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ENVIRONMENT

アグロエコロジーは日本で根づくか|有機農業との違いと国の政策、暮らしでの関わり方

Photo by M Polinder on Unsplash

アグロエコロジーを調べ始めた頃、私は「有機農業の新しい呼び名なのだろう」と受け取っていました。国連やFAO(国連食糧農業機関)、農林水産省の資料を読み比べるうちに、その理解は半分しか合っていないと気づきました。有機農業と重なる部分は大きいものの、アグロエコロジーは農法の名前にとどまりません。土の中の生きものの働きを活かす科学であり、地域の資源を循環させる実践であり、農家や消費者の主体性を重んじる社会運動でもあります。

日本は、この3つの側面のうち「実践」の入口にようやく立ったところです。この記事では、有機農業との違い、日本の数字で見える現在地、福島大学で始まった学びの場、国の政策指標とFAOの枠組みを重ねたときの見え方を順に整理します。最後に、今日から試せる行動を1つ挙げます。

この記事で学べること

  • アグロエコロジーと有機農業の違い、そして重なる部分
  • 日本の有機農業の現在地と、国が掲げる2030年・2050年の目標
  • 国の政策指標とFAOの「10の要素」を比べて見える、数えやすいものと数えにくいもの
  • 買い手として今日から試せる、地域の取り組みとの接点のつくり方

アグロエコロジーの輪郭|有機農業と何が違うのか

アグロエコロジーはagriculture(農業)とecology(生態学)を組み合わせた言葉です。FAOは、生態学的な考え方と社会的な考え方を同時に農業・食料システムの設計と管理に適用する、包括的で統合的なアプローチだと説明しています。「農薬を使わない農法」という一言では収まらないのは、この定義が最初から社会の側面を含んでいるためです。

定義が揺れやすい点にも触れておきます。日本の環境メディアの記事には「100人いれば100通りのアグロエコロジーが存在してもおかしくない」という表現があり、概念の範囲がまだ定まりきっていない様子が伝わります。資料によって説明の重心が違って見えるのは、この揺れが原因です。

科学・実践・社会運動という3つの顔

FAOの説明では、アグロエコロジーは科学、実践、社会運動の3つとして同時に語られます。科学としては、生態系の仕組みを農業に活かす研究です。実践としては、不耕起、カバークロップ(土を覆う作物)、輪作、地域資源の利用といった具体的な農法です。社会運動としては、ラテンアメリカで農民運動の拠り所になり、ブラジルでは政府の政策にも採り入れられてきたと紹介されています。

日本でこの言葉に出会うときは、ほとんどが2つ目の「実践」の文脈です。残る2つに目が向かないまま語られやすい点は、後の章で扱います。

有機農業との違いは「何をしないか」と「何を活かすか」

有機農業は、化学合成の農薬や化学肥料を原則として使わないという、投入資材の基準で定義されます。日本では有機JASという公的な認証制度があり、基準を満たしたほ場の面積も統計として把握されています。

一方、福島大学の取り組みを伝える記事では、アグロエコロジーを「できるだけ地域資源を利用し、不耕起、被覆作物、輪作を組み合わせた農法」と説明しています。単に化学農薬や肥料を使わないのではなく、土とそこに住む多様な生きものに注目して、耕起を控えながら持続可能な農業を目指す点が特徴です。

整理すると、有機農業は「何を使わないか」の基準が明確な制度で、アグロエコロジーは「土と生きものの力をどう活かすか」と、その地域の社会のあり方まで含む枠組みです。両者は排他的ではなく、有機農業をアグロエコロジーの考え方で実践する農家もいれば、有機認証を取らずにアグロエコロジーに近い農業をしている農家もいます。

私が確認した範囲では、アグロエコロジーに有機JASのような公的な認証制度は見当たりませんでした。商品に「アグロエコロジー」と書かれていても、中身は売り手の説明に頼るしかありません。根拠のない「環境に優しい」と同じく、言葉だけで判断せず、どんな栽培をしているのかを尋ねる姿勢が欠かせません。

日本の数字で見る現在地

日本の動きを知るには、まず国の統計と戦略を見るのが近道です。アグロエコロジー自体を数える統計はないため、重なる領域として最も数字が整っている有機農業の指標を手がかりにします。

有機農業は耕地の1%に届いていない

農林水産省の有機農業のページによると、2024年度(令和6年度)の有機農業の取組面積は3.98万ヘクタールで、国内の耕地面積に占める割合は0.9%です。面積は増えているものの、耕地の大半は慣行栽培のままだということが分かります。

みどりの食料システム戦略が掲げる目標

農林水産省は2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を公表しました。2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化、化学農薬の使用量(リスク換算)50%低減、化学肥料の使用量30%低減、耕地面積に占める有機農業の割合を25%(約100万ヘクタール)に拡大するなど、14の数値目標が並びます。2022年7月には、この戦略を支える「みどりの食料システム法」も施行されました。

2030年の中間目標は6.3万ヘクタールとされています。2024年度の3.98万ヘクタールとの差は約2.3万ヘクタールで、年に直すと数千ヘクタール規模の上積みが続く計算です。2050年の25%と現在の0.9%を並べると、30倍近い開きがあります。目標の遠さは、数字の上でもはっきりしています。

オーガニックビレッジという地域単位の動き

国は生産から学校給食での利用まで一貫して地域ぐるみで有機農業を進める市町村を「オーガニックビレッジ」と呼び、広げようとしています。農林水産省のページでは、2025年までに100市町村を創出する目標に対し、2026年8月31日時点で168市区町村が取り組んでいると示されています。目標は上回ったことになります。

農地面積の割合が1%に届かない中で、自治体の数が先に増えている点は見逃せません。面積はすぐに増えなくても、地域の中で「作る人」と「食べる人」をつなぐ土台が少しずつ広がっていると読めます。ただし、この数字だけで各地の取り組みの中身までは判断できません。

日本で動き出した学びの場

実践が広がるには、技術を教える場が必要です。日本ではここ数年で、大学院レベルの学びの場も生まれました。

2023年春、福島大学大学院食農科学研究科にアグロエコロジープログラムが開設されたと報じられています。担当は土壌生態学が専門の金子信博教授です。2023年4月の記事によれば、定員20人に対し社会人13人を含む45人が入学しました。

なお、この件を検索で調べると、開設を2022年とする要約や「定員の2.5倍」とする記述も出てきます。記事本体で確認できた数字は上記のとおり2023年春・定員20人・入学者45人です。年や倍率は、一次の記事に当たって確かめる必要がある典型例でした。

耕作を控え、土の中の生きものを活かすという発想は、これまでの農業の常識とは異なります。社会人が過半を占めたことは、すでに現場で農業や食に関わっている人たちが、新しい知識を求めていることを示しています。

政策の指標とFAOの10要素を重ねて見えること

ここからは、複数の資料を並べて読んだうえでの私自身の整理です。実態調査の結果ではなく、公開されている資料同士を比較した見方である点にご注意ください。

FAOの「アグロエコロジーの10の要素」は、多様性、知識の共創、相乗効果、効率性、リサイクル、レジリエンス(回復力)、人間的・社会的価値、文化と食の伝統、責任あるガバナンス、循環型・連帯経済の10項目で構成されています。FAOの発表では、2019年12月に197の加盟国が採択したとされています。

この10要素と、みどり戦略の数値目標を並べてみると、見え方の差が浮かびます。

数字で追いやすいもの

みどり戦略のKPIは、CO2排出量、農薬・化学肥料の使用量、有機農業の面積など、農地や資材の量に結びついています。FAOの10要素でいえば、リサイクルや効率性といった部分に近い指標です。統計が整っており、年ごとの進み具合を確かめられます。

数字で追いにくいもの

一方で、知識の共創、文化と食の伝統、人間的・社会的価値、連帯経済といった要素は、面積や使用量では測れません。農家同士が技術を教え合う関係、地域の食文化、消費者との顔の見える関係は、統計には現れにくい領域です。

私が資料を読んでいて引っかかったのは、数えやすいものばかりが目標になると、アグロエコロジーの核である社会の側面が見えなくなるおそれがある点です。有機農業の面積が増えること自体は前向きな動きです。ただ、それだけで「アグロエコロジーが広がった」とは言い切れないはずです。面積の数字と、地域の関係性の厚みは、別々に見ておく必要があります。

読者が持ち帰れる視点

この整理から、買い手として次の2つを意識できます。1つは、有機JASなどの認証がある産品でも、どんな地域の関係の中で作られたかを知ろうとすること。もう1つは、認証がない産品でも、栽培の考え方を生産者に尋ねることで、判断材料が増えることです。

今日から試せる1つの行動

ここまで読むと、「大きな話で自分には関係ない」と感じるかもしれません。私も最初は、政策や研究の話と日々の買い物の距離を遠く感じていました。そこで、1つだけに絞った行動を提案します。

その行動は、お住まいの自治体がオーガニックビレッジに取り組んでいるかを、農林水産省のページで調べることです。調べるだけで、数分で終わります。取り組んでいる場合は、その自治体の直売所や学校給食で、どんな農産物が使われているかを見てみてください。

取り組んでいない場合も、がっかりする必要はありません。近くの直売所で、気になった野菜の生産者に「土づくりで気をつけていることはありますか」と1つだけ尋ねてみてください。答えは人によって大きく違うはずです。その違いを知ること自体が、アグロエコロジーの「知識の共創」に触れる第一歩になります。

「有機だから良い」「慣行だから悪い」という二択で見ないことも大切です。農家は気候や土、販路などの条件の中で選択しています。尋ねる側が上から評価するのではなく、教えてもらう姿勢で関わると、会話は続きやすくなります。

まとめ

アグロエコロジーは、有機農業と重なりつつも、科学・実践・社会運動を同時に含む広い枠組みです。日本では有機農業の取組面積が耕地の0.9%(2024年度)にとどまり、国は2050年に25%という高い目標を掲げています。面積の伸びはまだ緩やかですが、オーガニックビレッジが168市区町村に広がり、福島大学のように学びの場も生まれました。

一方で、国の数値目標は面積や資材の量に偏りがちで、FAOの10要素にある知識の共創や食文化、連帯経済といった社会の側面は、数字に現れにくい領域です。これは資料を並べて読んだうえでの私の見方ですが、買い手として地域の生産者や自治体の動きに目を向けることが、数字では追えない部分を補う手段になると考えています。

アグロエコロジーを名乗る公的な認証は見当たらないため、言葉の響きだけで選ばず、栽培の考え方を尋ねる姿勢が欠かせません。まず、自分の自治体の取り組みを調べる1つだけを試してみてください。

  • アグロエコロジーは科学・実践・社会運動の3側面を持ち、有機農業より広い枠組みである
  • 日本の有機農業の取組面積は耕地の0.9%(2024年度)で、2050年の目標は25%
  • オーガニックビレッジは168市区町村(2026年8月末時点)に広がり、2025年までに100市町村という目標を上回った
  • 国の数値目標は面積や資材量が中心で、知識の共創や食文化といった社会の側面は数字に現れにくい
  • 最初の一歩は、自治体の取り組みを調べ、地域の生産者に栽培の考え方を1つ尋ねること

参考文献

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