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都市型スマート農業とは?特徴や事例をわかりやすく解説|日本の実践例と見極めどころ

都市型スマート農業とは?特徴や事例をわかりやすく解説

都市型スマート農業とは、市街地やその周辺で、センサー、AI、LED照明、ICT(情報通信技術)などを使って野菜やハーブを育てる農業のことです。ビルの空きスペースで育てる植物工場から、都市の農地でデータを使って管理する農家まで、形はさまざまです。

ただ、定義を知ったあとに気になるのは「日本ではどこまで広がっているのか」「環境にやさしいと言ってよいのか」「自分は何ができるのか」ではないでしょうか。この記事では、国の統計や企業の公開情報をもとに、日本の実践例と見極めるときの視点をまとめます。

この記事で学べること

  • 都市型スマート農業の3つの形と、それぞれの向き不向き
  • 日本の食料事情と都市農地の現状を示す最新の数字
  • 相鉄グループや東急不動産など、日本の取り組み事例
  • 「環境にやさしい」と言い切れない理由と、海外の失敗例から見えること
  • 買う・借りる・育てるという、暮らしの中での関わり方

都市型スマート農業の3つの形

「都市型スマート農業」は法律上の用語ではなく、ふたつの言葉が重なった呼び方です。農林水産省は都市農業を「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」と整理しています。スマート農業は、ロボットやICT、AIなどで省力化や品質向上をめざす農業を指します。この重なりの中に、実際にはいくつかの異なる形が含まれています。

完全人工光型の植物工場

建物の中で、LED照明、空調、水耕栽培の設備を組み合わせて育てる形です。天候に左右されず、年間を通じて計画的に収穫できます。現在は、種まきから短い期間で収穫できるレタスなどの葉物野菜が中心です。

閉じた空間で育てるため、虫や病原菌の侵入を防ぎやすく、農薬を減らしやすい特徴があります。一方で、照明と空調に電力を使うため、エネルギーの調達方法が環境面でも経営面でも大きな論点になります。

ビルの屋上や空きスペースを使う小規模型

駅前の未活用施設、商業施設の空きスペース、ビルの屋上などを使う形です。規模は大きくありませんが、買い手が近くにいるため、輸送の距離や時間を短くできます。

屋上の緑は、建物の温度上昇をやわらげる効果も期待されます。収穫体験やレストランへの直送など、生産以外の役割を持たせやすいのも特徴です。

都市の農地で行うICT活用型

もうひとつは、すでにある都市の農地や温室で、センサーによる環境管理やデータにもとづく栽培を取り入れる形です。建物の中ではなく、畑やハウスで育てる点が植物工場との違いです。

都市の農地は一枚ずつが小さいため、広い土地で使う大型機械は合いにくい場面があります。その代わりに、水やりや温度管理をデータで支える技術が、限られた人手を補う手段になります。

なぜ今、都市で注目されるのか|日本の数字から読み解く

都市での農業が注目される理由は、技術が進んだことだけではありません。食料の確保、都市の農地の維持、消費者との距離という、日本ならではの事情が重なっています。

食料自給率は横ばいが続く

農林水産省が2025年10月に公表した令和6年度の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで64%でした。カロリーベースは前年度並みで、生産額ベースは前年度から3ポイント上がっています。

カロリーベースが低い背景には、穀物や油脂類、飼料の多くを輸入に頼る構造があります。野菜は比較的国内で作られている品目ですが、天候不順や担い手の減少で供給が揺らぐことはあります。都市型スマート農業は、この課題を全面的に解決するものではなく、消費地に近い場所で安定して野菜を供給する選択肢のひとつです。

都市の農地をどう残すか

都市農地は、新鮮な野菜の供給のほかに、農業体験の場、災害時の避難場所、緑地としての役割も持っています。農林水産省の令和7年度食料・農業・農村白書によると、2025年11月に三大都市圏の都市住民を対象に行ったアンケートで、64.3%が都市農地を保全すべきと回答しました。

都市の農地として大きな位置を占めるのが生産緑地です。令和6年(2024年)時点で約1万1千haあり、市街化区域内の農地全体が減る中でも、ほぼ横ばいで推移しています。1992年に指定された生産緑地は30年の営農義務の節目を2022年に迎えましたが、10年ごとに延長できる特定生産緑地の制度が用意されました。

借りて使う動きも広がっている

同じ白書では、都市農地貸借法にもとづく貸借面積が令和6年度に136haで、前年度より16.4%増えたと示されています。市民農園は令和7年3月末時点で4,273園あり、前年より16園増えました。

農地を持つ人が自分で耕し続けるだけでなく、企業や市民が借りて使う道が広がっています。都市型スマート農業を考えるときも、建物の中の植物工場だけでなく、こうした農地の活用と並べて見ると全体像がつかみやすくなります。

日本の実践例|鉄道会社と不動産会社の動き

日本では、植物工場を専業の企業だけでなく、鉄道や不動産といった異業種が担う例が目立ちます。ここでは2025年に動きがあった2つの事例を取り上げます。

相鉄グループの沿線型植物工場

相鉄ホールディングスとエコデシックは、2025年4月に相鉄線沿線で都市型植物工場の実証事業を始めました。第1号は、相鉄いずみ野線の緑園都市駅前にある未活用施設を使った「SOTETSU GREEN LAB」(横浜市泉区)です。

ここで育てたフリルレタスは、2025年9月21日から「そうてつとれたて便」として、沿線のそうてつローゼン6店舗で販売されています。価格は1袋199円(税抜)と報じられています。

特徴は、栽培から輸送、販売までを沿線で完結させる点です。電車の旅客と荷物を同じ車両で運ぶ「客貨混載」で運び、輸送費とCO2排出の削減をめざしています。必要な量だけ作ることで、食品ロスを減らす狙いもあります。

東急不動産が引き継いだ大規模工場

京都府木津川市の「テクノファームけいはんな」は、1日あたり約3万株のレタスを作れる国内有数の大規模植物工場です。運営していたスプレッドは、2025年6月1日付で、京都地方裁判所の許可を得たうえで、事業を東急不動産の100%子会社であるGreen Factory TFKに譲渡しました。

発表では、安定した供給体制の構築と収益性の向上、高品質なレタスの提供、脱炭素化の推進が方針として示されています。大規模化と自動化を進めても、事業として成り立たせるには運営体制の見直しが必要になる場合があることを示す事例です。

2つの事例から見える違い

相鉄の事例は、小さく始めて沿線の店舗で売り切る、地域密着型の設計です。東急不動産の事例は、大規模工場を不動産会社の資源とあわせて立て直す、大型投資の設計です。

どちらが優れているという話ではなく、規模、立地、販売先によって成り立たせ方が変わるということです。自治体や企業が都市型スマート農業を検討するときも、「何をどこで誰に売るのか」から組み立てる必要があります。

メリットと課題|「環境にやさしい」と言い切れない理由

都市型スマート農業には、多くのメリットがあります。同時に、条件次第で見え方が変わる点もあります。誤解されやすい3つの論点を整理します。

輸送距離が短い=環境負荷が小さい、とは限らない

消費地の近くで作れば、輸送で出るCO2は減らせます。ただ、農産物のCO2排出量は輸送だけで決まるわけではありません。植物工場では、照明や空調に使う電力の排出が、輸送で減らせる分を上回る可能性もあります。

そのため、どの電力を使っているかが重要です。再生可能エネルギーの比率を公開している事業者かどうかは、判断材料のひとつになります。

作れる品目はまだ限られる

現在の植物工場の主力はレタスなどの葉物野菜です。米や小麦、いも類のような主食に関わる作物を、都市の建物の中で大量に作る段階にはありません。

食料自給率の観点では、都市型スマート農業の貢献は限定的です。むしろ、鮮度の高い野菜を安定的に届ける役割や、地域の食と農への関心を高める役割に価値があります。

収支の厳しさは海外でも日本でも報じられている

米国では、垂直農法の代表的な企業が相次いで厳しい状況に陥りました。AeroFarmsは2023年に連邦破産法11条の適用を申請しています。Bowery Farmingは、かつて23億ドルの評価を受けたものの、2024年末までに事業を停止したと報じられました。建設や設備への高額な初期投資と、想定を上回るエネルギーコストが要因として指摘されています。

日本でも、日本施設園芸協会の調査をもとに、植物工場事業者の約6割が赤字とも報じられています。同協会の令和6年度調査は、2024年9月から2025年1月にかけて実施されました。490票を発送し、141票の有効回答を得ています。調査報告書は農林水産省のウェブサイトで公開されています。

ただし、これは電力価格や品目、規模、販売先の違いが重なった結果であり、すべての事業が同じ状況にあるわけではありません。海外の失敗例をそのまま日本に当てはめることもできません。大切なのは、環境面の利点と経営面の持続性を分けて見ることです。

買う・借りる・育てる|暮らしの中での関わり方

都市型スマート農業は、事業者や自治体だけの話ではありません。生活者として関われる入口が、少なくとも3つあります。

買うときに見る3つのポイント

植物工場で育った野菜は、スーパーで見かけることが増えています。選ぶときは、次の点を確認してみてください。

  • パッケージや企業サイトに、栽培方法(水耕栽培、完全人工光型など)が書かれているか
  • 電力の調達方法や、再生可能エネルギーの利用について説明があるか
  • 「環境にやさしい」といった言葉だけでなく、具体的な数値や根拠が示されているか

根拠のない言葉だけが並んでいる場合は、その表現を鵜呑みにせず、企業の公開情報で確かめるのが安心です。

地場産の野菜を選ぶ

都市農業の恩恵を受ける、いちばん手軽な方法は、近くの直売所や地場産コーナーで野菜を買うことです。買うことが、都市の農地を続けやすくする後押しになります。旬の露地野菜は、栽培に使うエネルギーが少ない傾向にあります。

市民農園で育てる

自分で育ててみたい場合は、市民農園が選択肢になります。全国に4,273園ある中で、お住まいの自治体や農園ごとに募集時期や利用料が異なります。秋は冬野菜の栽培が始まる季節なので、気になる方は、近くの農園の情報を確認してみてください。

ベランダでの水耕栽培キットなら、小さな空間でも始められます。育てる経験をすると、店頭の野菜がどれだけ手間をかけて作られているかが実感できます。

これから問われる3つの論点

最後に、都市型スマート農業がこれから広がるかどうかを左右する論点を挙げます。

エネルギーの調達

電力コストは経営に直結し、電力の中身は環境評価に直結します。再生可能エネルギーの活用や、建物の壁面での太陽光発電など、工夫を重ねる事業者が増えています。今後は、こうした取り組みが数値として示されるかどうかが問われます。

都市農地の維持

建物の中の農業が増えても、都市の農地が失われれば、都市農業の多様な役割は弱まります。特定生産緑地の制度や貸借の仕組みを、地域の実情に合わせて使えるかが鍵になります。

地域との結びつき

相鉄の例のように、地域の店舗や住民との関係を土台にした事業は、規模は小さくても持続しやすいと考えられます。どれだけ技術が進んでも、「誰が買い、誰が食べるのか」が見えている事業は強いと言えます。

まとめ

都市型スマート農業は、植物工場、小規模な空きスペース活用、都市農地でのICT活用という3つの形に分けて考えると理解しやすくなります。日本では、令和6年度の食料自給率が38%(カロリーベース)にとどまる一方、都市住民の64.3%が都市農地の保全を支持しています。技術を活かして、消費地の近くで野菜を作る価値は確かにあります。

一方で、電力の使い方や収支の面では課題も大きく、海外では破産や事業停止も起きています。「環境にやさしい」「食料問題を解決する」といった大きな言葉ではなく、品目、エネルギー、規模、販売先といった具体的な条件で見ることが、正しく評価する近道です。

まずは、近くのスーパーで植物工場産の野菜の表示を見てみる、あるいは地場産の野菜を1つ選んでみるところから始めてみてください。

  • 都市型スマート農業には、植物工場、空きスペース活用、都市農地でのICT活用という3つの形がある
  • 令和6年度の食料自給率はカロリーベース38%で、都市農地の保全は住民の64.3%が支持している
  • 相鉄グループや東急不動産など、鉄道・不動産会社が植物工場に関わる例が出ている
  • 電力の調達方法と収支は、環境面・経営面の両方で大きな論点になる
  • 買う・借りる・育てるという形で、生活者も関わることができる

参考文献

  • 記事を書いたライター
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