この記事で学べること

  • 介護をしている人は全国で629万人で、そのうち365万人が働いていること
  • ヤングケアラー、ダブルケア、ビジネスケアラーそれぞれの規模と特徴
  • 「家族だから当たり前」と思われやすい場面で、誤解されがちな点
  • 立場別の相談先と、2025年4月から変わった仕事と介護の両立ルール
  • ケアラー支援条例など、住んでいる地域で差が出る支援の確かめ方

数字で見る日本のケアラー|介護をしている人は629万人

まず全体の規模から確認します。総務省統計局の「令和4年(2022年)就業構造基本調査」は、5年に一度、全国の就業と介護の状況を調べる基幹統計です。ケアラー問題は個々の家庭の事情に見えやすい一方で、この調査を見ると社会全体の構造として現れています。

介護をしている人は629万人、働いている人は365万人

同調査の結果の概要によると、介護をしている人は全国で629万人です。そのうち仕事をしている人(有業者)は365万人で、介護をしている人に占める有業者の割合は58.0%でした。5年前より2.8ポイント上がっています。

この数字は、介護が「仕事を辞めた人や定年後の人の課題」ではなくなっていることを示しています。介護をしている人の半数以上が、仕事と並行して担っているのが現状です。

介護を理由にした離職は、直近1年で11万人

同じ調査では、介護・看護のために前の仕事を辞めた人が、過去5年間で47万人と報告されています。このうち離職した時期が直近1年間の人は11万人で、5年前より1万人増えました。

「介護離職」という言葉は広く知られるようになりましたが、数字の上では減っていません。介護休業などの制度が整ってきた一方で、制度が実際の相談や利用に結びついていない場面が残っていると考えられます。

ビジネスケアラーは2030年に318万人の見通し

経済産業省は2024年3月、「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表しました。この資料では、仕事をしながら家族を介護するビジネスケアラーが2030年に約318万人になり、経済損失が約9.2兆円に上ると試算されています。

損失の大半は、離職そのものよりも、働き続けながら介護することによる労働生産性の低下が占めるとされています。つまり、介護は辞めた人だけの問題ではありません。働き続けている人にも負荷がかかっていることが、企業側の課題としても認識され始めています。

ヤングケアラーの数字|中学2年生の約17人に1人が家族の世話をしている

ケアラーのなかで、もっとも見えにくいのが子どもたちです。国が初めて全国規模で調べたのは、2020年度から2021年度にかけての実態調査でした。ここでは、そのデータと、その後の動きを順に見ていきます。

全国調査が示した割合

厚生労働省と文部科学省による全国調査では、「世話をしている家族がいる」と答えた割合は、小学6年生で6.5%、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生で4.1%、大学3年生で6.2%でした。中学2年生の5.7%は、およそ17人に1人にあたります。

学校のクラスに置き換えると、1クラスに1人いてもおかしくない規模です。世話の相手は、きょうだいが多いとされ、そのほかに親や祖父母などが挙げられています。

世話にかける時間は、平日で1日4時間前後

負担の重さを示すのが、世話にかける時間です。同じ調査では、世話をしている中学2年生の平日1日あたりの平均は4.0時間、全日制高校2年生は3.8時間でした。1日7時間以上を世話に使っている生徒も、中学2年生で11.6%、高校2年生で10.7%いました。

学校にいる時間と同じくらいの時間を、家庭の世話に使っている子どもが一定数いることになります。宿題や睡眠、友人と過ごす時間にどう影響するかは、一人ひとりの家庭状況によって変わりますが、時間の長さそのものが無視できない水準にあります。

18歳を過ぎると、見つけにくくなる

2025年度に実施された、こども家庭庁の調査研究事業(子ども・子育て支援等推進調査研究事業)でも、実態の把握が続いています。報告では、ヤングケアラーという言葉の認知度は中学生から若者までのどの年代でも5割を超えた一方、18歳以上のヤングケアラーは学校などの所属先や中心となる支援機関がはっきりしないことが多く、把握が課題とされています。

高校を卒業すると、学校という「気づいてくれる場」から離れます。そのため、統計に表れる数字は、実際の人数より少ない可能性があります。

ダブルケアの数字|育児と介護が重なる人は約25万人

次に、育児と介護が同時期に重なるダブルケアです。晩婚化・晩産化で出産の年齢が上がるほど、子どもが小さいうちに親の介護が始まる可能性が高まります。ここでは、公的な推計とその読み方を整理します。

内閣府の推計は約25万人、女性が約7割

内閣府は2016年4月、「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」の結果を公表しました。ダブルケアを担う人は全国で約25万人と推計され、内訳は女性が約17万人、男性が約8万人でした。女性が約7割を占めています。

この推計は10年前のものです。その後に出生や高齢化の状況が変わっているため、現在の人数はこの数字とは異なる可能性があります。それでも、ダブルケアの負担が女性に偏りやすいという構造は、いまの相談現場にもあてはまると考えられます。

窓口が二つに分かれていることが、負担を重くする

ダブルケアのやっかいな点は、相談先が縦割りになりやすいことです。親の介護は地域包括支援センターやケアマネジャー、子育ては市区町村の子育て支援窓口や保育施設と、担当が分かれています。

それぞれの担当者が、相手方の状況まで把握しているとは限りません。説明を二度、三度と繰り返す手間が、時間の余裕がない世帯にとって大きな負担になります。ダブルケアの人が最初に確認したいのは、どちらの窓口でも「もう一方の状況」を共有してもらえるか、という点です。

誤解されやすい3つのポイント

ケアラーの話題では、「当たり前」「かわいそう」「辞めるしかない」といった受け止め方が、支援から遠ざける場面があります。ここでは、当事者の視点から誤解が起きやすい3点を取り上げます。

「家族だから当たり前」が、相談をためらわせる

家族の世話は、多くの人にとって日常の一部です。だからこそ、本人も周囲も「これは相談するような問題ではない」と考えやすくなります。

ヤングケアラーの場合は特にそうです。子ども自身が「自分はケアラーだ」と気づいていないことがあります。ただし、自覚があるかどうかと、支援を受けてよいかどうかは別の話です。負担が学業や睡眠、人間関係に影響し始めたら、自覚の有無にかかわらず相談してよい状況といえます。

家族の世話は、悪いことでも「かわいそうなこと」でもない

家族の世話を担っている子どもや若者の多くは、家族を大切に思っています。世話をしていること自体を否定したり、「かわいそう」と決めつけたりすると、かえって本人が口を閉ざしてしまうことがあります。

ヤングケアラー支援で目指されているのは、世話をやめさせることではありません。学ぶ時間、友人と過ごす時間、自分の将来を考える時間が守られる状態をつくることです。周囲の大人にできるのは、まず話を聞き、本人の気持ちを尊重することです。

介護休業は「自分で介護しきる」ための休みではない

仕事と介護の両立では、介護休業の位置づけがよく誤解されます。厚生労働省は、介護休業を「介護の体制を構築するための休業」と説明しています。つまり、自分が長期間介護に専念するための休みではなく、介護サービスの利用や家族の分担といった体制を整えるための期間です。

対象家族1人につき、通算93日まで、3回に分けて取得できます。雇用保険からは、休業開始時の賃金日額に支給日数と67%を掛けた額が、介護休業給付金として支給される仕組みです。辞める前に、まずこの制度の相談から始めることが、離職を避ける近道になります。

立場別の相談先の探し方

相談先は、状況ごとに入口が違います。ここでは、ヤングケアラー、ダブルケア、働きながら介護している人の三つに分けて、最初に連絡する窓口を整理します。一つの窓口で解決しようとせず、最初の一歩をどこにするかを決めることが大切です。

ヤングケアラーの場合

こども家庭庁の特設サイト「その気持ち、話していいんだよ」では、相談先として、学校の先生やスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、都道府県や市区町村の窓口(こども家庭センターなど)、地域のヤングケアラー支援団体が案内されています。サイト内の相談窓口検索で、お住まいの地域の窓口を探すこともできます。

本人が自分から言い出しにくい場合は、周りの大人から声をかける方法もあります。学校の担任や養護教諭、地域の大人が「困っていることはない?」と聞くだけでも、話しやすい環境になります。

ダブルケアの場合

最初の窓口として現実的なのは、地域包括支援センターです。介護の状況を話したうえで、子育て中であることも合わせて伝え、市区町村の子育て支援窓口やこども家庭センターへの連絡や情報共有を頼みます。

どちらかの窓口にすべてを任せるのではなく、「両方の担当者に状況を知っておいてほしい」と伝えるのがコツです。この一言で、後から相談する側の説明の手間が減ります。

働きながら介護している場合

2025年4月1日に施行された改正育児・介護休業法により、介護についても企業の義務が増えました。厚生労働省の解説によると、従業員が家族の介護に直面したと申し出たとき、会社は介護休業などの制度や申請先、介護休業給付金について個別に知らせ、利用の意向を確認する必要があります。あわせて、介護離職を防ぐための雇用環境の整備や、介護休暇を取得できる人の要件緩和、介護のためのテレワーク導入も盛り込まれました。

つまり、勤務先の人事や両立支援の担当窓口に「家族の介護が始まりそうです」と伝えれば、制度を案内してもらえる仕組みが整いつつあります。同時に、介護サービスの利用手続きは地域包括支援センターで進められるため、勤務先と地域の窓口の両方に当たるのが基本です。

自治体の実践|ケアラー支援条例と国の動き

支援の厚みは、住んでいる地域によって差が出ます。国の制度に加えて、自治体が独自にケアラー支援の枠組みを持つ動きが広がっています。ここでは、先行した自治体の取り組みと、国の法整備を確認します。

埼玉県は2020年3月に全国初の条例を制定

埼玉県は2020年3月、「埼玉県ケアラー支援条例」を全国で初めて制定しました。条例では、ケアラーを「高齢、障害、疾病などで援助が必要な親族や友人、身近な人に、無償で介護、看護、日常生活上の世話などを提供する者」と定義し、そのうち18歳未満をヤングケアラーとしています。

県は条例に基づいて推進計画を策定する義務があり、現在は2024年度から2026年度までを対象とする第2期のケアラー支援計画が進められています。年齢を区切らず、ケアラー全体を対象にしている点が特徴です。

条例は全国の都道府県・市町村に広がっている

地方自治総合研究所がまとめている一覧によると、ケアラー支援を定める条例は、埼玉県のほか、北海道、茨城県、栃木県、岐阜県、長崎県、鳥取県、秋田県などの都道府県、京都市やさいたま市などの市町村にも広がっています。議員提案で制定された自治体もあれば、首長提案で制定された自治体もあります。

条例のある自治体では、行政が実態調査や相談体制の整備を進める根拠になります。転居や進学のタイミングで支援が途切れないよう、お住まいの自治体にケアラー支援の条例や計画があるかを、一度確認しておくと安心です。

国の法整備|ヤングケアラーが支援の対象に明記された

国の動きとしては、2024年6月の子ども・若者育成支援推進法の改正で、ヤングケアラーが「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、国や地方公共団体などが支援に努めるべき対象に明記されました。家族などに対しても、相談や助言といった援助を行うよう努めることとされています。

法律に位置づけられたことで、学校や福祉の窓口が連携して、ヤングケアラーを早く見つけて支援につなげる根拠ができました。

まとめ

日本のケアラー問題は、数字で見ると規模の大きさがはっきりします。介護をしている人は629万人で、その6割近くが働いています。子どもでは、中学2年生の約17人に1人が家族の世話をしています。育児と介護が重なる人も、2016年の推計で約25万人にのぼりました。

一方で、制度や窓口は整いつつあります。ヤングケアラーは法律で支援の対象になり、介護と仕事の両立についても企業の義務が増えました。自治体ごとの条例も広がっています。ただし、窓口が分かれているため、状況に合わせて入口を選ぶ必要があります。

来月11月11日は「介護の日」です。これを機に、ご自身や身近な人の状況に近い窓口を一つだけ調べて、場所と連絡先をメモしておくところから試してみてください。

  • 介護をしている人は629万人で、そのうち365万人が仕事をしながら担っている
  • ヤングケアラーは中学2年生で5.7%、世話にかける時間は平日1日4時間前後と報告されている
  • ダブルケアは窓口が分かれるため、どちらの担当にも状況を共有してもらうと負担が減る
  • 2025年4月から、介護に直面した従業員への個別周知と意向確認が企業に義務づけられた
  • ケアラー支援条例の有無など、支援の厚みは地域で異なるため、住んでいる自治体の確認が役に立つ

参考文献

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