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ENVIRONMENT

ゼロエミッションビルの日本の現在地|ZEBの4区分と、ビルの環境性能を見分ける3つの視点

Photo by Nicharrat Anantathirawat on Unsplash

「ゼロエミッションビル」と聞くと、CO2をまったく出さないビルを想像する方が多いと思います。ただ、日本の制度で「ゼロエミッションビル」という名前の公式な認定区分があるわけではありません。実務でこの言葉に最も近い意味で使われているのが、ZEB(ゼブ、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)です。

企業のサステナビリティ開示やESG投資を取材していると、不動産のページに「ZEB」「BELS」「CASBEE」といった略称が並び、どれが何を保証しているのか分かりにくいと感じる場面によく出会います。この記事では、日本のZEBの区分、制度の動き、ビルの環境表示を読むときの視点を順に整理します。

この記事で学べること

  • ZEBの4つの区分(ZEB・Nearly ZEB・ZEB Ready・ZEB Oriented)の違い
  • 2025年4月からの省エネ基準適合義務化など、日本の制度の流れ
  • ZEBと「ゼロエミッション」が同じ意味ではない理由
  • 働くビルや借りるビルの環境性能を確かめる具体的な手順

日本のゼロエミッションビルはZEBの4区分で読み解く

日本でゼロエミッションビルの話をするとき、まず押さえたいのがZEBの区分です。ZEBは「エネルギー消費量を、省エネと創エネで正味ゼロに近づけたビル」を指し、達成度に応じて4段階に分かれています。

4区分の基準は一次エネルギー削減率で決まる

ZEB・Nearly ZEB・ZEB Readyの3区分の共通ラインは「基準となる建物に比べ、一次エネルギー消費量を50%以上削減すること」です(ZEB Orientedは用途ごとに40%または30%以上)。そのうえで、太陽光発電などの創エネを含めてどこまで削減できたかで呼び名が変わります。

  • ZEBは、省エネで50%以上削減し、創エネを含めて100%以上削減した建物です
  • Nearly ZEBは、省エネで50%以上削減し、創エネを含めて75%以上100%未満削減した建物です
  • ZEB Readyは、創エネを除いて50%以上削減した建物です
  • ZEB Orientedは、延べ面積1万㎡以上の大規模建物向けの区分です。事務所や学校、工場などは40%以上、ホテルや病院、百貨店、飲食店、集会所などは30%以上の削減を求め、未評価技術の導入も条件になります

出典は環境省のZEB PORTALなど国の公開資料です。数値は制度改定で見直されることがあるため、判断の前には最新の公式ページで確認してください。

大規模ビルほど「ZEB」の名称を得にくい理由

高層ビルは、延べ面積に対して屋上や敷地の面積が小さくなります。そのため、太陽光発電で消費分をまかなうのは難しく、都市部の大型ビルでは「ZEB Ready」や「ZEB Oriented」が現実的な目標になりやすい構造があります。

取材の場面でも、「ZEB」と「ZEB Ready」の違いを知らないまま、どれも同じ水準のように受け取ってしまう方は少なくないと感じます。区分名の最後に付く言葉が、創エネを含んだ評価なのか、省エネだけの評価なのかを分けています。

評価の対象に入らないエネルギーがある

もう一つ見落としやすいのが、ZEBの評価対象です。計算に含まれるのは、空調、換気、照明、給湯、昇降機といった、建物の設備が使うエネルギーが中心です。入居者が持ち込むパソコンやサーバー、業務用機器などのコンセント負荷は、評価の枠組みでは主要な対象に含まれません。

つまり、ZEBの認定を受けたビルでも、入居企業の電力使用がゼロになるわけではありません。ここは次の「ゼロエミッション」との違いを考えるうえで大切な点です。

ZEBとゼロエミッションは同じ意味ではない

ZEBは「エネルギー」の収支を測る考え方で、「ゼロエミッション」は「排出」そのものをなくす考え方です。重なる部分は大きいのですが、範囲が少し違います。

ZEBが測るのは運用時のエネルギー

ZEBが主に扱うのは、ビルが運用されている間の一次エネルギー消費です。電気やガスをどれだけ使うか、敷地内でどれだけ創るかが評価の中心になります。電力を使えば、その電力の発電方法によってCO2排出量が変わりますが、ZEBの区分はその違いを直接は反映しません。

再生可能エネルギーの電力メニューを契約しているビルと、そうでないビルが、同じZEBの区分になることはありえます。評価の対象が違うので、これは矛盾ではありません。

建設時の排出という見えにくい部分

ビルのCO2排出は、運用時だけではありません。鉄やコンクリートなどの建材の製造、輸送、施工、解体で出るCO2もあります。これは「エンボディドカーボン」と呼ばれる領域です。

日本でも、建築物のライフサイクル全体でCO2を算定する手法の整備が進められています。ゼロエミッションビルを本気で語るなら、運用時の省エネ(ZEB)と、建設から解体までの排出の両方を見ていく必要があります。

3つの指標を並べて読むと全体像が見える

整理すると、ビルの環境性能を示す言葉は、見ている範囲が違います。

  • ZEBは、設備の運用エネルギーを見る指標です
  • BELSは、第三者機関が建物の省エネ性能を評価し、星の数で表示する制度です
  • CASBEEやDBJ Green Buildingなどは、省エネに加えて快適性や周辺環境も含めて総合評価する認証です

どれか一つで「環境に優しいビル」と言い切るのではなく、どの範囲をどの方法で見ているのかを確認する姿勢が、グリーンウォッシングを避ける第一歩になります。

日本の制度は「新築はZEB水準へ」の方向で動いている

日本のゼロエミッションビルをめぐる制度は、ここ数年で大きく動いています。建物を借りる側や使う側にも関係する内容なので、要点を押さえておきます。

2025年4月から新築の省エネ基準適合が原則義務に

2022年に改正された建築物省エネ法により、2025年4月から、原則としてすべての新築の住宅・非住宅に省エネ基準への適合が義務付けられました。それまで延べ面積300㎡以上の非住宅が中心だった義務の対象が、小規模な建物にも広がった形です。

政府は、2030年度以降に新築される建築物について、ZEB・ZEH水準の省エネ性能の確保を目指す方針を示しています。エネルギー基本計画にも、この方向性が盛り込まれています。基準が段階的に引き上げられていく前提で、ビルの企画や改修が進んでいると考えてください。

省エネ性能の表示が「見える化」されている

2024年4月からは、建築物の販売や賃貸を行う事業者に、省エネ性能を表示する努力義務が課されています。広告や物件情報に、星の数などで省エネ性能を示すラベルが載るようになりました。

これは、ビルを選ぶ側にとって意味の大きい変化です。以前は、環境性能が分かるのは開示資料を読み込んだ人に限られていました。今後は、不動産の探し方によっては、物件情報の段階で性能を比べられるようになります。

自治体の独自施策も広がっている

自治体レベルでも動きがあります。たとえば東京都は、2025年4月から、一定規模の新築建物を供給する事業者に太陽光発電設備の設置などを求める制度を始めています。都市部で創エネの面積が限られるなか、供給事業者に設置を求めることで普及を進める狙いがあります。

ビルの所在地によって、求められる水準や支援策が異なる場合があります。詳しい対象や条件は、各自治体の最新の公表資料で確認してください。

エネルギー分野の技術動向としては、ビルの壁面などにも使いやすいとされる次世代の太陽電池も注目されています。関心のある方は、次の記事もあわせてご覧ください。

クリーンエネルギー全体の考え方を整理したい場合は、こちらも役立ちます。

ビルの環境表示を読むときによく見られる3つの混同

ここでは、ビルの環境性能の表示を読む際につまずきやすい点を、取材や公開情報で目にする傾向として3つ整理します。調査にもとづく統計ではなく、あくまで私の観察に基づく整理です。

区分名だけを見て「ゼロ」だと受け取ってしまう

「ZEB Ready」という表記を見て、エネルギー消費がゼロのビルだと受け取ってしまうケースです。ZEB Readyは、創エネを除いた省エネで50%以上削減した段階を指します。創エネの評価は含まれておらず、エネルギー消費はまだ残っています。

区分名の後ろに付く言葉は、達成の度合いを示すラベルだと捉えると、読み違いを減らせます。

設計時の評価と運用実績を混同してしまう

ZEBやBELSの評価は、多くの場合、設計段階の計算値にもとづいています。実際にビルが運用されてからのエネルギー消費は、入居者の使い方や稼働率によって上下します。設計通りの性能が出ているかどうかは、運用後の実績データで確かめるものです。

サステナビリティ報告書や不動産のESG評価(GRESBなど)では、運用実績のエネルギー使用量を開示している企業もあります。設計値と実績値の両方があれば、あわせて見るのが理想です。

新築の話だけで考えてしまう

ZEBというと新築のイメージが強いのですが、日本の建物の多くはすでに建っている既存ビルです。国の目標も、2050年に向けてストック全体の平均でZEB水準を目指す方向とされています。新築を増やすだけでは足りず、既存ビルの改修がカギを握ります。

既存ビルの改修には、断熱性能の向上、高効率空調への更新、LED照明への切り替え、窓の改修などがあります。国の補助事業が使える場合もあるため、所有者や管理会社は最新の公募情報を確認する価値があります。

今日から試せる1アクション

ゼロエミッションビルの動向は、事業者だけの話ではありません。働いているビルや、よく使う施設を見る目を少し変えるだけで、自分ごとにできます。おすすめは、次の手順です。

  1. 勤務先や通学先、よく使う施設のビルについて、BELSやZEBなどの環境表示の有無を調べる2. 表示があれば、星の数やZEBの区分と、評価された時期を確認する3. 表示がなければ、管理会社や施設の公式サイトで環境への取り組みの開示があるかを探す4. テナントとして入っている場合は、空調の設定温度や照明の運用について、管理側に相談できる窓口を確認する

最初は、勤務先のビルの名前と「BELS」を一緒に検索するだけで構いません。表示が見つからなくても、それ自体が一つの情報になります。まず1つだけ、試してみてください。

まとめ

日本には「ゼロエミッションビル」という公式の認定区分はありません。最も近い意味で使われるのがZEBで、一次エネルギーの削減率に応じてZEB、Nearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Orientedの4つに分かれます。大規模な都市型ビルでは、創エネの面積が限られるため、省エネを中心とした区分が現実的な到達点になりやすい点が特徴です。

制度の面では、2025年4月から新築の省エネ基準適合が原則義務となり、2030年度以降の新築にはZEB・ZEH水準が目標として示されています。ただし、ZEBは運用時のエネルギー収支を測る指標であり、建設時の排出や、使う電力の中身までは直接反映しません。区分名の意味や評価の範囲を確かめながら読むことが、環境表示を正しく受け取るコツです。

身近なビルのBELSやZEBの表示を確かめることが、次の一歩になります。

  • ZEBは一次エネルギー削減率で4区分に分かれ、区分名は創エネを含むかどうかで意味が変わる
  • 2025年4月から新築の省エネ基準適合が原則義務となり、2030年度以降はZEB水準が目標とされる
  • ZEBは運用時のエネルギー収支が中心で、建設時の排出や電力の中身までは測らない
  • 設計時の評価と運用実績は別のものとして、あわせて確かめる
  • まずは身近なビルのBELSやZEBの表示を調べてみる

参考文献

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