「栄養バランスのとれた食事は給食だけ」「経済的な理由で進学を諦める」——豊かな国のはずの日本で、そんな現実が今も続いています。こどもの貧困は、個人や家庭だけの問題ではなく、社会全体で解決すべき構造的な課題です。2024年には法律が改正され、2026年4月からは新たな支援金制度もスタートします。いま、何が変わろうとしているのか、現状と対策の最前線を整理します。
日本の子どもの貧困率|9人に1人という現実
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、日本の子どもの貧困率は11.5%であり、子どもの9人に1人が貧困という深刻な社会問題が存在しています。
ここでいう「貧困」とは、飢餓や住む家がないといった絶対的な窮乏ではなく、「相対的貧困」を指します。
等価可処分所得の中央値の半分に満たない状態にある17歳以下の子どものことを指し、同調査によると貧困ラインは年間127万円未満(月額約10〜11万円)とされています。
貧困というと「家がない」「食べる物がない」などを想像するかもしれませんが、日本でいう「こどもの貧困」は現在の日本の経済・生活水準において大多数の世帯に比べて貧しい状態を意味します。外見だけでは貧困であることの認知が難しく、これまで長年問題が放置されてきました。
特に深刻なのがひとり親世帯の状況です。
同調査では、大人が2人以上いる現役世帯の貧困率が8.6%であるのに対し、ひとり親世帯では44.5%に達しており、依然として深刻な貧困状況が続いているといえます。
貧困が生む教育格差|「放課後」に広がる見えない壁
こどもの貧困が直接引き起こす問題のひとつが、教育格差です。
文部科学省の「令和3年度子供の学習費調査」によると、家庭が自己負担する教育支出のうち約6〜7割が学校外活動費(学習塾や習い事等の費用)となっており、日本では経済格差による教育格差は放課後に生まれやすくなっています。
経済的な理由で学業が困難な児童・生徒への援助を示す就学援助の利用率も増加傾向にあり、2012年度には過去最高水準に達し、2022年も依然として高い水準にあるとされています。これは子どもの学びの機会が経済的状況に大きく左右されていることを示しており、貧困が教育格差を生む要因にもなっています。
こうした格差は将来の職業選択や所得にも影響を与えます。
親の収入が少ないと、こどもが十分な教育を受けることができず、進学を諦めたり就職のチャンスが乏しくなったりすることがあります。そのため、結果としてそのこどもが大人になっても収入の確保が困難になり、親から子へ、子から孫へと連鎖して貧困から抜け出すことができなくなるおそれがあります。
日本財団の「子どもの貧困の社会的損失推計」によれば、子どもの貧困を放置すると所得の損失や財政収入の減少といった大きな社会的損失が生じると試算されています。
これは子どもの貧困が個人の問題にとどまらず、社会全体への大きな損失につながることを示しています。
法改正で「解消」へ転換|2024年6月の新法が示すもの
こうした課題への対応として、国の姿勢が法律レベルで大きく変化しました。
2024年6月19日、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の改正案が参議院本会議にて可決、成立しました。
最も大きな変更の一つは、法律名が「子どもの貧困対策推進法」から「こどもの貧困の解消に向けた対策推進法」へと改称された点です。対策を推進するのみならず、子どもの貧困をなくす・解消することが強く打ち出されています。
改正法の第3条(基本理念)では「貧困により、こどもがその権利利益を害され及び社会から孤立することが深刻な問題」と、貧困が子どもの権利の侵害であると明記されています。また、現在の子どもの貧困の解消とともに将来の子どもの貧困を予防すること、妊娠から出産までの切れ目ない支援、子どもの貧困が家族の責任のみではなく社会的に対策を推進する課題であることも盛り込まれました。
2026年4月から始まる「こども・子育て支援金制度」
法整備と並行して、財政面での支援も強化されます。
2024年6月に成立した「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」に基づき、2026年4月から「子ども・子育て支援金制度」が開始見込みとなっています。
この制度の中核をなすのは児童手当の大幅拡充で、第3子以降への支給額が増額され、対象も高校生まで延長されます。これまで議論を呼んできた所得制限は撤廃され、すべての子育て世帯が対象となるとされています。
文部科学省も、全ての子供たちが家庭の経済状況に左右されることなく、安心して育ち、学ぶことができるよう、幼児期から高等教育段階までの切れ目のない教育費の負担軽減を行っているほか、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置等による教育相談体制の整備等に取り組んでいます。
こども家庭庁と社会全体の連携
こども家庭庁では、令和5年12月に策定されたこども大綱も踏まえながら、教育の支援、生活の安定に資するための支援、職業生活の安定と向上に資するための就労の支援、経済的支援をはじめとしたさまざまな観点から、関係省庁と連携し、こどもの貧困対策に取り組んでいきます。
また、企業や個人が支援に参加できる仕組みも広がっています。
こども家庭庁を含む「マッチングネットワーク推進協議会」は、支援したい企業・個人と草の根で子どもたちを支えているNPO等団体を結びつけ、提供先とのマッチングを行っています。
こどもの貧困は、経済的な困窮にとどまらず、学習面や生活面、心理面など様々な面において、こどものその後の人生に影響を及ぼします。こうした貧困の連鎖を断ち切るためには、子育てや貧困の問題を家庭のみの責任とするのではなく、社会全体で解決することが重要です。
私たちにできること|「知ること」から始まる変化
子どもの貧困は、日常生活の中では見えにくい問題です。しかし、法改正や支援金制度の整備が進む今、社会の理解と行動が変化の鍵を握っています。
地域のこども食堂への参加・寄付、NPOへの支援、企業によるマッチングネットワークへの協力など、個人や組織が関わることのできる入口は多様に存在します。子どもの将来が生まれ育った環境に左右されない社会——その実現に向けた歩みは、一人ひとりの関心から始まります。

