数年前までカフェやコンビニで当たり前のように渡されていた紙ストローが、日本で見直されつつあります。スターバックス コーヒー ジャパンは2025年1月から紙製をやめて植物由来の新素材ストローへ切り替え、ストローを使わずに飲める蓋を採用するチェーンも出てきました。
環境政策の公開資料を読む立場から見ると、この流れは「紙ストローは失敗だった」という単純な話ではありません。何を減らしたかったのか、代わりに何が増えたのか、制度は何を求めているのかを順に確認すると、私たちが次の一杯で選べる行動が見えてきます。
この記事では、企業の公表内容と環境省の資料をもとに、日本の紙ストローの現在地と、今日からできるストローの選び方を整理します。
日本で紙ストローが広がり、見直されるまで
紙ストローの広がりと見直しは、海洋プラスチック問題への関心と、企業の使い捨てプラスチック削減方針が重なって進みました。まずは時系列で、日本の主な動きを確認します。
2019年から2020年に進んだ「脱プラスチックストロー」
国内の大手チェーンで早かった例のひとつが、セブン-イレブンです。2019年11月から、セブンカフェのアイスコーヒーなどで、カネカの生分解性ポリマー「PHBH」を使ったストローが順次導入されました。紙ではなく、海水中でも生分解するとされる植物由来の素材を選んだ点が特徴です。
スターバックス コーヒー ジャパンは、2020年1月から国内店舗でFSC認証の紙製ストローの提供を始めました。2021年9月には太い口径の紙ストローも加わっています。この時期は、ストローを紙に替えることが「環境に配慮している」ことの分かりやすい目印になっていました。
2025年に起きた紙からの転換
2025年1月23日、スターバックスは沖縄県内の全32店舗で、カネカの生分解性バイオポリマー「Green Planet」製のストローを先行導入しました。同社の公表では、バイオマス度は99%、海水や土壌の微生物によって二酸化炭素と水に分解される素材とされています。3月上旬から全国へ順次広げる計画も示されました。
切り替えの背景として報じられているのは、紙ストローが長く使うとふやけやすいという飲み心地への意見です。環境面の理由だけでなく、使う人にとっての使いにくさも転換の要因になったと読み取れます。
ストローそのものを減らす動きと海外の揺り戻し
素材の入れ替えとは別に、ストローを使わずに飲める飲み口付きの蓋を採用する動きも、マクドナルドやケンタッキーなどで報じられています。素材を紙から別のものに替えるのではなく、ストローという製品自体を不要にする考え方です。
海外では、2025年2月に米国のトランプ大統領が、連邦政府機関での紙ストロー購入を止める方向の大統領令に署名したと報じられました。日本でもSNSで話題になりましたが、これは米国の政権の政策判断であり、日本の制度や企業の方針が同じ方向に動いたわけではありません。
紙ストローをめぐる3つの論点
紙ストローへの評価が割れるのは、論点が一つではないからです。公開されている情報を並べると、飲み心地、化学物質、代替素材の3つに分けて考えると整理しやすくなります。
飲み心地と使い勝手
最も身近なのは、ふやける、口当たりが気になる、飲み物の味に影響するという声です。スターバックスが素材を替えた理由に飲み心地が挙がっていることは、先ほど触れたとおりです。
ただし、飲み心地が悪いからといって、紙ストローが環境面で意味のない選択だったと言い切れるわけではありません。使い心地は、環境負荷とは別の軸の問題です。ここを混ぜて議論すると、どちらの話をしているのか分からなくなります。
PFAS検出の報告をどう受け止めるか
2023年、ベルギーのアントワープ大学の研究チームが、ストローに含まれるPFAS(有機フッ素化合物)を調べた結果を発表しました。39ブランドのうち27ブランドでPFASが検出され、紙製は調べた製品の約9割で検出されたと報じられています。一方で、プラスチック製、ガラス製でも検出があり、ステンレス製では検出されなかったとされます。
私が資料を読んでいて気をつけたいと感じたのは、この結果が「紙ストローだけが危ない」という意味ではない点です。検出量は微量の報告で、研究者自身も、耐水加工のための添加、製造過程での混入、原料植物が育った土壌からの吸収といった複数の可能性を挙げています。また、この調査は海外で流通する製品が対象で、日本国内の製品の状況を直接示すものではありません。健康への影響の程度についても、この調査だけで断定することはできません。
代替素材にも課題はある
紙の次の選択肢として採用が進む生分解性プラスチックにも、確認すべき点があります。生分解するのは「特定の条件下で」という場合が多く、PHBHのように海水中での生分解の認証を得ている素材もあれば、そうでないものもあります。また、原料の調達(たとえばパーム油の由来)まで含めて評価する必要があります。
どの素材も「これを選べば環境に優しい」と言える万能解ではありません。素材名だけで判断せず、どの環境で分解するのか、原料は何かを企業の公表資料で確認する習慣が役に立ちます。
日本の制度でストローはどう扱われているか
「日本ではプラスチックストローが禁止された」という理解は、しばしば見かけますが正確ではありません。制度上の位置づけを、環境省の資料と法律の解説から確認しておきます。
プラスチック資源循環促進法が求めていること
2022年4月1日に施行されたプラスチック資源循環促進法では、無償で提供される使い捨てプラスチックのうち12品目が「特定プラスチック使用製品」に指定されました。ストローはフォーク、スプーン、ナイフ、マドラーなどとともに、その対象に含まれます。
この法律が求めるのは使用の禁止ではなく、削減に向けた取り組みです。提供する事業者は、有料化、ポイント付与などの辞退へのインセンティブ、客の意思確認、代替素材への転換といった方法で、提供量を減らすことが期待されています。
年5トン以上の事業者に課される対応
特に、前年度の提供量が年5トン以上の事業者は「多量提供事業者」とされ、削減目標の設定や、提供量・削減の取り組みの公表が求められます。取り組みが著しく不十分な場合は、勧告、命令へと段階が進み、命令に違反すると罰金の対象になります。
つまり、大手チェーンが素材を替えたり、蓋の形を変えたりしている背景には、企業の自主的な環境方針に加えて、この制度の枠組みがあります。私たち消費者に直接の罰則はなく、日常の場面で「受け取るかどうか」を選べる余地が残されています。
制度が見ているのは素材よりも「量」
法律の趣旨を読むと、焦点は「どの素材か」より「使い捨ての提供量をどれだけ減らすか」にあります。紙に替えても、提供する本数が変わらなければ、資源の消費は減りません。逆に、プラスチック製でも、必要な人だけが受け取る形になれば、提供量は確実に減ります。この視点が、次の整理につながります。
「紙かプラか」より先に確認したい3つの分岐点
ここまでの公開情報を踏まえると、ストロー選びで迷う場面は、次の3つの問いに整理できます。公開情報の傾向として見える整理であり、調査にもとづく統計ではありません。
その場面でストローは本当に必要か
最初の問いは、素材を考える前の段階です。蓋の飲み口から直接飲める飲み物なら、ストローがなくても不便はほとんどありません。温かい飲み物が増えるこれからの季節は、そもそもストローを使わない場面も多くなります。
提供量を減らすという法律の趣旨に照らしても、ここが最も効果の大きい分岐点です。必要でなければ断るだけで、素材の議論そのものが不要になります。
必要なら、何を基準に素材を見るか
ストローが必要な場面もあります。小さな子ども、飲み込みに配慮が必要な人、口の開閉に制約がある人にとって、ストローは暮らしを支える道具です。こうした当事者の事情を軽く扱うべきではありません。
その場合は、飲み心地、分解される環境、原料の由来、PFASなどの化学物質への配慮といった観点から、企業の公表情報を確認するのが現実的です。完璧な素材は見つかりにくいので、自分が何を優先するのかを一つ決めておくと迷いが減ります。
繰り返し使う選択肢は、使い続けられるか
アントワープ大学の研究者は、再利用できるステンレス製を推奨しています。ただし、再利用品は購入時に資源を使うため、実際に繰り返し使うことで初めて環境面の利点が出ます。使わなくなって引き出しに眠ったままなら、かえって無駄になります。
自分が洗って持ち歩く習慣を続けられるかを、買う前に正直に考えることが大切です。続けられそうになければ、その場でストローを断る方が、確実で負担も小さい選択です。
素材や買い方を、日々の買い物全体の判断軸として広げて考えたい方は、エシカル消費の基本を扱った次の記事も参考になります。
今日から試せる、次の一杯での1アクション
最後に、読んだ内容をそのまま行動に移せる形にします。難しいことは必要ありません。
次にドリンクを買うとき、ストローを受け取る前に1回だけ確認する
カフェやコンビニで飲み物を注文したら、ストローを受け取る前に、蓋の飲み口からそのまま飲めるかを確認してください。飲めるようなら「ストローは大丈夫です」と一言伝えるだけで構いません。
ストローが必要な場面では、遠慮なく受け取って大丈夫です。大事なのは、毎回なんとなく受け取るのではなく、必要かどうかを一度考える癖をつけることです。この小さな確認が、提供量を減らすという法律の趣旨にいちばん近い行動になります。
続けるためのコツ
最初から毎回完璧に断ろうとすると、続きません。まずは週に1回、自分が一番よく買う飲み物の場面だけで試してみてください。慣れてきたら、他の場面に広げれば十分です。
まとめ
日本の紙ストローは、2019年から2020年ごろに脱プラスチックの象徴として広がり、2025年には飲み心地などを理由に新素材への切り替えが進みました。ストローを使わない蓋の採用も報じられており、焦点は「素材の入れ替え」から「提供量そのものを減らす」ことへ移りつつあります。
紙ストローをめぐっては、飲み心地、PFAS検出の報告、代替素材の課題という3つの論点があり、いずれも単純に善悪を決められるものではありません。海外調査の結果をそのまま日本の製品に当てはめず、企業や公的機関が公表する情報を確認しながら判断することが大切です。
「紙かプラか」で悩む前に、そもそも必要かどうかを確認する。そのうえで、必要な場面では自分の事情に合う素材を選ぶ。この順番で考えれば、無理なく続けられます。まず、次の一杯で1回だけ試してみてください。
- 日本では2019年から2020年に紙・生分解性素材のストローが広がり、2025年には新素材への転換や蓋の工夫が進んでいる
- プラスチック資源循環促進法はストローの禁止ではなく、提供量の削減を事業者に求めている
- PFASの報告は海外調査で、紙だけでなくほかの素材からも検出されており、日本の製品への影響は断定できない
- 素材選びの前に「その場面でストローは必要か」を確認することが最も効果的
- 次にドリンクを買うとき、蓋から直接飲めるかを確認し、不要なら断る
参考文献
- FASHIONSNAP「スターバックスがストローを紙からバイオマスプラスチックに」(2024年)
- 食品産業新聞社 foodist「ストローをめぐる外食各社の動き」(2025年)
- 環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律の普及啓発ページ」(2022年)
- BUSINESS LAWYERS「プラスチック資源循環促進法の概要」(2022年)
- GIGAZINE「ストローのPFAS調査(アントワープ大学)」(2023年)
- CNN.co.jp「トランプ大統領、紙ストロー排除の大統領令に署名」(2025年)


