オムレツ、卵焼き、プリン、マヨネーズ。たまごは食卓に欠かせない食材ですが、たまごアレルギーで食べられない人や、食生活の考え方から食べないことを選んだ人もいます。同じ食卓を囲んでも、全員が同じ料理を食べられるとは限りません。
その溝を埋める存在として、植物性原料だけでつくる「たまご」が登場しています。東京のスタートアップ「UMAMI UNITED JAPAN」が開発する植物性たまご「UMAMI EGG」は、こんにゃくときくらげを使って、加熱すると固まる性質とうまみを再現した素材です。この記事では、その仕組みと日本企業の導入の動きを紹介します。あわせて、「卵不使用」の食品を選ぶときに確認したいポイントも整理します。
日本の食卓とたまご|食べられない人、食べない人がいる現実
日本は、たまごをよく食べる国として知られています。国際鶏卵委員会(IEC)の統計をもとにした資料では、日本人1人あたりの年間消費量は300個を超え、メキシコに次ぐ世界2位水準とされてきました。年によって順位や個数は入れ替わるため、「世界でもトップクラスに多い」と捉えるのが正確です。
数字が大きくなる理由は、料理に使う卵だけではありません。マヨネーズやドレッシング、パンやお菓子、麺類のつなぎなど、加工食品の中にも多くの卵が使われています。自分では卵を食べた意識がなくても、1日のうちに何度も口にしている人は少なくありません。
たまごアレルギーの現状
食物アレルギーの原因として、たまごは今も最も多い食物のひとつです。消費者庁の令和6年度の報告書では、即時型食物アレルギーの全国実態調査(6,033例)のうち、原因食物の最多は鶏卵で26.7%(1,609例)とされています。容器包装された加工食品では、卵を含む場合にその旨を表示することが義務づけられています。
食べない選択をする人たち
食べられない人だけでなく、考え方や生活のなかで食べないことを選ぶ人もいます。ヴィーガンやベジタリアンの食生活を送る人、動物性食品を減らしたい人、体調や健康面を考えて控える人などです。理由はさまざまで、どれが正しいという話ではありません。
同じ食卓に並べにくい料理
困るのは、こうした人が同じ席にいるときです。誕生日のケーキ、学校給食、ホテルのビュッフェ、友人との集まりなど、卵を使う料理は多く、別メニューを用意する手間や、「自分だけ違うものを食べる」気まずさが生まれます。植物性たまごが目指しているのは、この小さな分断をなくすことです。
卵の価格と供給のゆらぎ|鳥インフルエンザで見えた「卵に頼る」リスク
たまごを植物性に置き換える動きには、食べられない人への配慮に加えて、供給面の理由もあります。卵は鳥インフルエンザの流行の影響を受けやすく、価格が大きく動いてきました。
農林水産省の価格動向調査では、2025年12月8日から10日の全国平均小売価格(10個入りパック・サイズ混合)が308円となり、調査開始以来の最高値を記録しました。それまでの最高値は2023年7月の306円です。2024年の冬から2025年の初めにかけて鳥インフルエンザが流行し、供給の回復が途上にあるなかで冬の需要が重なったことが背景にあると報じられています。
卵の価格が上がると、影響を受けるのは家庭の食費だけではありません。業務用の卵を大量に使うベーカリーや洋菓子店、惣菜メーカーにとって、原材料費と安定した調達は経営に直結します。
食品メーカーにとっての事情
食品メーカーの立場では、卵の価格や供給が不安定な時期に、一部を植物性の素材で代替できれば、調達先を分散できます。アレルギー対応商品を増やしたい、ヴィーガン向けメニューを用意したいというニーズにも、同じ素材で応えられます。
環境面で語られていること
環境の観点でも、動物性食品を植物性に置き換える動きは続いています。飼料の生産に必要な土地、家畜の飼育にともなう温室効果ガスの排出などが、食の環境負荷として議論されてきました。ただし、植物性だから常に環境負荷が小さいと言い切るには、原料の産地や製造時のエネルギーまで含めた評価が必要です。本記事では、環境に優しいと断定はせず、「選択肢が増えること」の意味に絞って紹介します。
UMAMI UNITED JAPANと植物性たまご「UMAMI EGG」の仕組み
「UMAMI UNITED JAPAN」は、植物性たまごの研究開発と販売を手がける日本の会社です。「日本のUMAMIでプラントベースをもっとおいしく」をミッションに掲げ、食の垣根のない世界を目指しています。看板商品が、植物性たまご「UMAMI EGG」です。
UMAMI EGGは、植物性の原料だけでつくられた素材で、豆乳などと混ぜて加熱すると固まります。惣菜の調理やお菓子づくりに使えるため、たまごの代わりとして、オムレツ風の料理から焼き菓子まで幅広く試せます。
ふんわり食感を支える「こんにゃく」
たまごの魅力は、加熱するとふんわり固まる食感です。UMAMI EGGの食感づくりに使われているのが、こんにゃくです。こんにゃくが持つ「加熱で固まる」「形を保つ」「水分を抱える」といった性質を生かして、たまごのふわっとした見た目と口当たりに近づけています。凝固剤としてにがり(豆腐づくりにも使われるもの)を組み合わせていると紹介されています。
黄色い色合いは、カボチャとニンジンの粉末で出しています。着色料に頼らず、野菜の色を生かしている点も、素材としての特徴です。
うまみを担う「きくらげ」
たまごのコクやうまみは、きくらげから抽出しています。UMAMI UNITEDは、麹菌などの酵素を使った発酵技術で、食材からうまみを引き出す研究を進めてきたとされています。
きくらげを選んだ背景には、アップサイクルの発想があります。同社の説明によれば、農地に設置した太陽光パネルの下でも育てやすい作物としてきくらげの栽培が広がり、規格外のものが余っていたことに着目したということです。余りがちな食材に新しい使い道を与える点が、素材のストーリーになっています。
機能を分解して組み立てる設計
2025年10月の資金調達の発表では、UMAMI EGGの設計思想が紹介されています。卵の働きを「加熱凝固性」「気泡性」「乳化性」「結着性」に分解して数値化し、用途に合わせて組み合わせる「機能モジュール」の考え方です。焼き上がりの膨らみや口どけなど、時間とともに変わる食感も調整できるとされています。
「たまごっぽい味のもの」を一品つくるのではなく、パンにも麺にも惣菜にも使える「卵の代わりの素材」として設計されている点が、ほかの代替食品との違いです。
広がる導入先|UMAMI UNITEDとケンコーマヨネーズなど複数の動き
植物性たまごは、実験的な食品から、食品メーカーの現場で使われる素材へと動き始めています。ここでは、確認できる範囲の事例を紹介します。
UMAMI UNITEDは2025年10月、プレシリーズAの追加ラウンドで3億1,000万円を調達したと発表しました。投資家には、mint、Beyond Next Ventures、ジェネシア・ベンチャーズ、SMBCベンチャーキャピタル、ユナイテッド、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルが並びます。資金は、研究開発、製造拠点の立ち上げ、人材採用、北米を中心とした海外展開などに充てるとされています。
業務用として使われる現場
同社の発表によると、UMAMI EGGは国内外のベーカリー、製麺、惣菜メーカーに、業務用の粉末や液体として提供されています。つまり、現時点では消費者がスーパーで袋入りのUMAMI EGGを手に取る形よりも、食品メーカーやホテルなどが商品づくりに使う素材としての導入が中心です。
製造拠点を整えて量産体制をつくれば、価格競争力が高まり、用途が広がるとも説明されています。卵に代わる素材として定着するかどうかは、味や食感に加えて、価格が現実的な水準になるかにかかっています。
大手メーカーとの共同開発
ケンコーマヨネーズ株式会社は、UMAMI UNITED JAPANとの共同開発による「まるでたまご®のサラダ」を、2023年10月16日に発売しました。たまごを使わず、豆乳とアーモンドをベースにした植物由来の原料でつくった商品で、野菜のペースト調味料でコクを出し、パンに塗りやすい粘度に整えたと紹介されています。
外食や中食向けの製品を多く手がけるメーカーが、植物性のたまご風サラダを商品化した点は、この分野の広がりを示す動きです。
試食の場で出た声
UMAMI UNITEDは、2021年11月に大阪で開催された「日本の食品輸出エキスポ」で試食の機会を設けています。来場者からは、「味も香りもたまごそのもの」「たまごアレルギー対応として給食で使いたい」「コレステロールが気になる消費者に喜ばれそう」といった声があったと紹介されています。
学校給食、ホテルのビュッフェ、お菓子づくりなど、使われる場面が具体的に想像されている点は、アレルギー対応と、食の選択を尊重する動きの両方に接点があることを示しています。
「卵不使用」と「アレルギー対応」は同じではない|選ぶときの確認点
植物性たまごに期待が集まる一方で、誤解されやすい点があります。それは、「たまごを使っていない」ことと、「誰が食べても安全である」ことは別だという点です。
たまごアレルギーの人にとって、卵不使用であることは大切な条件です。ただし、卵の代わりに使われた原料が、別のアレルゲンになる場合があります。たとえば、豆乳を使えば大豆、アーモンドを使えば木の実類が関係します。消費者庁の令和6年度の報告書では、木の実類による即時型食物アレルギーが過去の調査から増えているとされています。また、消費者庁の食物アレルギー表示のページによると、2026年4月1日にカシューナッツが特定原材料に追加されました。
食品を選ぶときの確認点
次の点を確認すると、選ぶときの失敗を減らせます。
- 原材料表示とアレルゲン表示で、卵以外のアレルゲン(大豆、木の実類など)が含まれていないかを見る
- 製造ラインで卵を使う他の製品と共用していないか、注意書きを確認する
- 家族やゲストにアレルギーがある場合は、医師の指示を優先し、メーカーに製品ごとの対応を問い合わせる
「植物性」「卵不使用」「ヴィーガン対応」という表現は、アレルギー対応を保証する表示ではありません。商品ごとに、表示の中身を確認してください。
食べない選択をする人への配慮
ヴィーガンやベジタリアンの人にとっては、卵を使っていないことに加えて、動物由来の添加物が入っていないかも気になる点です。この点も、商品ごとの表示で確認する必要があります。
植物性たまごは、食の選択肢を増やす方法のひとつですが、すべての人の事情を一つの商品で解決できるわけではありません。「この人は何を避けたいのか」を聞いたうえで、一緒に食べられる料理を選ぶ姿勢が、いちばん確実な配慮になります。
味と栄養の違いをどう受け止めるか
UMAMI EGGを使った料理は、見た目や食感がたまごに近いと紹介されています。それでも、本物のたまごとまったく同じ栄養成分になるわけではありません。「代用品」として期待しすぎず、「もうひとつのおいしい食材」として受け止めるほうが、気持ちよく付き合えます。
「ONE TABLE」の考え方|一緒に食べられる食卓へ
UMAMI UNITED JAPANは、「全ての人々が一つのテーブルで繋がれる未来を創りたい」という考えを掲げています。たまごが好きな人も、食べられない人も、食べない選択をした人も、同じ料理を囲める食卓です。
この考え方で大切なのは、植物性たまごが「食べられない人のための特別食」ではなく、みんなで食べる料理の素材になることです。別メニューを用意するのではなく、最初から全員が食べられる一品をつくれば、食べられない人が気を遣う場面が減ります。
家庭でのはじめ方
UMAMI EGGは主に業務用の素材ですが、同社は公式サイトでハンバーグやお好み焼き、ケーキなどのレシピを公開しています。また、公式のオンラインストアでは、プリンやカスタードクリームを手軽につくれる「らくぷりんミックス」のような商品も紹介されています。購入できる商品や販売状況は変わるため、最新の情報は公式サイトで確認してください。
これからの季節に向けて
これから年末にかけては、クリスマスケーキやお菓子づくり、家族や友人が集まる機会が増える時期です。例年、冬は卵の需要が増えるともいわれます。
集まりの前に、参加する人の食の事情を聞いておくことは、植物性たまごを使うかどうかに関わらず役立ちます。そのうえで、卵を使わないお菓子を一品だけ用意してみると、「一緒に食べる」体験の違いを感じやすいはずです。
まとめ
日本はたまごをよく食べる国ですが、アレルギーや食生活の考え方によって、たまごを食べられない人や食べない人もいます。卵の価格や供給が鳥インフルエンザの影響で揺れてきたこともあり、植物性の代替素材への関心が高まっています。
UMAMI UNITED JAPANのUMAMI EGGは、こんにゃくで食感を、きくらげでうまみを再現した素材です。ベーカリーや惣菜メーカーなどへの導入が進み、ケンコーマヨネーズとの共同開発商品も生まれています。ただし、卵不使用であることは、すべてのアレルギーに対応していることを意味しません。原材料表示を確認する習慣が、食卓を安心して共有するための土台になります。
- 日本はたまごの消費量が多く、加工食品にも卵が広く使われている
- 令和6年度の調査では、即時型食物アレルギーの原因として鶏卵が最多(26.7%)だった
- UMAMI EGGは、こんにゃくの凝固性ときくらげのうまみで、たまごの食感と風味を再現している
- 導入は主に業務用で、ケンコーマヨネーズとの共同開発など複数の動きがある
- 卵不使用でも、大豆や木の実類など別のアレルゲンが入る場合があるため、表示の確認が欠かせない
参考文献
- THE BRIDGE「植物性代替卵「UMAMI EGG」開発が3.1億円調達、量産と海外拡大へ」(2025年)
- リセマム(PR TIMES配信)「ケンコーマヨネーズ株式会社との共同開発「まるでたまご®のサラダ」10月16日新発売」(2023年)
- 消費者庁「令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書」(2024年)
- 消費者庁「食物アレルギー表示」(2026年)
- 秋田魁新報(共同通信配信)「鶏卵、最高値308円に 1パック、平年比27%高」(2025年)
- UMAMI UNITED JAPAN 公式サイト

