「ESGスコアが低いと言われたが、どこをどう直せばよいのか分からない」。サステナビリティ担当者から、こうした相談がよく聞かれます。ESG評価の方法は、MSCI、FTSE Russell、Sustainalytics、S&Pグローバル(CSA)といった機関ごとに異なります。ESG評価とは、環境・社会・ガバナンスへの取り組みを第三者機関がスコアや格付けで示すものです。同じ企業でも、見る機関によって結果が大きく変わることがあります。この記事では、主要機関の評価方法の違い、スコアが割れる理由、日本の動き、企業が押さえるべき指標と最初の一手を順に整理します。
ESG評価が使われる場面と、スコアの正体
ESG評価は、売上や利益といった財務情報だけでは見えにくい「長期的に持続可能な経営ができているか」を、非財務情報から測ろうとするものです。主な利用者は機関投資家で、ESGを組み込んだ株式指数の構成銘柄を選ぶ際や、投資先との対話の材料として使われます。金融機関の融資判断や、大企業が取引先を選ぶときのサプライチェーン管理でも、参考にされる場面があります。
注意したいのは、ESGスコアは「取り組みの善し悪し」を一つの物差しで決めたものではない、という点です。各機関は、何を重視するか、どの情報を根拠にするか、どう点数にするかを独自に決めています。つまりスコアは、その機関のレンズを通して見た姿です。この前提を知らないまま「スコアを上げること」だけを目標にすると、本質的な改善から離れてしまうおそれがあります。
こうした評価機関の影響力が大きくなったことを受けて、金融庁は2022年12月に「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」を公表しました。品質、人材育成、独立性、透明性、守秘義務、企業とのコミュニケーションの6原則が示されています。評価の目的や基本的な方法論の公表、評価の根拠データを企業が確認・訂正できる体制づくりなどが盛り込まれています。法的な拘束力のあるルールではなく、各機関が賛同を表明して遵守状況を説明する形で運用されています。
ESGの全体像から確認したい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
主要4機関の評価方法を比べる
世界には数多くのESG評価機関があります。日本企業が目にする機会の多い4機関を取り上げ、評価のスケール、考え方、読み方の注意点を比べます。
MSCI ESGレーティング
MSCIは、AAAからCCCまでの7段階のレターで評価します。AAAとAAが「リーダー」、A・BBB・BBが「平均」、BとCCCが「ラガード(遅れている企業)」という区分です。特徴は、業界内での相対評価であることです。業種ごとに重要度の高い「キーイシュー」(35項目が設定されています)を選び、同業他社と比べて、リスクと機会にどれだけ対応できているかを見ます。
そのため、業種が違えば同じAでも意味合いが変わります。他社と比較する際は、同じ業種の中での位置づけを確認する必要があります。
FTSE Russell ESGレーティング
FTSE Russellは、0〜5のスケールで評価します。300を超える指標を14のテーマに束ね、環境・社会・ガバナンスの3つの柱のスコアと総合スコアを出す仕組みです。テーマには気候変動、汚染と資源、水の安全保障、労働基準、人権とコミュニティ、腐敗防止、コーポレートガバナンス、税の透明性などがあります。業種ごとの重要度に応じて、テーマの影響度が調整されます。
評価の根拠が公開情報に基づくため、企業側が「どの開示がどの指標に対応しているか」を追いやすい点が実務上の強みです。次に取るべき行動を考える入口として使いやすい機関と言えます。
Sustainalytics ESGリスクレーティング
Sustainalyticsは、評価の向きが他機関と逆です。「管理されていないESGリスクの大きさ」を数値化するため、スコアは低いほど良い評価になります。0〜10未満が「無視できる」、10〜20未満が「低い」、20〜30未満が「中程度」、30〜40未満が「高い」、40以上が「深刻」の5区分です。業界に固有の重要なESG課題へのさらされ方と、企業がそれをどれだけ管理できているかの2つの軸で算出されます。
MSCIが業界内の相対評価であるのに対し、この5区分は業種をまたいで比較できる絶対的な区分とされています。「10と30のどちらが良いのか」と迷いやすいので、レポートを読むときは最初にスケールの向きを確認してください。
S&Pグローバル(CSA)
S&PグローバルのCSA(コーポレート・サステナビリティ・アセスメント)は、企業が回答するアンケートが評価の中心です。業種別に約60種類の質問票があり、1社あたり平均で約1,000のデータをもとに0〜100点のスコアを出します。DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)の構成銘柄も、このCSAの結果にもとづいて選ばれます。
公開情報を中心に評価する機関と違い、回答の内容や書き方が結果に影響します。何を開示し、どう説明するかという「伝え方」の準備が、そのまま評価に反映される点が特徴です。
4機関の違いを一言で
読み方の違いを短くまとめると、次のとおりです。
- MSCIはAAA〜CCCの7段階で、業界内の相対評価
- FTSE Russellは0〜5点で、300超の指標の根拠を追いやすい
- Sustainalyticsはリスクの大きさを示すため、数値が低いほど良い
- S&Pグローバル(CSA)は0〜100点で、企業のアンケート回答が評価の柱
同じ企業でもスコアが割れる理由
機関ごとに設計が違うのだから、結果が割れるのは自然なことです。それでも、どの程度割れるのかは知っておく価値があります。
研究が示す相関の低さ
この問題を扱った代表的な研究に、ベルク氏、ケルベル氏、リゴボン氏による論文「Aggregate Confusion」があります。KLD、Sustainalytics、Moody’s ESG(Vigeo Eiris)、S&Pグローバル(RobecoSAM)、Refinitiv(Asset4)、MSCIの6機関のデータを比べた研究です。ESG総合評価の機関間の相関は、平均で0.54にとどまりました。信用格付けの主要機関同士の相関がほぼ1に近いことと比べると、大きな差があります。
要素別では、環境の平均相関が0.53、社会が0.42、ガバナンスが0.30でした。ガバナンスの評価は、とくに機関間で割れやすいことになります。なお、この分析は2010年代後半までのデータにもとづいており、その後各機関が手法を見直している点には留意が必要です。
割れる原因は「測り方」と「範囲」にある
同じ論文は、乖離の原因を3つに分けています。測定方法の違いが56%、評価する項目の範囲の違いが38%、重みづけの違いが6%という内訳です。つまり、何を重視するかという考え方の違いより、同じ項目を違う指標で測っていることのほうが、割れる主因になっています。
企業にとっては、スコアが低いことが即「取り組みが足りない」を意味するとは限らない、ということです。開示していない、あるいは機関が求める形式で開示していないために、評価に反映されていないケースもあります。逆に、スコアが高くても、別の機関で同じ水準とは限りません。複数の機関の結果を横に並べて平均するよりも、機関ごとの設計を理解して読み分けるほうが現実的です。
E・S・Gで共通して問われやすい指標
機関ごとの重みづけは違っても、評価で繰り返し登場する分野があります。公開情報を点検するときの参照軸として整理します。
E(環境)
温室効果ガス(GHG)排出量の開示は、環境分野で最も頻繁に問われる項目の一つです。自社の直接排出(スコープ1)、購入電力などによる間接排出(スコープ2)に加え、サプライチェーン全体の排出(スコープ3)まで開示しているかが、見られやすいポイントです。削減目標とその根拠、水資源の使用と管理、廃棄物の削減、生物多様性への影響も評価対象になります。
S(社会)
労働安全衛生、ダイバーシティ&インクルージョン、人権方針とサプライチェーンの人権対応などが中心です。女性管理職比率や育児休業取得率の開示は日本企業でも広がっていますが、サプライチェーン全体に人権デューデリジェンスを適用していることを示す開示は、まだ少ない領域とされています。方針を掲げるだけでなく、実際に確認した範囲や是正した事例まで示せるかが問われます。
G(ガバナンス)
取締役会の独立性と多様性、報酬の透明性、株主への説明責任、汚職防止の方針などが中心です。日本では、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況が参照されます。ガバナンスは前節のとおり機関間で評価が割れやすい分野です。そのため、体制の説明を開示資料の中でどれだけ具体的に書けるかが、結果の安定につながります。
開示フレームワークとESG評価の関係
評価機関は、企業が公表する報告書やウェブサイトの情報を主な情報源とします。どの基準に沿って、どこまで書くかが、スコアに直結します。
GRI・SASB・TCFD・ISSBの役割
GRIスタンダードは、幅広い利害関係者に向けて、環境・社会・ガバナンスの多様なトピックを報告するための基準です。SASBスタンダードは、業種ごとに財務に重要な影響を与える項目を定め、投資家向けの開示と相性が良いとされています。TCFDは、気候変動の影響をガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4項目で開示する枠組みです。ISSBは、これらの流れを受けて国際的な開示基準(IFRS S1・S2)を整備しました。
GRIは幅広い読み手を想定し、SASBやISSBは投資家の意思決定を支える設計です。どれか一つでカバーできるわけではなく、誰に何を伝えたいかによって組み合わせる必要があります。
日本ではSSBJ基準が土台になる
日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に国内初の開示基準を公表しました。ISSB基準との整合が図られており、適用基準、一般開示基準、気候関連開示基準の3つで構成されます。金融庁の方針では、東証プライム市場の時価総額3兆円以上の企業から2027年3月期に適用され、その後、時価総額の規模に応じて段階的に広げていく流れとされています。
評価機関が参照する開示の「型」が国内でそろっていくため、SSBJ基準に沿った整理は、複数の機関の評価に共通して効く土台になります。制度の詳細は次の記事で確認できます。
日本のESG評価をめぐる動き
日本の動きは、投資家の側と、評価機関を見る側の両方から見ておくと、全体像がつかみやすくなります。
GPIFのESG指数投資
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本株についてESG指数に連動する運用を行ってきました。総合型にはFTSE Blossom Japan Indexと、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数があります。テーマ型には、MSCI日本株女性活躍指数(WIN)と、S&P/JPXカーボン・エフィシエント指数があります。
大和総研のレポートによると、国内株式に占めるESG指数投資の割合は、2025年3月末の15.9%(約9.8兆円)から、同年5月末には約13%(約8.4兆円)へ下がりました。企業がESG評価に取り組む動機の一つだった大口の資金が減ったことになり、指数の選定を見直す動きとして注目されています。ただし、GPIFの公式な説明からは減少の意図が読み取りにくいと同レポートも指摘しており、評価そのものの意味が失われたとは言えません。
評価機関を「見る側」のルールづくり
もう一つの動きは、評価機関自体への働きかけです。前述の金融庁の行動規範は、評価の方法論の公表や、企業が評価の根拠データを確認・訂正できる仕組みを求めています。ルールに従うか、従わない場合は理由を説明する「コンプライ・オア・エクスプレイン」の方式です。
企業にとっては、評価機関に「評価の根拠を見せてほしい」「データの誤りを直したい」と伝える根拠ができたことになります。スコアの理由が分からないとき、まず評価機関の窓口に問い合わせる価値があります。
ESG投資の仕組みを基本から知りたい方は、次の記事が役立ちます。
企業がESG評価を見直すときの進め方
最後に、実務の順序をまとめます。全機関で高いスコアを取ろうとするより、参照されている物差しを特定して絞り込むほうが現実的です。
参照されている評価機関を特定する
最初に確認するのは、自社の主要な株主、取引先、金融機関が、どの評価機関のスコアを見ているかです。IR担当者への問い合わせや、取引先からの調査票の内容から分かることがあります。対応すべき機関が1〜2つに絞れるだけで、優先順位はかなり明確になります。
評価項目と開示内容のギャップを洗い出す
次に、自社の開示資料と、評価機関の評価項目を並べて見比べます。FTSE Russellのように評価の考え方が公開されている機関は、洗い出しの出発点として使いやすいはずです。「取り組んでいるのに開示していない」ために評価に反映されていない項目は、資料の整理や追記で改善できる可能性があります。一方で、取り組み自体が不足している項目は、時間をかけて体制を整える必要があります。この2つを分けて考えることが重要です。
背景と数値目標をセットで示す
開示するときは、なぜその取り組みを行うのかという背景(マテリアリティ)と、数値目標をセットで書きます。たとえば排出削減なら、基準年、削減率、測定方法、対象範囲を明記します。根拠のない「環境にやさしい」「サステナブル」といった表現は、グリーンウォッシングと受け取られるおそれがあるため避けてください。
最初の一手
まず1つだけ試すなら、自社のサステナビリティ報告書と、参照されている評価機関の評価項目リストを並べて、開示の抜けを1つ見つけることです。「開示しているつもりが、評価機関に届く形になっていなかった」という発見が、次の改善につながります。
まとめ
ESG評価は、MSCI、FTSE Russell、Sustainalytics、S&Pグローバルなどの機関が、それぞれ異なるスケールと根拠で行っています。MSCIは業界内の相対評価、FTSE Russellは根拠を追いやすい設計、Sustainalyticsはリスクの大きさ(低いほど良い)、S&Pグローバルは企業の回答が中心です。研究では機関間の総合評価の相関が平均0.54にとどまることが示されており、スコアの差は取り組みの優劣だけでは説明できません。
日本では、GRIやISSB、SSBJ基準といった開示の土台が整いつつあり、金融庁の行動規範によって評価機関への働きかけの手がかりもできました。GPIFのESG指数投資の割合が下がるなど、環境の変化もあります。それでも、開示の質を高めることは、投資家や取引先との対話の材料として意味を持ち続けます。
実務では、全機関への対応を目指すのではなく、自社のステークホルダーが参照する機関を特定し、開示のギャップから埋めていくことが近道です。まず1つだけ、自社の報告書と評価項目を見比べてみてください。
- ESG評価の方法は機関ごとに異なり、スケールの向きや相対・絶対の違いを確認してから読む
- 機関間のスコアの乖離は、測り方と評価範囲の違いが主因で、取り組みの優劣だけでは決まらない
- GRI・ISSB・SSBJなどの開示基準に沿った整理は、複数の評価に共通して効く土台になる
- 評価の根拠データは、金融庁の行動規範にもとづいて評価機関に確認できる
- 最初の一手は、参照されている機関を特定し、開示の抜けを一つ見つけること
参考文献
- 金融庁「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」(2022年)
- Berg, Kölbel, Rigobon「Aggregate Confusion: The Divergence of ESG Ratings」(SSRN)(2019年)
- FTSE Russell「ESG Ratings Data Model Methodology」
- MSCI「ESG Ratings」
- Sustainalytics「ESG Risk Rating FAQs for Corporations」
- S&P Global「Corporate Sustainability Assessment」
- 大和総研「GPIFのESG指数投資の縮小」(2025年)
- KPMGジャパン「Disclosure News Flash」(2025年)




