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日本のエネルギーキャリア戦略と政府の取り組み

日本のエネルギーキャリア戦略と政府の取り組み

日本は世界に先駆けてエネルギーキャリア技術の重要性を認識し、国家戦略として体系的な取り組みを進めています。2017年12月には、世界で初めて水素に関する国家戦略「水素基本戦略」を策定し、その中でエネルギーキャリアを水素社会実現の鍵となる技術として位置づけました。

その後、EU、ドイツ、オランダなど25カ国以上で相次いで水素の国家戦略が策定され、世界各国で水素関連の取り組みが強化されてきました。近年では、水素社会の実現を見据えて、各国の支援策も技術開発から実用化・商用化に向けた制度へとシフトしてきています。こうした国際的な動きの中で、2023年、日本は6年ぶりに「水素基本戦略」を改定しました。

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)での研究開発

戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)での研究開発

日本政府は、エネルギーキャリア技術の実用化を加速するため、総合科学技術・イノベーション会議(議長:内閣総理大臣)において、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の1つとして「エネルギーキャリア」を選定しました。

SIP「エネルギーキャリア」は、2014年度から2018年度までの5年間にわたり実施され、技術が先行している液体水素、有機ハイドライド、アンモニア等のエネルギーキャリアに焦点を当てて研究開発が進められました。このプログラムでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおけるエネルギーキャリアを活用した水素社会の実証などを目標に、産官学が連携して技術開発に取り組みました。

プログラムの成果として、太陽エネルギーから高温熱源を創る薄膜材料において世界最高効率を実現、アンモニアを直接燃料とした燃料電池による1キロワットの発電に成功、水島発電所2号機でのアンモニア混焼試験の実施、工業炉における二酸化炭素排出量削減に向けたアンモニア燃焼利用技術の開発など、多くの画期的な技術開発成果を上げました。

現在も、日本科学技術振興機構(JST)のCRESTプログラムにおいて、「再生可能エネルギーからのエネルギーキャリアの製造とその利用のための革新的基盤技術の創出」をテーマとした研究領域が設定され、継続的な技術開発が進められています。

水素社会実現ロードマップ

日本は、水素社会の実現に向けて具体的な目標とスケジュールを示した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定し、段階的な普及拡大を図っています。このロードマップは、2014年6月に初版が策定され、2016年3月、2019年3月と段階的に改訂が行われ、最新の技術動向と市場環境を反映した内容となっています。

燃料電池自動車については、2020年までに4万台程度、2025年までに20万台程度、2030年までに80万台程度という普及目標が設定されています。また水素ステーションの整備目標は2020年度までに160箇所程度、2025年度までに320箇所程度としています。

コスト削減目標も明確に設定されており、2030年に水素供給コスト30円/N㎥(現在の最大6分の1程度)の達成を目指し、液化水素運搬船を含む輸送設備の大型化や水素発電の実機実証(混焼・専焼)等の研究開発が進められています。さらに長期的には、現在一般的な水素ステーションにおいて100円/N㎥で販売されている水素の供給コストを、2050年には20円/N㎥以下に低減し、化石燃料と同等程度の水準までコストを低減することを目指しています。

産官学連携の推進

エネルギーキャリア技術の実用化には、産官学の密接な連携が不可欠です。現在、一般的に約200万トン/年と推計される水素供給量を、2030年に最大300万トン/年、2050年には2,000万トン/年程度に拡大することを目指しており、このような大規模な市場創出には、政府の政策支援と民間企業の技術開発・投資が両輪となって機能することが重要です。

2024年5月には、水素の社会実装を強力に推進していくための法律「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律」(水素社会推進法)が成立しました。この法律により、低炭素水素等のサプライチェーン構築のための支援制度が整備され、関連設備の導入支援や既存燃料との価格差の補填などが実施されることになります。

エネルギーキャリアの将来展望と課題

エネルギーキャリアの将来展望と課題

エネルギーキャリア技術は、2050年カーボンニュートラル実現に向けた重要な技術として期待されていますが、本格的な社会実装に向けては、まだ多くの課題が残されています。これらの課題を克服することで、持続可能なエネルギー社会の実現が可能になると考えられています。

エネルギーキャリア技術は、すでに実証段階に入ってきており、今後は導入段階に移行していくことが求められています。水素に関する技術の研究開発は、社会システムや社会実装について目指す姿があり、それに向けて研究を進めていく、バックキャストの視点を持ちながら取り組む必要があると考えられています。

実用化に向けた技術的課題

現在のエネルギーキャリア技術には、まだ解決すべき技術的課題が残されています。液化水素については、-253℃という極低温に対応するインフラ構築のための技術開発・実証が継続的に必要です。これらの課題を克服することが、液化水素の利用拡大に向けた重要なステップとなります。

有機ハイドライドについては、MCHは触媒と一緒に加熱すると水素を放出しトルエンに戻りますが、この過程で熱エネルギーが必要となるので、変換にかかるエネルギーの低減が課題となっています。現在のところ、石油化学のプラントがあるようなコンビナートや大型の発電所などでの利用が想定されていますが、より幅広い用途での活用を可能にする技術開発が求められています。

アンモニアについては、他にも、アンモニアをどのように製造するかということも課題になります。アンモニアを分解せずにそのまま燃やして燃料として利用できるようになりましたが、一方、アンモニアの製造は一般的に高温高圧条件が必要となり、燃料アンモニアをどのように製造するのかということを考えていかなければいけません。

コスト削減への道筋

エネルギーキャリアの本格的な普及には、コスト競争力の向上が不可欠です。現状の水素製造コストはガソリンの数倍となっているなど技術的、コスト的なハードルは高く、国が主導して産官学が連携してオールジャパンで研究開発から実証を進めていくことが求められています。

水素社会を実現するためには、水素の供給コスト削減と、多様な分野における需要創出を一体的に進める必要があります。政府は、現在一般的な水素ステーションにおいて100円/N㎥で販売されている水素の供給コストを、2030年に30円/N㎥(CIF価格)、2050年には20円/N㎥(CIF価格)以下に低減し、長期的には化石燃料と同等程度の水準までコストを低減することを目指しています。

このコスト削減目標を達成するため、余剰再生可能エネルギー等を活用した国内水素製造基盤の確立や、先行する海外市場の獲得を目指すべく、水電解装置の大型化やモジュール化、優れた要素技術の実装といった技術開発等が支援されています。水電解装置コストの一層の削減(現在の最大6分の1程度)を目指す取り組みが進められています。

2050年に向けた社会実装の可能性

2050年に向けて、エネルギーキャリア技術の社会実装は着実に進展することが期待されています。国内の水素エネルギー市場は2030年に1兆円程度、2050年には8兆円程度まで拡大するものと予測されており、巨大な市場の創出が見込まれています。

国際的にも、カーボンニュートラルの実現に向けて水素の需要量が増えるとの予測があり、2050年には2022年の約5倍になると推測されています。国際エネルギー機関(IEA)は、2070年までにカーボンニュートラルを達成する場合、世界の水素需要は約5.2億トン(最終エネルギー消費に占める水素関連シェアは約13%)になると予測しています。

エネルギーは今後も使い続けていくものなので、エネルギーキャリアの必要性もなくなることはないでしょう。日本は国土が狭いので、限られた再生可能エネルギーをより有効に利用する必要がありますし、一定程度は国外からエネルギーを運搬してくる必要もあります。

また、サプライチェーンの構築が不可欠となりますので、関連する企業との1対1の関係とともに、複数の企業や国などと連携しながら取り組みを進めることも大切になります。カーボンニュートラル関連の動きは非常に早いこともあり、国内外ともに、多くのニーズに対し、研究者・技術者の数が足りていない状況ですが、産官学が連携して、カーボンニュートラル社会実現の鍵となる水素、エネルギーキャリア技術がより早く安全に普及するための取り組みが継続されています。

まとめ

まとめ

エネルギーキャリアは、2050年カーボンニュートラル実現に向けた重要な技術として、世界中で注目を集めています。水素を効率的に貯蔵・輸送する手段として、液化水素、有機ハイドライド、アンモニア、メタネーションなど、さまざまな技術の開発が進められており、それぞれに特徴とメリット・デメリットがあります。

日本は世界に先駆けて水素基本戦略を策定し、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)をはじめとする国家的な取り組みを通じて、エネルギーキャリア技術の研究開発を推進してきました。その結果、多くの技術的成果を上げ、実用化に向けた道筋を明確にしています。

しかし、本格的な社会実装に向けては、技術的課題の解決、コスト削減、安全性の確保など、まだ多くの課題が残されています。これらの課題を克服するためには、産官学が連携した継続的な取り組みが不可欠です。

2050年に向けて、エネルギーキャリア技術は確実に社会に浸透し、私たちの生活を支える重要なインフラとなることが期待されています。クリーンで持続可能なエネルギー社会の実現に向けて、エネルギーキャリア技術の更なる発展が期待されます。

参照元
・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)|科学技術振興機構 https://www.jst.go.jp/sip/k04.html

・産総研マガジン「エネルギーキャリアとは?」|国立研究開発法人産業技術総合研究所 https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20240124.html

・水素社会実現に向けた取組|資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/hydrogen_society/

・エネルギーキャリアとは?|省エネQ&A|J-Net21[中小企業ビジネス支援サイト] https://j-net21.smrj.go.jp/development/energyeff/Q1271.html

・目前に迫る水素社会の実現に向けて~「水素社会推進法」が成立(前編)|資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_01.html

・水素社会の実現に向けた取組の加速|エネルギー白書2023|資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2023/html/3-8-1.html

・NEDO燃料電池・水素技術開発ロードマップ|国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 https://www.nedo.go.jp/library/battery_hydrogen.html

・エネルギーキャリア|大和総研 https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/esg/keyword/20141006_009003.html

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