公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
SOCIETY

「雇用の安定」が「仕事の質」を隠す|ILO報告書が2026年の働き方に警鐘

「雇用の安定」が「仕事の質」を隠す|ILO報告書が2026年の働き方に警鐘

世界の失業率は安定しているのに、なぜ「ディーセントワーク」は遠ざかっているのでしょうか。ILO(国際労働機関)が2026年1月14日に発表した報告書は、「数字の裏に隠れた危機」に強く警鐘を鳴らしています。日本でも労働基準法の大幅見直しが議論され、働き方をめぐる制度の転換点を迎えています。

ILOが2026年1月に示した世界の実態

ILOは2026年1月14日、旗艦報告書「Employment and Social Trends 2026」を発表しました。
この報告書は190か国以上のデータをもとに、世界の労働市場の現状を多角的に分析したものです。

報告書によると、世界の失業率は2026年も約4.9%と安定した水準を保ち、失業者数はおよそ1億8600万人と推計されています。しかし報告書は、若者が依然として厳しい就職環境に直面しており、AIや貿易政策の不確実性がさらなるリスクをもたらしていると警告しています。
ILOは、安定した失業率の数字が雇用の「質」の低下、所得保障の不足、労働権へのアクセス制限といった、より深刻な構造的問題を覆い隠していると強調しています。

数字の裏に隠れた「仕事の質」の危機

世界の「ジョブズ・ギャップ」(仕事を求めているのに就けない人の数)は2026年に4億800万人に達すると見込まれています。仕事の質の改善は停滞しており、約3億人の労働者が極度の貧困状態にあり、21億人が社会保障や基本的な権利のないインフォーマル雇用に置かれています。
若者の失業率は2025年に12.4%まで上昇し、世界で約2億6000万人の若者が就学・就労・職業訓練のいずれにも参加していないNEETの状態にあります。低所得国ではそのNEET率が27.9%に達しており、問題の深刻さが浮き彫りになっています。
ジェンダー格差も依然大きく、女性の労働参加率は男性より約24.2ポイント低いことが報告されています。

AIと貿易の不確実性が追い打ちをかける

報告書は、AIや自動化が高所得国の高学歴の若者にとっても就職の障壁となりうると指摘し、技術の影響を「注意深くモニタリング」することを求めています。
貿易秩序の混乱も労働市場に影を落としています。不透明な貿易ルールやサプライチェーンの停滞が、特に東南アジア・南アジア・ヨーロッパにおける賃金に打撃を与えている一方、世界全体で貿易が支える雇用は約4億6500万人に上り、その半数以上がアジア・太平洋地域に集中しています。
ILOのギルバート・ウングボ事務局長は「政府・雇用主・労働者が協調して技術を責任ある形で活用し、女性と若者に質の高い雇用機会を広げなければ、ディーセントワークの欠乏は続き、社会的結束が危うくなる」と呼びかけています。

日本の現状|「40年ぶりの大改正」は見送りへ

世界でディーセントワークの停滞が指摘されるなか、日本でも労働制度の抜本的な見直しが議論を呼んでいます。

2024年に厚生労働省に設置された「労働基準関係法制研究会」は、働き方改革関連法に基づく労働基準法等の見直しを検討してきました。2025年1月には、労働時間や休日制度だけでなく、労働者の範囲や労使コミュニケーションのあり方まで含む包括的な改正案が報告書としてまとめられ、「40年に1度の大改正」と注目を集めました。

主な検討内容としては、終業から次の始業まで一定時間の休息を確保する勤務間インターバル制度の導入について、これまでの努力義務から義務化へ法規制強化が検討されており、欧州で義務付けられている11時間以上のインターバルと同水準の確保を求める方向での議論が進んでいました。

また、研究会では、13日を超える連続勤務の禁止や勤務間インターバル制度の義務化など、労働者の負担を減らす方向性での議論が進められていました。

しかし、厚生労働省が2026年通常国会への提出を念頭に置いていた労働基準法改正案は、提出を見送る方針が固められたとされています。
背景には深刻な人手不足と生産性向上の両立という課題があり、労働時間規制の緩和も含めた全体像の再検討が求められた形だという見方があります。
見直し議論では、長時間労働の是正強化と多様な働き方への制度対応を進める動きとして、時間外労働の上限規制の運用厳格化やテレワーク・副業に対応した労働時間管理の明確化なども論点とされています。

「つながらない権利」も論点に

今回の改正論議では、勤務時間外にメールやチャットで呼び出されることへの対応として、「つながらない権利」の確立も重要な論点のひとつとして浮上しています。これは単なる規制強化ではなく、多様な働き方を支えながら誰もが安心して働ける社会をつくる試みとして位置づけられています。

サプライチェーン全体でのディーセントワークが求められる時代

ディーセントワークを普及させるには、自社だけでなく国内外の調達先を含む「サプライチェーン」の労働環境にも配慮する必要があるという認識が、企業の間でも広まってきています。
日本政府は2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定しており、企業に対して広く人権問題への責任を果たすよう働きかけています。ジェトロが実施した調査では、人権方針を持つ日本企業の65.4%が自社のサプライチェーンに対して「労働者の権利」や「安全衛生方針」への準拠を求めているという結果も示されているとされています。
ILOは各国政府・企業・労働者に対して、スキル・教育・インフラへの生産性向上投資、ジェンダーや若者の格差解消に向けた具体的な行動、そしてAIや貿易の不確実性に対応する協調政策を求めています。

まとめ|「雇用されている」だけでは足りない時代

ILOが2026年1月に示したのは、「数字の安定が必ずしも働く人の安心を意味しない」という厳しい現実です。21億人がインフォーマル雇用に置かれ、約3億人が働きながら貧困状態にある状況は、経済成長の恩恵が公正に分配されていないことを示しています。日本においても、「40年ぶりの大改正」と称された労働基準法の見直しが法案化の見通しを立てられないまま2026年を迎えています。

働き方の問題は、遠い国の出来事でも、政策担当者だけの課題でもありません。企業が人権デューデリジェンスを進め、個人がより良い職場環境を求める声を上げることが、ディーセントワークへの道を切り拓く力になります。「働きがいのある仕事」が特権ではなく、すべての人に開かれた権利となる社会に向けて、制度と実践の両輪を動かし続けることが問われています。

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
MIRASUS

MIRASUS編集部。地球と人に優しい未来をつくるサステナビリティな事例をご紹介。誰にでもわかりやすくSDGsに関する情報は発信していきます。

  1. 「生まれた家庭で、未来が変わる」社会を終わらせるために|子どもの貧困と教育格差、いま何が起きているのか

  2. 上場企業にGHG排出開示義務化|SSBJ基準が2027年度から適用へ

  3. EBRDが「グリーン経済移行戦略2026-30」を採択|2030年までにグリーンファイナンス28兆円超を目指す

RELATED

PAGE TOP