「インパクト投資の企業事例を調べても、どれも立派に見えて違いが分からない」と感じていませんか。ESG投資とどう違うのか、うちの会社や自分の年金と関係があるのか、といった疑問も出てくるはずです。
この記事では、日本で見られるインパクト投資の事例を「ファンド出資型」「融資型」「自治体連携型」の3つの型に分けます。そのうえで、企業の開示を読むときに使える5つの問いを紹介します。社名の羅列で終わらせず、読者が自分で事例の質を見分けられるようにするのがねらいです。
インパクト投資とは何か|ESG投資との違いから確認する
「インパクト投資は、ESG投資の言い換えではないのか」と思う方は多いでしょう。結論から言うと、重なる部分はありますが、見ているものが違います。
国際的な業界団体GIINは、インパクト投資を「財務的リターンと並行して、社会や環境にプラスの測定可能な効果を生むことを意図する投資」と説明しています。ここで大切なのは、効果を「意図」していること、そして「測定」することです。
ESG投資は、環境・社会・ガバナンスのリスクや機会を投資判断に織り込む考え方が中心です。一方、インパクト投資は、投資によって世の中をどう変えたいかという成果の側から出発します。この違いは、事例を読むときの物差しになります。
日本でも、金融庁が2024年3月にインパクト投資に関する基本的指針を公表しました。指針では、社会・環境面の成果を意図すること、その成果を測って管理すること、経済的リターンも追うことが共通の要素として整理されています。
世界の市場規模については、GIINは2024年時点で約1.5兆ドル規模(約1.57兆ドル)と推計しています。ただ、「インパクト投資」を名乗る商品の中身には幅があります。市場が広がるほど、事例の質を見る目が必要になります。
日本の企業事例を3つの型で整理する
事例を社名ごとに追うと、どれも似た言葉で書かれているため区別がつきません。そこで、お金の流れ方で整理します。日本で確認できる事例は、大きく次の3つの型に分けられます。
ここで挙げる社名は、インパクトを意識した投融資や開示を公表している例として挙げたものです。取り組みの具体的な内容や数値は、各社の最新の統合報告書や公式発表でご確認ください。
型1 ファンド出資型(投資家として成果を狙う)
生命保険会社や信託銀行などの機関投資家が、社会課題の解決を掲げるファンドや未上場企業に出資する型です。たとえば第一生命は、責任投資活動報告の中でインパクト投資の事例を紹介し、ポジティブ・インパクトの開示にも取り組んでいます。
この型の見どころは、運用資産の中でインパクト投資が占める割合や、その目標が示されているかどうかです。「社会に良い投資をしています」という言葉だけでは、規模が分かりません。
事業会社が自社の本業とは別にインパクト投資の枠を持つ例もあります。事業を通じた社会的な成果を開示している企業もあります。この場合は、本業への波及を狙っているのか、独立した投資なのかを見分けるのがポイントです。
型2 融資型(ポジティブインパクト・ファイナンス)
銀行が企業への融資の際に、その企業の事業が社会・環境に与える影響を分析し、成果の目標を置く型です。UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)が原則を示し、日本では環境省が2020年7月にインパクトファイナンスの基本的考え方を取りまとめています。
この型では、融資を受ける側が「自社の事業が社会にどんな影響を与えているか」を棚卸しすることになります。融資を受ける中小企業にとっては、自社の事業を見つめ直し、強みを言葉にし直すきっかけになることがあります。
見るべきなのは、設定された目標が事業の中身に即しているかどうかです。どの企業にも当てはまるような一般的な目標では、インパクトの意図が弱いと言わざるを得ません。
型3 自治体連携型(ソーシャル・インパクト・ボンド)
自治体が成果に応じて対価を支払い、民間の資金が事業の初期費用を担う仕組みです。ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)と呼ばれます。2017年に始まった神戸市の糖尿病性腎症の重症化予防事業と、八王子市の大腸がん検診の受診勧奨事業が、国内の先行例とされています。
この型の特徴は、成果指標があらかじめ決まっていることです。例えば検診の受診率のように、数字で測れる目標を置きます。一方で、測りやすい成果に偏る面があるため、測れない価値が置き去りにならないかには目配りが必要です。
企業の社会貢献・CSRの全体像を知りたい方は、次の記事もあわせて読むと整理しやすくなります。企業が社会課題にどう向き合っているかを幅広く確認できます。
企業の開示を読むための5つの問い
事例の質を見分けるうえで、私はNGOでキャンペーンを設計していたときの癖で、「成果の約束は検証できる形か」を最初に見ます。ここでは、その考え方をもとに、企業の開示を読むときの5つの問いを整理します。これは公開情報の読み方についての私見であり、公式の評価基準ではありません。
問い1 誰のどんな変化を狙っているか
「社会課題の解決」という広い言葉ではなく、対象者と変化の中身が書かれているかを見ます。「若者の就労」ではなく「どんな状況の人が、どう変わるのか」まで書けているかが分かれ目です。
問い2 成果をどう測っているか
測定指標と、その元になるデータの取り方が示されているかを確認します。数値が出ていても、測り方が書かれていなければ、他社と比べることができません。
問い3 財務リターンとの関係をどう説明しているか
インパクトと収益が両立する設計なのか、収益を一部あきらめる設計なのかが示されているかを見ます。どちらも成り立ちますが、説明がないと投資家の意図が読み取れません。
問い4 うまくいかなかった点を書いているか
目標に届かなかった項目や、見直した点が開示されているかを見ます。成功談だけが並ぶ報告書は、測定と管理が機能しているのかを判断しにくくなります。
問い5 自社の投資が成果にどう貢献したか
その成果は、その投資がなくても起きたのではないか、という点です。資金が入ったことで何が変わったのかが説明されていれば、インパクトの意図は強いと言えます。
読者のよくある疑問に答える
ここまで読んで、まだ引っかかる点が残っている方もいるでしょう。よく出る疑問を3つ取り上げます。
「インパクトウォッシュ」が心配です
環境に優しいと見せかけるグリーンウォッシュと同じく、インパクトを装う例への懸念は国際的にも指摘されています。心配は自然なものです。ただ、先ほどの5つの問いのうち、問い2と問い4に答えている開示は、少なくとも検証しようとする姿勢があると言えます。逆に、数値も測り方も出ていない場合は、判断を保留するのが無難です。
利益が出るなら、慈善活動とは違うのでは
その通りです。インパクト投資は寄付とは違い、リターンを前提に、社会的な成果も狙います。ただし、リターンの水準は商品によって幅があります。「社会に良いのだから、利益が出なくてよい」とも「利益が出ているなら、社会的な成果は十分」とも言えません。両方を見ることが大切です。
公開情報を読むときによく見られる3つのつまずき
企業の開示や商品説明を読む場面で、つまずきやすいパターンがあります。公開情報の傾向としては、次の3つが多く見られます。
1つめは、投資額や案件数だけを見て、成果を見落とすことです。2つめは、事例が1社の成功談だけで、全体像が分からなくなることです。3つめは、専門用語が多く、読むのをやめてしまうことです。いずれも、5つの問いに沿って一つずつ確認すれば、読み進められます。
今日からできる1アクション
読むだけで終わらせないために、小さなアクションを1つ提案します。
あなたが勤めている会社、取引のある金融機関、積立投資で選んでいる投資信託の運用会社のうち、1つを選んでください。その会社の統合報告書やサステナビリティ報告書を開き、「インパクト」という言葉で検索します。
見つかった箇所を、先ほどの5つの問いのうち、問い1と問い2の2つだけで読んでみてください。「誰のどんな変化か」と「どう測っているか」が書かれていれば、それだけで開示の質はある程度分かります。見つからなかった場合も、問い合わせ窓口に質問してみる、という次の一歩があります。
まとめ
インパクト投資は、社会や環境への成果を意図し、測り、経済的リターンも追う投資です。ESG投資と重なる部分はありますが、成果の側から考えるという点で見ているものが違います。
日本の事例は、ファンド出資型、融資型、自治体連携型の3つに整理できます。それぞれで見るべき点は異なりますが、共通するのは「成果が検証できる形で示されているか」です。社名や投資額の大きさだけで判断せず、5つの問いで読むことが、事例の質を見分ける近道になります。
最初から完璧に読み込む必要はありません。まず1社、1冊の報告書から試してみてください。
- インパクト投資は、成果の意図・測定・経済的リターンの3点が軸になる
- 日本の事例は、ファンド出資型・融資型・自治体連携型の3つで整理できる
- 開示は、誰のどんな変化か、どう測っているかを中心に読む
- まずは身近な1社の報告書で「インパクト」を検索してみる
参考文献
- GIIN「What you need to know about impact investing」(公開年は要確認)
- 金融庁ウェブサイト(インパクト投資に関する公表資料)(2024年)
- 環境省ウェブサイト(インパクトファイナンスに関する公表資料)(2020年)
- 第一生命「Responsible Investment Report 責任投資活動報告 2024」(2024)
- 第一生命「Responsible Investment Report 責任投資活動報告 2023」(2023)

