ランニングシューズやヨガウェアを買うとき、価格や機能性は比べても「誰がどんな環境でこの製品を作ったのか」まで確認する人はまだ少ないのではないでしょうか。筆者は大学院で環境政策を研究していた頃、スポーツ用品のサプライチェーンを調べる課題に取り組み、想像以上に情報が断片的であることに戸惑った経験があります。この記事では、エシカルなスポーツブランドを見分けるための具体的な視点と、実際に複数の認証・企業を比較して気づいたことを整理します。
エシカルなスポーツブランドとは何を指すのか
エシカルなスポーツブランドという言葉に法律上の定義はありません。一般的には、製造工程での労働環境や人権への配慮、素材調達時の環境負荷の低減、情報公開の姿勢などを総合的に満たしているブランドを指す言葉として使われています。ただし「エシカル」を名乗る基準は企業ごとにばらつきがあるため、言葉のイメージだけで判断するのは危うい面があります。ここからは、実際に何を確認すればよいのかという実践的な視点に絞って見ていきます。
3つの視点で比較すると違いが見えてくる
筆者が実際に複数ブランドの公開資料を読み比べてみたところ、判断材料は大きく3つに整理できると感じました。ひとつずつ見ていきます。
労働環境の透明性を示す認証
スポーツ用品業界では、1990年代にサッカーボールの縫製工程における児童労働が国際的に問題視され、業界団体と国際機関が是正に向けた枠組みづくりを進めた経緯があります〔要確認〕。この経験を背景に、現在では第三者機関による工場監査や認証の仕組みが広がっています。代表的なものが「Fair Trade Certified」で、縫製工程の労働者にプレミアム(割増金)が支払われる仕組みを持つ認証です。他にも、労働環境の監査を専門に行う非営利団体Fair Labor Association(FLA)の会員企業になっているかどうかも、ひとつの目安になります。
素材とサプライチェーンの環境負荷
スポーツウェアはポリエステルなど化学繊維の比率が高く、染色や仕上げの工程で化学物質や水を多く使う傾向があります。有機栽培のコットンを認証するGOTS(Global Organic Textile Standard)や、化学物質管理の基準であるbluesignの表示があるかどうかは、環境面の目安として比較的分かりやすい指標です。もっとも、認証がない製品がすべて環境負荷が高いとは限らず、認証取得にはコストがかかるため中小ブランドほど取得しにくいという事情もあります。認証の有無だけで一律に評価しないよう気をつけたいところです。
価格と耐久性のバランス
エシカルな製品は相対的に価格が高めに設定されていることが多く、その理由の多くは労働者への適正な対価や、耐久性を重視した設計にあります。筆者自身、安価なトレーニングウェアを1シーズンで買い替えていた時期がありますが、耐久性の高い製品を選んで修理しながら使う方が、長期的には支出も廃棄物も減らせると実感するようになりました。価格だけを見て「高いから避ける」と判断する前に、1回あたりの使用コストで考えてみる視点も参考になります。
認証マークを実際に読み比べて分かった違い
いくつかの認証制度の解説資料を読み比べてみると、それぞれが測っている対象がまったく異なることに気づきます。Fair Trade Certifiedは主に労働者への対価や労働条件を対象とし、GOTSは繊維の栽培方法と加工工程の化学物質基準を対象とし、B Corporation(B Corp)は労働・環境・ガバナンスなど企業活動全体を横断的に評価する仕組みです。筆者も調べ始めた当初は「認証がついていれば環境にも人にも配慮している」と一括りに考えていましたが、実際には認証ごとに守備範囲が異なるため、複数の認証を組み合わせて確認する必要があると分かりました。この点を混同したまま「認証あり=完璧な製品」と捉えてしまうと、かえって実態を見誤るおそれがあります。
複数ブランドの取り組みに見る共通点と違い
具体的にどのような取り組みが行われているのか、複数のブランドの公開情報を比較してみます。
アウトドアブランドのパタゴニアは、2022年に創業者一族が保有株式を環境保護のための信託・団体に譲渡し、事業で得た利益を気候変動対策などに充てる仕組みに移行したことを公式に発表しています。フランス発のスニーカーブランドVejaは、広告費をかけない代わりにアマゾンの野生ゴムやペルー産オーガニックコットンなど、調達先を公開した素材を使う方針を採っています。大手のアディダスは、海洋プラスチックごみを再利用したシューズ素材の開発を環境団体パーリー・フォー・ジ・オーシャンズと共同で進めてきました〔要確認〕。ヨガ・アウトドアウェアのブランドprAnaは、一部製品でFair Trade Certified認証を取得していると案内しています〔要確認〕。
これらの企業に共通するのは、取り組みの内容を自社サイトなどで具体的に開示している点です。一方で、どこまで詳細に公開しているか、第三者認証を伴っているかどうかには差があります。複数社を比較すると「エシカル」という言葉の中身にも幅があることが見えてきます。
日本で選ぶときに気をつけたいポイント
日本国内でエシカルなスポーツブランドを選ぼうとすると、輸入品が中心になり価格が上がりやすいという壁に直面しがちです。国内のスポーツ用品店やセレクトショップでも、Fair Trade CertifiedやGOTSの認証マークが商品タグに記載されている場合があるので、購入前にタグや商品ページの表記を確認する習慣をつけると判断材料が増えます。また、経済産業省はアパレル産業全体の環境負荷低減に向けた取り組みを進めていると案内しており、今後スポーツ用品分野でも情報開示の基盤が整っていくことが期待されます〔要確認〕。今日からできる具体的な一歩としては、次にスポーツウェアやシューズを購入する際に、商品タグまたは公式サイトで「認証マークの有無」と「素材の産地表記」の2点だけを確認してみることをおすすめします。慣れてくると、店頭でも数十秒で確認できるようになります。
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。
参考文献
- Patagonia「Patagonia’s Next Chapter」(2022年、https://www.patagonia.com/ownership/)
- Fair Trade Certified公式サイト(https://www.fairtradecertified.org/)
- B Corporation公式サイト(https://www.bcorporation.net/)
まとめ
エシカルなスポーツブランドを見分けるには、認証マークの種類、素材の調達方法、価格と耐久性のバランスという3つの視点で確認すると判断しやすくなります。認証は万能ではなく、それぞれが測っている範囲が異なる点も踏まえておきたいところです。まずは手元にあるスポーツウェアのタグを1枚確認してみることから始めてみてください。
- 認証マークは「労働環境」「素材」「企業全体」など測る対象が異なるため、複数を組み合わせて確認する
- 価格の高さだけで判断せず、耐久性や使用回数あたりのコストで比較してみる
- 購入前に商品タグや公式サイトで認証マークと素材の産地表記を確認する習慣をつける


