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CSR

サプライチェーン・デューデリジェンスとは|義務化の波と日本企業が今すぐ取るべき行動

Photo by Genadi Georgiev on Unsplash

「サプライチェーン・デューデリジェンス」という言葉を聞いて、「大企業だけの話でしょう?」と感じる方は少なくないはずです。ところが欧州では、従業員数百人規模の企業まで対象が広がりつつあり、取引先に日系企業を持つ海外バイヤーからすでに情報開示を求められているケースも出ています。本記事では、デューデリジェンスとは何か・なぜ今動かなければならないのかを具体的に整理し、今日から始められる一歩をお伝えします。

そもそも「デューデリジェンス」って何をすることなのか

「デューデリジェンス(due diligence)」は直訳すると「相当な注意義務」。企業が自社のビジネス活動やサプライチェーン全体において、人権侵害・環境破壊・強制労働などの悪影響が起きていないかを調査・特定・対処・情報開示する一連のプロセスを指します。

「それって単なる調査では?」と思うかもしれませんが、ポイントは「調査して終わり」ではない点にあります。問題を発見したら是正し、その取り組みを外部に開示するところまでがセットです。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」が2011年に採択されて以来、この考え方は国際的な企業行動の基準として定着しています。

なぜ今、法制化の波が加速しているのか

「自主的な取り組みでは不十分」——これが欧米各国が法制化に踏み切った共通の理由です。JETROが2024年11月に公表した調査レポートでも、特に欧州においてサプライチェーン上の人権・環境リスクを企業に法的義務として課す流れが加速していることが整理されています。

よくある誤解として「欧州の法律だから日本は関係ない」という認識がありますが、実際は違います。EU・ドイツ・フランスの法律は、現地に子会社や取引先を持つ企業に適用されるため、欧州ビジネスに関わる日系企業は間接的に対応を求められます。

ドイツのサプライチェーン・デューデリジェンス法

2023年1月に施行されたドイツの「サプライチェーン・デューデリジェンス法(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz)」は、当初は従業員3,000人以上の大企業が対象でしたが、2024年からは1,000人以上に拡大されました。間接的なサプライヤー(二次・三次)も調査対象に含まれ、違反には罰則も定められています。

ドイツに製品を納品する日系部品メーカー、ドイツ系バイヤーと取引する国内中堅企業も、取引先から調査票や情報開示を求められる立場になりえます。

フランスの注意義務法

フランスでは「注意義務法(Loi de Vigilance)」により、一定規模以上の親会社・発注企業に対して、人権・環境に関する悪影響を特定し対処する計画書の作成・開示・実行が義務付けられています。EUレベルでも同様の仕組みを持つ「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」が2024年7月に発効しており、段階的な適用が始まっています。

英国の現代奴隷法

英国では2015年施行の「現代奴隷法(Modern Slavery Act)」により、一定規模以上の企業に対して、サプライチェーン上に奴隷労働・人身取引がないことを示す声明の公表が求められています。

日本の現在地|法的拘束力のないガイドラインから何が変わるか

「日本には義務化の法律がないから、まだ大丈夫では?」という声をしばしば耳にします。たしかに日本は現時点で義務化には至っていませんが、状況は変化しています。

日本政府は2020年10月に「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」を策定し、2022年9月には経済産業省・外務省が中心となって「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しました。このガイドラインは日本で事業活動を行う全ての企業に対し、サプライチェーン上の人権デューデリジェンスに最大限努めることを求めています(法的拘束力はなし)。

また、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、取締役会が「人権の尊重」などサステナビリティ課題に能動的に取り組むべきとの方針が明記されました。ESG評価機関や金融機関による格付けへの影響も加わり、上場企業を中心に対応圧力は着実に高まっています。

学生団体のメンターとして企業との連携プロジェクトを支援していると、「ガイドラインは読んだが、自社のどこから手を付ければいいかわからない」という声を企業担当者からよく受けます。法律ではないからこそ、優先順位の付け方が難しいのが現実です。

企業のSDGs・サステナビリティ事例をまとめた記事も、方針策定の参考になります。

デューデリジェンスの基本的な流れ|4つのステップ

「何をどの順番でやればいいか」という疑問に対して、国際的に広く参照されているOECDのデューデリジェンス・ガイダンス(2018年)や国連UNGPsをベースに整理すると、おおよそ次の4ステップに収まります。

ステップ1|方針の策定とコミットメントの表明

まず「人権・環境を尊重する」という経営レベルのコミットメントを明文化します。サステナビリティ方針や調達方針として文書化し、社内外に公表することがスタートラインです。「まだ何も決まっていない」という企業でも、経営トップが方針を一言でも示すことが対外的には大きな意味を持ちます。

ステップ2|リスクの特定と優先順位付け

自社のサプライチェーンのどこに、どんなリスクが潜んでいるかをマッピングします。原材料の産地・生産工程・下請け構造などを整理し、「強制労働の懸念がある地域からの調達はないか」「長時間労働・低賃金が蔓延しやすい業種との取引はないか」を確認します。すべてを一度に把握しようとすると動けなくなるため、まずは一次サプライヤー(直接の取引先)から着手するのが現実的です。

ステップ3|リスクへの対処と是正

リスクを把握したら、取引先との対話・契約条件の見直し・能力構築支援(サプライヤー向けトレーニング等)などを通じて改善を働きかけます。問題が発覚したとき「すぐに取引停止」だけが答えではなく、段階的な改善支援のプロセスを踏むことが国際規範でも重視されています。

ステップ4|情報開示と対話

取り組みの内容と結果を、サステナビリティレポートや有価証券報告書などで開示します。「うまくいったことだけ書く」のではなく、課題や未解決の問題も誠実に示す姿勢が、投資家・取引先・消費者からの信頼につながります。

「中小企業には関係ない」は本当か|現場でよく聞く3つの誤解

サプライチェーン・デューデリジェンスに関して、支援先の企業担当者から繰り返し聞こえてくる誤解があります。よく見られるパターンを3つ整理します。

誤解1|「法律がないから対応しなくていい」

日本に義務化法がなくても、欧州向けに輸出している企業・欧系バイヤーと取引のある企業は、バイヤー側の法的義務の連鎖として調査票の回答や情報提供を求められます。また、ESG評価の低下は調達先候補から外れるリスクにも直結します。「法律がないから関係ない」ではなく、「取引先の法律に間接的に縛られる」という視点が必要です。

誤解2|「サプライヤーを管理するのは大企業だけの仕事」

中堅・中小企業でも、自社がサプライヤー側として大企業から調査を受ける立場になっています。「どこから原材料を仕入れているか」「工場の労働環境はどうか」といった質問票への回答を求められるケースは増加傾向にあります。答えられない状態は、それ自体がリスクとして評価されます。

誤解3|「一度調査すれば終わり」

デューデリジェンスは単発の調査ではなく、継続的なプロセスです。取引先の状況は変わり、地政学リスクや新たな規制も毎年更新されます。「昨年やったから大丈夫」という感覚は、国際的な基準では通用しません。年次でのレビューと更新が求められます。

今日から始められる1アクション

「何から手を付ければいいか」で止まってしまうことが最も多いパターンです。まずは1つだけ試してみてください。

自社の一次サプライヤー(直接の取引先)を10社リストアップし、「どの国・地域から何を仕入れているか」を書き出してみる。

これだけで、サプライチェーンの可視化が始まります。経済産業省が公表している「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」には、中小企業を含む企業が参照できる具体的な手順も掲載されています。ゼロから独自ツールを作る必要はなく、公的なガイドラインを出発点にするのが現実的です。

取り組みを始めた企業の実例については、こちらもあわせて読んでみてください。

まとめ|サプライチェーン・デューデリジェンスを「他人事」にしないために

サプライチェーン・デューデリジェンスは、企業規模を問わず「取引でつながる全員に関わる問題」です。欧州の法制化は日系企業にも連鎖し、日本国内でもコーポレートガバナンス・コードや各種ガイドラインを通じた対応圧力が高まっています。

  • デューデリジェンスは「調査して終わり」ではなく、特定・対処・開示まで含む継続的なプロセス
  • ドイツ・フランス・EUの法律は、現地取引先を持つ日系企業に間接的に影響する
  • 日本でも2022年の経産省ガイドラインとコーポレートガバナンス・コード改訂により、対応の必要性は高まっている
  • まずは一次サプライヤーのリストアップから。公的ガイドラインを活用して段階的に進めることができる

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