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SOCIETY

修理する権利は欧州で何が変わったのか|2026年7月適用のEU指令と日本との違いを数字で読む

Photo by Sebastian Bednarek on Unsplash

2026年7月31日、欧州連合(EU)で「修理する権利」に関する指令の適用が始まりました。正式名称は指令(EU)2024/1799です。壊れた家電やスマートフォンを買い替えるより直して使い続けるほうが、消費者にとっても製造業者にとっても自然な選択になるよう、制度の側から設計し直した法律です。

環境NGOでキャンペーンを設計していた頃から、私は制度の名前より先に「誰が何をしなければならなくなるのか」を確かめるようにしてきました。この指令も、理念の説明より義務の中身を数字と条文で見るほうが、日本の暮らしとの距離がはっきりします。本記事では、欧州委員会や欧州議会、総務省の公開資料をもとに、指令の中身、国内法化の状況、日本の制度との違いを整理します。

この記事で学べること

  • EUが修理を法制度にした背景にある、欧州委員会の試算の数字
  • 2026年7月31日から適用された指令の5つの柱
  • 日本の電波法と登録修理業者制度が、EUの仕組みとどう違うか
  • 日本で暮らす私たちが今日から確認できる、修理に関する具体的な行動

欧州が「修理」を法律にした背景|数字で見る早すぎる買い替え

修理を促す法律がなぜ必要だったのかは、欧州委員会が示している試算に表れています。消費財が本来の寿命より早く捨てられることで、EU域内では年間およそ2億6,100万トンのCO2換算の排出、3,000万トンの資源消費、3,500万トンの廃棄物が生じているとされています。消費者の側でも、早すぎる買い替えによって年間およそ120億ユーロの余計な支出が生じるという見積もりが示されています。

ここで注意したいのは、これらが欧州委員会による推計であり、製品や国によって幅があることです。それでも、環境負荷と家計負担の両方が同じ原因から生まれているという構図は、指令の出発点として押さえておく価値があります。

環境負荷と家計負担が同じ原因から生まれる

「直せるのに買い替える」という行動は、個人の意識の低さだけで説明できません。修理費用が新品価格に近い、修理先が分からない、部品が手に入らないといった事情があれば、合理的に考えても買い替えが選ばれやすくなります。

修理を阻んでいた壁は費用・情報・アクセスに整理できる

指令の中身を見ると、対処しようとしている障壁は大きく3つに整理できます。1つ目は修理費用が高く見通しにくいこと、2つ目は修理できる事業者や条件の情報が届いていないこと、3つ目は部品や工具、修理に必要な情報を製造業者が握っていて独立系の修理事業者が使えないことです。後述する指令の5つの柱は、この3つの壁にそれぞれ対応しています。

2026年7月31日から適用された指令の中身

指令(EU)2024/1799は、2024年6月13日に採択され、同年7月30日に発効しました。EU加盟国は2026年7月31日までに国内法化することが求められ、同日から適用が始まっています。欧州議会の採決は2024年4月23日に行われ、賛成584、反対3、棄権14という大差で可決されました。対立の少ない分野であることが、この数字からも読み取れます。

欧州委員会は、この仕組みによってEU域内で48億ユーロの成長と投資が生まれると見込んでいます。以下では、消費者の暮らしに関わる5つの柱を順に見ます。

製造業者に課される修理義務

対象製品の製造業者は、無償または妥当な価格で、妥当な期間内に修理を行う義務を負います。修理が事実上または法的に不可能な場合は例外です。修理の義務は、法定の保証期間が終わったあとにも続きます。

あわせて、スペアパーツと工具を妥当な価格で提供すること、修理サービスに関する情報を無料で分かりやすく公開すること、修理費用の目安を公開ウェブサイトに掲載することも求められます。

保証が12か月延びる仕組み

販売後の保証期間中に不具合が見つかり、消費者が交換ではなく修理を選んだ場合、売主の法的保証が少なくとも12か月延長されます。EUでは売主の法的保証が最低2年と定められているので、修理を選ぶと、その分だけ保証の期間が長くなる計算です。

交換より修理を選んだほうが損をしない、という流れをつくるための設計と言えます。ただし、延長の対象は「保証期間中に修理を選んだ場合」に限られます。この点は後半の疑問整理でも触れます。

修理を妨げる行為の禁止

製造業者は、契約条項やハードウェア、ソフトウェアの仕組みを使って修理を妨げてはならないとされています。正当な理由がある場合を除き、過去に第三者が修理した製品の修理を断ることもできません。独立系の修理事業者が、中古部品や3Dプリンターでつくった部品を使うことを製造業者が制限することも、原則として認められません。

修理情報フォームと2027年のオンラインプラットフォーム

消費者は、価格、所要期間、条件を示した標準様式の「欧州修理情報フォーム」を無料で請求できます。法定のフォームは、既定では30暦日間有効とされています。複数の修理先から見積もりを取り、比べる際の共通の物差しになります。

さらに、欧州委員会は2027年の稼働を目指して、EU全体の修理プラットフォームを整えています。各国別のページが設けられ、地域の修理事業者、再生品の販売者、市民が運営する修理の場を探せるようになる予定です。

加盟国に求められる支援策

加盟国には、修理を促す措置を少なくとも1つ実施することが求められています。修理に使えるバウチャー(利用券)や基金、情報キャンペーン、修理講座、市民による修理スペースへの支援などが例として挙げられています。法律で義務を課すだけでなく、修理にかかる費用の負担感を和らげる施策を各国に任せる設計です。

対象製品と国内法化の現状

指令が製造業者に修理義務を課す対象は、EU法上すでに修理しやすさの要件が定められている製品で、指令の附属書Ⅱに列挙されています。法律事務所などの解説では、次のような製品が挙げられています。

  • 家庭用の洗濯機、洗濯乾燥機、衣類乾燥機、食器洗い機
  • 冷蔵庫などの冷却機器、電子ディスプレイ、掃除機
  • 携帯電話、コードレス電話、スレート型タブレット
  • 電動アシスト自転車や電動キックボードなど軽量の移動手段向けバッテリーを含む製品

この一覧は固定ではありません。今後、エコデザイン規則で修理しやすさの要件が新たな製品群に加わるたびに、附属書の更新が見込まれています。

もう一つ見落としやすいのは、EUの「指令」は、そのまま消費者に適用される法律ではないという点です。27の加盟国がそれぞれ国内法をつくって初めて、各国の消費者が権利を主張できます。ドイツでは、連邦議会が2026年6月26日に国内法を可決したと報じられています。一方で、期限の時点で国内法化を終えた国は一部にとどまっていたとも伝えられており、国によって進み具合に差があります。

欧州で修理を依頼する場合、あるいは欧州の消費者向けに製品を提供する企業にとっては、各国の国内法の条文まで確認する必要があります。

日本はどう違うのか|電波法と登録修理業者制度

EUの指令は、EU域内で販売される製品と消費者を対象にしており、日本で購入した製品や日本国内の修理に法的な効力は及びません。では日本には、修理をめぐってどんな仕組みがあるのでしょうか。

日本でスマートフォンの修理を考えるうえで避けて通れないのが、電波法です。スマートフォンには技術基準適合証明(技適)が必要で、製造業者以外の事業者が分解や部品交換を行うと、修理後の無線設備が基準に適合しているかが問題になります。

2015年に始まった登録修理業者制度

この問題に対応して、2014年の電波法改正で「登録修理業者制度」が創設され、2015年4月1日に施行されました。総務省の資料によると、スマートフォンの普及で製造業者以外が修理や部品交換を行う例が増えたことが背景にあります。登録を受けた事業者は、修理方法書に従って修理と確認を行い、その記録を10年間保存し、修理した端末にその旨を表示することが求められます。

EUと日本の仕組みの比較

両者は目的も設計も異なります。違いは次の3点に整理できます。

  • EUは製造業者に修理の提供と部品の供給を義務づけ、日本の登録修理業者制度は第三者による修理を電波法の枠内で適法にする仕組みです。
  • EUは修理を選んだ消費者の保証を12か月延ばす設計で、日本の制度には保証期間を延ばす規定がありません。
  • EUは修理費用の目安の公開や標準様式の見積もりで比較を促し、日本の制度は事業者の登録と記録の保存を中心にしています。

私が確認できた範囲では、日本にはEUのように製造業者へ修理の提供そのものを義務づける法律は見当たりません。ただし、これは法令全体を網羅的に調べた結論ではなく、公開されている解説や総務省の資料から読み取れる範囲の話です。

読者の疑問を3つに整理する|よくある誤解と判断の分かれ目

「修理する権利 欧州」というテーマで読み進めると、いくつかの疑問が繰り返し出てきます。公開されている解説記事や制度資料に見られる論点の傾向として整理すると、次の3つに集約できます。統計調査に基づく結果ではなく、論点の整理である点をご了承ください。

EUの指令は日本で買った製品にも効くのか

効きません。指令の対象はEU域内の製品と消費者です。ただ、グローバルに製品を売る企業が、EU向けに整えた修理情報や部品供給の体制を他地域にも広げるかどうかは、現時点で断定できません。日本の消費者が確実に使えるのは、日本の法律と各社の公式な修理サービスです。

修理すれば必ず得なのか

そうとは限りません。指令が求めるのは「妥当な価格」であり、価格の上限を決めているわけではありません。12か月の保証延長も、保証期間中に交換ではなく修理を選んだ場合に限られます。だからこそ、見積もりの条件を比べられる修理情報フォームが設けられています。修理と買い替えを比べる判断材料を増やす制度であって、修理を強制する制度ではありません。

自分で直せる権利なのか

名称から、誰もが自由に分解して直せる権利を想像しがちですが、指令の中心は、製造業者による修理の提供と部品の供給、そして独立系の修理事業者が修理できる環境の確保です。消費者個人が自分で修理する際の安全性や責任の問題は、別に考える必要があります。

今日から試せる1アクション

欧州の制度を日本で使うことはできませんが、その考え方を借りて、手元の製品を点検することはできます。修理するか買い替えるかを迷う前に、使っている製品のうち1つだけを選び、次の3点を調べて控えてみてください。

  1. 購入日と、メーカーや販売店の保証期間がいつまでか
  2. メーカーの公式サイトにある修理費用の目安と、部品の保有期間
  3. スマートフォンの場合は、総務省に登録された修理業者かどうか

調べてみると、公式サイトに修理費用の目安が見当たらない製品もあるかもしれません。その場合、見えにくいという事実そのものが、EUが「情報の公開」を義務づけた理由を体感する手がかりになります。まずは1つの製品だけ、保証書を探すところから始めてみてください。

まとめ

欧州の「修理する権利」指令は、2024年に採択され、2026年7月31日に適用が始まりました。欧州委員会が試算する年間2億6,100万トンのCO2換算排出や120億ユーロの余計な支出といった数字を背景に、修理費用、情報、部品へのアクセスという3つの壁を法制度で下げようとしています。製造業者の修理義務、保証の12か月延長、修理妨害の禁止、修理情報フォーム、加盟国の支援策がその5つの柱です。

日本には、EUのような製造業者への修理義務は確認できず、2015年に始まった登録修理業者制度が電波法の枠内で第三者修理を可能にしています。EUの指令は日本の消費者に直接適用されませんが、「修理費用や部品の情報が見えるか」という視点は、日本で製品を選ぶときにもそのまま使えます。

制度の違いを知ることは、次に製品を買うとき、あるいは壊れたときの判断を少し変えてくれます。数字と条文で確かめる習慣が、使い捨てを減らす最初の一歩になります。

  • EUの指令は、費用・情報・アクセスの3つの壁を下げて、修理を選びやすくする制度です。
  • 保証の12か月延長は、保証期間中に交換ではなく修理を選んだ場合に限られます。
  • EU指令は各国の国内法化を経て適用され、進み具合には国ごとの差があります。
  • 日本では登録修理業者制度が第三者修理を支えており、EUのような製造業者への修理義務は確認できません。
  • 手元の製品の保証期間、修理費用の目安、部品の保有期間を調べることが今日からの一歩です。

参考文献

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