ローカルフードとは、その土地でとれた食材や、土地に根づいた食文化を指す言葉です。日本では「地産地消」「郷土料理」「ご当地グルメ」といった言い方と重なり合いながら使われています。ただ、「地元のものを選ぶと何が変わるのか」を数字で確かめようとすると、思ったより答えが単純でないことに気づきます。
私は企業の非財務開示やESG投資を取材するなかで、「国産」「地元産」という言葉が調達方針や開示資料にどう書かれているかを見てきました。この記事では、日本の食料自給率やフードマイレージなど公開されている数字を手がかりに、日本のローカルフードの現在地を整理します。そのうえで、買い物で使える判断基準と、今日から試せる行動を1つ紹介します。
日本でローカルフードはどう語られてきたか
英語の「local food」にあたる言葉は、日本では長く「地産地消」という形で定着してきました。まずは両者の重なりとずれを押さえておきます。
「地産地消」と「ローカルフード」の重なりとずれ
地産地消は、地域で生産された農林水産物をその地域で消費する取り組みを指します。ローカルフードも意味はほぼ同じですが、食材そのものに加えて、調理法や食べ方といった食文化まで含めて使われることが多い言葉です。
もう1つ押さえておきたいのは、「地域」の範囲に国際的な共通基準がないことです。市町村内を指す場合も、県内、あるいは国産全体を指す場合もあります。米国には州内や一定の距離を基準にした制度上の定義がありますが、日本の消費者向け表示にはこうした統一の距離基準は見当たりません。このため、売り場の「地元産」は店や自治体ごとに範囲が違う点に注意が必要です。
法制度のなかの地産地消
日本では2010年に、六次産業化と地産地消を推進する法律が成立しました。農林漁業者が加工や販売まで手がけること、地域の農林水産物をその地域で利用することが、国の施策として位置づけられています。
背景には、国内の食料供給力への危機感と、農山漁村の所得確保という2つの課題があります。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、食文化としての価値を見直す流れも加わりました。ローカルフードは、環境や暮らしの話題であると同時に、食料安全保障や地域経済の政策課題でもあります。
数字で見る日本の食と「遠さ」
ここからは公開統計を見ていきます。食料自給率、フードマイレージ、国産の中身という3つの数字から、日本の食がどれだけ遠くから来ているかを確かめます。
食料自給率は38%、目標は45%
農林水産省によると、2023年度(令和5年度)の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで61%でした。同じ食料でも、熱量で測るか金額で測るかによって、見える姿が大きく変わります。カロリーベースの値が低いのは、熱量の高い穀物や油脂類、畜産物の多くを輸入や輸入飼料に頼っているためです。
2025年に閣議決定された食料・農業・農村基本計画では、2030年度の目標としてカロリーベース45%、生産額ベース69%が掲げられています。最新年度の実績値は農林水産省のページで更新されるので、引用する際は発表時期の確認が必要です。
フードマイレージという「距離」の物差し
フードマイレージは、食料の輸送量(t)に輸送距離(km)を掛けた指標です。輸入食料が多いほど、また遠くから運ぶほど大きくなります。
農林水産省の農林水産政策研究所が2001年のデータで行った試算では、日本のフードマイレージは約9,000億t・kmでした。これは韓国や米国のおよそ3倍、英国やドイツのおよそ5倍、フランスのおよそ9倍にあたります。かなり前のデータなので、現在の値を示すものではありません。それでも、日本が食料を海外から大量に運んでいるという構造は、今も大きくは変わっていません。
「国産」でも原料が遠いことがある
ここで見落としやすいのが、国産と地元産は同じではないという点です。国内で育てた畜産物でも、飼料の多くを輸入に頼っていることがあります。野菜や米づくりに使う肥料の原料や、ハウスの燃料にも、輸入に依存する部分があります。
企業の調達方針を読むときも同じ視点が役立ちます。「国産原料を使用」と書かれていても、飼料や肥料まで追えているかどうか、「地元」を市町村単位とするのか県単位とするのかといった定義が明記されているかを確認すると、言葉の強さと実態の差が見えてきます。
日本ならではの入口は学校給食と直売所
日本のローカルフードを考えるとき、見逃せないのが公共調達と、地域の販売の場です。
学校給食の地場産物という数値目標
国の第4次食育推進基本計画(2021年度から2025年度)には、学校給食で地場産物を使う割合の目標があります。2019年度の食材数ベース26%を、2025年度までに30%以上へ引き上げるという内容です。あわせて、国産食材を使う割合も87%から90%以上を目指すとされています。
給食は毎日、全国の子どもたちに食事を届ける大きな需要です。数値目標が設けられているのは、地域の生産者にとって安定した販路になるからです。目標の達成状況は農林水産省や文部科学省の公表資料で更新されるため、最新の実績はご自身で確認してください。
直売所・道の駅・産直という身近な窓口
一般の消費者にとって、ローカルフードに最も近い窓口は農産物直売所や道の駅、産直コーナーです。生産者の名前や産地がはっきり見えるため、「どこの誰がつくったか」を確かめやすい場でもあります。
地域によっては、生産者と消費者が契約して農作物を継続的に受け取る仕組みや、飲食店が近隣の農家から直接仕入れる取り組みも広がっています。どの方法でも、見るべきなのは「地元と書いてあるか」より「範囲と生産者がわかるか」です。
「地元産なら環境に良い」とは言い切れない
ここまでの数字だけを見ると、「近くのものを選べば環境にもよさそうだ」と考えがちです。しかし、この結論には注意が必要です。グリーンウォッシングを避けるためにも、環境面の根拠を確かめておきます。
輸送より生産段階の排出が大きい
食料システム全体の環境負荷を分析した研究に、2018年に科学誌『Science』に掲載されたポーアとネメセクの論文があります。この研究では、食料が出すGHG(温室効果ガス)のうち、輸送が占める割合は小さいと報告されています。排出の大半は、土地利用の変化や農場での生産段階にあるという結果でした。
つまり、フードマイレージが小さいことと、気候への影響が小さいことは、必ずしも一致しません。遠方の産地が露地で旬に育てた野菜が、近隣で暖房を焚いたハウスで季節外れに育てた野菜より、排出が少ないという場合もありえます。
旬と産地が重なるときに効果が出やすい
では、ローカルフードに意味がないのかというと、そうではありません。近くで旬のものを選ぶ場合は、暖房や長期保管にかかるエネルギーが抑えられやすく、輸送の手間も減ります。「近い」と「旬」が重なったときに、環境面でも合理的な選択になりやすいのです。
地域の農業が維持されること、食文化が受け継がれること、災害や輸入の混乱に備えて国内の生産基盤を保つことは、輸送距離とは別の価値です。環境負荷の削減だけを理由にせず、複数の価値を並べて選ぶ姿勢が、誠実なローカルフードとの付き合い方だと私は考えています。
買い方を3つの物差しに整理する
公開されている統計と研究を並べると、ローカルフードを選ぶ際の判断基準は3つに整理できます。どれか1つで決めず、組み合わせて使うのが現実的です。
距離という物差し
1つ目は、産地までの距離です。県内や近隣県のものを選ぶと、輸送が短くなり、鮮度も保ちやすくなります。ただし、距離だけでは生産段階の負荷や、飼料・肥料の依存度までは見えません。
旬という物差し
2つ目は、その土地の旬に合っているかどうかです。店頭でその季節に最も量が多く、価格が安定している野菜は、無理のない栽培で出荷されている可能性が高いと言えます。旬は、環境負荷と価格の両方を見る簡単な手がかりになります。
つくり手の顔という物差し
3つ目は、誰がつくったかがわかることです。生産者名や産地の表示があれば、栽培方法や出荷先を尋ねることもできます。数字に表れにくい価値ですが、地域の農業を支えているという実感を持てるのは、この物差しがあるからです。
下の表のように、3つの物差しは、見えるものと見えないものが違います。
| 物差し | 見えること | 見えにくいこと |
|---|---|---|
| 距離(フードマイレージ) | 輸送の長さ、鮮度 | 生産段階の排出、飼料や肥料の依存 |
| 旬 | 栽培のエネルギー負荷、価格の安定 | 輸送の長さ、生産者の姿 |
| つくり手の顔 | 生産者との関係、地域経済への還元 | 環境負荷の大きさ |
エシカル消費の考え方を、より広く確かめたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
今日から試す1アクション
ここまで読んで、「結局、何から始めればよいのか」と感じた方もいるかもしれません。おすすめしたいのは、今週の買い物で「産地と生産者を言える食材」を1品だけ選ぶことです。
具体的には、次の流れで試せます。まず、近所のスーパーの産直コーナー、農産物直売所、道の駅のいずれかを1か所決めます。次に、その時期に最も多く並んでいる野菜を1つ選び、表示で生産者名や産地を確認します。最後に、食べたあとで味や価格、鮮度の違いをメモしておきます。
大切なのは、すべてを地元産に切り替えようとしないことです。食料自給率が38%という数字が示すように、日本の食は輸入と国産が組み合わさって成り立っています。1品から始めて、続けられる範囲で広げるほうが、結果的に長く続きます。
まとめ
日本のローカルフードは、地産地消という政策の言葉と、郷土の食文化という生活の言葉が重なった領域です。農林水産省の統計では、2023年度の食料自給率はカロリーベースで38%にとどまり、国は2030年度に45%を目指しています。学校給食では地場産物の利用割合に数値目標が置かれ、地域の生産者と消費者を結ぶ公共の仕組みになっています。
一方で、「地元産なら環境に良い」という見方には注意が必要です。食料の環境負荷は、輸送より生産段階が大きいと報告されており、距離だけで判断すると見誤ることがあります。距離、旬、つくり手の顔という3つの物差しを組み合わせて考えるのが、現実的で誠実な選び方です。
まずは今週、産地と生産者を言える食材を1品だけ選んでみてください。
- 日本の食料自給率は2023年度でカロリーベース38%、生産額ベース61%
- フードマイレージの試算では、日本は他国に比べて大きな値を示してきた(2001年データ)
- 輸送距離より生産段階の排出が大きいため、「近い」だけで環境に良いとは言えない
- 距離・旬・つくり手の顔の3つを組み合わせて選ぶ
- まずは産地と生産者がわかる食材を1品、今週の買い物で選ぶ
参考文献
- 農林水産省「食料自給率・食料自給力について」(2025年)
- 農林水産省「食育の推進」(2021年)
- Science「Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers」(2018年)


