「地域から変える」脱炭素とは、国が掲げる温室効果ガスの削減目標を、住宅・交通・事業所・公共施設といった地域の現場で実際の排出削減に変えていく取り組みです。その柱が、2050年のCO2排出実質ゼロを表明する「ゼロカーボンシティ」と、環境省が2030年度までの実現を目指して選ぶ「脱炭素先行地域」です。ゼロカーボンシティは2026年5月末時点で1,215団体(全1,788団体の68.0%)に広がり、脱炭素先行地域は2026年2月の第7回選定で累計102提案に達して募集を終えました。宣言と選定が一巡した今、問われているのは「何団体が宣言したか」ではなく「宣言がどこまで実行に移ったか」です。この記事では、最新の数字と事例をもとに、地域脱炭素の現在地と、読者が自分の街で確かめられる視点をまとめます。
国の目標と地域の現場|日本の排出量は今どこまで減ったのか
脱炭素の議論は国の目標や制度から始まることが多い一方で、排出が実際に減る場所は、家庭の暖房や給湯、通勤の車、オフィスや店舗の電気、ごみの処理といった地域の暮らしです。まず、国全体の数字を確認しておきます。
2024年度の排出量は2013年度比28.7%減
環境省が2026年4月に公表した2024年度の温室効果ガス排出・吸収量によると、吸収分を差し引いた値は約9億9,400万トン(CO2換算)でした。2023年度から1.9%(約1,880万トン)、2013年度から28.7%(約3億9,950万トン)減っており、2013年度以降で最も少なく、初めて10億トンを下回っています。環境省は減少の要因として、製造業の生産量の減少に伴うエネルギー消費の減少と、電源の脱炭素化を挙げています。
日本の2030年度目標は2013年度比46%減です。28.7%減という到達点は、道のりの半分を超えたところに見えますが、減った理由の一部は生産量の減少であり、暮らしや街の仕組みが変わった結果とは言い切れません。
排出が減る場所は地域の暮らしの中にある
国の数字を地域に引き寄せると、削減の主役は住宅の断熱や省エネ、屋根の太陽光、公共交通や電動車、公共施設の設備更新といった、身近な分野になります。OECDも、日本の気候対策を地域主導のアプローチから評価する報告書をまとめており、国の目標と地域の実装をつなぐ仕組みの重要性を扱っています。
「国が決めて地域が従う」のではなく、地域の再エネや建物、交通の事情に合わせた設計が必要になる。この前提が、ゼロカーボンシティや脱炭素先行地域という制度の出発点にあります。
大規模排出者には国の制度、暮らしに近い領域には地域の施策
国レベルでも制度の整備は進んでいます。2026年4月に施行された改正GX推進法に基づき、排出量取引制度が法定制度として始まりました。対象は、直近3か年度のCO2直接排出量の平均が年10万トン以上の事業者で、移行計画の策定や排出枠の保有が求められます。経済産業省は、対象事業者への個別の通知は行わないとしています。
この制度が直接かかるのは大規模な排出者に限られます。家庭や小規模な事業所、公共施設の排出は対象外です。その部分を動かすのが地域の施策であり、国の制度と地域の施策は役割が違う両輪だと言えます。環境税やGXカーボンプライシングの違いは、次の記事で整理されています。
ゼロカーボンシティの現在地|1,215団体の宣言は何を意味するのか
ゼロカーボンシティは、2050年にCO2を実質ゼロにすることを目指す旨を、首長自らまたは自治体として公表した地方公共団体を指します。環境省の定義はこの「公表」にあり、表明は自治体の意思表示という位置づけです。数は増え続けてきましたが、数字の内訳を見ると、広がり方にも実行の段階にも差があります。
表明率は68.0%、ただし規模と地域で差がある
一般社団法人Re-Generationが環境省の「令和7年度 地域脱炭素の推進に関する状況調査」などをもとに分析したところ、2026年5月31日時点の表明は1,215団体で、都道府県47と市区町村1,741の合計1,788団体の68.0%にあたります。
人口規模別に見ると、人口10万人以上の自治体では93.7%が表明している一方、人口1万人未満の市町村では49.0%(533団体)にとどまります。都道府県別でも、栃木県と山梨県が100.0%なのに対し、沖縄県は16.7%と、約6倍の開きがあります。
人口の少ない町村ほど、専門人材や予算の制約が大きく、宣言そのものに踏み出しにくい事情があると考えられます。ただし、この分析からは理由までは読み取れないため、ここでは差があるという事実にとどめます。
「宣言」と「実行」のあいだにある差
表明した自治体の98.6%は、自治体自身の事務や事業を対象にした地球温暖化対策実行計画(事務事業編)を策定済みです。計画の策定という入口は、ほぼ整っています。
一方で、各施策の実施状況(2025年10月1日時点)を見ると、実行の段階には隔たりがあります。
- すべての照明をLED化した自治体は1.7%- すべての公用車を電動車にした自治体は0.2%
- 新築建築物をZEB Oriented相当以上にしている自治体は26.6%
Re-Generationの代表理事は、予算や人員の問題に加えて、計画に書かれたことを地域で実際に動かす担い手がいないことが大きいと述べています。計画があることと、それが動いていることは別の話です。
誤解されやすい3つのポイント
ゼロカーボンシティについては、よくある誤解がいくつかあります。まず、表明した街の排出量が今ゼロになっているわけではありません。表明は2050年に向けた目標の公表であり、現在の達成度を示すものではないからです。
次に、事務事業編の策定は自治体自身の施設や事務が対象です。地域全体の排出を減らす施策は、別に区域施策編という計画で扱われます。街の脱炭素を知りたいときは、どちらの計画の話なのかを見分ける必要があります。
最後に、表明していない街が何もしていないとも限りません。表明の有無と、実際の取り組みの深さは、必ずしも一致しないからです。
脱炭素先行地域|102提案が選ばれた「モデルづくり」の中身
ゼロカーボンシティの宣言を実行に結びつける仕組みとして、環境省が2021年の地域脱炭素ロードマップに位置づけたのが脱炭素先行地域です。宣言する自治体を増やすだけでなく、実際に排出を減らす街の先行例をつくり、全国に広げる狙いがあります。
何を達成する地域なのか
脱炭素先行地域は、対象とする地域の民生部門(家庭部門と業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出を、2030年度までに実質ゼロにする地域です。あわせて、運輸部門や熱利用などの排出についても、地域の特性に応じて2030年度の目標と整合する削減を進めるとされています。
ここで注意したいのは、対象が「選ばれたエリアの民生部門の電力」である点です。街全体の排出がゼロになるという意味ではありません。モデルとして切り出した範囲で、先に実現してみせる制度です。
7回の選定で募集を終了
2025年度までに少なくとも100か所を選ぶ目標のもと、選定は第1回から第7回まで重ねられました。2026年2月の第7回では、2025年10月の募集に39の地方公共団体から18件の提案があり、評価委員会の審査を経て12件が選ばれています。累計は、45道府県133市町村にまたがる102提案です。目標に達したため、募集はこの回で終了しました。
選ばれて終わりではない点も押さえておきたいところです。環境省の資料によれば、2023年8月には、2022年度に選ばれた46地域の初年度の取り組みを対象に、評価委員会による初のフォローアップが行われました。選定後も進捗が確認される仕組みになっています。
専門家派遣と交付金が後押しする
選ばれた地域には、環境省の地域脱炭素移行・再エネ推進交付金などによる支援が用意されています。環境省は、取り組みの初期段階にある自治体を底上げするため、戦略づくりや事業づくりを助けるアドバイザーとして専門家や企業人材を派遣し、相談を一元的に受け付ける窓口も設けています。
財源と知見の両方を、モデル地域に集中的に投じる設計だと言えます。次の節では、その具体的な計画を2つの地域で見ていきます。
事例で見る地域の実装|石狩市と上士幌町の再エネ地産地活
制度の説明だけでは、街の姿が見えにくいものです。ここでは、第1回で選ばれた北海道の2つの自治体を取り上げます。いずれも、環境省が公表している選定時の計画概要に基づく内容です。計画の進み具合は更新されていくため、最新の状況は各自治体の公表資料で確認してください。
石狩市(北海道)|データセンターへ再エネを届ける
石狩市の計画は、環境省の資料で「再エネの地産地活・脱炭素で地域をリデザイン」と題されています。石狩湾新港地域のデータセンター等に、太陽光発電(PPA)と木質バイオマス発電などを組み合わせて電力を供給する構想で、蓄電池を整備して再エネの調達と消費を時間ごとに合わせることも盛り込まれています。
あわせて、電気自動車の普及啓発による運輸部門の削減と、公用車の電動化による車載蓄電池の防災活用も計画に含まれています。再エネの供給先に大きな電力需要を持つ施設を置き、暮らしの側では車と防災を絡める、という二段構えの設計です。
木質バイオマス発電が本当に脱炭素に貢献するかは、燃料の調達先によっても評価が変わる論点です。この点は次の記事が詳しく扱っています。
上士幌町(北海道)|畜産ふん尿をエネルギーに
上士幌町の計画では、畜産のふん尿を使ったバイオガス発電と、町有地などを活用した大規模太陽光発電の電力を、地域で実績のある地域新電力「かみしほろ電力」に供給するとされています。町全域の家庭・業務部門の脱炭素化を目指す計画で、役場庁舎など防災拠点となる公共施設にはマイクログリッドを整備する内容も含まれます。
酪農や畜産という町の産業から出る資源を、電気に変えて町内で使う。再エネの設置だけで終わらず、地域の基幹産業と結びついている点が特徴です。
2つの計画に共通する設計
石狩市と上士幌町は、地域条件も主な再エネ源も違いますが、共通点が3つあります。
1つ目は、その土地にある資源(港湾地域の需要、畜産のふん尿、町有地)を起点にしていることです。2つ目は、地域新電力など地域内で電気を回す主体を置いていることです。3つ目は、蓄電池やマイクログリッドで防災と結びつけていることです。
再エネを「外から買う」のではなく「地域で作って使う」形にすると、エネルギー代金が地域に残りやすくなります。ただし、このような計画が実際にどこまで動いているかは、地域ごとに差があります。モデルの価値は、計画の立派さではなく、実行の経験が他の街に共有されるかどうかで決まります。
先行地域に選ばれなかった街はどうなる?|広がる支援と適応の視点
脱炭素先行地域は102提案で、133市町村が関わるとはいえ、全国の自治体の一部にすぎません。残りの街は何もできないのかというと、そうではありません。
重点対策加速化事業という別の入口
環境省の地域脱炭素移行・再エネ推進交付金には、脱炭素先行地域づくり事業のほかに、重点対策加速化事業があります。屋根置きなど自家消費型の太陽光発電や住宅の省エネ性能の向上といった、脱炭素の基盤になる対策を複合的に進める事業です。先行地域に選ばれなくても、自治体ごとの採択を受けて取り組む道があります。
たとえば出雲市は2023年4月に選定を受け、事業期間は2023年度から2028年度の6年間とされています。熊本市は2024年5月、連携中枢都市圏を構成する市町村の事業をとりまとめて応募し、採択されたと発表しています。
暮らしに近い施策が家庭の負担を変える
家庭部門の排出を減らす動きは、国の側にもあります。環境省は、2050年のストック平均でZEH基準の水準の省エネ性能を確保する方針のもと、ZEH基準を大きく上回る省エネ性能を持つ住宅(GX志向型住宅)の導入を支援しています。また、脱炭素につながる新しい豊かな暮らしをつくる国民運動「デコ活」も進めています。
こうした施策は国の予算で動きますが、実際の申請窓口や上乗せの補助は自治体ごとに違います。同じ制度でも、住んでいる街によって使いやすさが変わる点は知っておきたいところです。
排出削減だけでなく適応策もセットで
地域の気候変動対策には、排出を減らす緩和策と、すでに起きている変化に備える適応策の2本柱があります。気候変動適応法は、地方自治体に対して、地域のリスクに応じた適応計画の策定と、地域気候変動適応センターの設置に努めるよう求めています。豪雨や猛暑、海面上昇など、地域ごとにリスクの種類が異なるためです。
脱炭素の取り組みを再エネの導入量だけで評価すると、この適応の視点が抜け落ちます。たとえば蓄電池やマイクログリッドは、排出削減と同時に、停電時の備えという適応の役割も果たします。石狩市や上士幌町の計画に防災の要素が含まれていたのは、その一例です。
自分の街の脱炭素を確かめる3つの視点
ここまでの内容を、読者が自分の街で確かめるための視点に落とし込みます。専門知識がなくても、自治体のウェブサイトと広報誌があれば確認できます。
宣言と計画の有無を見る
最初に、お住まいの自治体がゼロカーボンシティを表明しているかを確認します。次に、自治体自身の施設を対象とする事務事業編だけでなく、地域全体を対象とする区域施策編の計画があるかを見ます。区域施策編があれば、住宅や交通、事業所を含めた削減目標と施策が書かれているはずです。
なお、2026年6月30日以降、各自治体の表明状況は環境省の「地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト」で確認する形になっています。
公共施設と暮らしの変化を見る
次に、宣言が実行に近づいているかを、目に見える変化から判断します。公共施設の太陽光やLED化、公用車の電動化、新しい公共建築物の省エネ性能などです。先ほど見たとおり、全国ではLED化の完了が1.7%、公用車の電動車化が0.2%にとどまっており、取り組みの進み具合は街ごとに大きく違います。
進んでいない項目があることは、必ずしも悪いことではありません。何が課題で、いつまでに何を進める計画なのかが公表されているかが、確認の要点です。
自分が使える制度を見る
最後に、住宅の断熱改修や省エネ設備、太陽光発電などに使える補助制度が、自治体にあるかを調べます。国の制度の上乗せや、地域独自の制度が用意されている場合があります。
あわせて、街の脱炭素に関するパブリックコメントや説明会があれば、参加する選択肢もあります。地域脱炭素は、自治体の計画だけでなく、住民や地元の事業者が動かすことで初めて実行に移ります。
まとめ
日本の排出量は2024年度に2013年度比28.7%減となり、2030年度の46%減に向けて進んでいます。国のGX制度が大規模排出者に働きかける一方で、家庭や公共施設、地域の産業といった暮らしに近い領域は、ゼロカーボンシティと脱炭素先行地域を軸に、地域が担う構図です。
ゼロカーボンシティの表明は1,215団体、68.0%に達しましたが、人口の少ない町村や地域によって差があり、宣言した街でも実行は道半ばです。脱炭素先行地域は102提案が選ばれ、石狩市や上士幌町のように、地域の資源と防災を結びつけた計画が示されています。
制度や宣言の数よりも、自分の街で何が動いているかを見ることが、地域脱炭素を前に進める第一歩になります。まず1つだけ、お住まいの自治体名と「ゼロカーボンシティ」を組み合わせて検索し、計画と取り組みの状況を見てみてください。
- 2024年度の温室効果ガス排出・吸収量は約9億9,400万トンで、2013年度比28.7%減となった
- ゼロカーボンシティは1,215団体(68.0%)に広がったが、人口規模や地域による差と、宣言と実行の差がある
- 脱炭素先行地域は102提案が選ばれて募集を終え、モデルとして地域の資源と防災を結びつけた計画が進む
- 先行地域でない街にも重点対策加速化事業などの入口があり、適応策とあわせて考える視点が欠かせない
- 自分の街の計画、公共施設の変化、使える制度の3点を確かめることが、地域脱炭素に関わる出発点になる
参考文献
- 環境省 脱炭素地域づくり支援サイト「脱炭素先行地域」(2026年)
- 環境省報道発表「脱炭素先行地域(第7回)の選定について」(2026年)
- 環境省報道発表「2024年度の温室効果ガス排出・吸収量について」(2026年)
- 一般社団法人Re-Generation(PR TIMES)「ゼロカーボンシティ表明状況の分析」(2026年)
- 経済産業省「排出量取引制度」(2026年)
- OECD「A Territorial Approach to Climate Action and Resilience in Japan」(2025年)




