地産地消は、個人の買い物の話だと思われがちです。ところが公的資料を読み比べていくと、実際に地域の農産物の流れを変えているのは、社員食堂や小売の商品開発、原材料の調達といった企業の「仕組み」であることが多いと分かります。個人が選ぶ1回の買い物と違い、企業が決めた調達先は毎日、毎週と続くからです。
この記事では、地産地消に取り組む企業の公開事例を3つの入口に分けて紹介します。そのうえで、つまずきやすいポイントと、自社や勤務先で動き出すための進め方をまとめました。定義の説明は最小限にとどめ、「企業が何をどう変えたのか」「次に何ができるのか」に重心を置いています。
企業の地産地消が注目される背景
地産地消は「地域で生産されたものを、その地域で消費する」考え方です。企業にとっては、環境配慮の話であると同時に、調達の安定や地域との関係づくりにも関わる経営の話でもあります。まず、その土台となる数字を確認します。
食料自給率38%という前提
農林水産省が2025年10月10日に公表した令和6年度の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで64%でした。カロリーベースは前年度並みで、米の消費増加が、小麦や大豆の生産量減少で相殺された形です。食べ物の6割以上を海外に頼っている構造は、すぐには変わりません。
だからこそ、国内の産地と企業が長期的につながる意味があります。企業が地元産を一定量、継続して買う約束は、生産者にとって作付けを決める材料になります。
フード・マイレージという物差し
食べ物が運ばれる距離に着目した指標が、フード・マイレージです。食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせて表します。農林水産省の資料では、日本の人口1人当たりの輸入食料のフード・マイレージは2001年に7,093t・km、2010年に6,770t・kmと示されています。諸外国と比べると、イギリスの約2倍、ドイツやフランスの3〜4倍、アメリカの約7倍とも報告されています。
ただし、私が公的資料を読むときにいつも念を押している点があります。この指標が測っているのは輸送だけで、栽培や加工、保管、廃棄といった工程の環境負荷は含まれません。「地元産だから低炭素」と言い切るのは、根拠として足りないのです。この点は後半で、企業が数字を出すときの注意としても触れます。
企業の地産地消は3つの入口に分けられる
公開されている事例を読み比べると、企業の地産地消は大きく3つの入口に整理できます。どこから入るかで、必要な体制も、生産者との距離感も変わります。
入口1 社員食堂で地場産品を使う
最も着手しやすいのが社員食堂です。購入先を自社で決めやすく、利用者である従業員の反応も見えやすいからです。
日本栄養士会の記事(2026年1月)によれば、徳島県鳴門市に本社を置く大塚製薬工場は、直営の社員食堂で2015年から地産地消に取り組んでいます。1日の利用者は約500人で、地場産物は全食材の約3割まで広がったと紹介されています。生産者を1軒ずつ訪ねて取引先を開拓し、納入方法や価格の調整にも柔軟に応じて、長く続けられる関係を築いている点が特徴です。
私が注目したのは、規格外の農産物や豊作で余った農産物を食堂で加工して使う、という工夫です。産地にとっては出荷しにくい品の出口になり、食堂にとっては調達先の選択肢が増えます。こうした「規格外の受け皿」の発想は、後半の進め方でも使えます。
入口2 商品開発・販売で地域の味をつくる
2つ目は、地域ごとの原材料を使った商品をつくり、その地域で売る方法です。小売や食品メーカーが取り組みやすい入口です。
セブン-イレブン・ジャパンは、サステナビリティの公式ページで、地元産食材を使った商品を地域の工場で製造し、そのエリアの店舗で販売する取り組みを紹介しています。2025年2月末時点で国内173工場がオリジナルのフレッシュフードを製造し、全国2万店舗以上で販売されています。おでんのだしや麺の太さなどを地域ごとに変えていくきめ細かさは、規模の大きい企業ならではの地産地消の形です。
あわせて、同社は地域商品の開発が生産者にとって安定した需要になると説明しています。製造拠点と店舗が同じ地域にあるため、輸送距離も短くなります。ただし、環境面の効果は商品ごとに異なるはずです。数値で示す場合は、何をどう測ったのかを添えることが前提になります。
エシカル消費という大きな枠組みで地産地消を位置づけたい方は、こちらもあわせてご覧ください。
入口3 地元の素材を調達して循環をつくる
3つ目は、地元の農産物や副産物を調達し、自社の商品づくりや循環の仕組みに組み込む方法です。製造業や農業法人の事例が中心になります。
たとえば栃木県の長谷川農場は、地元のワイナリーからワインの搾りかす(マール)を仕入れて飼料に活用し、堆肥をワイナリーに戻しています。地元の生産者から稲わらも仕入れ、「足利マール牛」という地域ブランドの牛として販売していると紹介されています。地域の中で資源が回るので、輸送距離の短縮だけでなく、廃棄物の削減にもつながる設計です。
この入口は、取引先との調整が最も多くなります。その分、他社が簡単にまねできない強みにもなります。
地産地消に取り組む企業と自治体の全体像を知りたい方は、こちらの記事も参考になります。
公開事例の読み比べから見えるつまずきやすい3つのパターン
ここからは、公開されている事例資料を読み比べたときに共通して見えてきた傾向を、3つのパターンに整理します。大規模な調査ではなく、公開情報から読み取れる範囲での整理である点はご了承ください。
数量や規格が先に決まり、産地が合わない
1つ目は、必要な量・サイズ・価格を先に決めてしまい、地元の生産者の出荷事情と噛み合わなくなるパターンです。大塚製薬工場の例では、納入方法や価格を柔軟に調整し、規格外品も受け入れていました。調達の条件を産地に合わせて動かせるかどうかが、続けられるかの分かれ目になります。
地元産なら低CO2と言い切ってしまう
2つ目は、環境効果の言い過ぎです。前述のとおりフード・マイレージは輸送だけの指標です。暖房を焚いて育てた地元産より、露地栽培で育てた遠方産のほうが、トータルの環境負荷が小さい場合もあると指摘されています。
企業が情報発信するときは、「輸送距離が短くなった」「地場産物の使用割合が3割になった」のように、実際に確認できる事実を書くのが安全です。根拠のない「環境にやさしい」は、グリーンウォッシングを疑われる原因になります。
単発のイベントで終わる
3つ目は、1日限定のフェアなど単発の企画で終わってしまうパターンです。話題づくりとしては有効ですが、生産者から見ると、継続的な注文がなければ作付けの計画は立てられません。まずは月に1回、あるいは週に1品といった定例の形にして、生産者に見通しを伝えることが大切だと考えています。
勤務先で動き出すための進め方
特別な予算がなくても、順番を踏めば小さく始められます。ここでは社員食堂や社内の調達担当を想定した3つの段階を紹介します。
現在の調達品目の産地を棚卸しする
最初に、いま使っている食材や原材料の産地を確認します。納入業者に聞けば分かる範囲で構いません。どの品目が県内産で、どの品目が輸入や遠方産なのかを一覧にするだけでも、地元に置き換えやすい候補が見えてきます。
1品目だけ選び、生産者と話す
次に、置き換えやすい品目を1つだけ選び、地元の生産者や農協に問い合わせます。価格や量だけでなく、規格外品が出る時期や納品方法も聞いておくと、柔軟な取り決めがしやすくなります。いきなり全面切り替えをせず、1品目から始めるほうが、双方の負担が小さくなります。
数字は「確認できた事実」だけを出す
最後に、成果を伝えるときの書き方です。地場産物の使用割合や、使った量、取引している生産者の数など、自社で数えられる数字を出します。CO2削減量を示す場合は、算定の範囲と前提も添えます。
今日から試せる最初の1アクション
読者のみなさんが勤務先や所属先で今日できることを、1つに絞ります。それは、いま使っている食材のうち1品目の産地を調べて、メモに残すことです。
社員食堂があれば、栄養士や調理担当の方に「この野菜はどこ産ですか」と尋ねてみてください。食堂がない職場でも、来客用の飲み物や社内イベントの軽食など、身近な購買品で構いません。産地を知ることが、地産地消の最初の一歩になります。
まとめ
企業の地産地消は、社員食堂、商品開発、地元素材の調達という3つの入口から始められます。大塚製薬工場のように地場産物を全食材の約3割まで広げた例や、セブン-イレブンのように地域の工場と店舗を結んだ例からは、継続する仕組みと生産者との関係づくりが成果を左右していることが分かります。
一方で、地元産であることと環境負荷の低さは同じではありません。フード・マイレージは輸送だけを測る指標なので、数字を出すときは範囲と前提を添え、確認できた事実だけを伝えることが大切です。食料自給率が38%にとどまる日本では、企業が国内の産地と長くつながること自体に意味があります。
まず1品目の産地を調べるところから、試してみてください。
- 企業の地産地消は、社員食堂・商品開発・地元素材の調達の3つの入口に整理できる
- 調達条件を産地に合わせて柔軟に動かし、定例の形で続けることが成否を分ける
- フード・マイレージは輸送だけの指標なので、「地元産=低CO2」と言い切らない
- 最初の一歩は、使っている食材1品目の産地を調べて記録すること
参考文献
- 農林水産省「令和6年度食料自給率を公表します」(2025年)
- 農林水産省「トピックス 環境保全に向けた食料分野での取組」食料・農業・農村白書(平成22年度)
- セブン-イレブン・ジャパン サステナビリティ「地産地消の取り組み」(2025年)
- 日本栄養士会「社員食堂から始める地産地消で地域の活性化、企業の価値向上に貢献」(2026年)
- エムエムシー「地産地消とは?メリット・デメリットからSDGsとの関係、取り組み事例までわかりやすく解説」



