私たちが普段着ている洋服が、実は地球環境に大きな影響を与えていることをご存じでしょうか。ファッション産業は国連により「世界第2位の環境汚染産業」と指摘されており、その影響は石油産業に次ぐ規模となっています。しかし、適切な知識と行動により、私たち一人ひとりがこの問題解決に貢献することができます。
この記事で学べるポイント
- ファッション産業が環境に与える深刻な影響と具体的な数値
- サステナブルファッションとエシカルファッションの違いと特徴
- 今日から始められる環境に配慮したファッション選択の方法
ファッションと環境の関係とは
ファッションと環境の関係とは、衣服の製造から廃棄までの全ての段階で生じる環境への影響を指します。一見すると無関係に思える洋服と環境問題ですが、実際には密接につながっており、私たちの日常的な服選びが地球環境に与える影響は想像以上に大きなものとなっています。
ファッション産業が「世界第2位の汚染産業」と呼ばれる理由
国連貿易開発会議(UNCTAD)の調査によると、ファッション産業は石油産業に次いで世界第2位の環境汚染産業として位置づけられています。この事実は多くの人にとって驚きかもしれませんが、その理由を数値で見ると深刻さが理解できます。
ファッション産業全体では、年間約90,000キロトンという膨大な量の二酸化炭素を排出しています。これは国際航空業界と海運業界を合わせた排出量よりも多い数値です。また、年間で約83億立方メートルの水を消費しており、これは東京ドーム約6,700個分の水量に相当します。
服1着あたりで計算すると、製造過程で約25.5キログラムの二酸化炭素が排出され、約2,300リットルの水が使用されます。2,300リットルという量は、一般的な浴槽約12杯分に相当し、私たちが普段着ている1枚のシャツやズボンがこれほど多くの資源を消費していることが分かります。
さらに深刻なのは、ファッション産業が海洋環境に与える影響です。毎年、石油300万バレルに相当するプラスチック素材が海洋に投棄されており、海洋生物や生態系への影響が懸念されています。
大量生産・大量消費・大量廃棄の現状
現在のファッション産業は「大量生産・大量消費・大量廃棄」という一方通行のビジネスモデルで成り立っています。このモデルは、消費者に手頃な価格で最新のトレンドを提供する一方で、深刻な環境問題を引き起こしています。
特にファストファッション(流行を素早く取り入れた安価な衣服)の普及により、服の消費サイクルは大幅に短縮されました。以前は季節ごとに新商品が発表されていましたが、現在では月単位、場合によっては週単位で新しいデザインが店頭に並びます。この結果、消費者は頻繁に新しい服を購入し、まだ着られる服でも早期に処分する傾向が強まっています。
日本では、購入された衣服のうちリサイクルやリユースに回されるのは全体の約34%にとどまり、残りの66%が焼却処分や埋め立て処分されています。1日あたりに焼却・埋め立てされる衣服の重量は約1,300トンで、これは大型トラック130台分に相当する量です。
この「捨てる文化」は、資源の無駄遣いだけでなく、焼却時の温室効果ガス排出や埋め立て地の不足といった新たな環境問題も生み出しています。また、廃棄される衣服の多くには化学繊維が含まれており、これらが分解されるまでには数百年という長い時間が必要です。
ファッション産業が環境に与える具体的な影響
ファッション産業が環境に与える影響は、原材料の調達から製造、輸送、販売、そして最終的な廃棄まで、衣服のライフサイクル全体にわたって発生します。これらの影響を具体的に理解することで、なぜファッション産業が環境問題の大きな要因となっているのかが明らかになります。
製造段階での環境負荷(水資源・CO2排出・化学物質)
衣服の製造段階では、主に3つの面で深刻な環境負荷が発生しています。
まず水資源の大量消費です。コットン栽培には特に多くの水が必要で、Tシャツ1枚を作るのに約2,700リットル、ジーンズ1本には約7,000リットルの水が使用されます。これは一人が約3年間で飲む水の量に相当します。さらに、綿花栽培では世界の農薬使用量の約16%、殺虫剤使用量の約7%が消費されており、これらの化学物質が土壌や地下水を汚染する原因となっています。
二酸化炭素の排出も深刻な問題です。繊維の製造、染色、縫製といった各工程でエネルギーが大量に消費され、その多くが化石燃料由来の電力でまかなわれています。特にポリエステルなどの合成繊維は石油を原料としているため、製造過程での環境負荷がより大きくなります。
化学物質による汚染も見逃せません。衣服の染色や加工には約8,000種類もの化学物質が使用されており、その中には人体や環境に有害なものも含まれています。これらの化学物質を含んだ排水が適切に処理されずに河川に流れ込むことで、水質汚染が発生し、周辺地域の生態系や住民の健康に深刻な影響を与えています。
廃棄段階での問題(焼却・埋め立て・海洋汚染)
衣服の廃棄段階でも多くの環境問題が発生しています。
焼却処分される衣服からは大量の温室効果ガスが排出されます。特に合成繊維が燃焼する際には、二酸化炭素以外にも有害な化学物質が大気中に放出される可能性があります。また、焼却炉の処理能力には限界があるため、廃棄衣服の増加は焼却施設への負荷を高めています。
埋め立て処分も深刻な問題です。合成繊維でできた衣服は自然分解されにくく、埋め立て地に長期間残存します。ポリエステルの場合、完全に分解されるまでに200年以上かかるとされており、限られた埋め立て地の容量を圧迫する原因となっています。
さらに海洋汚染の問題もあります。洗濯時に合成繊維の衣服から放出されるマイクロプラスチック(直径5ミリメートル以下の微細なプラスチック粒子)が、排水とともに海洋に流出しています。これらのマイクロプラスチックは海洋生物に摂取され、食物連鎖を通じて最終的に人間の体内にも蓄積される可能性が指摘されています。
日本の研究では、1回の洗濯で衣服1枚あたり約1,900個のマイクロプラスチックが放出されるという報告もあり、世界中で行われている無数の洗濯により、膨大な量のマイクロプラスチックが海洋環境に放出され続けています。
サステナブルファッションとエシカルファッションの違い
ファッション業界の環境問題や社会問題への対応として、「サステナブルファッション」と「エシカルファッション」という言葉がよく使われます。これらは似たような概念ですが、重視する視点に違いがあります。どちらも持続可能で責任あるファッションを目指していますが、アプローチの仕方が異なるため、それぞれの特徴を理解することが大切です。
サステナブルファッション:環境配慮を重視
サステナブルファッションとは、「持続可能性」を重視し、環境への負荷を最小限に抑えることを主目的としたファッションの取り組みです。「サステナブル(Sustainable)」は「持続可能な」という意味で、将来の世代も同様に地球の資源を利用できるよう、現在の環境を保護することを重視しています。
具体的には、環境に配慮した素材の使用が中心となります。オーガニックコットン(農薬や化学肥料を使わずに栽培された綿)、リサイクルポリエステル(使用済みペットボトルなどから作られた繊維)、テンセル(ユーカリなどの木材から作られる環境負荷の少ない繊維)などの素材が積極的に採用されています。
製造過程でも環境負荷の削減が図られており、染色時の水使用量や化学物質の削減、再生可能エネルギーの活用、製品の耐久性向上による長期使用の促進などが行われています。また、製品の廃棄段階まで考慮し、リサイクルしやすい単一素材での製品開発や、生分解性のある素材の使用なども進められています。
さらに、消費者側でも服を長く大切に着る、不要になった服はリサイクルに出すといった循環型の消費行動がサステナブルファッションの重要な要素となっています。
エシカルファッション:人権・社会問題を重視
エシカルファッションとは、「倫理的・道徳的」な観点から、人権や社会問題の解決を重視したファッションの取り組みです。「エシカル(Ethical)」は「倫理的な」という意味で、服を作る人々の労働環境や権利、地域社会への影響などに焦点を当てています。
最も重要視されるのは労働者の権利保護です。発展途上国の縫製工場では、低賃金での長時間労働、劣悪な労働環境、児童労働などの問題が長年指摘されてきました。2013年にバングラデシュで発生したラナ・プラザ崩落事故では、違法増築されたビルが崩壊し、縫製工場で働く1,134人が亡くなるという悲劇が起きました。この事故をきっかけに、ファッション業界における労働環境の改善への関心が世界的に高まりました。
エシカルファッションでは、フェアトレード(公正取引)の原則に基づき、労働者に適正な賃金を支払い、安全な労働環境を提供することが求められます。また、地域の伝統的な技術や文化を尊重し、地域経済の発展に貢献することも重視されています。
動物の権利保護も重要な要素で、毛皮や皮革の使用を避ける、動物実験を行わない化粧品の使用、羽毛の採取方法に配慮するなどの取り組みが行われています。
サステナブルファッションが「地球にやさしい」ことを重視するのに対し、エシカルファッションは「人にやさしい」ことを重視すると覚えておくと分かりやすいでしょう。ただし、実際には両方の要素を兼ね備えたブランドや製品も多く、「エシカル&サステナブル」として一体的に取り組まれることが増えています。
企業の取り組み事例
ファッション業界では、環境問題や社会問題への対応として、多くの企業が革新的な取り組みを始めています。これらの事例を知ることで、企業がどのような努力を行っているのか、そして私たち消費者がどのような選択肢を持っているのかを理解することができます。
リサイクル素材の活用
多くの企業がリサイクル素材を活用した製品開発に取り組んでいます。リサイクル素材とは、廃棄予定だった材料を再利用して作られた繊維や生地のことで、新たな資源の使用量を削減し、廃棄物の減量にも貢献します。
最も代表的なのがリサイクルポリエステルです。使用済みペットボトルを回収し、細かく砕いて溶かし、繊維として再生する技術が確立されています。ペットボトル約25本から、Tシャツ1枚分のリサイクルポリエステルを作ることができ、従来のポリエステル製造と比べて約60%のエネルギー削減が可能です。
スポーツウェアの大手企業では、海洋で回収したプラスチックごみからシューズやウェアを製造する取り組みも行われています。これにより、海洋汚染の原因となるプラスチックごみを資源として活用し、環境保護と製品開発の両立を図っています。
また、古着を回収して新しい繊維に再生する技術も発達しています。コットンとポリエステルの混合生地を分離し、それぞれを再利用可能な状態に戻す技術や、古着を細かく粉砕して新しい生地の原料として使用する方法などが実用化されています。
日本の大手ファストファッション企業でも、店舗にリサイクルボックスを設置し、これまでに3万4,000トンを超える使用済み衣料を回収しています。回収された衣服は、状態の良いものはリユース商品として再販売され、状態の悪いものは繊維として再生されるなど、段階的なリサイクルが行われています。
循環型ビジネスモデルの構築
従来の「作って、売って、捨てる」という一方通行型のビジネスモデルから、「循環型」のビジネスモデルへの転換が進んでいます。循環型モデルとは、製品の設計段階からリサイクルや再利用を考慮し、廃棄物をできるだけ出さないシステムのことです。
レンタルサービスの拡大もその一例です。特別な場面でしか着用しないフォーマルウェアやブランド品を、購入ではなくレンタルで提供することで、1着あたりの利用回数を大幅に増やし、製造量の削減につなげています。高級ブランドでも、サブスクリプション形式でバッグやアクセサリーをレンタルするサービスを開始しており、新しい消費スタイルとして注目されています。
修理・リメイクサービスの充実も重要な取り組みです。企業が自社製品の修理サービスを提供することで、製品の寿命を延ばし、新たな購入の必要性を減らしています。デニムメーカーでは、ジーンズの穴あきや色褪せを修理・加工するサービスを展開し、「育てるジーンズ」として長期愛用を促進しています。
さらに、製品の設計段階から「分解しやすさ」を考慮したモノづくりも始まっています。複数の素材を混合するのではなく、単一素材での製品開発を行うことで、使用後のリサイクルを容易にする取り組みが広がっています。
これらの循環型ビジネスモデルは、環境負荷の削減だけでなく、新たなビジネス機会の創出にもつながっており、持続可能な成長を目指す企業にとって重要な戦略となっています。
私たちにできるアクション
ファッション業界の環境問題解決には、企業の取り組みだけでなく、私たち消費者一人ひとりの行動変容が不可欠です。日常生活の中で実践できる具体的なアクションを知り、今日から始めることで、地球環境の保護に貢献することができます。
長く着る・直して使う
最も効果的で今すぐできる取り組みは、今持っている服を大切に長く着続けることです。服の寿命を延ばすことで、新しい服の製造需要を減らし、廃棄物の削減にも直結します。
具体的な方法として、適切なケアで服の劣化を防ぐことが重要です。洗濯時は冷水を使用し、乾燥機の使用を控えて自然乾燥させることで、繊維の傷みを最小限に抑えることができます。また、洗濯頻度を見直し、1回着ただけで洗濯するのではなく、汚れや臭いが気になる時のみ洗濯するよう心がけることも効果的です。
服に穴が開いたり、ボタンが取れたりした場合は、すぐに捨てるのではなく修理を検討しましょう。基本的な裁縫技術を身につけることで、簡単な修理は自分で行うことができます。また、リメイクやアレンジを施すことで、飽きてしまった服に新たな魅力を与えることも可能です。袖を短くしてノースリーブにする、スカートをショートパンツにリメイクするなど、創意工夫次第で長く愛用できる服に生まれ変わらせることができます。
研究によると、バージンコットン1キログラムを古着に置き換えることで、夏のエアコン5.2日分(約65キロワット)の節電効果があり、ポリエステルの場合は7.2日分(90キロワット)の節電効果があることが分かっています。1着の服を長く使うだけで、これほど大きな環境負荷削減効果が期待できるのです。
認証マークを確認して選ぶ
新しい服を購入する際は、環境や社会に配慮した製品かどうかを見極めることが重要です。その際の目安となるのが、各種認証マークです。これらのマークが付いた製品は、それぞれの認証基準をクリアしたサステナブルな商品であると判断できます。
代表的な認証マークとして、まず「エコマーク」があります。これは製品のライフサイクル全体を通じて環境負荷が少ない商品に付けられるマークで、日本環境協会が認定しています。原材料の調達から製造、流通、廃棄まで全ての段階で環境への配慮がなされていることを示しています。
「GOTS認証(オーガニックテキスタイル世界基準)」は、オーガニック繊維を使用した製品の世界基準です。原料の70%以上がオーガニック繊維であること、製造工程で環境・社会基準を満たしていることが認証条件となっています。農薬や化学肥料を使用しない環境配慮型の農業で作られた素材であることが保証されています。
「国際フェアトレード認証ラベル」は、公正な取引条件で生産された製品に付けられます。生産者に適正な価格が支払われ、労働環境や人権が尊重されていることを示しており、エシカルファッションの観点から重要な認証です。
「OCS認証(オーガニックコンテント基準)」は、製品に含まれるオーガニック原料の含有量を認証するもので、オーガニック原料の使用割合によって段階的に認証されています。
購入前にこれらの認証マークをチェックする習慣をつけることで、環境と社会に配慮した選択を行うことができます。また、「本当に必要かどうか」を一度立ち止まって考えることも大切です。セールで安いから、流行しているからという理由ではなく、長く愛用できるデザインか、今の自分のライフスタイルに必要かという観点から判断することが、持続可能なファッション選択につながります。
まとめ
ファッションと環境の問題は、私たちの日常生活と密接に関わる重要な課題です。ファッション産業が世界第2位の環境汚染産業として指摘される現状は深刻ですが、適切な知識と行動により改善に向けて貢献することができます。
サステナブルファッションとエシカルファッションは、それぞれ環境保護と社会問題解決に焦点を当てた取り組みですが、どちらも持続可能な未来を目指す重要な概念です。企業側では、リサイクル素材の活用や循環型ビジネスモデルの構築など、革新的な取り組みが進められています。
私たち消費者にできることは、まず今持っている服を大切に長く着ることから始まります。適切なケアと修理により服の寿命を延ばし、新しい服を購入する際は認証マークを確認して環境・社会に配慮した選択を行うことが重要です。
一人ひとりの小さな行動の積み重ねが、ファッション業界全体の変革につながります。環境に配慮したファッション選択を通じて、美しい地球を未来の世代に引き継いでいきましょう。
参照元
・環境省サステナブルファッション https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/
・国際環境NGOグリーンピース – ファストファッション問題とは? https://www.greenpeace.org/japan/news/fast-fashion-environmental-impact/
・楽天グループ Go Green Together – サステナブルファッションとは? https://corp.rakuten.co.jp/event/gogreen/sdgs-8-12/sustainable-fashion/
・Fashion Revolution Japan – ファッションと環境問題 https://www.fashionrevolution.org/japan-blog/environmental-effects-of-fashion/
・ASUENE メディア – ファストファッションの環境問題とは? https://asuene.com/media/325/