社会的インパクトとは、事業や活動の結果として生じた社会的・環境的な変化(アウトカム)のことです。内閣府の2016年の報告書では「短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的なアウトカム」と整理されています。配った食事の数や開いた講座の回数ではなく、その結果として人や地域、環境が実際にどう変わったかを指す言葉です。
意味を押さえたあとに気になるのは、この考え方が日本で実際にどこで使われているのか、そして自分は何を見て判断すればよいのかではないでしょうか。この記事では、休眠預金、自治体の成果連動型事業、インパクト投資という3つの場面を取り上げ、数字や報告書を読むときの具体的な視点まで整理します。
社会的インパクトを「やったこと」と「変わったこと」で分けて考える
社会的インパクトを理解する近道は、活動を2つに分けて眺めることです。一つは「何をどれだけやったか」、もう一つは「その結果、誰の何がどう変わったか」です。前者をアウトプット、後者をアウトカムと呼びます。社会的インパクトは後者に当たります。
アウトプットとアウトカムの違い
アウトプットは、活動を通じて生み出された製品やサービス、実施回数、参加者数といった産出物です。アウトカムは、そのアウトプットがもたらした変化や便益、学びを指します。
たとえば、途上国で職業訓練学校を開いた場合を考えます。「訓練を受けた人が何人いたか」はアウトプットです。「修了した人が仕事に就けたか」「収入は増えたか」「家族の暮らしや地域の経済は変わったか」がアウトカムで、こちらが社会的インパクトです。
環境分野でも同じです。回収した使用済みプラスチックの重さはアウトプットです。それによって海に流れ出るごみが減ったのか、回収やリサイクルに関わる新しい仕事が生まれたのかを見ると、アウトカムの話になります。
社会的インパクト評価は「変化を確かめて、次に生かす」作業
社会的インパクト評価とは、事業や活動によって生じた社会的・環境的な変化を、定量的・定性的に把握し、その事業や活動に価値判断を加えることと定義されています。数字で測るだけでなく、利用者の声や暮らしの変化といった言葉による把握も含まれる点が特徴です。
評価の目的は、結果に点数をつけることだけではありません。どこで変化が起きていて、どこでは起きていないのかを確かめ、事業のやり方を改善していくための手段です。資金を出す側にとっては、お金が成果につながっているかを判断する材料にもなります。
日本で社会的インパクトが実際に使われている3つの場面
社会的インパクトという言葉は、研究者や専門家だけのものではありません。日本では、お金の流れに組み込まれる形で、すでに制度や金融の現場で使われています。ここでは代表的な3つの場面を見ていきます。
休眠預金を活用した民間の公益活動
休眠預金等活用法は2018年に施行され、10年以上取引のない預貯金を、行政では対応が難しい社会課題の解決に取り組む民間団体の活動に役立てる仕組みです。対象は「子ども・若者支援」「生活困難者支援」「地域活性化」の3分野で、事前に達成すべき成果を明示したうえで、その達成度合いを重視した社会的インパクト評価を実施することが仕組みに組み込まれています。
お金の流れは階層になっています。指定活用団体であるJANPIAが資金分配団体を公募で選び、資金分配団体が現場で活動する実行団体を公募で選びます。内閣府の資料によると、2025年4月末時点で、資金分配団体は延べ342団体(227事業)、実行団体は1,368団体が選定されています。
自治体の成果連動型事業(PFS・SIB)
自治体が民間事業者に事業を委託する際、成果指標の改善状況に応じて支払額が変わる契約方式を、成果連動型民間委託契約方式(PFS)といいます。そのうち、事業の資金を民間の投資家などが先に出す形をソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)と呼びます。
日本では、神戸市が糖尿病性腎症の重症化予防、八王子市が大腸がん検診の受診率向上で、経済産業省の支援のもと国内初のヘルスケア分野の本格的なSIBに取り組みました。八王子市では、生活行動に合わせた受診勧奨はがきをAIで作成して送るという民間のアイデアが使われています。
内閣府が2024年12月から2025年1月に全地方公共団体へ実施した調査(回答率95%)では、2024年度末時点の国内のPFS事業は323件で、前年度末から47件増えました。分野別では医療・健康が114件で最多です。件数が着実に増えているのは、自治体が「何をしたか」ではなく「どんな変化が出たか」で事業を見る流れが広がっているからだと読み取れます。
インパクト投資
インパクト投資は、経済的なリターンと並行して、社会・環境への良い変化を意図して行う投資です。金融庁は2024年3月に「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を公表し、基本的要素として次の4点を示しました。
- 実現を意図する社会・環境的効果が明確であること
- 投資の実施が、投資がなかった場合と比べて効果の創出に貢献すること
- 効果を特定・測定・管理すること
- 市場や顧客に変革をもたらし、または加速し得る支援をすること
市場規模も大きく動いています。GSG Impact JAPANの調査では、日本のインパクト投資残高は2023年度の11兆5,414億円から、2024年度には17兆3,016億円へと約1.5倍になりました。増加の大半は既存の大手金融機関によるもので、銀行と生命保険会社の8社が94%を占めると報告されています。残高の大きさは広がりを示す指標ですが、一つひとつの投資が実際にどれだけの変化を生んでいるかは、別に確かめる必要があります。
なぜ日本で社会的インパクトが重視されるようになったのか
背景の一つは、社会課題が複雑になり、行政の施策だけでは対応しきれなくなっていることです。少子高齢化や人口減少の中で、孤立、貧困、地域の担い手不足などの課題が多様化しています。内閣府の2016年の報告書も、課題の多様化・複雑化を踏まえ、あらゆる主体が知恵や技術を発揮できる環境の必要性を指摘しています。
もう一つは、資金の出し手の姿勢の変化です。寄付者、助成財団、自治体、投資家のいずれも、「良いことをしています」という説明だけでなく、「どんな変化が起きたのか」を求めるようになりました。休眠預金やPFSのように、成果を前提に資金が動く仕組みが整ったことで、評価は一部の先進的な団体の工夫から、資金を受け取るうえでの標準的な作法へと位置づけが変わっています。
ただし、評価が広がることと、評価の質が高いことは別です。成果の指標を決めやすい分野に事業が偏る、数字にしやすい変化だけが注目される、といった課題は、制度が広がるほど意識しておく必要があります。評価の仕組みは完成したものではなく、使いながら磨かれていく途中にあると捉えるのが現実的です。
社会的インパクトで誤解されやすい4つのポイント
言葉が広まるほど、意味が少しずつずれて使われる場面も増えます。読者が混乱しやすい点を4つに絞って整理します。
活動の量が多いことは、インパクトが大きいこととは限らない
支援した人数や配布した物資の量は、活動の規模を示す大切な情報です。ただ、それ自体はアウトプットであり、相手の状況がどう変わったかまでは語っていません。量の数字に加えて、変化を示す指標が添えられているかを見ることが出発点になります。
数字にできないものは測れない、わけではない
社会的インパクト評価は定量的・定性的の両方で変化を把握するものです。たとえば、不登校の子どもが「また学校に行ってみようと思えた」と語る変化は、数字だけでは表しにくいものです。参加者への聞き取りや事例の記録も、評価の正当な材料になります。数字と言葉を組み合わせて示している団体のほうが、変化の中身を誠実に伝えていると考えられます。
変化が起きたことと、その活動のおかげで起きたことは別
地域の就職率が上がっても、それがすべて特定の支援プログラムの成果とは限りません。景気や制度の変更など、ほかの要因も働いているからです。金融庁の指針が基本的要素に「投資がなかった場合と比べて」という視点を置いているのも、この区別を重視しているためです。報告書で「私たちの活動によって」と書かれているときは、どう因果を確かめたのかも見てみましょう。
良い変化だけを見れば足りる、わけではない
事業は人や環境にプラスの影響を与えるだけでなく、意図しないマイナスの影響を与える場合もあります。インパクトを管理する考え方では、プラスだけでなくマイナスの影響も把握し、減らしていくことが重視されます。良い成果ばかりが並んだ報告書より、課題や改善点も書かれた報告書のほうが、評価の姿勢として信頼しやすいといえます。
活動報告やサステナビリティ報告の数字を読む5つの質問
実際に企業のサステナビリティ報告や、寄付先のNPOの活動報告を読むとき、専門知識がなくても使える質問があります。これは公的な指針の要点を、読む側の視点に置き換えて整理したものです。
- 誰のどんな変化を目指しているのか、事前に示されているか
- 「やった量」だけでなく、「変わったこと」を示す数字や言葉があるか
- 比べる基準(始める前の状態や、活動していない場合)が示されているか
- うまくいかなかった点や、意図しない影響にも触れているか
- 分かった結果を、次の活動の改善にどう生かしているか
すべてに満点で答えられる団体や企業は多くありません。大切なのは、いくつの質問に答えようとしているかです。特に1と2は、休眠預金の「事前に成果を明示する」仕組みや、インパクト投資の「効果を明確にする」要素と重なっています。
たとえば、ある子ども食堂の報告に「年間の提供食数1万食」とだけ書かれていたら、それはアウトプットです。そこに「利用した保護者へのアンケートで、孤立感が和らいだと答えた人の割合」や「利用をきっかけに相談につながった件数」が添えられていれば、変化に目が向いている報告だと読み取れます。
買い物・寄付・仕事の場面でできること
社会的インパクトの考え方は、投資家や行政だけのものではありません。日々の選択に、変化に目を向ける視点を一つ加えるだけで十分です。
買い物と寄付の前に「変化」を探す
フェアトレード商品や環境に配慮した製品を選ぶとき、パッケージの認証マークだけで終わらせず、公式サイトの報告で生産者や環境にどんな変化があったのかが書かれているか見てみてください。寄付先を選ぶときも、前の章の5つの質問が役に立ちます。年末にかけて寄付を考える方は、今のうちに候補の団体の活動報告を一つ読み比べてみるのも良いでしょう。
自分の仕事や活動に当てはめる
仕事や地域活動、ボランティアの場でも使えます。「今月やったこと」の報告に加えて、「それで誰の何が変わったか」を一行だけ添えてみる方法です。大きな評価の仕組みを導入しなくても、アウトカムを意識して話す習慣が、チームの会話を少しずつ変えていきます。
まとめ
社会的インパクトとは、活動の結果として生じた社会的・環境的な変化のことです。アウトプット(やったこと)とアウトカム(変わったこと)を分けて見ると、活動の規模と成果を混同せずに済みます。
日本では、休眠預金、自治体のPFS・SIB、インパクト投資といった形で、成果を基準にお金が動く仕組みがすでに動いています。2024年度末時点で国内のPFS事業は323件、インパクト投資残高は17兆3,016億円と報告されており、評価を求める流れは今後も続くとみられます。一方で、件数や金額の大きさと、変化の確かさは別の話です。報告を読むときは、変化の中身、比べる基準、うまくいかなかった点にも目を向けてみてください。
まず1つだけ試すなら、気になる団体や企業の活動報告を一つ開き、「やった量」と「変わったこと」のどちらが書かれているかを探してみてください。それだけで、見える景色が少し変わります。
- 社会的インパクトは、活動の結果として生じた社会的・環境的な変化(アウトカム)のこと
- 休眠預金、自治体のPFS・SIB、インパクト投資は、日本で成果を基準にお金が動く代表例
- 活動量の多さ、因果の確かさ、マイナスの影響の有無は、誤解されやすい見どころ
- 報告を読むときは「誰のどんな変化か」「比べる基準はあるか」を確かめる
参考文献
- 内閣府 社会的インパクト評価検討ワーキング・グループ「社会的インパクト評価の推進に向けて」(2016年)
- 内閣府「休眠預金等活用制度」(2025年)
- 内閣府 成果連動型事業推進室「PFS事業実装状況について」(2025年)
- 経済産業省「ヘルスケア分野におけるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)に関する資料」(2016年)
- 金融庁「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」の公表について(2024年)
- 社会変革推進財団(SIIF)「日本のインパクト投資残高の調査結果」(2025年)

