近年、環境問題への関心が高まる中で「プラスチックフリー」という言葉を耳にする機会が増えています。レジ袋の有料化やストローの紙製への切り替えなど、私たちの身の回りでもプラスチックを使わない取り組みが広がっています。
しかし、プラスチックフリーとは具体的に何を意味するのでしょうか。なぜ世界中でこの取り組みが注目されているのでしょうか。本記事では、プラスチックフリーの基本的な意味から実践方法まで、分かりやすく解説します。環境に配慮した暮らしを始めたい方や、持続可能な社会づくりに関心のある方は、ぜひ参考にしてください。
プラスチックフリーとは何か
プラスチックフリーとは、文字通り「プラスチックを使わない」ことを意味する言葉です。英語の「Free」には「~がない」「~を含まない」という意味があり、アルコールフリーやグルテンフリーと同じような使い方をします。
基本的な意味と定義
プラスチックフリーは、日常生活の中でプラスチック製品の使用を避け、代わりに再利用可能な素材や生分解性のある素材を選ぶライフスタイルや取り組みを指します。完全にプラスチックを排除することは現実的に困難ですが、特に使い捨てのプラスチック製品を減らすことに重点が置かれています。
たとえば、ペットボトルの代わりにマイボトルを使用する、レジ袋の代わりにマイバッグを持参する、プラスチック製ストローの代わりに紙製や竹製のストローを使うといった取り組みが該当します。
類似用語との違い
プラスチックフリーと似た意味で使われる用語として「脱プラスチック(脱プラ)」「ノープラスチック(ノープラ)」「プラなし」などがあります。これらは基本的に同じ概念を表しており、プラスチック製品の使用を減らし、環境への負荷を軽減することを目指している点で共通しています。
ただし、プラスチックフリーという表現には、単に「使わない」だけでなく、より積極的に代替手段を選択し、環境に配慮したライフスタイルを実践するという前向きなニュアンスが含まれています。
プラスチックフリーが注目される理由
世界中でプラスチックフリーの取り組みが広がっている背景には、深刻化する環境問題があります。特に海洋汚染とマイクロプラスチックによる生態系への影響が大きな要因となっています。
深刻化する海洋プラスチック問題
現在、世界の海洋には約1億5,000万トンものプラスチックごみが存在し、毎年約800万トンのプラスチックごみが新たに海に流出しています。このペースが続くと、2050年には海の中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超えると予測されています。
海洋プラスチックごみは、海の生き物に深刻な被害をもたらしています。ウミガメがビニール袋をクラゲと間違えて食べてしまったり、海鳥がプラスチック製の袋や網に絡まって死んでしまったりする事例が数多く報告されています。また、クジラの胃から大量のプラスチックごみが発見されるニュースも世界中で注目を集めました。
マイクロプラスチックによる生態系への影響
特に深刻な問題として注目されているのが、5ミリ以下の微細なプラスチック片である「マイクロプラスチック」です。海に流出したプラスチックごみは、紫外線や波の力によって徐々に細かく砕かれ、やがてマイクロプラスチックになります。
マイクロプラスチックは魚や貝類がエサと間違えて摂取してしまうことがあり、食物連鎖を通じて生態系全体に影響を及ぼす可能性があります。さらに、プラスチックには製造過程で添加された化学物質が含まれていたり、海を漂流する間に有害物質を吸着したりするため、これらの物質が生物の体内に蓄積される危険性も指摘されています。
日本のプラスチック廃棄量の現状
日本は世界有数のプラスチック廃棄国として知られています。国連環境計画(UNEP)の報告によると、1人あたりのプラスチック容器包装の廃棄量は、日本はアメリカに次いで世界第2位となっています。年間約32キログラムものプラスチック容器包装を1人あたり廃棄しており、これは世界平均を大きく上回る数値です。
また、日本周辺海域のマイクロプラスチック濃度は、北太平洋の16倍、世界の海の27倍という調査結果も報告されており、日本近海の汚染状況の深刻さが浮き彫りになっています。このような状況を受けて、日本でも2020年にレジ袋の有料化が始まるなど、プラスチック削減に向けた取り組みが本格化しています。
世界的な取り組み「プラスチックフリージュライ」
プラスチックフリーの取り組みを世界規模で推進している代表的な活動が「プラスチックフリージュライ(Plastic Free July)」です。この活動は、毎年7月を「プラスチックフリー強化月間」として、使い捨てプラスチックの使用を控えることを呼びかける世界的なムーブメントとなっています。
活動の始まりと広がり
プラスチックフリージュライは、2011年にオーストラリア・パース近郊の港町フリーマントルで、レベッカ・プリンスルイス氏によって始められました。最初は職場の同僚や近所の住人など、わずか40人程度の参加者からスタートした小さな取り組みでした。
しかし、「誰でも気軽に参加できる」という点が多くの人に支持され、活動は急速に世界中に広がりました。参加者は年々増加を続け、2020年には世界177カ国から3億2,600万人が参加するまでに成長しています。2023年には推定8,900万人が参加しており、現在も世界最大規模の環境保護活動の一つとして継続されています。
参加方法と効果
プラスチックフリージュライの魅力は、参加の敷居が低く、自分のペースで取り組めることです。公式ウェブサイトで参加登録を行うと、期間や取り組み内容を自由に選択できます。「1日だけ」「1週間」「1ヶ月間」「これから先ずっと」といった期間設定や、「家庭で使い捨てプラスチックを使わない」「オフィスでレジ袋やペットボトルを使わない」など、場所や用途に応じた目標設定が可能です。
参加者にはメールで週ごとにプラスチックフリーを実践するコツやヒントが届けられ、SNSでは「#plasticfreejuly」のハッシュタグを使って取り組み内容を共有することが推奨されています。このように、個人の取り組みを可視化し、世界中の参加者とつながることで、一人ひとりの小さな行動が大きな変化につながっていることを実感できる仕組みになっています。
日常生活でできるプラスチックフリーの実践方法
プラスチックフリーは特別な準備や大きな投資を必要とせず、日常生活の中で簡単に始めることができます。完璧を目指すのではなく、できることから少しずつ取り組むことが重要です。
使い捨てプラスチックの削減
最も効果的で取り組みやすいのが、使い捨てプラスチック製品の使用を控えることです。レジ袋の代わりにマイバッグを持参する、ペットボトル飲料の代わりにマイボトルを使用する、プラスチック製ストローを断るといった行動から始めましょう。
コンビニエンスストアやファストフード店でも、「ストローはいりません」「袋は不要です」と伝えるだけで、日々のプラスチック使用量を大幅に減らすことができます。また、テイクアウトの際には自分の容器を持参できる店舗も増えており、こうしたサービスを積極的に利用することも有効です。
代替商品の選択
プラスチック製品を他の素材で作られた商品に置き換えることも重要な取り組みです。食品保存用のラップフィルムの代わりに、蜜蝋でコーティングされた布製のエコラップを使用したり、プラスチック製の保存容器をガラスやステンレス、木材製のものに変更したりする方法があります。
歯ブラシも竹製のものが人気を集めており、歯磨き粉についてもマイクロビーズ(微細なプラスチック粒子)が含まれていない製品を選ぶことで、海洋汚染の防止に貢献できます。シャンプーやボディソープについても、固形石鹸に切り替えることでプラスチック容器の使用を避けることができます。
買い物や外出時の工夫
買い物の際には、過剰包装された商品を避け、量り売りやバラ売りの商品を選ぶよう心がけましょう。ファーマーズマーケットや地域の直売所では、プラスチック包装されていない新鮮な食材を購入できることが多く、プラスチックフリーな買い物に適しています。
また、詰め替え用商品を積極的に選ぶことも効果的です。シャンプーや洗剤、化粧品などは詰め替え用パックが販売されており、同じボトルを繰り返し使用することでプラスチックごみを大幅に削減できます。この方法は環境負荷を減らしながら家計にも優しく、一石二鳥の効果が期待できます。
企業や社会の取り組み事例
プラスチックフリーの推進は個人の取り組みだけでなく、企業や行政による組織的な取り組みも重要な役割を果たしています。日本国内外で多くの先進的な事例が生まれており、社会全体でプラスチック削減に向けた動きが加速しています。
日本企業の先進的な取り組み
日本の大手企業も積極的にプラスチックフリーの取り組みを進めています。すかいらーくホールディングスは、プラスチック製ストローの廃止をいち早く実施した外食チェーンとして注目されています。2018年にガストで開始し、2019年7月までにグループ全店でプラスチック製ストローの使用を完全に中止しました。現在はFSC認証を受けた紙製ストローに切り替えています。
マクドナルドも「プラスチック資源循環アクション宣言」を掲げ、様々な取り組みを実施しています。ハッピーセットでは従来のプラスチック製おもちゃに加えて、紙製の絵本と図鑑を選択肢として追加し、消費者がプラスチック以外の選択肢を選べる環境を整えました。また、アイスコーヒーのカップをプラスチックから紙に変更するなど、段階的な脱プラスチック化を進めています。
IKEA(イケア)は2020年1月より、ホームファニシング製品から使い捨てプラスチック製品を完全に廃止しました。これにより、世界規模でプラスチック削減に大きく貢献しています。
国や自治体の政策
国レベルでの取り組みとして、日本では2022年4月から「プラスチック資源循環促進法」が施行されました。この法律は、プラスチック製品の設計・製造・販売・回収・リサイクルの全体的な流れの中で、事業者・自治体・消費者が連携して循環型経済(サーキュラーエコノミー)の構築を推進することを目的としています。
環境省は「プラスチック・スマート」キャンペーンを実施し、プラスチックと賢く付き合うための取り組みやアイデアを国内外に発信しています。個人、企業、団体、行政のあらゆる立場の参加が可能で、現在2,000件以上の取り組みが登録されています。
また、2019年のG20大阪サミットでは「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が採択され、2050年までに海洋プラスチックごみによる新たな汚染をゼロにする目標が設定されました。この目標は現在87の国・地域で共有されており、国際的な協力体制が構築されています。
プラスチックフリーを始めるメリットと今後の展望
プラスチックフリーの実践は環境保護だけでなく、私たちの生活にも様々な恩恵をもたらします。また、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たしています。
環境・経済的メリット
プラスチックフリーを生活に取り入れる最大のメリットは、地球環境に優しい生活を送れることです。使用するプラスチック製品が減ることで、海に流出するプラスチックごみの量を削減し、マイクロプラスチックによる生態系への悪影響を軽減できます。
経済的な面でも多くのメリットがあります。マイバッグやマイボトルの使用により、レジ袋代やペットボトル飲料の購入費を節約できます。詰め替え用商品の利用も継続的な費用削減につながります。また、プラスチックフリーを意識することで、本当に必要なものを厳選して購入する習慣が身につき、無駄な出費を抑える効果も期待できます。
マイボトルを持参することで割引サービスを受けられる店舗も増えており、環境配慮と節約を同時に実現できる機会が広がっています。
持続可能な社会への貢献
プラスチックフリーの取り組みは、SDGs(持続可能な開発目標)の複数の目標達成にも貢献します。特に「海の豊かさを守ろう」「つくる責任つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」といった目標と密接に関連しています。
個人の小さな行動の積み重ねが、企業の商品開発や政策決定にも影響を与えます。多くの消費者がプラスチックフリーな選択を行うことで、量り売りの店舗や給水スポットの増設、代替素材を使用した商品の開発促進など、社会全体のシステム変革につながります。
現在、国連では「国際プラスチック条約」の制定に向けた議論が進められており、約175の国連加盟国が参加して具体的な内容を検討しています。強力な国際条約が締結されれば、世界規模でプラスチックの生産量削減とリユースの促進が実現し、海洋プラスチック問題の根本的な解決に向けて大きく前進することが期待されています。
まとめ
プラスチックフリーとは、プラスチック製品の使用を減らし、環境への負荷を軽減するライフスタイルや取り組みのことです。深刻化する海洋プラスチック問題やマイクロプラスチックによる生態系への影響を背景に、世界中で注目を集めています。
日常生活では、マイバッグやマイボトルの使用、代替商品の選択、詰め替え用商品の活用など、簡単にできることから始めることが重要です。完璧を目指すのではなく、できる範囲で継続的に取り組むことで、環境保護と経済的なメリットの両方を実現できます。
プラスチックフリーの実践は、持続可能な社会の実現に向けた重要な一歩です。一人ひとりの意識的な選択が積み重なることで、企業や社会全体の変革を促し、美しい地球環境を未来の世代に残すことにつながります。今日からできる小さな行動から、プラスチックフリーな暮らしを始めてみませんか。
参照元
・Circular Economy Hub
https://cehub.jp/glossary/plastic-free/
・環境省|令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r02/html/hj20010103.html
・政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201905/1.html
・WWFジャパン
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3776.html
・日本財団ジャーナル
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2020/44897/ocean_pollution/
・環境省|ecojin(エコジン)
https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20230705.html
・グリーンピース・ジャパン
https://www.greenpeace.org/japan/news/ocean-plastics-reasons/