温暖化対策の切り札として、世界中で注目を集めている「カーボンプライシング」。企業のニュースでこの言葉を聞いたことがある人も多いかもしれません。でも「炭素に価格をつける」ってどういうこと?この記事では、カーボンプライシングの仕組みをわかりやすく解説します。
カーボンプライシングとは
カーボンプライシングは、炭素に価格を付け、排出者の行動を変容させる政策手法です。もっと簡単に言えば、二酸化炭素(CO2)を排出する行為にお金がかかるようにする仕組みのことです。
環境に負荷をかけるほど、経済的に負担が増える。そうすることで、企業も個人も「CO2を減らそう」という行動へ自然に導かれるわけです。
カーボンプライシング導入の短期的な効果として、企業や個人がCO2排出を抑えるために省エネや再エネ導入などの行動をとるようになります。
2つの主な手法|炭素税と排出量取引
カーボンプライシングには複数の手法があります。最も一般的なのが以下の2つです。
炭素税
企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税する「炭素税」
がもっとも分かりやすい方法です。排出量に応じた税金を支払う仕組みで、日本では2012年から
「地球温暖化対策のための税(温対税)」が段階的に施行され、2016年までに当初予定された最終税率まで引き上げが完了しています。現在、日本では、二酸化炭素排出量1トンあたり289円が課税されます。
一方で欧州の炭素税は日本より高く、例えば
フィンランドでは83.74US$/tCO₂(約11,150日本円相当)、スウェーデンでは125.56 US$/tCO₂(約16,720日本円相当)が導入されています
(2023年時点)。
排出量取引制度(ETS)
企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間でCO2の排出量を取引する「排出量取引制度(ETS=Emission Trading Scheme)」
も重要な手段です。政府が各企業に排出枠を割り当てて、その枠内で企業間での売買を認める仕組みです。CO2削減に成功した企業が、余った排出枠を売ることで収益化できるという仕組みもあります。
EUでは、2005年から世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を開始。その取引量は、EU域内のCO2排出量の4割強をカバーしていると推計されます。
その他の手法
CO2の削減を「価値」と見なして証書化し、売買取引をおこなう「クレジット取引」
も広がっています。再生可能エネルギープロジェクトなどが実現したCO2削減分を証書化し、他の企業が購入する形です。
私たちの生活との関わり
カーボンプライシングは企業向けの施策と思われがちですが、実は私たちの生活にも影響を与えます。例えば企業がCO2削減投資に力を入れれば、より環境に優しい製品やサービスが増えて、消費者も選択肢が広がります。また、クリーンエネルギーの価値が相対的に高まることで、再生可能エネルギーの普及も加速する可能性があります。
一方で、CO2排出のコストが増えれば、企業の生産活動に影響をおよぼす可能性もあります。例えば、国際的な競争力が低下したり、CO2排出の規制がゆるやかな国へ生産拠点や投資先が移転したりするなど、経済に悪影響が生じるおそれもあります。このため、政策設計が重要です。
企業内での取り組み|インターナルカーボンプライシング
政府の制度とは別に、企業が独自に実施する取り組みもあります。
企業内部で見積もる炭素の価格であり、企業の低炭素投資・対策を推進する仕組みを「インターナルカーボンプライシング」と呼びます。企業が内部で炭素に価格を設定し、投資判断の指標にするもので、政府の規制を待たずに自主的に脱炭素化を進める企業が増えています。
世界での広がり
2024年4月時点で、炭素税は36の国と地域で導入しており、排出量取引は39の国と地域で導入しています。
世界銀行の2024年の年次報告書「カーボンプライシングの現状と動向」によると、カーボンプライシングの収入は2023年に初めて1040億ドルを達成し、過去6年間のうちに3倍以上に増加しています。
日本でも、2023年2月に
「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、化石エネルギーからクリーンエネルギー中心に転換する「GX(グリーントランスフォーメーション)」を実現するために、「成長志向型カーボンプライシング構想」が打ち出されました。
私たちにできること
カーボンプライシングが浸透する社会では、個人の選択がより重要になります。環境に優しい製品やサービスを意識的に選ぶ、省エネを実践する、再生可能エネルギープランへの切り替えを検討するなど、小さな行動の積み重ねが脱炭素社会へのシフトを加速させます。また、勤めている企業がどのようなカーボンプライシング戦略を採っているか関心を持つことも大切です。

