カスケード利用とは、木材やバイオマスを最初から燃やさず、価値の高い用途から順に使い、最後にエネルギーとして回収する考え方です。「カスケード」は英語で「滝」を意味し、水が段を落ちるように、素材が用途を替えながら使い続けられるイメージを表します。
定義はこれだけで足ります。気になるのは、その先ではないでしょうか。日本では実際にどこまで実現しているのか。EUのように法律で求められているのか。燃やすのは悪いことなのか。自分は何を選べばいいのか。この記事では、林野庁や環境省などの公表資料の数字をもとに、これらの疑問に順に答えていきます。
カスケード利用の考え方|木材を「使う順番」で捉える
カスケード利用は、素材を「何に使うか」だけでなく、「どの順番で使うか」を問う考え方です。同じ1本の木でも、柱や梁になれば数十年にわたって使われ、その間は炭素も固定されます。伐採してすぐに燃やせば、その価値は一度きりのエネルギーに変わって終わります。
木材が辿る段階の一例
令和7年度の森林・林業白書は、木質バイオマスのエネルギー利用について、材の状態や部位に応じて製材品など価値の高い用材から順に利用し、従来は林内に放置されていた未利用の木材を燃料とすることを基本としています。
この考え方を段階に直すと、おおよそ次のような流れになります。
- 製材品(柱・梁・フローリングなどの構造材や仕上げ材)
- 合板・集成材・CLT(小径木や曲がり材も活かせる加工品)
- パーティクルボードやMDFなどの木質ボード(チップや繊維を成形したもの)
- 紙・パルプ(繊維が短くなった段階の用途)
- 燃料(熱利用や発電)
段階の数や呼び方は資料によって異なります。ここで押さえておきたいのは、段数よりも「素材として使える間は素材として使う」という順序の原則です。
リサイクル・アップサイクル・バイオマス発電との違い
似た言葉との違いを整理しておくと、この後の話が読みやすくなります。
リサイクルは、使い終えた素材を原料に戻して再び使うことを指します。カスケード利用は、品質が下がっても次の用途へつなぎ、廃棄までの時間を延ばす点に特徴があります。木材は繊維が短くなると同じ用途には戻しにくい一方、ボードや紙、燃料としてなら使えるため、この考え方と相性が良い素材です。
アップサイクルは、廃材に新しい価値を加えて品質を上げる手法です。廃材から作った家具はアップサイクルですが、その家具が寿命を迎えたあとにボードの原料になれば、カスケード利用の流れに入ります。両者は対立せず、つながりうる関係です。
バイオマス発電は、木質バイオマスを燃料に使う再生可能エネルギーの一つです。カスケード利用の視点では、発電そのものが否定されるわけではありません。問われるのは、素材として使えるものを最初から燃料に回していないか、という入口の順序です。
「燃やすこと」は最後の段階として位置づけられる
カスケード利用を「燃やさない考え方」と受け取る方もいますが、正確ではありません。最後の段階にエネルギー利用が置かれているとおり、燃料にすること自体は想定された出口です。解体で出た廃木材や、製材で出た端材、林内に残された枝葉などは、素材としての用途が尽きた先で燃料になるのが自然な姿です。
日本の現状|数字で見る木材とバイオマスの流れ
では、日本の木材は実際にどう使われているのでしょうか。最新の公表資料から、段階利用に関わる数字を3つ取り上げます。
木材自給率は42.5%、増えているのは燃料材
林野庁の「令和6年(2024年)木材需給表」によると、2024年の木材自給率は42.5%で、前年から0.4ポイント下がりました。総需要量は8,187万4千立方メートルで、前年より2.5%増えています。
注目したいのは、需要が増えた中身です。林野庁は総需要の増加の主因として、燃料材が224万立方メートル(11.0%)増えたことを挙げています。一方、用材は24万1千立方メートル(0.4%)減りました。素材として使われる量がわずかに減り、燃料に回る量が大きく増えた年だったことになります。
木材チップとペレットの中身
令和7年度の森林・林業白書は、2024年の木質バイオマス発電などで使われた燃料の内訳を示しています。
- 木材チップは合計1,233万トン。内訳は間伐材・林地残材由来が545万トン、製材等残材由来が183万トン、建設資材廃棄物由来が390万トン、輸入チップ・輸入丸太由来が74万トン
- 木質ペレットは合計529万トン。国内製造が12万トン、輸入が516万トン
チップの多くが国内の間伐材、製材残材、建設廃材といった「素材利用の後に残るもの」である点は、カスケード利用の考え方と重なります。一方でペレットは、ほぼ輸入に支えられています。国内の森林資源の段階利用という観点では、この輸入燃料をどう位置づけるかが、次の論点になります。
新しい森林・林業基本計画(2026年6月)の方向
政府は2026年6月5日、新しい森林・林業基本計画を閣議決定しました。テーマは「百年つづく『森の国・木の街』へ」です。林野庁の概要資料には、「国産材の利用拡大と幅広い需要の創出」の柱のもと、都市の木造化の推進、大径材や広葉樹材を使った内装材の需要づくり、CLTなどの製品輸出の拡大、国産材の利用効果の見える化などが挙げられています。
この概要資料には、カスケード利用という言葉や具体的な数値目標は載っていません。ただ、建築物の木造化で素材の「最初の段階」の需要を広げることは、結果として段階利用の入口を太くする取り組みといえます。
日本の現場事例|製紙・木質ボード・解体材チップ
段階利用は理念にとどまらず、日本の産業の中で実際に回っている部分があります。ここでは、段階の異なる3つの現場を見てみましょう。
製紙|製材や合板に向かない木材の受け皿
紙・パルプは、段階利用の中ほどから後ろを支える用途です。製紙産業は、製材や合板には向かない低質な木材や製材の際に出る残材を、チップにして原料としているとされます。柱や板にならなかった木が、紙という別の形で使われているわけです。
木質ボード|端材を原料に、廃材を熱源に
木質ボードの工場では、合板や建材をつくる工程で出た端材が原料になり、ボード製造で出た木質廃材は乾燥や熱圧の熱源として使われます。住友林業グループは、この仕組みを国内の木質ボード工場で運用していると公表しています。同グループの国内製造拠点のリサイクル率は、2024年度が99.1%、2025年度が99.5%と報告されています。
一つの工場の中で「素材として使う→ボードの原料にする→熱として使う」という流れが完結している例で、段階利用の縮図といえます。
解体材チップ|最終段階のエネルギーを支える
建物の解体で出る廃木材は、チップに加工されます。先に見たとおり、2024年に燃料として使われた木材チップのうち、建設資材廃棄物由来は390万トンに上ります。ボードの原料などに回せるものは素材利用へ、難しいものは燃料へ、という仕分けが現場で行われています。
ただし、接着剤や塗装、金属部品が混ざった廃材は素材利用が難しく、燃料に回りやすい傾向があります。この点は後ほど、課題として取り上げます。
EUの規定と日本の違い|法律で求めるか、方針として示すか
カスケード利用を制度の中心に置いているのがEUです。日本との違いを知ると、日本の課題が見えやすくなります。
EUはRED IIIで「原則」を明文化した
EUの改正再生可能エネルギー指令(RED III)は、2023年10月9日に欧州議会が改正テキストを採択し、木質バイオマスのカスケード原則を正式に位置づけました。木質バイオマスは、経済的にも環境的にも最も付加価値の高い形で使われるべきだとし、木製品を使用の階層の頂点に置いています。加盟国には、バイオマス由来のエネルギーが原料市場を過度にゆがめないよう措置をとることが求められます。
つまり、補助や支援の仕組みを設計する側に、カスケード原則を踏まえる責任を負わせた形です。
日本は基本方針として示している段階
日本の森林・林業白書は、先に見たとおり「価値の高い用材から順に利用し、未利用材を燃料とすることを基本」と記しています。これは政策の基本的な考え方を示したもので、EUのように、支援制度の設計義務として課すものとは性格が異なります。
どちらが優れているという話ではありません。EUと日本では、森林の構成も、輸入への依存度も、エネルギー政策の事情も違います。ただ、日本の木質ペレットの大半が輸入であることを考えると、国内資源の段階利用をどう担保していくかは、今後も議論が続く論点でしょう。
循環経済政策の中での位置づけ
日本では2024年8月に第五次循環型社会形成推進基本計画が閣議決定され、同年12月には「循環経済への移行加速化パッケージ」が公表されました。資源を使い切り、廃棄を減らす方向性は、カスケード利用と同じ向きにあります。木材は、再生可能で、段階ごとに用途を替えやすい素材として、この流れの中で重要な役割を担います。
カスケード利用が思うように進まない3つの理由
考え方は分かりやすいのに、なぜ現場では難しいのでしょうか。公表資料や業界の実情から、3つの壁が指摘されています。
追跡と分別にコストがかかる
段階利用を成り立たせるには、その素材がどこから来て、いま何段階目なのかを把握できる必要があります。森林認証やCoC認証のような仕組みはその助けになりますが、取得や維持の負担が中小の事業者には重い場合があります。
解体現場での分別も同じです。素材として次に回せる廃木材を取り出すには、現場で手間をかけて分ける必要があり、その手間が費用として跳ね返ります。
品質が混ざると素材利用に回しにくい
先に触れたとおり、接着剤や塗装、金属が混ざった廃材は、ボードなどへの素材利用が難しくなります。結果として燃料に回りやすいという構造があります。設計の段階から、解体しやすく、分別しやすい建築にすることが、出口の選択肢を広げます。
燃料のほうが採算に合う場面がある
制度の支援の水準や市場の価格によっては、素材として売るより燃料に回したほうが収益の見通しが立つ場面が出てきます。こうした経済合理性と環境面の合理性のずれが、段階利用を妨げる根の深い課題だと指摘されています。EUが規定でこの問題に向き合ったのも、同じ背景があるためです。
木材以外にも広がる考え方|食品の場合
カスケード利用の発想は、木材に限りません。食品の分野にも、よく似た優先順位があります。
食品リサイクル法は、まず食品廃棄物そのものの発生を抑えることを最優先にし、そのうえで再生利用できるものは飼料や肥料などに回す、という順序を基本にしています。食べられるものはまず食べ、食べられないものは家畜の飼料や堆肥に、それも難しいものはエネルギーに、という流れです。
環境省の推計では、2024年度の食品ロス量は約461万トンで、前年度の464万トンから約3万トン減りました。内訳は事業系が約237万トン、家庭系が約224万トンです。減ってはいるものの、まだ大きな量が出ています。食品でも木材でも、「最初の段階を守る」ことが、全体の無駄を減らす鍵になります。
暮らしの中でできること|選ぶ・長く使う・出し方を知る
カスケード利用は国や企業の話に見えますが、生活者にも接点があります。大きな行動を求めるものではなく、選択の物差しを一つ増やす程度で十分です。
認証ラベルを手がかりに選ぶ
木製品や紙製品を選ぶとき、FSCやSGECといった森林認証のラベルを探してみてください。これらは、森林が持続可能な形で管理されていることを示す認証です。さらに、加工や流通の過程を追跡するCoC認証があれば、素材の来歴を確認できる製品になります。
ラベルがあるから段階利用が保証される、というわけではありません。ただ、来歴が追える木材を選ぶことは、素材の流れが見える市場を支える選択になります。
長く使えるものを選ぶ
カスケード利用の最初の段階は、素材として長く使うことです。構造のしっかりした家具や、修理しやすい木製品を選び、手入れしながら使い続けることは、最も確実な段階利用の実践です。
リフォームや引っ越しで出る廃木材を確認する
秋は、リフォームや片づけを考える方も多い時期です。解体や改修で出る木材を「燃えるごみ」としてまとめて出す前に、自治体の廃棄物担当窓口や、古材・木材リサイクルを扱う事業者に相談してみてください。チップ化などの受け入れ先がある地域もあります。工事を頼む場合は、施工業者に廃木材の処理方法を尋ねるだけでも、出口を意識するきっかけになります。
まとめ
カスケード利用は、木材やバイオマスを価値の高い用途から順に使い、最後にエネルギーとして回収する考え方です。燃やすことを否定するものではなく、素材として使える間は素材として使うという「順番」を大切にします。
日本では、2024年の木材自給率が42.5%で、燃料材の需要が増えました。木材チップの多くは間伐材や製材残材、建設廃材といった素材利用後のものですが、ペレットは大半を輸入に頼っています。EUは再生可能エネルギー指令で原則を明文化しましたが、日本は白書などで基本方針として示す段階にあります。
課題は、追跡と分別のコスト、廃材の品質、燃料に回したほうが採算に合う場面があることです。だからこそ、長く使える木製品や来歴の分かる木材を選び、廃木材の出口を確認するという、暮らしの側の小さな選択にも意味があります。
まず1つだけ、次に木製品や紙製品を買うとき、FSCやSGECのラベルを探してみてください。
- カスケード利用は、素材として使える間は素材として使い、最後に燃料にする「使う順番」の考え方
- 日本の2024年の木材自給率は42.5%で、燃料材の需要が増え、木質ペレットは大半が輸入
- EUはRED IIIで原則を明文化し、日本は白書などで基本方針として示している
- 進みにくい理由は、追跡と分別のコスト、廃材の品質、燃料のほうが採算に合う場面の存在
- 暮らしでは、認証ラベルの確認、長く使える製品選び、廃木材の出口の確認が入口になる
参考文献
- 林野庁「令和7年度 森林・林業白書 木質バイオマスの利用」(2026年)
- 林野庁「令和6年(2024年)木材需給表の公表について」(2025年)
- 林野庁「新しい森林・林業基本計画について」(2026年)
- 環境省「令和6年度の食品ロス量の推計値について」(2026年)
- 住友林業「製造工程での廃棄物削減」
- Composite Panel Association「Europe Formally Embraces Cascading Wood Principle」(2023年)
- 環境省「令和8年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 国家戦略としての循環経済への移行」(2026年)

