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SDGs

私たちの食卓が地球を変える|サステナブルな食料システムとは何か、何が問題なのか

Photo by JOGphotos on Unsplash

「食料システム」とは、食べ物が育てられ、加工・流通を経て食卓に届き、食べられ、捨てられるまでの流れ全体と、それを支える人・資源・お金の仕組みを指します。欧州委員会の研究機関とFAO(国連食糧農業機関)の研究者らが2021年に発表した推計では、この仕組み全体が世界の人為的な温室効果ガス排出の約3分の1(2015年時点で34%)を占めるとされています。サステナブルな食料システムとは何か、何が問題なのかを知るだけでなく、日本の現状と制度、海外で起きた揺り戻し、よくある誤解を押さえたうえで、自分はどこから動けばいいのかまで、この記事で整理します。

この記事で学べること

  • 食料システムが気候・飢餓・食品ロスにどう関わっているか、最新の数字で分かる
  • 日本の食品ロス461万トンや農業の担い手の変化など、国内の現在地が分かる
  • みどりの食料システム戦略とEUの経験から、「目標」と「実行」の距離が見える
  • 地産地消や代替タンパクなど、誤解されやすい点を見分けられる
  • 10月の今、家庭や職場で最初に試せる行動が分かる
目次

数字で見る食料システムの現在地|気候・飢餓・健康的な食事

食料システムの問題は、「環境」「飢餓」「食品ロス」と別々の話題として語られがちです。しかし実際には、同じ流れのなかで同時に起きています。まず世界全体の数字から、現在地を確認します。

排出量の3分の1は畑の外にも広がっている

冒頭の推計(Crippa氏らによる2021年の論文)は、農業そのものの排出だけを数えたものではありません。森林を農地に変える土地利用の変化に加え、輸送、包装、加工、小売、家庭での調理、冷蔵、廃棄といったサプライチェーン全体の排出を含めて、2015年に約180億トン(CO2換算)、全体の34%と見積もっています。

つまり「農家が出している排出」だけを減らしても、食料システム全体の排出は動きません。食品メーカーや小売、そして私たち消費者の台所も、同じ連鎖の一部です。

飢餓は減っても、健康的な食事には手が届かない

2026年7月に公表された国連5機関の報告書「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)2026」によると、2025年に飢餓に直面した人は約6億4500万人(世界人口の7.8%)です。2024年の8.1%から低下し、3年連続の減少となりました。

一方で、健康的な食事を購入できない人は約27億人(約32.7%)にのぼります。中程度または深刻な食料不安を経験した人も約21億人います。地域差も大きく、アフリカでは約3億900万人が飢餓に直面し、人口の約3分の2が健康的な食事を購入できないと報告されています。報告書自身も、改善は「もろく、偏りがあり、2030年の目標達成には不十分」としています。

「食べ物が足りない」問題だけでなく、「栄養のある食事に手が届かない」問題が並行して続いている。これが、現在の食料システムを考えるときの出発点になります。

日本の食卓で起きていること|食品ロス461万トンと担い手の変化

世界の数字は遠く感じられるかもしれません。日本国内にも、食料システムの課題ははっきり表れています。ここでは食品ロスと農業の担い手という2つの面から見ます。

食品ロスは減少傾向、それでも家庭の224万トンは重い

2026年6月30日に農林水産省と環境省が公表した推計では、2024年度の食品ロスは約461万トンでした。内訳は、食品関連事業者から出る事業系が237万トン、家庭から出る家庭系が224万トンです。2023年度の464万トン、2022年度の472万トン、2021年度の523万トンと比べると、減少傾向が続いています。

事業系は、2000年度比で2023年度に58%減となり、2030年度までに60%減という目標に近づいています。ただし家庭系は事業系とほぼ同じ規模で残っています。まだ食べられる食品の廃棄は、スーパーや工場だけでなく、冷蔵庫の中でも起きているということです。

「3分の1ルール」など、流通の商習慣も見直されている

事業系の食品ロスを減らすうえで焦点になってきたのが、流通の商習慣です。食品業界には、賞味期間の3分の1を過ぎた商品は小売店に納品できないという「3分の1ルール」がありました。まだ十分に食べられる商品が、納品の段階で受け入れられず、廃棄につながる仕組みです。

農林水産省は、納品期限の緩和や、賞味期限表示を年月だけにする、日付を10日単位でそろえるといった「大括り化」を呼びかけています。北陸農政局管内の取りまとめでは、2024年度に納品期限の緩和を12社、賞味期限表示の大括り化や延長を13社が報告しました。1社1社の取り組みは小さく見えても、流通の「当たり前」を変える動きが各地で積み重なっています。

担い手が減るなか、農地は大規模・法人に集まっている

食料を生み出す側にも、大きな変化が起きています。2025年農林業センサスの概数値では、農業経営体は約82万8千で、5年前より23.0%減りました。一方、法人経営体は約3万3千と7.9%増え、1経営体あたりの経営耕地面積は3.7ヘクタール(0.6ヘクタール増)になりました。経営耕地20ヘクタール以上の経営体が持つ面積のシェアは、初めて5割を超えています。

担い手が減ること自体は、環境の問題とは別の話に見えるかもしれません。しかし、環境に配慮した栽培や地域の農地の維持は、結局は現場で手を動かす人がいなければ成り立ちません。サステナブルな食料システムを設計するとき、担い手の確保と農地の集約は、環境目標と同じ重さで考える必要があります。

みどりの食料システム戦略の現在地|目標と実績の距離

日本の食料システム転換の中心にあるのが、農林水産省が2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」です。何を目指していて、いまどこまで来ているのかを整理します。

2050年に向けた主な目標

戦略には、2050年までに実現を目指す14の指標が置かれています。主なものは次の4つです。

  • 農林水産業のCO2排出実質ゼロ
  • 化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
  • 輸入原料や化石燃料に由来する化学肥料の使用量を30%低減
  • 有機農業の取組面積を耕地面積の25%(100万ヘクタール)に拡大

2030年に向けた中間の目安も設けられており、化学農薬は2019農薬年度比で10%低減、有機農業の取組面積は2022年度の3.0万ヘクタールから6.3万ヘクタールへの拡大が掲げられています。

地域ぐるみで進めるオーガニックビレッジ

目標を現場に落とす仕組みの一つが「オーガニックビレッジ」です。生産のほ場の団地化から学校給食での利用といった消費までを、農業者、事業者、住民が参加して地域ぐるみで進める市町村を指します。2026年8月31日時点で168市区町村が取り組んでおり、2025年までに100、2030年までに200という目標のうち、前者は上回っています。

生産者だけに有機への転換を求めるのではなく、買い手である学校給食や地域の事業者を一緒に巻き込む設計は、日本の制度の特徴といえます。

目標と現状の差をどう読むか

一方で、数字の距離は小さくありません。2022年度の有機農業の取組面積3.0万ヘクタールに対し、2050年の目標は100万ヘクタールで、30倍以上にあたります。耕地面積に占める割合は、現状では1%に満たない水準です。

この差は、戦略が「野心的すぎる」ことを示すとも、「これから仕組みを整える途上にある」ことを示すとも読めます。確かなのは、目標の達成度は掲げた年ではなく、毎年の取組面積や市町村数といった実績の数字でしか確認できないということです。報道や企業の発表を見るときも、この視点が役に立ちます。

EUのファーム・トゥ・フォークが揺れた理由|環境目標と農家の暮らし

日本と似た目標を、より早く、より強い形で掲げたのがEUです。その経過は、日本にとっても参考になります。

掲げられた目標

EUは2020年に「ファーム・トゥ・フォーク(農場から食卓まで)戦略」を打ち出しました。2030年までに化学農薬の使用とリスクを50%減らすこと、有機農業を農地の25%に広げることなどが柱です。生産から消費までを一つの流れとして転換する構想として、世界的に注目されました。

2024年2月、農薬削減法案の撤回

農薬削減を法的拘束力のある形にするために2022年6月に提案された規則案(SUR)は、2030年までの使用半減を掲げ、公園や遊び場といった敏感な地域での使用禁止も含んでいました。しかし2023年末に欧州議会で否決され、2024年2月には欧州委員会のフォンデアライエン委員長が、農家の大規模な抗議行動を背景に撤回を表明しました。委員長は、この案が「分断の象徴になった」と述べています。

日本が受け取れる示唆

ここで大切なのは、農家の側が環境目標そのものに反対していたとは限らないという点です。収入や収量への不安、移行期間のコスト、決定プロセスへの納得感が十分でないまま、数値目標だけが先行したことへの反発という面も指摘されています。

日本の戦略も、2050年という長い時間軸で技術開発と支援を組み合わせる形をとっています。目標の高さと同じくらい、農家が移行期を乗り越えるための収入面の支えと、買い手側の需要づくりが整っているかが問われます。

誤解されやすい4つのポイント

食料システムの話題は、分かりやすいスローガンになりやすい分、誤解も生まれやすい分野です。ここでは、検索でもよく目にする4つの思い込みを見直します。

地産地消なら排出が少ない、とは限らない

Our World in Dataが整理したPoore氏とNemecek氏の研究(2018年)では、輸送が食品のカーボンフットプリントに占める割合は平均で約6%です。大部分は船で運ばれ、排出の多くは土地利用や生産の段階で生じます。ただし同じ量を運ぶとき、空輸は船便の約50倍の排出になるとされ、輸送手段による差は大きくなります。

地産地消には、地域の農家の収入を支える、旬の新鮮な食材を選びやすいといった別の価値があります。「近いから低炭素」と単純に言い切らず、「何を、どう作ったか」も合わせて見ることが大切です。

有機農業にすれば解決するわけではない

有機農業は、化学肥料や農薬に頼らない土づくりを通じて環境負荷を減らす有力な手段です。ただし、それだけで食料システムの課題が解決するわけではありません。農家の収入、販路、担い手の確保とセットで設計しなければ、広がらないどころか、現場に無理を強いることにもなります。オーガニックビレッジが給食などの買い手づくりを重視しているのは、このためです。

代替タンパクは「環境にも健康にもいい」と決まったわけではない

植物性の代替肉や豆類などのタンパク源は、食の選択肢を広げる有望な方向です。一方で、製品ごとに原材料や加工度は大きく異なります。塩分や脂質は、栄養成分表示で個別に確認するのが確実です。環境への配慮と栄養のバランスは、別々に見る必要があります。

個人の選択は無意味ではないが、責任を個人だけに押しつけるものでもない

「自分が気をつけても変わらない」という無力感も、「環境のために全部自分が我慢すべきだ」という義務感も、どちらも現実に合いません。食品ロスの例では、事業者の商習慣の見直しと、家庭での使い切りが両輪で進んでいます。制度、企業、個人が、それぞれの持ち場で動くことで変化が生まれます。

次の疑問|自分は何を選び、何から始めるか

ここまで読んで、「結局、自分の食卓では何を変えればいいのか」と感じた方もいると思います。完璧を目指す必要はありません。生活の中で続けやすい順に、3つの場面で考えます。

家庭では、まず「使い切る」から

食品ロス削減推進法に基づき、10月は「食品ロス削減月間」、10月30日は「食品ロス削減の日」とされています。ちょうど今は、家庭の冷蔵庫を見直すのに向いた時期です。

買い物の前に在庫を確認する、期限が近いものから使う、冷凍や保存の工夫で使い切る。こうした行動は、家庭系食品ロス224万トンに直接つながります。あわせて、賞味期限は「おいしく食べられる期限」で、過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではないことも覚えておくと、不要な廃棄を減らせます。消費期限は「安全に食べられる期限」なので、こちらは守る必要があります。

買い物では、「旬」と「作り手の顔」を手がかりに

秋は新米や根菜、きのこ類など、旬の食材が豊富な季節です。旬のものは出回る量が多く、手に取りやすい価格になりやすい傾向があります。産地や作り方が分かる商品、有機JASなどの表示がある商品を選ぶことも、生産のあり方を支える選択の一つです。

すべてを置き換える必要はありません。「週に何回か」「このカテゴリーだけ」と決めれば、無理なく続けられます。

職場や企業を見るときは、目標と実績をセットで

食品や小売の企業がサステナビリティ報告書を出すとき、注目したいのは目標の大きさよりも、中間の指標と実績が数字で開示されているかです。食品ロスの量、原材料の調達方針、サプライチェーンの排出量などが年ごとに比較できるなら、取り組みの進み具合を確かめられます。

勤め先や取引先で関わる機会があれば、「この目標の進捗は、どの数字で見ていますか」と一言尋ねるだけでも、実績を開示する流れを後押しします。

まとめ

食料システムは、世界の温室効果ガス排出の約3分の1に関わる一方で、飢餓と健康的な食事への届きにくさを同時に抱えています。日本でも、食品ロスは461万トンまで減ってきましたが、家庭系の224万トンは残っており、農業の担い手や農地のあり方も大きく変わっています。

みどりの食料システム戦略は、2050年の高い目標と地域ぐるみの仕組みを備えていますが、有機農業の面積などの実績はこれから積み上げる段階です。EUの経験が示すように、目標だけが先行すると、生産者の納得を得られず、転換が止まることもあります。目標の高さと、移行を支える仕組みの両方を見ることが欠かせません。

個人にできることは、完璧な食生活ではなく、続けられる小さな選択です。まず今週は、冷蔵庫にある食材だけで1食つくってみてください。何が余りやすいかが見えると、買い方も自然に変わっていきます。

  • 食料システムは世界の温室効果ガス排出の約3分の1に関わり、飢餓と健康的な食事へのアクセスの両方に影響している
  • 日本の食品ロスは2024年度に461万トンで、家庭系の224万トンが事業系と並ぶ規模で残っている
  • みどりの食料システム戦略は、目標と同じくらい、取組面積などの実績で進み具合を確認することが大切
  • EUの経験からは、農家の納得と移行期の支えがない目標は続きにくいことが分かる
  • 家庭では、在庫確認と使い切りから始め、10月の食品ロス削減月間を最初のきっかけにできる

参考文献

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