持続可能な都市とは、住む人の暮らしの質を保ちながら、経済を回し、環境への負荷を抑え、その状態を次の世代まで続けられるまちのことです。国連のSDGs(持続可能な開発目標)では目標11「住み続けられるまちづくりを」が、この考え方に対応しています。ただ、言葉の意味がわかっても、日本のまちで何が進んでいるのか、自分は何をすればよいのかは見えにくいままです。この記事では定義を手短に押さえたうえで、よくある誤解、日本各地の実践、自分のまちを見るときの視点、暮らしの中でできることを順に整理します。
持続可能な都市を支える3つの側面
持続可能な都市は、環境・社会・経済の3つがそろって初めて成り立ちます。どれか1つだけが突出していても、長くは続きません。たとえば環境に配慮していても、家賃が上がって住み続けられない人が増えるまちは、持続可能とは言えません。ここでは3つの側面を、具体的な中身に分けて見ていきます。
環境の側面
環境の側面は、エネルギーや水を無駄なく使い、ごみを減らし、まちから出る温室効果ガスを抑えることです。再生可能エネルギーの導入、建物の省エネ、廃棄物の循環利用、緑地や水辺の保全などが含まれます。移動も大きな要素です。自家用車に頼りきりのまちでは、移動のたびに排出が積み上がります。鉄道やバス、徒歩、自転車で動きやすいまちは、この排出を構造的に減らせます。
社会の側面
社会の側面は、年齢や障害の有無、収入にかかわらず、すべての住民が安全に、安心して暮らせることです。住まい、医療、教育、公共施設へのアクセスのほか、災害に強いこと、地域のつながりがあることも含まれます。国連のSDG11も、安全で手が届く価格の住宅や、誰もが使える公共スペースを重要な目標として掲げています。
経済の側面
経済の側面は、まちに仕事と収入の循環があり、財政が長く保てることです。新しい産業や雇用が生まれても、環境や社会を削って成長するだけでは続きません。道路や水道などのインフラを、将来の維持費まで見込んで整えられるかも、経済面の持続可能性に入ります。この「維持できるか」という視点は、後で触れる日本の事情と深くつながっています。
世界で持続可能な都市が焦点になっている理由
都市は、人が集まる場所であると同時に、環境への負荷が集中する場所でもあります。ここを変えられるかどうかが、地球全体の持続可能性を左右します。世界の課題と日本の課題では、同じ「都市」でも中身が大きく違う点が重要です。
都市に住む人が増え続けている
国連広報センターが紹介する「国連の基礎知識」によると、世界人口の半数以上がすでに都市に住み、2030年までには10人に6人が都市住民になると予想されています。人が一気に流入すると、住宅やインフラ、行政サービスが追いつかず、スラムの拡大や大気汚染、ごみ処理の問題が起きやすくなります。気候変動による豪雨や熱波などの災害も、人口が密集した都市では被害が大きくなりやすい点が指摘されています。
2012年のリオ+20から続く議論
都市の持続可能性が国際会議の主要テーマになったのは、2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)のころからです。その後、2015年に採択されたSDGsで、都市は独立した目標11として位置づけられました。都市は「環境問題の原因」としてだけでなく、「解決の舞台」としても扱われるようになったということです。
国や地域で課題の中身が違う
急成長する都市の課題は、住宅やインフラが足りないことです。成熟した都市の課題は逆で、人口減少や高齢化、インフラの老朽化、使われなくなった空間の増加といった「縮む」ことへの対応が中心になります。日本の都市の多くは後者です。海外の成功事例をそのまま持ち込めない理由はここにあります。
持続可能な都市の3つの誤解
「持続可能な都市」という言葉には、イメージが先行しやすい面があります。よくある誤解を3つ取り上げ、実際はどう違うのかを対比で整理します。
誤解1 最新技術を詰め込んだ未来都市のこと
自動運転やセンサーを備えたハイテク都市が持続可能な都市の代表だと思われがちです。しかし、持続可能性の中心は技術の量ではなく、人が暮らし続けられる仕組みです。韓国・仁川の松島(ソンド)のように、ゼロから計画して環境配慮の設備をそろえた都市は注目されます。一方で、日本の多くの都市には、すでに人が暮らす市街地があります。既存のまちをどう手入れして続けるかのほうが、現実的で大きな課題です。
誤解2 コンパクトシティは住民を中心部に強制移住させること
コンパクトなまちづくりと聞くと、郊外の住民が追い出されるような印象を持つ人がいます。日本の制度では、国土交通省が推進する立地適正化計画のように、住宅や病院、商業施設などを緩やかに誘導する形が基本です。2014年の都市再生特別措置法の改正で制度化されました。「居住を誘導する区域」を定め、その区域内に住宅や生活サービスが集まるよう、時間をかけて促していく仕組みです。既存の住まいを一律に取り壊すものではありません。
誤解3 環境に良いことをしていれば持続可能
太陽光パネルを増やし、ごみを減らしても、住民が高齢化して支え手がいなくなれば、まちは続きません。環境、社会、経済のどれかが欠けると、他の2つにも影響が及びます。たとえば公共交通が赤字で廃止されれば、車を持たない高齢者は移動手段を失い、排出も増えるという悪循環が起こります。環境の取り組みは、暮らしと経済の仕組みとセットで考える必要があります。
日本の都市が抱える条件と国の制度
日本の都市は、人口減少と高齢化の中で持続可能性を探す、世界でも珍しい条件に置かれています。一方で、鉄道を中心とした公共交通網が発達している点は、他国にはない強みです。この条件に対して、国はいくつかの制度を用意しています。
人口減少とインフラ維持の重荷
人口が減ると、税収が減る一方で、道路や上下水道、公共施設の維持費は残ります。1人あたりが負担するインフラの維持費が重くなり、手入れが追いつかなくなるおそれがあります。だからこそ、まちを「広げる」発想から、必要な機能を絞って「保つ」発想への転換が求められています。
SDGs未来都市と脱炭素先行地域
内閣府は2018年度から、SDGsの達成に向けて優れた取り組みを提案する自治体を「SDGs未来都市」として選定しています。環境省の「脱炭素先行地域」は、民生部門(家庭や業務施設など)の電力に伴うCO2排出を、2030年度までに実質ゼロにする地域を選び、国が支援する仕組みです。どちらも、地域の特色を生かしたモデルを作り、全国へ広げるねらいを持っています。
立地適正化計画で将来のまちの形を描く
立地適正化計画は、市町村が将来のまちの姿を描く制度です。住宅を誘導する区域と、医療や商業などの都市機能を誘導する区域を定め、公共交通と組み合わせます。人口が減っても、生活に必要なサービスが歩いて行ける範囲に残るようにする仕組みです。計画は市町村ごとに作られるため、自分のまちがどんな計画を持っているかは、市のウェブサイトで確認できます。
日本各地の実践例 富山市・下川町・北九州市
制度が現場でどう動いているかを、規模も条件も違う3つの地域で見てみます。共通するのは、地域の資源や歴史に合わせて道筋を選んでいる点です。
富山市 公共交通を軸にしたコンパクトなまちづくり
富山市は、鉄道やバス、LRT(次世代型路面電車)などの公共交通を「串」、その沿線の徒歩圏を「お団子」にたとえ、串とお団子のまちづくりを進めてきました。2006年にはJR富山港線をLRT化した「富山ライトレール」が開業し、2020年には市内電車との直通運転が始まりました。公共交通の沿線に住むことを促し、車がなくても移動できる範囲を広げています。同市は2018年度にSDGs未来都市にも選ばれています。
下川町 森林資源を暮らしと経済に循環させる
北海道の下川町は、人口が数千人規模の小さな町です。町の面積の大半を占める森林を、木材の生産だけでなく、木質バイオマスを使った熱供給にも活用してきました。化石燃料に頼っていた暖房を地域の木材に置き換えることで、エネルギー代金を町の外へ流出させずに済み、地域の雇用も生まれます。同町も2018年度のSDGs未来都市に選ばれています。小さな町でも、環境と経済を結びつければ循環が作れることを示す例です。
北九州市 公害を乗り越えた経験をいかす
北九州市は、かつて深刻な産業公害を経験し、市民や企業、行政が協力して克服してきた歴史があります。その経験を土台に、1997年に国のエコタウン事業の承認を受け、リサイクル関連産業を集めてきました。こちらも2018年度にSDGs未来都市に選定されています。課題を乗り越えた経験が次の産業になる、という流れは、他の地域にとっても参考になります。
自分のまちを見るための5つの視点
ここまで読んで、自分のまちはどうなのかと思った人もいるかもしれません。専門知識がなくても、次の5つの視点で、まちの持続可能性をおおまかに確かめられます。これは一般的な考え方をもとにした目安で、点数を付けて優劣を決めるものではありません。
5つの視点
- 車がなくても、買い物や通院ができるか(移動のしやすさ)
- 子どもから高齢者まで、安心して使える公園や公共スペースがあるか(暮らしの安全と居場所)
- 災害時の避難場所や、ハザードマップの情報がわかりやすく示されているか(災害への備え)
- 地元の店や仕事が残っていて、若い世代が働ける場があるか(地域経済の循環)
- まちの計画や課題について、住民が意見を出せる場があるか(参加の仕組み)
気になった項目から調べる
どれか1つでも「弱いかもしれない」と感じたら、市区町村の総合計画や立地適正化計画、地域公共交通計画を見てみましょう。まちが何を課題と考え、どう動こうとしているかがわかります。計画に書かれていても、実際に進んでいるかは別の話です。広報誌や議会の記録も、手がかりになります。
暮らしの中でできる持続可能なまちとの関わり方
行政や企業の役割は大きいものの、住む人の選択も、まちの形を少しずつ変えていきます。ここでは、無理のない範囲で始められる関わり方を紹介します。すべてを実践する必要はありません。
移動と買い物の選び方を見直す
近い距離は歩く、自転車を使う、バスや電車を選ぶといった行動は、排出を減らすだけでなく、公共交通の利用者を支えることにもなります。利用者が減れば路線は維持できなくなります。日常の移動が、まちの交通を残す力になります。買い物では、地元の商店や地域の農産物を選ぶことで、お金が地域の中で回りやすくなります。
まちの情報を知り、声を届ける
自治体が開くタウンミーティングや、パブリックコメント(意見募集)に参加するのも、有効な方法です。時間がなければ、市の広報誌で計画の概要を読むだけでも、まちの課題が見えてきます。地域の清掃活動や防災訓練に参加すると、近所との顔の見える関係ができ、災害時の助け合いにつながります。
まとめ
持続可能な都市とは、環境・社会・経済の3つの側面をそろえて、人が暮らし続けられる状態を保つまちのことです。世界では都市に住む人が増え続け、住宅やインフラ、環境の課題が重なっています。一方、日本の都市は、人口減少や高齢化の中で、既存のまちをどう保つかが中心的な課題です。
日本では、立地適正化計画のような制度と、富山市、下川町、北九州市のような地域ごとの実践が並行して進んでいます。ハイテク都市や環境配慮だけではなく、移動のしやすさや災害への備え、地域経済の循環までを含めて考えることが、持続可能性の現実的な見方です。自分のまちを5つの視点で眺め、計画に目を通してみることが、関わる第一歩になります。
- 持続可能な都市は、環境・社会・経済の3つがそろって成り立つ
- 世界は「増える都市」の課題、日本は「縮む都市」の課題に向き合っている
- コンパクトなまちづくりは、強制移住ではなく緩やかな誘導が基本
- 富山市・下川町・北九州市など、地域の資源に合わせた実践が進んでいる
- まずは自分のまちの計画を1つ調べてみることが、始めやすい行動になる
参考文献
- 国連広報センター「住み続けられるまちづくりを」(国連の基礎知識)
- ワールド・ビジョン・ジャパン「SDGs目標11の『住み続けられるまちづくりを』の現状と取り組み」
- HugKum「SDGsの目標11とは? 世界の都市化問題と日本が目指す未来都市」

